『おとうと』のはなし   作:靴下臭太郎

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第6話

 父タジマに敵対している一族の人間である柱間と会っていることがバレたマダラは、イズナが知る過去の通りに例の日を迎えた。

 父の後をついて家路へ向かう間、恐ろしい程マダラは無口であった。

 イズナも一切後ろめたさがなかったかといえば否定はできない。だが記憶にある通りに物事は概ね進んでおり、それについては安堵していた。

 

 あれから何度戦があっただろう。

 現在の兄と、過去の兄は幾度となく対立した。

 二人の実力差は側から見れば拮抗しているかのように思えるが、柱間はマダラよりもどんどん強くなっていく。それはマダラが一番実感している事だろう。このままでは千手方に押される。このままでは弟を守れない。五人いた兄弟は今や二人だけ、イズナを置いてマダラにもう弟はいない。

 

 戦のない日が続いたある日の朝、イズナは釣りの道具を持って出かけた。

 家の中は芳しくない戦況に空気がきつく張り詰めており、ひどく窮屈であったからだ。

 普段はマダラの側に控えているヒカクがイズナにこんな時期に一人で釣りに出かけなくともと引止めてくるのを全力で振り切り、イズナは以前に板間やこの時代の扉間と会った釣場からは少し離れた場所に向かった。少し位置をずらしたのは、鉢合わせしたくなかったからではない。そこにも腰掛けるのにちょうど良さそうな岩が転がっていたからである。

 

「……ここでいいか」

 

 岩に荷物を置き、道具の準備をする。時々木の実が水に落ちる音が聞こえた。

 水面に釣り糸を垂らし、イズナは魚が食いつくのを静かに待った。自然の緑と流れる水の音が、近頃続いていた戦で疲れた心を癒す。釣れれば上々、釣れずともこの場でゆっくりと過ごす時間は無駄ではない。

 しばらく待った後、糸が引かれる感覚がした。イズナは慣れた手つきで竿を引き寄せ、釣り上げる。その時後ろから声が聞こえた。

 

「すごい、釣れたじゃん!」

「……なんでいる、千手板間」

「久しぶりだね、うちはイズナ」

「……」

「こ、怖い顔しないでよ。扉間兄者みたいだよ、その顔」

「なっ」

 

 怖い顔が扉間みたいとはどういったことだろうか。イズナは口元が引き攣った。

 

「本当に久しぶり……あまりにも会わなかったから、もしかしてって思っちゃったけど」

「オレは……訃報は聞かなかったから無事だろうとは思っていた」

 

 イズナは釣れた魚から針を抜きながら答えた。板間様子からして今日居合わせたのは偶然なのだろう。

 

「ね、ねえ。イズナは知ってたの? 兄者達が会ってたこと。扉間兄者とも会ったんだよね?」

「会った。会ったけど、オレとアイツは敵同士だ。お前もだよ、板間」

「い、いまは敵じゃ無いよ、ただの……そう、今はただの板間」

「ただの板間、ねぇ……?」

 

 誰かこの馬鹿を迎えに来い、そうイズナは板間を厳しく見つめ返した。

 特に迎えに来る人物を指定していなかったからか、まさかこの直後厄介な事態になるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

「ほォーー! イズナじゃないか、マダラの弟の!」

「……どうして」

「柱間兄者? なんでここに来たの?」

 

 釣りをする二人の元に現れたのは、頭に枝や葉をくっつけた柱間であった。

 

「何でって、修行に決まってる」

「えー、いつもはこっちの方に来ないじゃん、柱間兄者」

「気分転換ぞ。二人の話しを邪魔するつもりはない。そうだ、最近のマダラの調子はどんな感じだ? イズナ!」

「……距離を、考えろ…………千手柱間」

「わぁああ! イズナがなんか怒ってるよ!兄者ァ!」

 

 ズイズイと距離を詰めてくる柱間にイズナは苛立ちを見せた。

 柱間といえば千手側当主の長子であり、千手とうちは両家の状況を知らないはずがない。そうだというのに、敵対している家の相手にこうも無防備に近付いてくるなど、イズナは怒りたいのを通り越して呆れるほどだった。

 

「す、すまん……」

 

 板間に言われイズナの様子に気づいた柱間は突如表情を変えると、悲しそうに板間の後ろに下がり膝を抱えて静かになった。

 

(うっ……この落ち込み方は『兄者』だ。かなり久方ぶりに見たが、いきなり止めて欲しい)

 

 ペースを乱されると、イズナは首を振った。

 勝手に落ち込み静かになった柱間を無視すると、イズナは釣り道具を片付け始めた。板間がイズナを見る。

 

「イズナ、もう帰るの?」

「帰る。千手といるところを見られたらオレもただじゃすまないから」

「そんなァ! せっかく戦場じゃないところで会えたのに」

「そうだぞ! ここで会えたのも何かの縁! イズナはマダラとは仲は良いか?」

「うわ、柱間兄者もう復活した」

「……うるさい」

 

 早く片付けてこの場を去ろう。そうイズナは決意し釣具を片付ける手を早める。

 板間と柱間がワイワイと言い合っているのを尻目に、イズナはそっとその場から立ち去った。

 

「あ! 逃げた! ちょいまち、イズナ!」

「あ! 柱間兄者まってって!」

 

 うるさいのがついてきた。

 イズナは耳を塞ぎたいのを堪えて、歩くスピードを早めた。

 だが相手もまだ幼さはあるとはいえ、戦場を生き抜いた千手の子。しかも柱間だ。イズナはあっさりと追いつかれたのだった。

 

「そんなに急いで帰らなくても! なあなあイズナ! マダラは今どうしてる?」

「……はぁ」

「イズナはどう思ってる? この戦のこと、一族間の争いのこと」

「は、柱間兄者待ってって!」

「なあなあ!イズナ!」

「黙れ兄者ッ」

「!」

「!」

「……っ」

「今……オレのこと」

 

 ついかっとなったイズナは失言してしまった。釣り道具を持つ手をぎゅっと握ると今度は全速力で駆け出した。驚いた柱間と板間もイズナについていく。

 横にピッタリとくっつかれたイズナはニタリと笑みを浮かべた柱間に怒鳴った。

 

「付いてくるな!」

「まあまあ恥ずかしがるなって……間違えは誰にでもあるんぞ」

「柱間兄者ッ、追い打ちかけないでッ!」

「ッ……」

 

 言い間違いを突かれ、イズナは顔に熱が集中するのを感じた。

 いたたまれなくなったイズナは釣竿で柱間を叩いたのだった。

 

 

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