『おとうと』のはなし 作:靴下臭太郎
板間と戦の最中に再会してから、早くも数ヶ月が経とうとしていた。
その間イズナは何度か釣りに出掛けていたが、入れ違いになっているのか会えなかった。
再会した後、扉間に敵一族の少年と会っていたことをきっと彼はこっぴどく叱られたに違いない。だが懲りていないのか、会えずとも彼が時々この場所に釣りに来ているのは、釣り場にわかりやすく石が集めて置かれていることでわかっていた。
「兄さん、また出かけるの」
「ギクッ」
父に言われていた忍術の修行を難なく終えたイズナは、こそこそと裏口から出かけようとしていたマダラを見かけた。
「あ、ああ。ちょっとあっちの方まで」
「……暇だから一緒に行こうかな」
「い、いいイズナは忙しいだろ。ホ、ホラ、あれだろ……アレ……午後から……」
「午後から?言われてた課題ならもう終わってるから暇なんだけど。誰と会ってるの」
「だ、誰にも会ってねぇって」
別に揶揄うつもりはなかったが、いざマダラの弟の立場になると見れなかった彼の一面というのが見え、つい反応を見てみたいと思ってしまうのだ。マダラとこそこそ会っている柱間もだが、二人とも幼い頃は嘘が苦手だとイズナはフッと鼻で笑った。
(……お互い弟に尾けられていたとも知らずに)
イズナの反応にマダラがムッとする。
「な、なんだよ。笑うなって」
「ううん。早く行きなよ」
「……今日は早く帰るつもりだから、後でみてやるよ修行」
「いいよ。いつも遅くなるじゃん」
「早く戻るって!」
マダラはそう言って裏口の扉から抜け出すといなくなった。
さて、イズナは本当に暇だった。
(……追いかけてみるか)
イズナは女中に森の中で修行してくると告げると、兄が向かったと思われる先へと走り出した。
「……なんでこうなる」
「なぜお前がここにいる」
イズナはマダラと柱間が仲良く組手している様子を眺めていたところ、近くに覚えのある気配が近付いたのに気付きその正体を確かめると顰めっ面をした。
それは数ヶ月前戦場で後を追われた千手扉間であった。
確かに過去に自身も家をたびたび抜け出す柱間の後を追い、マダラと会っていることを突き止め父に密告したりしていたが、だからといい同じ日にこうかちあわなくてもいいだろうにと幼い顔でガンをつけた。
「うちはイズナ。お前、この事は知っていたのか」
「……今日初めて見た」
「……」
「何その目。早く親にでも告げ口しに行けば? 長男が他族の忍と仲良しこよししてたらやばいでしょ」
「お前にもそのままそっくり返すぞ」
確かに。
柱間とマダラの密会というのは幼少の頃の僅かなひと時だった。すぐに彼らの間には大きな隔たりができる。
扉間の視線を受けながら、イズナは疲れて岩肌にもたれる彼らを見守り続ける。
暫く静かに二人で兄達の同行を見守っていたが、イズナが沈黙を破った。
「……そういえば、板間はどうしてる?」
「なぜ板間の話を」
「この前会った後、酷く怒られたんじゃないかと」
「……」
イズナの問いかけに、扉間はなぜか黙った。
「無視か。で、どうする? ここでオレのことを殺す?」
「……今日は偵察に来ただけだ」
「そして帰って父親に話すと。そうしたらオレの兄さんは殺されちゃうな。千手柱間と会ってたせいで。オレも帰ったら言わないと」
「うちはイズナ。お前は前から知っていたんだろ、兄同士が会ってることを」
「別に」
「なぜ兄者……柱間のことを頭領に告げなかった。いつでも言えたはずだ。板間のことも」
側にいる扉間が帰ってこの事を父の仏間に告げる事は変わらないのだろうが、扉間はすぐには立ち去らずにイズナに問いを投げかけた。
(オレの時はうちはイズナには出会わなかった。偵察しに行った場所が恐らく違うからだ。そのせいでオレはこの過去の己と会うことになった)
イズナは視線は兄達から変えずにゆっくりと答えた。
「……釣りしてただけだし」
「釣り……」
「うん、釣り」
「好きなのか、釣り」
「まあ……」
イズナは居心地が悪く感じ、不愉快そうに扉間を振り返った。
「他に聞く事ない? 何もないなら帰る」
「おい」
そう言ってイズナは扉間の方に軽く触れてからその場を全速力で離れた。
自身の記憶にはなかった出来事が起こっているとはいえ、千手扉間のその性格や考えに大きな違いはない。後を追いかけられぬよう、一刻も早く距離を取る。
(追いかけてくる気配はない……。帰ったらタジマに報告せねば)
きっとかつての仏間と同じ反応が返ってくる事だろう。そして兄のマダラが次に出かける時、彼らの友情は引き裂かれる。
(それでいい……それでいいんだ)
仮にも今の兄はマダラだ。
家の門が見えた。マダラが帰ってくる前に、すぐにでも柱間のことを伝えるべきだろう。
その後のマダラのことを知るイズナは、少しばかり陰鬱に感じるのだった。
「イズナ! 帰ったぞ! ほら、修行に付き合ってやっから!」
父のタジマに柱間のことを話し自室に戻った直後、マダラが帰って来た。
イズナが立ち去った後、また組手でもしたのだろうか。いつもより汗臭い。
「お帰り、兄さん」
「さ、行こうぜイズナ」
「マダラ」
さあ修行だとイズナに手を伸ばしたマダラを、その後ろから冷たく呼ぶ声が聞こえた。
「話がある。すぐに部屋に来なさい」
父タジマの声だ。
マダラはその声音に困惑の表情を浮かべると同時、イズナの顔を見て驚いた。
「イ、ズナ……?」
「……大事な話、だ。兄さん」
イズナの表情はとても真剣なものだった。