英雄になりたくて
「正気か師匠!あんた1人で勝てる相手じゃねぇ!」
「うるせぇぞ、そんなの百も承知してるわバカ弟子」
師匠はいつもそうだ。
頑固で、自分勝手で、自己中で
「ならなんで!?せめてほかのG級ハンターが到着するまで···············」
「あの村の住人はどうする?」
だけど、それ以上に優しくて、お人好しだった。
「他のG級が来るのはあと何日後だ?それまでに生存者はみんなあのバケモノの腹の中だ」
「いるかもどうかも分からねぇ生存者の為に師匠がなんで命を危険に晒すんだ!」
いつもそうだ。
師匠は自分の命はいつも二の次で、目の前の名前も知らない誰かのために簡単に命を投げ出す。
だが今回は普段の無茶振りとは訳が違う。
もう村はとっくに滅んだ。
生存者がいる確率はほぼ無いに等しい。
その上村を襲ったのはかつてのG級ハンター4人が挑んで勝てなかったモンスター。
『怨嗟の慟哭』、『奈落の妖星』、それは全てを喰らい尽くす大災害。
人を好んで食し、自身が食したモンスターたちの亡骸を自身の武器として使う。
今まで数多くの歴代G級ハンターが挑み、その全てを喰らい尽くした怪物。
───【骸龍】オストガロア。
村は既に壊滅状態。
唯一の生存者はたまたま村を出ていた村の村長だった一人。
その村長がたまたま近くを通り掛かったハンターに懇願したのだ。
───どうか、どうかあの龍を・・・家族の、村の皆の仇をうってくれ!
泣き崩れながら、涙と鼻水と唾液と汗で顔をぐしゃぐしゃにしながら一筋の救いに縋るように。
そんな村長に師匠は当然のように答えた。
『仇を討つ気はねぇ。だが、そのモンスターは必ず私が狩る。きっとまだ生存者がいるはずだ、残ってる生存者も必ず助ける』
『だからアンタは安心して家族の帰りを待っててやんな』
できるかも分からないことを平然と言ってのける。
そしてそれを実行する実力は師匠にはあった。
だが今はかつてのような実力はない。
かつての大戦、ドンドルマでの大災害で師匠の左足は失われ、右目は失い、右手首は未だ上手く力を入れることが出来ない。
そんな支障がある状態であの怪物に挑むのは自殺行為だ。
実力は確かにG級にふさわしい。
しかし、それでも今の師匠では力不足だ。
無論俺などそれ以下だ。
「近くに他の村がある。このままじゃその村も襲われる、見殺しには出来ねぇ」
「だからってあんたが助ける必要はねぇだろ!アンタは万能でも神でもねぇんだ!なのになんでそこまで命を粗末にすんだよ!」
「仕方ねぇだろ、私は英雄だ」
師匠の口癖だ。
自身を英雄と呼び、闘志を奮い立たせる。
そして死地へ赴く自分が後退りしないよう、民たちの希望であり英雄である自分が希望として、英雄としてあるための呪いの言葉。
「アンタはもう英雄じゃねぇッ!」
「・・・・・」
「知ってんだぜ、アンタの体はとっくに限界だって、俺を死んだ息子の代わりとして拾ったって」
俺は師匠に拾われた。
独りだった俺を師匠は家族の様に愛してくれて、俺に生きる術を教えてくれた。
それが例え自身の後継とする為で、死んだ息子の代わりとして育てたのだとしても。
俺自身を愛していなくたって、俺にとって師匠は家族なんだ。
「俺を愛していなくたっていい、死んだ息子の代わりになれなくてごめん。出来損ないでごめん。師匠の期待に応えられる弟子じゃなくてごめん。でも、1度くらい俺の話を聞いてくれたっていいだろッ!」
まるで俺はすがるように師匠の両肩をつかみ、行かせまいと必死に止める。
まるで子が親に懇願する様に、駄々をこねるように、泣きながら必死に懇願する。
「頼むよ、母さん・・・・」
俺は結局師匠の息子の代わりにも、師匠の期待に応えることも出来なかった。
それでも、そんな俺でも長年師匠と一緒に生きてきたんだ。
ずっと師匠の言うことを聞いてきたつもりなんだ。
たった一度くらい、俺のわがままを聞いてくれたっていいだろ。
「はぁ、わかった。今回は大人しくお前の言うことを聞くよ」
「本当か!?」
「あぁ、だから手をいい加減手を離してくれ」
「あ、あぁ、わかった」
初めて、初めて師匠が俺の意見を聞いてくれた。
たとえこの先師匠に破門にされようとも、軽蔑されようとも、見捨てられても、今を師匠が生きてくれるなら俺は
───ギュッ
「・・・?し、師匠?」
突然肩を離した途端抱きしめられた俺は師匠の意図が読めず混乱する。
「随分でかくなったな。昔は私より小さかったくせによ」
「な、なんだよ急に・・・俺だっていつまでもガキじゃねぇんだ。体だって成長するだろ」
「あぁ、そうだな・・・・」
力強く、思いっきり抱きしめられながら、優しく頭を撫でられる。
初めてだ。
師匠がこうやって頭を撫でてくれるのも、抱きしめてくれるのも。
今までずっと厳しかった師匠の手が、モンスターを殺し続けたあの力強い師匠の手が、今まで感じたこともないくらい優しくて、暖かい。
「本当にデカくなったな」
「さっきから急に何を・・・・」
「───ごめんな」
───ドゴッ
「ごッ!?」
俺は突如感じた鳩尾への痛みで一瞬で意識が暗転した。
「お前にそんなこと言わせちまうなんて・・・・母親失格だな」
消えゆく意識の中聞こえた声は幻覚か、それとも俺の都合のいい聞き間違いか、それを考える余裕すらなかった。
「お前は英雄になんかなるんじゃねぇぞ、バカ息子」
俺の意識はそこで消えていた。
俺が目が覚めて師匠の元へ駆けつけた時、師匠は目の前でオストガロアに食われて死んだ。
▷▶▷▶
「師匠!」
「・・・・・どれくらい寝てた?」
「数秒にゃ」
目が覚めれば目の前にバルファルクの亡骸。
狩りで意識を飛ばすなんて何年ぶりだろうか、確か激昂ラージャンの二頭狩りでダブルラリアット食らった時以来だろうか。
懐かしいな、激昂ラージャンの縄張り争いに巻き込まれて奇跡的に激昂ラージャンが同時に俺に攻撃を仕掛けて結果的にダブルラリアット食らっていにしえの秘薬を咄嗟にタイヤキが飲ませてくれなかったら確実に首がふっとんでたな。
「なんか嫌な夢でも見てたかにゃ?」
「・・・・・さぁな。それより一旦キャンプに帰ろうぜ、疲れた。アザミもそれでいいか?」
「は、はい!」
「・・・・・英雄になんてなるな・・・・か」
「何か言ったかニャ?」
「別に」
そう言って俺たちは1度バルファルクの死体を放置してそのままキャンプに戻った。