訂正します。
"十眼"ではなく"架眼"です。
2006年4月
「それでは!!新入生歓迎会を行います!!テンション上げろ!!」
教室の黒板に『新入生歓迎会!!』と大きく書き、初めての後輩にワクワクしている五条悟。後ろで見守る夏油傑と家入硝子、夜蛾正道。
「いぇ〜い!!」「・・・」「あはは・・・」
左から順に、黒髪の活発そうな少年、金髪の冷めた目で五条を見つめる少年、そして長い髪を後ろで束ね帯刀している
「・・・ノリ悪りぃなオイ」
「こらこら悟、弱いものイジメは良くないよ?」
「こんにちは!!灰原雄です!!好きな食べ物は米です!!!」
「・・・七海建人です。よろしくお願いします」
「私は夏油傑。これからよろしく」
「五条悟〜〜先輩の命令には絶対服従だからな?」
「はい!」「・・・」
五条の無茶振りに新入生2人が巻き込まれている隙に、家入はもう1人の一年生に近寄る。黒い髪と紫色の眼、そして何より目を引かれる
「あっ、初めまして。天童寺真白です」
「家入硝子。同じ女子同士頑張ろう」
「ーーーーえっと、俺"男"です」
「「「「「え?」」」」」
固まった家入と盛り上がっていた男子と真白をスカウトしたはずの夜蛾。
これが真白と硝子の出会いだった。
◁▷◀︎▶︎◁▷◀︎▶︎ ◁▷◀︎▶︎
「ーーーちょ、ちょっと待って?お母さん、妊娠ってマジ?」
最初に切り出したのは美夜だった。
「マジだな。これでも医者だ。詳しい検査も自分で出来るし、昔のツテを使って大学の恩師*1に検査してもらった。妊娠6ヶ月だ。もう腹も大きくなった」
ワンチャン想像妊娠なんじゃないかと淡い希望を持っていたが、まだ見ぬ末っ子にその希望を打ち砕かれた感じがした。明星は恐る恐る手を上げ、口を開いた。
「えっと、その・・・最初の段階で教えてくれてもよかったんじゃない?」
「私を含めお前ら忙しいだろ?術師は多くが去年で反転術式を会得したから顔合わせる機会は少なくなったし、この前の打ち上げ会も含めて、家族みんな顔を合わせんのは1ヶ月ぶりだしな。そもそも、打ち上げは私リモート参加だったろ。あとそれから・・・・お前らが漏らす可能性は低いが、五条にバレたくなかった」
「「「なる
五条悟にバレたら確実に高専全員にバレる。奴ならすぐに高級ベビーベッドやベビーカー、ベビー用服などを買い漁って持ってくるに違いない。あと色々面倒くさいに決まっている。
「俺らに言わなかった理由は分かった・・・んで、こっちが本題なんだろうけど・・・その子、どうする?」
「産む・・・逆に聞くけど、この子堕ろすか?」
「ざけんな、そんなこと言うほど人間落ちぶれてねぇよ。その子、真白兄さんの子だろ。恩師の忘れ形見をそんなふうにするわけないだろ」
嘘である。
この男、まだ見ぬ弟か妹を死ぬほど甘やかしたいと考えている。だがそんなことを言えば家族から死ぬまでいじられることは目に見えているため、ここはあえてこの子の父親の名前を上げて注意をそちらに向けていた。
「勘がいいな。正真正銘あいつの子だ・・・美夜、明星、お前らは?」
「・・・いや〜最初は驚いたけど、お姉ちゃんとして下の子を甘やかしたいって本能が言ってる」
マジである。
「僕は微妙な気持ちなんですけど、弟か妹が産まれてお兄ちゃんになるのワクワクします!!」
こいつもマジである。
「ーーだそうだ。母さん、何があろうと俺らは母さんの味方だ」
「ーーーーありがとう」
■□■
私は普通の家庭で生まれ育った。けど、子供の頃から変なものが見えて、自分にしかできないことを知って、それが自分にしか見えないことに気づいたのが小学生の頃だった。
中学生の頃、イジメが原因で自殺したくなった。リストカットしても、首を切っても、屋上から飛び降りても直ぐに治った。気づけばもうどうでも良くなって、酒とタバコに溺れていた。
こんな力無くなればいいのにと思った。
数年後、私は呪術高専に入学した。
両方問題児だった。
けど楽しかった。初めて自分と同じ世界が見える奴らと会えたから。
そんなある日、五条の妹が会いに来た。
『初めまして家入さん!!私、悟兄様の妹の梅です!!この子は私の子の黎人です!!』
『・・・れーとです』
明らかに歳下の女子が抱っこする2歳半の子供。
左目の青く澄んだ瞳が、純粋無垢に輝いていた。
再び黎人に会ったのは、梅が禪院家の術師に殺された後だった。
黎人は2つの術式を持って生まれた存在、当時は五条悟に次ぐ存在と呼ばれていた。黎人の妹である美夜は、黎人とは逆の右目だけが六眼、生まれながらに反転術式を会得していた。そして3人目の子供、明星は自然妊娠で産まれた子供だった。彼は六眼の亜種にあたる『架眼』を持っており、架眼は筋肉の動き、脳の電気信号、血液の流れなど、肉体の動きを見ることができた。
禪院家の人間はあの子達を自分たちのものにしようとした。襲撃した連中から家族を逃がすために彼らの父親は死に、潜伏先の東京に襲撃した禪院扇に梅は殺され、黎人は母を殺した下手人を最も無惨な死に方で殺した。
寂しそうな空虚な目をしてる黎人を見て
私はこの子たちの家族になりたいと思った。
同期の馬鹿2人はそれぞれが勝手に孤独になった。
最強が故の孤独?
ふざけんな。私を1人にする気かよ。
私はどうでもいいのか?
恋人も死んだ。後の人生は、子ども達を見送るだけだと思ってた。
それなのに私は死んだ恋人の子を身籠った。
私は、1人が怖いことに気づいた。
1人だけで生きていくなんて自負していた頃の自分が見たら、なんて情けない女だと思うだろう。
母になって12年弱、子供たちのおかげで私は孤独じゃなかった。もう誰もいない家で寝ることもできなくなった。
けど子供達はいつか巣立つ。
それは仕方のないことだと思う。
でも1人になりたくない。
だからこの子を産む。
私は1人になりたくないから。
私はこの子たちを呪いたい。
「・・・・お前は、私を1人にするなよ?」
その呟きに応えるように、お腹の中の命が壁を蹴った。
「ーーーおえっ」
とはいえこの子の人生を縛りつけるようなことはしたくないなと思った。
□■□
翌朝、今日も授業の合間に学校中を隈無く捜索した。偵察用の式神『鸞』を放ったものの見つけられなかった。鸞は元は攻撃補佐の式神ではあるが、その行動範囲は半径10キロにわたる。
翡翠色の羽を纏うハヤブサのような見た目をした鸞が、中庭のベンチに座る黎人の肩に止まる。申し訳なさそうな鳴き声をあげる鸞の嘴を撫でながら彼は持参した弁当箱を手に取る。
中にあるおかずは、硝子直伝の酒のつまみと昨日持ち帰りした残り。
鮪ブツにエビアボカドの生春巻き、とり唐揚げのエビチリ風。そして昨日の晩飯だった焼肉と白米。
「さて、今日は何処で食べようか」
そう思いながらふらりふらりと歩き回る。黎人は基本的に弁当を食べる場所を限定しない。今回のようにあちこち歩き回って、感覚的にここが良いと思った場所で食べる。その方が気楽で良い。
(そう言えば来週、悠仁たちがタコパやるって言ってたな・・・)
そんな風な考えを浮かばせていたその時。
目の前を、1人の女生徒が歩いていた。それくらいなら大した事はない。ぶつからないように進路をずらして彼女の真横を通り過ぎる。
その瞬間だった。
『ん"?』
黎人の頭の中に、強烈な"死"のイメージがなだれ込んだ。頭から冷水をかけられたような、後ろから鋭利な刃物で突き刺されたような感覚。
刃物のように鋭い殺気を放ちながら、彼女の後ろにピッタリとついて行く、血のような赤黒い影。濡羽色の片翼の翼、今にも折れそうな手に握る禍々しい大鎌、鳥類の頭骨のような頭部から、黒いコールタールのような液体が涙のように流れ続けている。
特級術師たる黎人が見間違えるわけがない、それは害意の塊であり、平穏な日常を蝕む負の感情の具現化。
彼が今までの人生で見た中で、
呪いの姿がそこにあった。