ここはキャラバンが集まって形成される市場、バルバレ。
ここには各地から集まった腕利きのハンターや商人達が滞在しており、数多くの情報やモンスターの素材が集まっている。
「おい、俺が先だぞ!」
「早くそこどけ!」
「アンタハンターなんだろ!?どうにかしてくれよ!」
「あんなもん俺にどうしろってんだ!」
その街が今、恐怖と悲鳴で溢れかえっていた。
ある者は人を押しのけ我先にと、ある者はその場で丸くなり、ある者はただ呆然と目の前の状況を眺めるばかり。
腕利きのハンター達ですら、武器も置いて逃げ出す始末。
そしてバルバレの目の前にある砂漠、大砂漠からこちらに近づく大きな砂嵐と共に、その中心となって近づく巨大なモンスター。
【霊山龍】ジエン・モーラン亜種。
数時間前、ジエン・モーラン亜種を討伐するためにハンターとギルドナイトが手を組み、大規模な討伐隊となって十席以上の砂上船に乗り、討伐に向かった。
しかし戻ってきたのは避難の知らせと、向かった討伐隊の全滅の知らせ。
私はただ、呆然と目の前の迫り来る破滅を眺めることしか出来なかった。
あぁ、私の人生はここで終わるのだと。
ここで死ぬんだと、目の前の死を、私は既に受け入れていた。
だってどうしようもなかった。
私も討伐隊として砂上船に乗り、他の同期のハンター、私より遥かに強い上位ハンターの人達も、ギルドナイトの人達も、全員為す術なくあの怪物に砂上船事木っ端微塵にされ、誰一人生き残れなかった。
私は命からがらこのことを報告する為に逃がしてもらい、生き残ることが出来た。
また生き残ってしまった。
復讐を誓った人生で、家族も、知人も、友も、想い人すら居なくなってしまった生活で、再び私は家族の様に慕うことの出来る友が、仲間ができた。
そしてまた奪われた。
「クソッ!クソッ!また、またお前らは!私から何もかも奪うのか!?私がお前らに何をした!?何が神だ!何が古龍だ!このバケモノどもめッ!」
何度も地面を殴り、自身の弱さに涙を流し、八つ当たりのように叫び続けた。
そして私の中で何が折れそうになる。
きっとそれが折れてしまったらもう立ち直れない、立ち上がる事など、二度とできない。
でもきっと、折れてしまった方が楽なのだろう。
最初っからわかっていた。
人間の力じゃあんな巨大で、強大なバケモノ立ちに勝てるわけが無い。
どれだけ人間が束になって立ち向かっても、まるで羽虫のように殺される。
諦めよう。
もう、疲れた。
「今、そっちに行くね」
お父さん、お母さん、ハンターさん、みんな・・・・・。
ひとりぼっちは寂しいよ───
「そこの君、俺と少子化問題解決の為に交尾を前提に結婚しないか」
「・・・・・は?」
目の前の男はなんて言っているのだろう?
私の聞き間違いではなければ、この絶望的状況でナンパ?しているのか?
いや、きっと何かの聞き間違い・・・・。
「君の下半身が俺のドストライクなんだ、是非俺のマイハウスで少子化問題を解決しないか?」
あぁ、聞き間違いじゃない。
この人頭おかしい。
「何言ってるんですか?」
「何って、セック〇のお誘い」
「・・・・・頭大丈夫ですか?」
「あれ?師匠秘伝ナンパ術によると『悲しそうな女性をベットに誘えば一発』て書いてあんだけどな」
「本当に何言ってるんですか?」
この状況で頭がおかしくなったのか、それとも正常の状態で頭がおかしいのか、目の前の男は『師匠秘伝ナンパ術【廻】』と書かれてる本を読み漁ってる。
「あの、逃げないんですか?」
「俺も逃げられたら逃げるんだけど、立場上出来ないからねぇ」
「・・・・こんな状況です、逃げたって誰も咎めませんよ」
「咎める咎めないの話じゃねぇのよー」
「じゃぁなんですか、何故逃げないんですか?こんな状況で、まさかあのバケモノに1人で立ち向かう気ですか?」
「ま、資格がなくても俺は英雄の一人だから」
「英雄」
ハンターたちが1度は憧れる英雄と呼ばれ、未来永劫語り継がれるような伝説の存在。
目の前の男が?
本当に頭がおかしくなってしまったんだろう。
可哀想に。
私が哀れんでいると、男は本をしまい、前に歩き出す。
「行くんですね」
「止まれないからね」
「あなたの言う英雄に、命をかける価値があるんですか?」
「ある」
男は即答した。
なんの迷いもなく、たかだか英雄と言う称号なんかに、自分は命を捨てられるだけの価値があるのだと。
「俺の師匠は言ってたんだよ、英雄になったからには止まれない。どんなに怖くても、無理でも、辛くても、前に進むしかない」
「・・・・・辛く、ないんですか?」
「辛いしキツイ、もう止まっちまいたいよ」
「じゃぁ止まってしまえば───」
きっとそうすれば楽になれる。
そう言おうとした時、男はこちらを振り返り、笑ってこう言った。
「それでも止まれねぇんだよ、英雄だから」
「・・・・・」
「だから師匠は辛い時、止まっちまいたい時はこう言うのさ」
「笑って行こうぜ、地獄まで」
そう言って男は再び歩き出す。
その数分後、1隻の砂上船がジエン・モーラン亜種に向かって真っ直ぐと進んでいく。
その船には大量の大タル爆弾Gが積まれており、砂上船の前方につけられた竜撃槍が突き刺さり、ジエン・モーランが大きく怯んだ直後、砂上船は大爆発した。
それを呆然と見ていた私は心の中で、きっとあの人は死ぬ気だったんだなと、やぶれかぶれの特攻で、少しでも時間を稼ごうとしたんだなと、そう思い納得していた。
しかし、その思いはすぐに目の前の光景にかき消された。
ジエン・モーラン亜種がこちらに向かうことなく、身体を右、左、上、下、と様々な方向に体を振りぶつけ、咆哮をし、岩を飛ばし、まるで何かを振り払おうとしている。
そしてその数分後、ジエン・・モーラン亜種は左右に大きく頭部を揺らし、突然ジエン・モーラン亜種を象徴する2つの大牙が砕けた。
気がつけばジエン・・モーラン亜種の甲殻や体に付着した鉱石などがほとんど剥がれていた。
そしてジエン・モーラン亜種が大きく身体を上にあげると、ガクンッと突然力なく倒れた。
「・・・・ぇ?」
それからジエン・モーラン亜種が動き出すことは無かった。
この後増援のハンターやギルドナイトが現れ、事情聴取や怪我人の救助、討伐隊の捜索に向かった。
その後になってやっと彼がG級ハンター【番犬】だと言うことを知った。