G級ハンター、【妖艶】ユズハは美しい女だった。
長い黒髪と漆黒の瞳。
死人のように白い肌。
そして人を惑わすような甘い香りと怪しい雰囲気。
彼女の使う双剣は花びらのように舞い、美しくも残酷にモンスターを八つ裂きとする。
皆彼女の虜となる。
そんな彼女にはとある悩み、というより決意を抱いていた。
───ザリッ、ザリッ
彼女の愛刀である曙光輪爪【腥風】の刃を研ぎ続けていた。
砥石で刃を研ぐ度に「コロス··········ヤツザキニシテブッコロス··········」と呟いていた。
「なにあれ、怖いんだけど」
彼女を担当するギルドナイトの一人、ハボタンは腕を組みながらキメ顔をしているが、殺気立ったG級ハンターを目の前に内心ガクブルだった。
何故彼女がここまで殺気立っているかと言うと、それは数年前、とある上位ハンターがG級ハンターに昇進する為に開かれたG級会議で起こった。
その男はド変態で、G級達全員の前で何故か褌とレウスSヘルムだけで現れ、あろう事かG級ハンター最強であり我らの女神であるライラック様の麗しき御手に触れ、あろう事か純粋無垢であるライラックに向かって
─── すっごい好みです。もう可愛すぎて無理、交尾してください。あと結婚
「ふひッ、ふへッ、ふへへへへへッ」
「やっばァ」
突然笑い出すユズハにもう小便チビりそうなハボタン。
あろう事か、あろう事かライラック様に向かって交尾?交尾だと?
あんな成り上がりのカス風情が、数合わせのゴミが、英雄に憧れるだけの三下風情が、家畜の糞尿にも劣るクソが、あの現世に舞い降りた女神であるライラック様に向かって交尾だと?
「ぶっ殺す、ぶっ殺す、八つ裂きにしてぶち殺す」
「ふえぇ」
ガチ泣き数秒前のハボタン。
何より許せないのが
───けっこんならいいよ
「グギッ!ぐぎげげ☖ご✿✿ごご㍼▱おぉが◙◙Йべべッ!」(メキメキメキッ!バキッ!バキバキバキッ!グチャッ!)
「ヒイイィッ」
とうとう尻もちを着いて泣き出してしまうハボタン。
の、脳が!思い出すだけで脳が破壊されるッ!
あんな薄汚い交尾しか脳のない男なんかに!ライラック様は結婚なんてしないし、特定の誰かを好きになったりなんてしないッ!ライラック様は純粋無垢で汚れを知らない天使様なんだ!残酷で強くて、みんなの女神様なんだ!
ライラックが人間ごときの感情を持ってないし、トイレにも行かないし、やることなすこと全部めちゃくちゃなんだ!
あんな受付嬢に暴力沙汰を起こしたクズ野郎なんか好きになるわけないんだァッ!
「う、うぐッ!うぅぅ…………」
「泣きたいのは俺だよォ…………」
今度は突然泣き出すユズハに、さらに恐怖を抱きながら泣き出すハボタン。
この日をどれだけ待ったか。
今回のG級会議であの男が現れた瞬間、この曙光輪爪【腥風】で八つ裂きにしてぶっ殺してやる。
そう決意を固めるユズハ。
彼女は【狩人】ファンクラブであり、かつて【狩人】に助けられ、その強さに惚れ、崇拝する信者の一人であり、【狩人】ファンクラブ創設者でもある。
かつてライラックに助けられた彼女はライラックの隣で戦う為に努力と根性でモンスターを血祭りにあげ、かつてドンドルマを襲った歴戦個体であるテオ・テスカトルを一方的に八つ裂きにし、ナルガクルガの2つ名個体である【白疾風】ナルガクルガをぶち殺しG級ハンターとなった彼女はすぐにライラックの元に行き、かつて自分を助けてくれたことの感謝を伝えた。
その時帰ってきた答えが
───…………………………誰?
彼女は基本的に人の顔を覚えない。覚えられないのだ。
正確には人に興味を示さない。
その瞳に移る全てが虚無。
そこら辺に生えている雑草も、彼女と同じG級ハンターである自分も変わらないのだと、彼女は自分とは違う存在なのだと思い知らされた。
そんな彼女が、かつて受付嬢に暴力沙汰を起こし、何度も同じハンター同士で暴力事件を起こし、頭の中が性欲でできた薄汚い男にプロポーズされて、顔を朱くさせ、上がる口角を両手で隠しながらも笑みをこぼし
───えへっ、ぷろぽーずされちゃったぁ
などと嬉しそうにつぶやくなどありえない、ありえてはならないのだ。
その光景を見たユズハは脳がぶっ壊れ、そのまま気絶して丸々1週間寝込んだ。
「コロス…………コロシテヤルカラナァ…………」
血涙を流しながらそうつぶやくユズハ。
その男はG級会議にて【番犬】という2つ名を付与されたG級ハンター。
その【番犬】がG級会議に不参加だと知るまであと一日。
ハボタン「…………転職先探そ」