リア充に憧れて   作:荒北龍

12 / 37
私だけの英雄

 

 

 

ここはキャラバンが集まって形成される市場、バルバレ。

ここには各地から集まった腕利きのハンターや商人達が滞在しており、数多くの情報やモンスターの素材が集まっている。

 

「おい、俺が先だぞ!」

「早くそこどけ!」

「アンタハンターなんだろ!?どうにかしてくれよ!」

「あんなもん俺にどうしろってんだ!」

 

その街が今、恐怖と悲鳴で溢れかえっていた。

ある者は人を押しのけ我先にと、ある者はその場で丸くなり、ある者はただ呆然と目の前の状況を眺めるばかり。

腕利きのハンター達ですら、武器も置いて逃げ出す始末。

そしてバルバレの目の前にある砂漠、大砂漠からこちらに近づく大きな砂嵐と共に、その中心となって近づく巨大なモンスター。

【霊山龍】ジエン・モーラン亜種。

数時間前、ジエン・モーラン亜種を討伐するためにハンターとギルドナイトが手を組み、大規模な討伐隊となって十席以上の砂上船に乗り、討伐に向かった。

しかし戻ってきたのは避難の知らせと、向かった討伐隊の全滅の知らせ。

 

私はただ、呆然と目の前の迫り来る破滅を眺めることしか出来なかった。

あぁ、私の人生はここで終わるのだと。

 

ここで死ぬんだと、目の前の死を、私は既に受け入れていた。

だってどうしようもなかった。

私も討伐隊として砂上船に乗り、他の同期のハンター、私より遥かに強い上位ハンターの人達も、ギルドナイトの人達も、全員為す術なくあの怪物に砂上船事木っ端微塵にされ、誰一人生き残れなかった。

私は命からがらこのことを報告する為に逃がしてもらい、生き残ることが出来た。

 

また生き残ってしまった。

復讐を誓った人生で、家族も、知人も、友も、想い人すら居なくなってしまった生活で、再び私は家族の様に慕うことの出来る友が、仲間ができた。

そしてまた奪われた。

 

「クソッ!クソッ!また、またお前らは!私から何もかも奪うのか!?私がお前らに何をした!?何が神だ!何が古龍だ!このバケモノどもめッ!」

 

何度も地面を殴り、自身の弱さに涙を流し、八つ当たりのように叫び続けた。

そして私の中で何が折れそうになる。

きっとそれが折れてしまったらもう立ち直れない、立ち上がる事など、二度とできない。

でもきっと、折れてしまった方が楽なのだろう。

 

最初っからわかっていた。

人間の力じゃあんな巨大で、強大なバケモノ立ちに勝てるわけが無い。

どれだけ人間が束になって立ち向かっても、まるで羽虫のように殺される。

 

諦めよう。

もう、疲れた。

 

「今、そっちに行くね」

 

お父さん、お母さん、ハンターさん、みんな・・・・・。

ひとりぼっちは寂しいよ───

 

「そこの君、俺と少子化問題解決の為に交尾を前提に結婚しないか」

「・・・・・は?」

 

目の前の男はなんて言っているのだろう?

私の聞き間違いではなければ、この絶望的状況でナンパ?しているのか?

いや、きっと何かの聞き間違い・・・・。

 

「君の下半身が俺のドストライクなんだ、是非俺のマイハウスで少子化問題を解決しないか?」

 

あぁ、聞き間違いじゃない。

この人頭おかしい。

 

「何言ってるんですか?」

「何って、セック〇のお誘い」

「・・・・・頭大丈夫ですか?」

「あれ?師匠秘伝ナンパ術によると『悲しそうな女性をベットに誘えば一発』て書いてあんだけどな」

「本当に何言ってるんですか?」

 

この状況で頭がおかしくなったのか、それとも正常の状態で頭がおかしいのか、目の前の男は『師匠秘伝ナンパ術【廻】』と書かれてる本を読み漁ってる。

 

「あの、逃げないんですか?」

「俺も逃げられたら逃げるんだけど、立場上出来ないからねぇ」

「・・・・こんな状況です、逃げたって誰も咎めませんよ」

「咎める咎めないの話じゃねぇのよー」

「じゃぁなんですか、何故逃げないんですか?こんな状況で、まさかあのバケモノに1人で立ち向かう気ですか?」

「ま、資格がなくても俺は英雄の一人だから」

「英雄」

 

ハンターたちが1度は憧れる英雄と呼ばれ、未来永劫語り継がれるような伝説の存在。

目の前の男が?

本当に頭がおかしくなってしまったんだろう。

可哀想に。

私が哀れんでいると、男は本をしまい、前に歩き出す。

 

「行くんですね」

「止まれないからね」

「あなたの言う英雄に、命をかける価値があるんですか?」

「ある」

 

男は即答した。

なんの迷いもなく、たかだか英雄と言う称号なんかに、自分は命を捨てられるだけの価値があるのだと。

 

「俺の師匠は言ってたんだよ、英雄になったからには止まれない。どんなに怖くても、無理でも、辛くても、前に進むしかない」

「・・・・・辛く、ないんですか?」

「辛いしキツイ、もう止まっちまいたいよ」

「じゃぁ止まってしまえば───」

 

きっとそうすれば楽になれる。

そう言おうとした時、男はこちらを振り返り、笑ってこう言った。

 

「それでも止まれねぇんだよ、英雄だから」

「・・・・・」

「だから師匠は辛い時、止まっちまいたい時はこう言うのさ」

 

 

「笑って行こうぜ、地獄まで」

 

そう言って男は再び歩き出す。

その数分後、1隻の砂上船がジエン・モーラン亜種に向かって真っ直ぐと進んでいく。

その船には大量の大タル爆弾Gが積まれており、砂上船の前方につけられた竜撃槍が突き刺さり、ジエン・モーランが大きく怯んだ直後、砂上船は大爆発した。

 

それを呆然と見ていた私は心の中で、きっとあの人は死ぬ気だったんだなと、やぶれかぶれの特攻で、少しでも時間を稼ごうとしたんだなと、そう思い納得していた。

 

しかし、その思いはすぐに目の前の光景にかき消された。

 

ジエン・モーラン亜種がこちらに向かうことなく、身体を右、左、上、下、と様々な方向に体を振りぶつけ、咆哮をし、岩を飛ばし、まるで何かを振り払おうとしている。

 

そしてその数分後、ジエン・・モーラン亜種は左右に大きく頭部を揺らし、突然ジエン・モーラン亜種を象徴する2つの大牙が砕けた。

気がつけばジエン・・モーラン亜種の甲殻や体に付着した鉱石などがほとんど剥がれていた。

そしてジエン・モーラン亜種が大きく身体を上にあげると、ガクンッと突然力なく倒れた。

 

「・・・・ぇ?」

 

それからジエン・モーラン亜種が動き出すことは無かった。

この後増援のハンターやギルドナイトが現れ、事情聴取や怪我人の救助、討伐隊の捜索に向かった。

その後になってやっと彼がG級ハンター【番犬】だと言うことを知った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。