『おとうと』のはなし   作:靴下臭太郎

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第4話

 

 森の中を足音を立てないよう気を引き締めながら駆ける。

 イズナは背後から追いかけてくる大人の気配にぞわりと毛を逆立てながら、慎重に前へ前へと走っていた。

 

(ーー千手に見つかった……敵陣に近づきすぎていたか)

 

 今日は戦の日だった。始めは兄のマダラの近くで戦っていたが、戦況が激化してくると引き離されていた。

 千手はうちはの写輪眼を警戒し、相手がたとえ子どもであっても複数人で取り囲み手にかけることが多い。うちはの人間が集まっていた場所からいつのまにか引き離されていたイズナは今、敵方の千手の忍達に狙われることになってしまっていたのだった。

 

(歩幅も違う……このまま出し抜ければいいが、向こうには感知タイプもいるようだ。ちっともまけん……こちらもこの身体ではこれが限界だ)

 

 どんなに早く走ろうとしても、大人と子どもの力の差は大きい。

 このまま走り続けたところでいずれ捕まる。岩や木の影に隠れてやり過ごすしかないが、向こうもチャクラを辿って来ているのならば見つかることだろう。

 

(……ここで死ぬのか。『うちはイズナ』は本来ならばここで死ぬべきではない……)

 

 扉間としての記憶も持つイズナであるが、頭の中にマダラの顔が浮かんだ。

 イズナとマダラは五人兄弟であった。いまは二人きり。

 

「ーーまだ死ぬわけにはいかんな」

 

 そう小さく言葉を溢すと、イズナは周囲の中でも葉が一番生い茂った木の上へと登った。

 

(このまま走ったところでどうせ捕まる。ならば上から仕留めるまでーー)

 

 やれるところまでやる。体格差はあれど、記憶の中だけにはなるが戦場に出た数は今生での大人どもと引けは取らない。

 一番枝の影になる場所にイズナは息を殺し身を潜める。

 

(ーー来る)

 

 イズナの足元に千手の男が二人、そして子どもの姿が一人。

 木ノ葉と枝で彼らの全貌は見えずとも、どこにいるのかはわかる。

 殺す必要はない。怪我を負わせ、奴らの足を止めるだけでいい。イズナは静かにクナイを取り出すと起爆札をくくりつける。迷っている暇はない。感知タイプがいるのなら、彼らの頭上にいることもいつ気付かれてもおかしくない。

 イズナは足元の彼らが立つ真ん中に向かいクナイを投げつけた。

 

「ーー⁉︎ なんだ!」

「起爆札! 上かーーグアッ」

「なんーー」

 

 彼らが起爆札に反応した瞬間、爆発が起こる。

 イズナは煙で視界が悪くなっている隙に木から飛び降りようと、爆発を避けようと散った連中の一人に狙いを定め覆い被さるようにして着地した。

 

「ガハッ」

「! クソ、どこだ!」

 

 イズナは男の首筋にクナイを突き立てた。かつての前世では同胞であったが、今は敵だ。イズナとて命は惜しい。苦しげな悲鳴をあげ、一人が倒れる。

 もう一人の男が悲鳴を頼りにイズナがいる方へ向かってくるが、すかさず起爆札のついたクナイを飛ばすと逆方向にイズナは逃げた。

 一人は無力化したが、敵はもう二人。なるべく距離を取りこの場から離れなければ。

 背後で爆発音を聞きながらイズナは前にとにかく走り続けた。

 

 

 

 

 

「ハッ……ハッ……ハッ」

 

 しばらく走り続けた後、イズナは周囲が静かなのを認識すると後を追う気配がないのを確かめた。

 戦場の喧騒とは反対の、さわさわと木の葉の擦れる音が周囲には響いている。穏やかな小川も目の前に流れていた。

 

(ここまで来れば……少し休もう)

 

 ずっと走り続けていた。少し休まなければ、家に帰るのも厳しい。

 ねっとりとした嫌な汗が不快で拭おうと川の水に手ぬぐいを浸し絞った時、冷たいものが背筋に走るのを感じた。首筋には薄い鋼が一枚。

 

「……やられた。どうして首を取らない?」

「……」

 

 しゃがんでいるイズナの首に刀の刃が当たっているということは、相手の背丈も高くないことが想像できる。すぐに刃が滑る様子はない。イズナが抵抗しない限り、殺すつもりはないようだ。イズナはゆっくりと後ろを振り返った。

 

「……!」

 

 イズナに刀を向けているのは、千手扉間であった。

 逃げることに必死だったせいか、かつての自分自身に追われていたことに気付かなかったとは一生の不覚だと項垂れる。

 扉間の近くには、もう一人見覚えのある少年の姿があった。

 

「や、やあ。……うちは、だったんだ」

「……板間か」

「板間が話してた奴はお前か。うちはイズナ」

「……千手扉間」

「あ、兄者待って!」

 

 今にも刀を引きそうな扉間を、板間が懇願するような声で止める。

 ここは戦場。板間とイズナはたった一度川で釣りをしただけの間柄だ、何を引き止める必要があるというのか。

 

「イ、イズナ」

「……」

「今日、ここで会わなかったことにしよう。ねえ、扉間兄者」

「バカなことを言うな板間」

「そうだ、バカなことを言うな板間」

「二人ともバカって言うなよ……」

 

 板間がうっと頭を引っ込める。

 

「コイツは千手の大人二人をやってるんだぞ。見逃せって言うのか」

「でも殺してない! ダメだよ、柱間兄者も言ってたじゃん。どこかで止まらないと……オレ達だけでもそうしようよ」

「たった一回会っただけで情でもわいたか? いいか、コイツはうちはで」

「会ったのはイズナで、たまたまうちはだっただけだって! オレ達もだよ兄者。イズナだって、オレが千手だって知らなかったんだよ」

「……」

 

 知っていた、とイズナは心の中でつぶやいた。知っていてあの日はそばに居てしまった。

 

「だから扉間兄者」

「「板間」」

 

 扉間とイズナの声が重なった。二人の視線が交わる。

 

「……」

「……」

 

 しばらくの沈黙の後、口を開いたのは扉間が先だった。

 

「……今日だけだ。板間に免じて……今日だけ見逃してやる」

「……後悔しない?」

「それは見逃した後、その時に考えればいい。行くぞ板間。そろそろ戦も終わる」

「……またね、イズナ」

「……」

 

 扉間からの冷たい視線を浴びながら、イズナは板間の言葉には?と口を開けた。

 板間は手のひらを小さく振る。

 去って行った二人を見送りながら、イズナは濡れた手ぬぐいを両手で持ちながら呆然と立ち尽くしていた。

 

「……また?」

 

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