バルファルクは今まで絶対的強者として自分に向かってくる生物を灰にしてきた。
己の速さについて来れる生物は今まで現れることは無かった。
時には自分よりも遥かに大きな大砂漠の主を、時には千の剣を持つ破壊の化身を、嵐を操る龍を、業火を操る炎の化身を、同じ古龍と呼ばれ神と崇められ続けてきた者達すら自分が屠ってきた。
時には死を覚悟したこともあった。
だが、そんなバルファルクに流れ込んでくるこの感情。
全身の筋肉が強ばり、本能が大音量で警戒音を鳴らし、体の体温が低くなり、身体が後ずさることを望む。
恐怖していた。
目の前の男にでは無い。
男の持つ武器に対してだ。
百戦錬磨の歴戦の古龍を、滅びの化身であり、何千年も人々から滅びの神と恐れの対象となっていた自分が、既に命無き物に恐怖していた。
人間サイズの、バルファルクからしてみれば小さな武器でしかない"ソレ"はもっと巨大な、自分より遥かに巨大な禍々しい"なにか"の姿を連想させた。
忘却のオストラコン。
【巨戟龍】ゴグマジオスの素材を元にして作られた武器。
かつての要塞都市であるドンドルマの3分の2を破壊し、対処したG級ハンター5人の内三人を鏖殺した大災害。
そのモンスターの素材によって創られた大剣。
ゴグマジオスの禍々しい姿からは想像もできないような神秘的なその大剣は、見るもの全てを恐怖させた。
バルファルクはすぐに伸ばした羽を畳み、全身の龍属性エネルギーを翼に集中させて放出して空高くに飛んだ。
逃げた訳では無い。
目の前の自信を恐怖させた男を、全力を持って葬る為だ。
人間はいついかなる時代も、自分たち種族に害をなす生物を容赦なく排除してきた。
それがこの世界に大きな影響を及ぼす事だとしても、臆病なこの生物達は、その他の生物達を鏖殺してきた。
ならばいつか目の前のハンターと自身がぶつかることは明白。
ならば、なればこそ、逃げるという選択肢はなかった。
目の前の初めての天敵を今この場で直ぐに排除する。
全力を持ってして、骨すら残さず排除する。
一方、天高くに飛んだバルファルクをダンテは眺めながらアザミに声をかける。
「いいかアザミ、古龍達はその体に流れる古龍の血によって馬鹿みてぇな回復力を持ってる。たとえ臓物ぶちまけようが、脳漿ぶちまけようが数秒で回復する。さて問題だ、そんな不死身の化け物を殺すにはどうしたらいい?」
「え、えっと··········分かりません···············」
「勉強不足だな、本当にダレン・モーランぶっ殺したのか?」
ダンテはそう言って大剣を構えた。
「答えはいつもシンプル」
轟音と共に、ものすごい速さでこちらに向かってくるバルファルク。
そのスピードはマッハに到達していた。
あっという間に目の前まできたバルファルクに対してダンテは
「二度と回復出来ねーくらいぶっ殺す」
そう言ってバルファルクを大剣で真横に吹っ飛ばした。
───ドオオオオオォォォォォッッ!!!
遅れて音がやってくる。
横を見れば顔面がひしゃげたバルファルクの姿があった。
「チッ」
ダンテが舌打ちする。
アザミはバルファルクから、ダンテの方に目線を向ければ、ダンテの両腕が左右にひしゃげていた。
当然と言えば当然であるが、あの巨大なバルファルクを吹っ飛ばして腕がその程度で済んだのは奇跡と言えよう
「タイヤキッ!!」
「はいニャ!」
突然ダンテの掛け声と同時に地面から現れたタイヤキは手に持っていたいにしえの秘薬をダンテとアザミの口にほおりこんだ。
それと同時にダンテの両腕をタイヤキが元の位置に無理やり戻す。
「··········行けるか?」
「こっちのセリフニャ」
「馬鹿言え、俺はハンターだぞ」
「愚問だったニャ」
そう言って2人はバルファルクにお互いの武器を向ける。
それと同時だった。
ミチミチと裂けた肉と砕けた骨が治っていく音が聞こえる。
そしてひしゃげていたバルファルク頭部が次第に治り始め、ものの数秒で元通りになっていた。
「どう見る?」
「この回復速度と生命力··········恐らくG級、しかも歴戦個体ニャ」
「死ぬかもな」
「死んだらハンターナイフくらいは拾ってやるニャ」
「馬鹿言え」
そう言ってダンテはニヤリと笑った。
「弟子の前で死ねっかよ」
その直後だった。
バルファルクは立ち上がり咆哮した。
それと同時にダンテとタイヤキは前に駆け出した。