『怖いか、バカ弟子』
身体が震える。
武者震いではない。
死への恐怖、死ぬ事えの抵抗。
『その恐怖、大事にしなさい』
そう言って師匠は怯える俺を咎めることも、叱ることもなく、少し乱暴に頭を撫でた。
傷だらけのその手は、とても暖かく、優しく、何故だかとても心地よかった。
▷▶▷▶
「どれくらい削った!?」
「半分は削ったニャ!」
「ならこのまま押し切るぞッ!」
30分。
このバルファルクとの攻防も既に30分は経過していた。
俺がバルファルクに真正面から斬込み、俺に狙いを定めている間に、タイヤキが後ろから攻撃。
俺はバルファルクの攻撃を全ていなす事に全集中力を注いでいた。
だって俺の今の装備、褌とレウスSヘルムだけだし。
普通に死ねる。
一撃でも食らっら胴体真っ二つ所か消し炭よ消し炭。
灰が残るかどうかすら怪しい。
忘却のオストラコン。
普通の武器とは重みも、使いにくさも桁が違う。
俺がコイツを使っているのか、コイツに俺が使われているのか、バルファルクの戦いで何度も自問自答した。
まるでこの武器は生きているかのようだった。
鏡のようにうっすらと映される俺の姿。
その奥に巨大な紅い瞳。
俺はコイツにずっと観られている。
死してなお、俺がコイツを使うにふさわしいハンターか。
(···············師匠のようには行かねぇな)
かつて師匠は俺にコイツを見せてくれた。
その時もコイツは俺を観ていた。
───隙を見せれば殺してやる。
───憎きお前らを殺してやる。
まるでそう語り掛けるように。
だが師匠はそんなコイツを鼻で笑い、蹴飛ばした。
怯えて、尻もちをついて、目に涙を貯める俺を見て、笑うでも、蔑むわけでも、ましてや失望する訳でもなく、その恐怖を忘れるなと、それでいいのだと、そう言っていた。
それじゃ俺はアンタになれねぇ。
怯えてたら、俺はいつまでたっても師匠の様にはなれない。
コイツの属性である睡眠効果は未だ出せていない。
「おおおおおぉぉぉッ!」
渾身のタメ攻撃。
しかしバルファルクは直ぐに翼で俺の渾身のタメ攻撃を防ぐ。
だが、その隙にタイヤキがタイヤキ&ダンテ特製大樽爆弾Gを投げて起爆する。
普通のモンスターならば部位破壊され怯むなりするはずなのだが、傷どころか瞬きすらしていない。
「バケモンが」
直ぐに体を回転させ、それと同時に防いでいた翼を伸ばし俺とタイヤキを薙ぎ払う。
それと同時に刃のような鱗がダンテの腹部を深く引き裂き、腹の下にある腸ごと傷つけて血飛沫を上げる。
「師匠!」
「安心しろ、腸ぶちまけただけだ」
「人間はそれを致命傷と言うんです」
俺は直ぐにアイテムポーチから吐血した血を水替わりに秘薬を飲み込み、回復薬グレートを傷口にぶっかけた。
「タイヤキ、生きてっかー?」
「片腕取れたニャー!」
「大丈夫だな」
「どこが!?」
「あんくれぇ秘薬でくっつく。いいかアザミ、死んでなきゃそれは致命傷じゃねぇ、ただのかすり傷だ」
「致命傷とは!?」
そう言って再び武器を持ち、立ち上がる。
「じゃなきゃあんなとんでもバケモンとは戦えねぇぜ」
そう言ってダンテが見る先には、傷一つない、息すら上がっていないバルファルクがこちらを見ている。
「はは、怖ぇなぁ」
そう笑いながら師匠は言った。
よく見れば身体が小刻みに震えている。
恐怖しているのだ、目の前のバケモノに、己の死に。
「だから行く」
その言葉で震えは止る。
怖くても、辛くても、止まりたくても、英雄は前へ歩を進める。
だから言うのだ。
「笑って行こうぜ、地獄まで!」
再びモンスターとハンターがぶつかり合う。
血を降らせ、肉を裂き、骨を砕き、喰らい合う。
血湧き肉躍る宴。