───あの日、私は"頂"を見た。
「さぁやってまいりました!ハンター格付け大会ッ!」
「司会は私!【気炎万丈】ハンターのヨツギと、我らがウツシ教官です!」
「うむ!愛弟子共々よろしくな!」
ここはドンドルマの闘技場。
そしてここでは数年に1度下位、上位、G級ハンターたちの格付け闘技大会が行われる。
その中で結果を残せれば下位は上位に昇格し、上位はG級ハンターに弟子入りの誘いを受ける事もある。
"例外"を除き結果を残せれば、下位から上位に上がれるチャンスであるこの大会は、特に下位ハンターには人気の大会である。
(退屈だな)
G級ハンターである【雷光】はつまらなそうに見ていた。
最近のハンターはどいつもこいつも弱い。
それどころか狩りをスポーツ感覚で行っている者も多く存在する。
近年救難信号や、サポートハンターと言う物が追加され、ハンターの死亡率は大幅に減り、命を賭けた狩りと言うものを知らないハンターは多い。
死人が減ったのは大変喜ばしいことであり、【雷光】も素直にその事には賞賛していたが、それ故に"命を賭けて"モンスターを狩る覚悟がある者はほぼ居ない。
故に、緊急時使い物になるハンターはどれ程いるだろうか。
危惧しているのだ。
本当に戦わなければならない時、戦えるハンターはどれ程いるのかと。
「さて、最初のハンターはなんと!昨日なったばかりの新人ハンターです!これは頑張ってもらいたいですね!」
「どんなハンターなのか楽しみだな!」
そう言ってもんが開かれ入ってきたのはまだ子供ではないかと思うほど小さな少女だった。
(・・・・・ッ!?)
どうせ英雄にでも憧れて歳を誤魔化して入ってきたハンターなのだろうと、多少の怒りと呆れの気持ちで入ってきた少女を見た直後、何かに食い荒らされるような、得体の知れない悪寒に襲われた。
驚きながら少女の方を凝視すれば、少女の紅い瞳がこちらを凝視していた。
思わず後ずさる【雷光】を見て、興味をなくしたのか、正面の門の方に視線を戻す。
(なんだったんだ・・・・?)
疑問と、身体中に残る冷や汗。
なんだったのかと不思議に思いながらも、消えていた好奇心が沸き立つ。
───ガシャアアアァァンッ!
次の瞬間、巨大な門が破壊された。
「アレはッ」
「ジンオウガ亜種」
G級ハンター専用に捕らえられていたG級個体であるジンオウガ亜種が突然門を破壊し現れた。
それを見た直後ヨツギは即座にモンスターの足止めの為に事前に持っていた落とし穴を設置後、笛で注意を引き、そこから閃光弾で視界を奪う。
一方ウツシ教官は近くに居るハンター達の避難を最優先としていた。
そしてそれを見ているG級ハンター達も即座に武器を取りジンオウガ亜種の討伐に動こうとした直後であった。
───カッ
何かを貫く様な音が聞こえた。
その直後、G級ハンターたちが目にしたのは、新人ハンターに渡される初期武器の一つである鉄刀により首を切断されたジンオウガ亜種。
そして脳天には何かで貫かれた跡があった。
(み、見えなかった・・・・ッ!)
闘技場と観客席に立っている8人のG級ハンター全員が、この新人ハンターの動きが全く目で捉えることが出来なかったのだ。
1人を除いて。
それは初代【剣神】であった。
全ての太刀の狩技を習得し、新たな太刀の抜刀術や【気刃兜割り】など、様々な太刀技を考案した太刀使い。
何よりも有名なのはその神がかった眼力にある。
全てのモンスターの動きを見切り、それに対応する技を新しく生み出すその姿は正に【剣神】であった。
そんな【剣神】が目で捉えたのは既に脳天を太刀で貫かれ、次に見たのは既にジンオウガ亜種の首が切断されており、太刀を納刀する瞬間だった。
(ありえねぇッ!)
ジンオウガ亜種の首の断面を見た直後の感想である。
鱗と甲殻を全て避け、肉の最も柔らかい部位に刃を通し、最も硬い首の骨の隙間を通してジンオウガ亜種の首を切断したのだ。
おそらく脳天を貫いた時にヒビの入った鉄刀で。
少し力を入れれば砕けてしまいそうなほど脆く、弱い鉄刀でG級個体であるジンオウガ亜種の首を、G級ハンターの目ですら捉えられない速度での抜刀で切断したのだ。
【剣神】の背筋にダラリと冷や汗が流れる。
まるで数十年かけて研鑽した技の数々が目の前のバケモノに否定されたような気分だった。
誰もが戦慄する。
目の前のバケモノはジンオウガ亜種の血飛沫で身体を血で汚しながら、笑っていたのだ。
口角を三日月のように釣り上げながら、目の前の死を楽しみ、喜び、笑っていた。
「"ふんすい"みたいね」
その声を聞いた直後、恐怖とは裏腹に、そのまだ儚げで、穢れを知らない純粋無垢な少女の様な声に心地良さすら感じた。
そして少女に対して自分達は心底安堵していたことに気づく。
この少女がハンターで良かった、と。
彼女はハンターである内は自分達に興味を示さない、どうでもいい存在なのだと確信した時、本当に安堵した。
連戦練磨の猛者達であり、数々の伝説を残した英雄達が、1人の年若い少女に恐怖し、安堵していた。
そしてこれは数々の【狩人】の伝説の1幕にすぎなかった。
▶▶▶▶▶▶
とある女性が全裸で牢屋に閉じ込められていた。
「私は思うんだ、アイツが人間であるなら私ができてもおかしくないはずだ。だが、私では【狩人】の真似事すら出来なかった」
彼女はハンターズギルドより【雷光】の二つ名を賜ったG級ハンター。
その由来は"速い"からであった。
「私は理解したんだ、"アレ"は人ではない、神だ」
(またなんか頭おかしいこと言ってるなこの人)
天高く両手を広げながら何かを語る【雷光】の姿に、ベテランのギルドナイトであるシルバーは【雷光】の話を聞き流していた。
基本G級ハンターは人の言葉を真似るだけのモンスターと変わりないと思っている。
こいつらに人の常識は通用しない。
こいつらを人類として扱っては行けない。
なぜなら、G級ハンターもモンスターもあまり変わりなく、違うところといば人間を食べないか食べるかの違いだけである。
「人の感情など理解できず、自分以外の生き物は皆有象無象の肉塊としか見ていない、殺すも生かすも自分の自由、まさに神だ!」
(あ、たんぽぽ)
シルバーは相変わらず聞き流す。
【雷光】の話を聞いていると脳が汚染される。
「そんな神が人に恋をするなど!」
(あ、始まった)
数年前、ちょうど【番狼】の弟子である【番犬】がG級ハンターに昇格してからだろうか、コイツの頭は元々頭がおかしかったが、それからよりおかしくなった。
どこがとは言うと
「めっちゃシコい!」
「お前付いてねぇだろぉがよぉ」
「心のチン〇が勃起しちゃう!」
「もう喋んな、頭が汚染される」
世間で言うカプ厨になっていた。
ことの初めは【番犬】のある一言。
『すっごい好みです。もう可愛すぎて無理、交尾してください。あと結婚』
───何言ってんだこいつ。
『だめ』
───当たり前だろ、何ショック受けてんだコイツ
そんな感じで馬鹿みたいなヤツが居たなとその記憶を忘れようとした直後
『けっこんならいいよ』
───ピキイィッ!!!
瞬間、【雷光】の股間に雷が落ちた。
あの人間の形に肉を詰めたバケモノが、まるで見た目通りの少女の様な反応に、背筋にゾクゾクと快楽が走り抜け、股間がめちゃくちゃ熱くなっていた。
心拍数が異常に早く、【狩人】の顔から目が離せない。
そして瞬時に脳内に作られたエピソード。
『へぇ、そっちから誘ってきたのに、恥ずかしいんだ』
『や、やめ・・・』
『だめ。かお、ちゃんとみせて』
『みるなぁッ』
『ほら、みせて』
『うぅ・・・』
『かお、まっかっか。かわいいね』
両手を恋人握りされ、【狩人】に押し倒されながら顔を赤くしている【番犬】の姿。
その姿を見て意地悪そうに、薄く笑う【狩人】
───じゅんッ
股が大洪水起こした。
「これが生命倫理の神秘かッ!?」
「何言ってんだこいつ」
それからと言うもの【雷光】はこの素晴らしさを世界に広めようと布教活動を始めた。
幸いな事に【雷光】には絵を描く才能があり、【狩人】と【番犬】のカップリングを【狩猟犬】と名付け同人誌を書き始めて2ヶ月で数百万本も売れた。
それから【狩人】の崇拝者達と聖戦を起こし、見事【妖艶】をボコした後も様々な【狩人】の崇拝者達から命を狙われるが、さすがG級ハンター。
その名に違わぬ実力でその全員を【狩人】の崇拝者から【狩猟犬】ガチ勢に洗脳して行った。
それからと言うものはハンターとしての仕事をしながら同人誌を描き、名を轟かせた。
そんな中、【雷光】にとある手紙が届いた。
それは【雷光】が【狩猟犬】にハマってから二日で見つけたとある同人誌の小説であり、【雷光】が同人誌を描こうと決めたキッカケにもなった作品、【ラブラブ天国】の作者から作品のイラストを依頼したいと言う内容の手紙であった。
それを見た直後の【雷光】は酷かった。
それはもう裸で踊り狂い叫び狂い有頂天の暴れ狂い。
嬉しさのあまり卒倒してしまったほどだ。
かくして人生をかけたイラストを描きあげ、お礼とともにとある誘いが来た。
───今度オフ会をしませんか?
あまりの緊張と喜びでゲロった。
しかし自分はG級ハンター。
仕事が年単位である仕事である為、そうそう時間が空くことはなく、今の今まで返事ができずにいた。
自分の職を呪い、一時期引退を決意もしていた。
それでも、自分は替えのきかない存在、そう簡単に職をやめることなどできるはずもなく、ゲロ吐きながら泣いて断りの手紙を送った。
それからどうにか時間を作ろうと、それはそれは努力した。
毎日モンスターを殺し続け、武器が砕ければ装備で、装備が砕ければ拳で、とにかく殺し続けた結果、G級会議の終わった1ヶ月後に休みを取れた。
その後再び【ラブラブ天国】の作者に手紙を送り、オフ会ができないか確認を撮ったあと
───ベルナ村なら大丈夫です。
との返事が来た。
また裸で踊り狂い、ギルドナイトレイに捕まった。
そして今に至るという訳である。
「お前の【狩猟犬】本見たがよ、俺は納得いかないんだ」
「なんだと貴様ァッ!?」
「そもそもお前これ本人達に許可とったのか?」
「とってるわけないだろ?」
「人権侵害と名誉毀損の罪状も追加だな」
「ふざけるなぁッ!」
シルバーは【雷光】の抗議をガン無視して鉄格子から見える外の景色を眺めながら思う。
(帰りたい)
そもそもこんな物は形式上やっているだけで、この変態ガイキチモンスターを明日には釈放しなければならない程ハンターズギルドは追い詰められている。
かつてドンドルマを襲った【巨戟龍】の被害で今使えるハンターはほとんど居ない。
優秀なハンターは皆新大陸に送り、現大陸にいるハンターは正直あまり期待できない。
上位ハンター100人分の仕事をG級ハンター1人が行っているのが今のハンターズギルドの現状だ。
明後日のこの地、ドンドルマで行われるG級会議で今後の現状をどうするかG級ハンター達で話し合わなければならない。
話し合った所でどうなるとも思えない。
「紅龍か・・・・」
「なんだ?私の情報が信じられないか?」
「いや、だが有り得るのか?かつてミラボレアスは【狩人】が既に討伐している。そのミラボレアスがこの世に2体いたと言うだけでも驚きだと言うのに、その亜種と思われる存在など・・・・・」
ミラボレアス、その単語が喉の奥で引っかかる。
思えば【番犬】はどうやってG級ハンターに昇格したのか。
様々な疑いと事件を起こしたあの【番犬】が、なぜ唐突にG級ハンターに昇格したのか、どんなモンスター、実績を見てG級ハンターにふさわしいとハンターズギルドが認めたのか。
書類上では【骸龍】オストガロアの撃退ということになっているが、それならなぜすぐにG級ハンターに昇格させなかったのか、【番犬】がオストガロアを撃退してからG級ハンターになるまでにかかった期間は2年。
その2年にG級ハンターとしての実力を認められるほどの"何か"をしたのだ。
私は何かを見落としている。
思えば【番犬】はなぜ唐突に弟子をとった?
これまで1度も弟子を取ることを拒否していたあの男が。
なぜあの男は師の仇に執着しない?
【番犬】は【番狼】に依存していた。
自身の命よりも大切な存在だったと副団長から聞いている。
そんな男が、今まで【骸龍】について調査する素振りや、復讐心を募させているという話は聞かない。
あの男の目的はなんだ?
あの男はG級ハンターに上がるまで危険人物として私達も警戒していた。
暴力事件、狩での付近の村や住民の被害、乱闘騒ぎ、そして受付嬢への暴行。
私がかつてあの男を見た時、あの男は彼岸の目をしていた。
ただの動く屍。
自分の意思などなく、ただ誰かの意志を植え付け、何かを成し遂げようとするために動く肉人形、そんなイメージだった。
その男が再び会った時、突然「交尾してくれませんか?」と言った時は本人かどうか疑い、医者に見てもらいに行った。
あの男に何があった?
「あぁ、クソッ!なぜ【番犬】はG級会議に欠席なんだ!」
「別に【番犬】いてもいなくても変わらんだろう、あいつは良くも悪くもハンターだからな」
「・・・・・あぁ、そうだな」
ふと、とある噂を思い出す。
酒場の席で、誰が言ったかも分からない、突拍子もない噂。
───昔ね、【番犬】は神にも噛み付いたの。
───くだらない約束の為に。
「・・・・今度聞いてみるか」
ラブホテルにでも誘えばベットの上で語ってくれるだろう。
そう思いながら再び【雷光】の描いた同人誌に目を向ける。