リア充に憧れて   作:荒北龍

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死を恐れ、命を賭けよ

 

 

 

数十分による死闘が繰り広げられ、地形は変化し、辺りはダンテとタイヤキとバルファルクの血で染まっていた。

それをただ傍観するだけの自分。

それが悔しくて、不甲斐なくて、悲しくて。

 

───なります。ダンテさんの弟子に

 

あの言葉は、自分の全てを乗せた言葉だった。

覚悟、憎悪、恐怖、畏怖、憧れ、不安、渇望。

そして信念。

 

自分は師匠の教えを聞き、そして学び、期待に応え、最短でG級ハンターになり、村を、家族を喰らい尽くしたあの怪物、オストガロアを狩り殺すと決めた。

しかし、現実はどうだ?

 

恐怖ですくむ足。

絶望で震える手。

死の淵に立つことを拒否する思考。

全てを覚悟したつもりだった。

つもりになっていた。

 

───自分は・・・・

 

「弱い・・・・・」

 

果たして本当に自分はダンテと同じ土俵に立てるのか?

そう自分にと居続けている中、自身の真横を何かが物凄いスピードで横切る。

 

───ドオオォンッッッ!

 

振り返れば岩の壁に激突したダンテの姿。

岩には大きなクレーターができ、周りにダンテの血と肉がこびり着いている。

 

「アザミ」

 

わたしの、なまえ・・・・

 

「わりぃ、俺のポーチから秘薬とってくれ」

 

「───」

 

そこには両腕がぐしゃぐしゃにつぶれ、脚は拗られ、腹にポッカリと空いた穴。

既に死に体のダンテがいた。

 

「油断したなぁ。だいぶ治癒能力も落ちて来たし、そろそろ弱ってる頃だと思ったらこの有様だよ全く。タイヤキー、ちょっと1分・・・・・30秒でいいから足止めしといてくれー」

「ギニャアアァァァッッ!!!(疲労困憊)」

「んじゃちょっと頼んだ・・・・・どうしたアザミ?」

 

「ハァッハァッハァッハァッ・・・・・・ッ!」

 

過呼吸になり、身体中を震わせているアザミ。

その目は同様と恐怖を全く隠せていなかった。

 

「・・・・・アザミ、俺の声が聞こえるか?」

「は、ぃ・・・・ッ」

 

ゆっくりと頭を下に下げるアザミ。

 

怖い。

早く動かなければ。

怖い怖い。

早く師匠の治療をして怖いけなければタイヤキさんも怖い出しまう。急いで怖いの所に怖いて秘薬を飲ませなければ師匠が怖いでしまう。だから早く怖いかなきゃ。

恐れるな、こんなの怖いともない怖い。

怖い。

怖い。

怖い。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖───「アザミ」

 

「帰ったらシチューでも食わないか?」

「は───」

「ガーグァの肉を使ったシチューだ。よく師匠が俺の頑張った日は特別だって言って作ってくれたんだ」

「な・・・んの・・・・ッ」

「パンも焼いてやろう。ふわっふわっのパンだ、シチューにあうぞ。タイヤキも俺の作るシチューとパンは美味いってよく食うんだ。アザミは頑張ったからな、本当はもっと美味い飯でも奢ってやりたいんだが、遠分は街に帰れねぇからな。あ、でもベットはあるからいつでも交尾はできるぞ」

「何の話ですかッ!?」

「アザミ」

 

その声は、とても柔らかい声だった。

バルファルクの暴れ回る音、そして破壊される地形の音、タイヤキさんが叫ぶ声、様々な音が飛び交うこのフィールドで、師匠の声はスッと私の耳の中に入っていった。

 

「まずは深呼吸だ、身体の震えがマシになる」

 

私は師匠に言われた通り深呼吸をした。

完全に震えが無くなることは無い。

それでも震えは幾分かマシになった。

 

「立てるか?」

 

脚がガクガクと震え、身体が立とうとすると再び地面に倒れようとする。

それでも何とか踏ん張り、私は立った。

 

「1歩だ、まずは1歩、歩いてみろ」

 

私は竦む脚を無理やり前に出す。

1歩、たった1歩までが遠い。

やっと1歩歩くことが出来た。

まだ1歩しか歩けていない。

臆病で、無力な私は師匠に呼びかけられ、やっと身体が動かせた。

しかし、師匠がいなければ私は動くことすら出来ず、まだまだ師匠との距離はある。

自分では何も出来ない、こんなにも弱い私はどの口でG級ハンター達と肩を並べて狩りをしようなどと言えたのだろう。

 

「流石だ、アザミ」

 

なのに師匠は、そんな私を見て見損なうどころか心の底から喜んでいた。

まるで子が親の期待に応えるように、自分の予測した喜びがそれ以上の喜びを体験した時のような、そんな声と顔をしてた。

 

何故、何故師匠はそんなにも嬉しいのだろう。

私は今ここでは足でまといにしかなっていない。

きっと今の私がG級ハンターになりたいと言えば私を見た者は全員私を鼻で笑うだろう。私のような臆病で、世間知らずで、身の丈に合わない理想を抱く愚者。

なのに師匠の目から期待と希望の眼差しが消えることは無かった。

 

「俺に言われることなく、自分でここまで来るとはな」

 

気がつけば私は師匠の目の前にいた。

あの師匠の眼差しに応えたくて。

師匠を助けたくて。

臆病だって言われたっていい、弱虫と呼ばれてもいい、プライドを捨てたっていい、強くなれなくたっていい。

でも、師匠の期待に応えたい。

師匠の助けになりたい。

私は目の前が恐怖による涙で目の前の景色が何も見えなくなってそれでも師匠のアイテムポーチに手を伸ばし、秘薬らしきものを手に取った。

 

「そのまま俺の口に放り込んでくれ」

 

私は必死に涙を拭い、そのまま秘薬を師匠の口に入れた。

 

───ゴクンッ

 

そのまま秘薬が呑み込まれ、次第に腕と脚、そして傷が治っていく。

そこから数秒で瀕死の傷は完治した。

 

「いやー、助かった。あと数秒遅かったら失血死してたは」

「わら、えません・・・・・」

「ま、そんときはタイヤキがお前を抱えて逃げてくれるから安心しろ」

「どうしたら・・・・・」

「ん?」

「どうしたら師匠みたいに、死を恐れずに戦え───」

 

───パァンッ

 

次の瞬間、私の右頬に熱い痛みが広がった。

言い終わる前に、私は師匠にビンタされていた。

ジンジンと痛む右頬を私は抑える。

 

師匠の表情はレウスSヘルムに隠れて見えない。でもその目は確かに怒りで染っていた。

 

「死を覚悟した奴に、生きたいと願う人は助けられねぇ」

「わ、わた・・・・・」

 

上手く呂律が回らない。

言葉を繋げようとすると、次々と言葉の代わりに涙が溢れてしまう。

 

「俺達はハンターだ、モンスターを殺すのが仕事じゃねぇ。モンスターから人々を守るのが仕事だ、二度と忘れるな」

「・・・・ッ」

「モンスターを殺すことしか出来ねぇ奴なんて、モンスターと変わらねぇ、ただのバケモノだよ。お前はバケモノになってくれるな」

 

そう言って私をビンタした頬を優しく撫でる師匠。

もうその瞳に怒りはなく、叩いてしまったことを心の底から後悔した、そんな目だった。

 

「はいッ」

 

私は力ずよく、決心するように返事をした。

それを聞いて、師匠は嬉しそうだった。

 

「タイヤキ〜〜」

「おっそいニャァッ!」

「久々に"アレ"かますからアザミと少し離れてろ」

「はいニャッッ!!」

 

バルファルクの攻撃を紙一重で避け続け、隙を見て攻撃し続けるタイヤキは、すぐに逃げの姿勢となり、地面に潜り一瞬でアザミの真横に現れる。

 

───プオォ〜〜ッ

 

それは鬼人笛。

一定時間攻撃力を上げる笛だ。

それを吹くとすぐにアザミを連れて宣戦を離脱する。

 

「し、師匠ッ!」

「安心しろ、すぐ終わる」

 

こちらに笑いかける師匠。

 

そしてダンテはアザミたちが見えなくなるのを確認するとアイテムポーチから3つのアイテムを取りだした。

鬼人薬グレート、怪力の種、怪力の丸薬。

どれも攻撃力を上げるアイテムだった。

口の中に怪力の丸薬と種を放り込むと、鬼人薬グレートで流し込む。

 

「さて、いつまでもカッコ悪ぃところを晒す訳にも行かねぇからな。次の一撃で決めてやるよ」

 

大剣をバルファルクに向けそう宣言するダンテ。

 

ハンター達には狩技と呼ばれる、必殺の技がある。

どの狩技も例外を除きI〜Ⅲとランク付けされており、中でもⅢは狩の結果を大きく分けるものとなる威力があるが、習得が困難とされ、習得できたとしても、身体がその技に耐えられず全身の骨という骨が砕け、肉が千切れ、最悪の場合四肢が分断され死に至る。

まさに諸刃の剣。

中でも"獣宿し"【獅子】は人間の力を抑えると言われるリミッターを一時的に外し、その力を大剣に一点集中させる技。

しかし、その効果と威力故、Iですら並の上位ハンターが使えば大剣を振り下ろす前に、途中で両手が力に耐えられず千切れてしまう。

 

「"獣宿し"【獅子】Ⅲ」

 

そして彼、G級ハンター【番犬】ダンテ=ヒガンが使ったのは最も危険とされる"獣宿し"【獅子】Ⅲだった。

かつてこの技を使いこなせたハンターはG級ハンター史上最強と呼ばれた【狩人】とダンテの師である【番狼】の二人だけだった。

 

黒いオーラを纏い、瞳に赤い一点の光を放つ姿は恐怖すら覚える。

ダンテが獣宿しを使ったと同時だった。

バルファルクが空高く舞上がったのは。

それは最初に見せた一撃より遥か高く、高く、見えなくなってしまうほど高く飛ぶ。

 

───アイツ(ジエン・モーラン亜種)も。

 

───アイツ(ダマ・アマデュラ)も。

 

───アイツ(アマツマガツチ)も。

 

───アイツ(テオ・テスカトル)も。

 

───この一撃を耐えたヤツは居なかった。

 

───自身の命を賭した最大の一撃。

 

───そして今、相手は自分より遥かに短命で、愚かで、矮小な存在。

 

───なのに、アイツ(ダンテ)から感じるは、アイツ(好敵手)らよりも遥かに強大な一撃の予感。

 

───何年も、何百年も挑まれてきた。

 

───だが、今宵挑むのは自分だ。

 

そんな想いを抱いたバルファルクの身体は、未知なる満足感、そして期待に支配されていた。

あぁ、あぁ、このような好敵手に会え、オレは期待で胸が震えているのだと。

久しく忘れていた。

命と命を奪い合う戦いとは、こうまで高揚するものなのだと。

 

だからどうか、どうか

 

───死なないでくれ。

 

一方ダンテは獣宿し【獅子】Ⅲに続き、新たにもう1つの狩技を行っていた。

 

「"震怒竜怨斬"Ⅲ」

 

獣宿し【獅子】Ⅲ同様、こちらも使用者の身体に大きな負担を与える狩技の1つ。

そしてこの"震怒竜怨斬"Ⅲはかの【狩人】ですら習得は不可能だった。

理由は最もシンプルであり、最も難しい問題。

耐久力だ。

基本"震怒竜怨斬"Ⅲは長い溜めモーション、もしくはモンスターの一撃を受け、その力を大剣に乗せながら前方にジャンプして振り下ろすカウンター技。

先手必勝の狩りで、自ら不利な後手に回るというハンデに加え、一撃が死に繋がるモンスターの一撃を受け流す事も、回避することも出来ず、その攻撃を真正面から受けるという自殺行為をして始めて最大の一撃が放てる大技。

 

「師匠・・・・・・ッ」

 

嘘つき。

2つとも狩技の中で最も危険とされる狩技。

しかもそれを二つ同時に行うと会う凶行。

自ら死に向かう姿を待て、無くなったと思っていた恐怖と不安が体を蝕む。

 

「安心するニャ。ご主人様は強い人だから、だから大丈夫ニャ」

 

絶対的信頼。

それは長年連れ添った相棒同士だからだろうか、それとも死線をくぐり抜けた中だからだろうか、それとも両方か。

どちらにせよ、その信頼が羨ましく思えてしまう。

 

「来るにゃ」

 

ジェット噴射と落下による超加速。

その速度、推定マッハ6。

人間の視認できる速度は仮説ではあるが自身の走る速度と同じ速さと言われている。

平均的な人間のランナーの時速は役9km。

速いものでも30と言われ、世界最速でも40km程度。

さて、ではマッハ6はその何倍か。

マッハ6の時速は役7200km、つまり最速の時速40kmでも180倍にもなる。

G級ハンターダンテはバルファルクの速度に反応できているのか、答えは否。

見るどころか音すら聞こえても過去のものとなっている。

ならばどうするか?

ただ待つ。

自身の体にバルファルクが触れるのを、ただ待つ。

焦りも恐怖も緊張も、全て受けいれ、ただ待つ。

口の中に入れている秘薬、バルファルクが自信に与える必殺の一撃を受けたと同時に飲み込み、"震怒竜怨斬"Ⅲを放つ。

一瞬、1秒にも満たない一瞬でもタイミングを間違えれば死ぬ。

 

覚悟を決め、それと同時にその時は来た。

 

─────────

 

不思議なことに、地面が割れ、土煙がまい、周りが地震でも起きたのかと勘違いするほどの揺れに苛まれたと言うのに、音が聞こえなかった。

音は遅れてやってくる。

 

───██████████████████

 

耳を劈くような轟音と音の並に、思わず耳を塞ぐアザミとタイヤキ。

体がよろめき、尻もちを着く。

 

次第に地響きと音は収まり、すぐに決着の確認を見ようとダンテの元に向かうアザミとタイヤキ。

 

土煙の奥に、黒い影が見えた。

そのシルエットは人の形をしていた。

 

「師匠!」

 

換気と喜びに声を上げてダンテの元に駆け寄ろうとするアザミを、タイヤキは止めた。

よく見れば人型のシルエットは左上半身が大きく欠損していた。

そして奥には巨大な影。

 

決着だった。

 

土煙が晴れた時見えたのは左上半身が無くなった師匠の姿と、その正面に立つバルファルクの姿だった。

誰が見ても決着は明らかだった。

アザミは口元を隠し、絶望で目の前が真っ暗となる。

タイヤキはすぐに武器を取りだし、バルファルクの次の行動に警戒していた。

 

だが、バルファルクが動いた時、武器を構える必要が無くなった。

バルファルクはグラリと大きく揺れると、そのまま地面に倒れる。

よく見ればバルファルクの右側の顔面から右前脚にかけ、大きく、そして深く切り裂かれ顔はほぼ真っ二つになっていた。

そして、バルファルクが倒れ他と同時ダンテの身体が揺れる。

 

「師匠ッ!」

「ご主人様ッ!」

 

その声を聞いたと同時に、ダンテは倒れそうになった身体を踏ん張り耐える。

 

「心配させんニャ」

「いつまでもカッコ悪ぃところ見せる訳には行かねぇからなぁ」

 

よく見れば傷が塞がりかけている。

少しずつ、少しづつだが傷は癒え、回復している。

 

ダンテは攻撃を受けた瞬間、完璧なタイミングで秘薬を飲んだ。

それに上半身ごと吹き飛ぶはずだった体は、左半身を失うだけで抑えることに成功し、それと同時にカウンターを合わせたのだった。

下手をすれば秘薬を飲む余裕すら与えられず即死の一撃だった。

長年の狩の経験と、自身の勘により、討伐に成功したのだった。

 

 

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