───俺は殺しすぎた。
英雄に憧れ、英雄に依存した俺は、英雄になるためにモンスターを殺し続けた。
小型モンスターも、大型モンスターも、古龍も、目に入ったモンスター全てを殺し続けた。
殺し続けるうちに、俺は思った。
俺は英雄だと。
人々に称えられるべき存在なのだと。
己の力に過信し、師匠の名を使い暴れ狂った。
───ただ、ただ誰でもよかった。
───誰でもいいから、褒めてほしかった。
お前はよくやった、お前のおかげで助かった、お前に救われたと、ただそう言って欲しかった。
───だけど俺は殺しすぎた。
モンスターを見境なく殺し続けるうちに、モンスター達の生態系はおかしくなり、凶暴なモンスターや、普通では生息するはずの無い生息域に現れるモンスター。
そしてその環境に合わせ、更なる進化を遂げ、今まで確認されることのなかったモンスターの亜種や希少種が生まれるようになった。
それにより、その年は歴代でもトップのハンターの死亡数と、村人や人々の死亡数を出した。
俺は、俺のせいで死ぬ人々が増えていると知りながら、知らないフリをして、ただモンスターを狩り続けた。
結果残ったのは、人とモンスターの区別もつかないほど混じり合い、転がる屍の山と血の海。
俺を英雄と呼ぶものは、誰もいなくなっていた。
そしてギルドナイトが現れた。
俺を殺す為に、俺が奪った平和を取り戻す為に。
───馬鹿だよ、アンタ。
俺はあの日、死ぬはずだった。
殺されるべきだった。
でも俺は、死ねなかった。
───お前にとっての幸せってなんだよ。
英雄になる事だ。
英雄になって、師匠を助けて、幸せにしてやることだ。
───··········死ぬまで言ってるんだな。
───だけどこれだけは言ってやる。今のお前は、英雄じゃない。
あの日、あの時、あの女がとても羨ましかった。
英雄のような姿をした彼女が、彼女の存在が、彼女の生き様が、美しくて、羨ましかった。
なぜ届かない、なぜ俺はなれない、なぜ俺ではダメなんだ。
師匠は言った、俺は英雄だって。
英雄なんだってッ!
「··········お前、生まれ変われ。生まれ変わって今度こそ英雄になれよ。それで、誰でもいいから笑顔にしてみな」
そう言って彼女は俺を見逃した。
英雄になれ?誰かを笑顔にする?今更、俺はもうとっくに、英雄になんてなれないのに。
「お前は、アイツの息子なんだろ?ダンテ」
△ ▽ △
あの日の言葉が木霊する。
諦めたはずの英雄に、俺はすがろうとしている。
───ギシャアアアアアァァァッッ!!!
「ヘイヘイヘイッ!オストガロアのちょっといいとこ見てみたあぁぁぁいッ!!」
俺は今オストガロアがやたらめったらに撃ちまくる龍属性ブレスを狩技の一つである絶対回避【臨戦】(連続使用の代償として常に両足首が粉砕骨折してる)を連続使用して避けまくっていた。
オストガロアの超圧縮された龍属性ブレスは当たれば脅威だが、ぶっちゃけそれだけだ。
横や後ろに回り込めば、後は両腕から出される貧弱な龍属性ブレスだけ気おつければなんてことはない、ただのデカイだけの的だ。
「その程度かよ、骨モドキぃッ!」
そう言って俺は大きく大剣を振りかぶる。目の前にあるオストガロアの左触手を切断しようと全力の一撃。
───たす………け……
俺は微かに聞こえた声に大剣を振り下ろすのを止め、再び絶対回避【臨戦】で距離を取る。
いや、ありえないと思いながら、オストガロアの体に纏う骨をよく見る。
そこには僅かだが、何かが動いている。
「…………よく考えるな」
───たすけて………たすけて………
───ころして、ころしてくれ………
───いたいいたい
───おかあさん、おとうさん、どこ………どこなの………?
そこにはまだ生きた人間があちらこちらにモンスターの骨とともにまとわりついていた。
───ガシャガシャガシャガシャッ!
骨のぶつかり合うような、そんな笑い声が聞こえる。
それはまるで、「お前たちはこれに弱いんだろ?」とでも言って嘲笑うかのように。
───誰でもいいから笑顔にしてみな。
───バカ息子。
ふたつの声が俺の頭で木霊している。
やめてくれ、俺に希望を見せるな。
それは諦めたものだ。
そして託したものだ。
英雄になるのは俺じゃない、俺じゃなくていい。
「…………アザミ」
あの日、俺は英雄の姿を見た。
小さな体躯で、脅威に立ち向かうあの姿。
憎しみではなく、憧れでもなく、自分の意思で立ち向かう姿。
民達から、ハンター達から称えられる姿。
あれこそ、俺の憧れた、俺がなりたかった英雄の姿だった。
「悪ぃな、俺じゃお前らを救えない」
───そうだ、それでいい。
再び武器を構える。
今度は容赦しない為に、今度こそ迷わない為に。
───英雄は憧れるだけでいい。
「すまん」
向かってくるオストガロアの触腕。
そこに絡みつく血だらけの小さな少女の姿。
いつかアザミに言った言葉。
死を覚悟した者に、生きたいと願う者を救う事は出来ない。
師匠の言葉だった。
だから誰かを助けたいなら、死への恐怖を持たなければならない。
俺には無理だぜ、師匠。
だって俺はあの日から、英雄を目指したあの日から
───本当は死にたかった。
俺はアザミに何も教えていない。
教えたのは全て師匠の教えだ。
俺はもうハンターですらない。
誰も救うことの出来ない、自分の私利私欲でモンスターを殺し続ける、ただのバケモノだ。
「たすけ··········」
小さな声だった。
骨のぶつかり合う音で、ほとんど聞き取れなかった。
少女は助けを求めていた。
ごめんな、俺は英雄じゃない。
だからお前を助けてやることはできない。
今楽にしてやるからな。
そう言って俺は大剣を振り下ろし、少女諸共オストガロアの触腕を叩き切った。
───ガシャアアァォンッ!!!
叩き切ったはずだった。
「ごふッ」
··········あ?
俺は骨の上を何度もバウンドし、何十mも先に吹き飛ばされた。
頭を怪我したのか、視界が赤い。
意識が朦朧としている。
俺の胸の中に何かある。
それは骨に絡みついていた少女。
俺が、助けたのか··········?
俺はそれを諦めたはずだ。
今更何をしたって、なれるはずないのに、未だすがっているのか··········?
「師匠ッ!」
───あぁ、そうか、俺は··········
「アサミ··········か」
「師匠、頭に骨が··········ッ」
「··········」
「今すぐ秘薬をッ!タイヤキさんももうすぐこちらに着きます!ここから離れて··········」
───俺はただ、アザミの誇れる師匠になりたくて··········。
───ギシャアアアアアァァァッッ!!!!
「··········ッ、オストガロア··········ッ!」
あぁ、お前はそうするのか··········。
「··········アザミ」
「師匠!今すぐ逃げてくださいッ!時間は私が稼ぎますッ!だから───」
俺はアザミの持つ断骨大剣を奪う。
「え?し、師匠?」
「少し早いんだが、お前のG級昇格祝いだ。それと、この女の子を頼む」
「何を言って··········」
「俺はお前に何も教えられなかった。お前に教えたのは、俺の師匠の教えだった··········そしてお前は見事にやり遂げた」
「な、何を言ってるんですか師匠!オストガロアが来ます!早く··········」
「お前なら必ず仇をうてる」
俺は片手に持つオストラコンを天高く投げた。
「··········ぇ」
俺はアザミに女の子を託し、そのまま後ろにぶん投げだ。
───ガランッ
骨が降ってくる。小さな骨も、大きな骨も。
ここには太古の生物達の巨大な骨が数多く眠っている。
そしてオストガロアが持ってきた骨も。
次第に音は大きくなり、1つの巨大な骨がアザミと俺を分断する巨大な壁となった。
「ししょ───」
こちらに手を伸ばし走るアザミ。
その手を阻むように、目の前にオストラコンが地面に突き刺さった。
「じゃぁな、アザミ」
巨大な骨と小さな骨が隙間のない壁となり、完全にアザミと俺を分断した。
そして次第に龍ノ墓場が崩壊を始めた。
あたりは暗くなり、辺り一面が青く光る。
「··········ごめんな」
他の人達は無理だ。
既にどの人間も致命傷を負っている。
俺が助けたとしても、恐らくたすかることはない。
だが、あの少女は違った。
手足に大きな傷があったが、どれも致命傷に至ることはない。
恐らく、今から秘薬を飲ませれば助かるかもしれないと思い、アザミに託した。
「··········師匠、見てたんですね」
『··········』
俺はおかしくなってしまったのか、目の前に師匠が見える。
たとえ幻覚でも、俺の妄想でも、また師匠の顔が見れたのは嬉しかった。
「俺、いっぱい殺しました。師匠が自慢できる、立派な英雄になる為に、いっぱい殺しました」
『··········』
「俺のせいで人も、モンスターも、たくさん死にました。大勢死にました!罪のない人が、ハンターが大勢死にましたよ!俺の邪魔をするギルドナイトも殺してやった!」
あぁ、師匠、一言言ってくれ。
お前はもう、弟子でも息子でもないと。
師匠の期待を裏切った俺を、拒絶してくれ。
「俺は英雄になれましたか!?母さんッ!」
『··········』
「何も、言ってくれないんですね」
当たり前だ。
これは俺の妄想か、幻覚か。
たとえ本物だとしても、師匠の期待を裏切り続けた俺に師匠が何も言うはずがない。
期待はずれだと呆れ、ことまも出ないのだろう。
俺は断骨大剣を持ち、オストガロアに向かう。
俺と師匠がすれ違った。
もう振り返ることはない。
何かを話しかけることもない。
ただ俺はモンスターを殺す。
それ以外、何も出来ないから───
───ドンッ
「え?」
誰かに、背中を押された気がした。
でもそれはきっと気のせいで───
『行ってこい!バカ息子!』
「───はいッ」
振り返らない。
振り返る必要はない。
いつか地獄で待ってるから。
───だから
───笑っていこうぜ!地獄まで!
もうすぐ一旦完結させる。