『おとうと』のはなし   作:靴下臭太郎

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第2話

 うちはイズナとして生き始めてから早くも数ヶ月が過ぎた。

 うちはイズナのこれまでの記憶よりも扉間の記憶の感覚に引きずられているのか、初めはマダラを兄と呼ぶことに抵抗はあったが、一週間もすれば自然と呼べるように成っていた。

 

 うちは一族が居を構える近くの森で、イズナは一人修行する。

 木に向かって打ち付けたクナイは、全て狙ったところを的確に突いていた。手持ちのクナイがなくなったイズナは刺さっているのを抜きながら、つい先日のことを思い出す。イズナは参加しなかったが、兄のマダラが戦に出ていた。家に帰ってきたマダラは血の匂いをこびりつかせながら、イズナを抱き寄せるとこう言ったのだ。

 

「お前だけは死んでも守ってやるから」

 

 マダラの言葉に、ついに戦に出る日が来たかと察したのだった。

 この数ヶ月の中でも、千手との衝突は何度かあった。戦でどんどん人が死ぬ時代だ、ある程度戦う術を教えられると子供であろうとも戦力に加えられていた。

 クナイを全て回収したイズナは、今度は走り回ったりくるりと宙を舞いながら再び木に向かってクナイを投げ始めた。幼い体でできることは限られている。戦場ではほんの小さなミスが命取りになる。小さく大した筋力もないこの子供の腕で、戦慣れした大人と渡り合わなくてはならない。

 特にうちはである今、相手はほぼ千手一族になるだろう。千手は他族に比べて頑丈な人間が多い。大人に囲まれれば、イズナのように小さな子どもが千手相手に敵うことはない。それは千手一族の子供にとってもそうではあるのだが、うちはは千手の力強さやその生命力に警戒し、千手は幻術に長けたうちはの瞳力を恐れいている。そこはお互い様と言ってもいいだろう。

 

(最近マダラが長く家を開けるようになってきた。『兄者』と会い始めたか? このまま記憶どおりに会わせ続けておけばいずれは……)

 

 千手側、千手仏間がいかにして柱間がマダラと会っていることをしったかはわかっているが、うちは側はあのことをどのようにして知ったのだろうか。タジマに告げ口したのはイズナか。扉間として知る限りでも、記憶の中のうちはイズナはマダラとは仲が良かった。家から頻繁に姿を消すマダラが気になり尾行でもしたのか、あるいはイズナでなく違ううちはの人間に会っていたのを見られていたのか。いずれにせよ、うちはタジマはマダラが柱間と会っていることの情報を掴んでいた。

 イズナがタジマに報告していたのだとすれば。

 

(言わなければきたるあの日にマダラは殺されるーー)

 

 それは阻止するべきであろう。恐らくだが、何もしなければタジマと仏間は記憶にある歴史通りに死ぬはずだ。もしマダラが死ねばタジマの跡を継ぐのはイズナになるだろうが、千手側は変わらず柱間が族長となるのだろう。

 

(『兄者』のこと、マダラがいなくともこちらから同盟を持ち掛ければ頷くだろうが……)

 

 柱間が千手の長となれば、『扉間』としての記憶で人と成りはよく知っているため上手くうちは一族を迎え入れてもらうことは出来るだろう。だがしかし自分で思うのもなんだが、向こうには千手扉間が存在する。かつて自身がうちはの瞳術を警戒したように、同じように向こうも考えるはずだ。面倒な相手が向こうにいるものだと、少しばかり苛立つ。

 そんなことを考えていたからだろうか、キィンと甲高い音を立て、投げたクナイが元々刺さっていたのにあたり弾き飛ばされて行った。

 

「……はぁ、本当に何故よりにもよってうちはイズナなんぞに」

 

 土の上に落ちたクナイを、イズナは冷ややかに見下ろす。

 考えれば考える程、なぜ己がうちはイズナに同化してしまったのかと頭を抱えてしまう。

 イズナとしての自我は記憶に呑まれたせいかほとんどないに等しく、これでは『扉間』は二度うちはイズナを殺したと言えよう。

 マダラは知らないうちに、最後の弟を亡くした。

 クナイを見下ろし続けていたイズナだが、のっそりとした動きでそれを拾いに向かった。拾いながら、こんなことを思う。

 

(……そうだ明日、釣りでもしに行くか)

 

 うちはの集落からは少し離れるが、近くに良い釣り場があるのを思い出す。タジマも釣りがしたいと言って咎めるような親ではない。集落から遠いが、離れすぎなければ良いだけだ。

 帰ったら釣具を探そう、そう決めたイズナは修行を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、釣竿やら道具を手に入れたイズナは川に向かおうと家の門を潜ろうとしていたのをマダラに呼び止められた。

 

「イズナ、釣り竿なんか持ってどこに行くんだ?」

「川に釣りに行くだけだよ、兄さん」

「か、川に。どの辺の川だ?」

「ここから東の方だよ」

「へ、へえー……」

 

 マダラの目が少しばかり泳いでいる。

 うちはの家紋がない服を着たマダラに、イズナはこれから彼がどこに行くのかを察した。

 

(今日も会いに行くのか。川に行くことに動揺しているな。安心しろ、そっちには行かん)

 

 柱間と川で待ち合わせでもしているのか。イズナが方角を答えると、ほんの少しホッとした表情を見せた。

 

「兄さんも出掛けるの?」

「ま、まあ」

「いっぱい釣ってくるね、じゃあ」

「あ、ああ。あんまり遠くに行くんじゃないぞ、イズナ」

「わかってるよ」

 

 マダラに背を向けイズナは歩き出す。マダラも出掛けたのか、背後からチャクラの気配が消えたのを感じ取る。

 さて久々の釣りだ。釣れるに越したことはないが、そもそも趣味を楽しむのが久方振りであり、川辺でゆっくりするだけでも良いと思っている。ここ数ヶ月ずっと先の事を考えるのに頭を使いすぎていた。今日くらい羽目を外したってばちは当たるまい。

 浮き立つ心を抑え切れないイズナは、『扉間』の記憶にある釣り場まで駆け出した。

 

 

 

 

 

 川に着いたイズナは早速後悔することとなった。

 岩の上に座り膝を抱え川を眺める少年の姿を見たイズナは、久々の釣りで高揚していた気分からの切り替えがうまく行かず、足元の石を踏み音を立ててしまう。

 音に気付いた少年がイズナの方を振り向いた。

 なんて失態だと、イズナは胸の内で舌打ちする。

 

(……なぜお前がここにいるーー⁉︎)

 

 振り向いた少年の白と黒に分かれた短い髪が、陽の光に照らされ輝く。

 

 千手板間が、そこにはいた。

 

 

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