断骨大剣。
ボーンブレイドの最終強化武器。
この武器に使われてる素材はG級個体のモンスターから採取された"骨"とジャギィの皮のみ。
作ろうと思えば上位ハンターでも容易に作ることが可能な武器。
そもそもボーンブレイドは新米ハンターに与えられる基礎的な武器であり、G級が使う武器としては"不格好"だ。
古龍の力も、高難易度モンスターの素材も使わず、属性も無い、ただ切れ味が着いただけの骨の武器など、せいぜい力いっぱい振り回す程度が関の山。
だが、ダンテにはそれで十分だった。
「うらあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!」
───バキンッ!
───ギシャアアアアアァァッ!?
次々と叩き折られ、砕かれるオストガロアの堅牢な骨。
そもそもダンテは今まで古龍である【巨戟龍】ゴグマジオスから作られた大剣、【忘却のオストラコン】の力を充分に発揮することができず、ただの硬い延べ板だった大剣を振り回し、G級個体である古龍を討伐し続けた。
作戦も、相性も、立ち回りも関係ない。
ただ力でねじ伏せてきた。
だから、ただ硬いだけの切れ味の着いた骨があれば、ダンテには充分だった。
叫び、振り回し、砕き、断つ。
それを続け、G級モンスターを狩り続けた。
紛うことなき彼は、G級ハンターの実力に相応しかった。
英雄と呼ばれるにふさわしい力を持っていた。
だが、彼を英雄と呼ぶものは数少ない。
彼は道を踏み外した。
英雄とはなろうと思いなれるものではない。
英雄とは人々が勝手に付ける称号に過ぎないのだ。
だが彼はそれを欲し、己の力に溺れ、怒りと憧れを糧に暴れ狂った。
殺して、殺して、殺して、殺し続けた。
環境と生態系が破壊されるまで、された後も。
誰が英雄と呼んでくれるその日まで。
怨念と妄想に囚われ、暴れ狂う彼の姿は、人々から、モンスターからどう写っただろうか。
"ソレ"は英雄とは程遠い存在。
自分以外を殺し続けるバケモノとして写っただろう。
そしてこのモンスターも、古龍と呼ばれ、恐れられたこのモンスターですら、恐怖していた。
───あの顔だ··········
『「ハハハハッ!ハーッハハハァッ!!」』
───あの敵と同じ顔だ··········ッ
『「お前の骨を砕くのは気分がいいぜぇッ!」』
───あのバケモノと同じだッ!
恐怖する。
今まで絶対的な捕食者として、生物の頂点に君臨していたオストガロア。
天敵がいない世界。
せいぜいが手こずるだけの"餌"。
自分以外の生命を見下し、侮り続けたオストガロア。
強い敵には何度も遭遇した。
撃退されたこともあった。
だが、それでもアイツらは自分に恐怖を与えることはなかった。
絶対的な殺意、敵意がなかったからだ。
誰も彼もが、皆自分の姿を見て恐怖していたからだ。
恐怖しながらも戦っていた。
だが、この敵は、こいつら2人は、自分に一切の恐怖がない。
あるのはただの敵意と殺意。
必ず殺すと言う決意のみ。
その姿はまるで獲物を食らい続ける自分と同じ、絶対的捕食者の姿。
故に恐ろしい。
故に恐怖する。
───来るなァァァァァァァァッ!
───ギシャアアアアアァァァァァッッッ!!!
「··········」
ダンテは断骨大剣を振るい続けた。
だが、その大剣はまるで身体に纏う骨を剥がすように振るわれた。
そして次第に無くなる骨とともに、オストガロアの骨に纏われる人も落ちる。
殆どがそれでも出血や痛みにより息絶える。
助からない。
助けられない。
それでも、ダンテは助けようとした。
助けたかったからではない。
ただ、そうしたかったからだ。
助からない命と知りながら、それでも諦められなかった。
かつてダンテの師がそうしたように。
(あぁ、なんだろ··········これ)
気分がいい。
体が考えなくても勝手に動きたいように動いてくれる。
オストガロアの骨を砕く度に気分が高揚する。
まるで強走薬グレートDXでも摂取したような高揚感。
まるで今だけは英雄になれた気分だ。
「ハハハハッ!」
───俺は英雄だ。
「俺は英雄になったッ!」
───パキンッ
だがまるでそれを否定するように、まるでそうであることを否定するように、幾百の狩で消して砕けることのなかった断骨大剣がまるでガラスの様に砕け散る。
そして、それと同時にオストガロアの触手から圧縮された龍属性ブレスが放たれた。
「───」
無音。
骨の音も、装備の金具の音も、フィールドの音も、オストガロアの鳴き声も、自分自身の声ですら、何も聞こえぬ無音。
ダンテは悟った。
あぁ、自分はここで死ぬのだと。
防ぐことの出来ぬ龍属性ブレスにより、皮膚は焼け爛れ、身体に流れる血すら蒸発する。
そして追撃の触手による叩きつけにより、ダンテは地面へと叩きつけられる。
「かはッ」
自身の骨が砕け、肉が潰れ、内蔵が弾ける。
目眩、吐き気、激痛、意識の混濁。
自身の体が限界であることを悟り、命が風前の灯であることを理解する。
「キハッ」
それでも尚、ダンテは笑っていた。
地面に倒れ、自身の死を悟りながらも尚、笑っていた。
「オストガロア··········」
ダンテは立つ。
英雄が決して倒れぬよう、自分が英雄であることを示すために、立つ。
「てめぇが英雄に倒される様を、地獄の特捜席で見ててやるよ」
その直後、オストガロアの口から放たれる超圧縮された龍属性ブレス。
それと同時に放ったダンテの最後の一撃。
───ザクッ
半分に折れた断骨大剣がオストガロアの残った片目を貫いた。
「───」
それと同時にダンテの身体を龍属性ブレスが焼いた。
△ ▽ △
「師匠ッ!」
骨の壁を超え、背中に忘却のオストラコンを担ぎ現れるアザミ。
しかしアザミの目に映った光景はフィールドの真ん中に空いた巨大な穴と周りに転がる村人の屍の数々。
そして骨と血肉でまみれた屍の数々の中に転がるレウスXヘルム。
ありえない。
その結果はあってはならない。
───ガシャガシャガシャ
視力を失い、嘴を失い、それでも骨の擦れる不気味な音を出しながら嗤う怪物。
やっと殺した。
ようやく殺したと、安堵と嘲笑の混じった笑い声。
アザミの脳に映ったのは師匠であるダンテの修行の日々と、オストガロアに喰い荒らされた家族の光景。
ではなかった。
───死ぬときゃ死ぬ
「馬鹿な主人ニャ」
地面から現れるタイヤキ。
その表情はいつもと変わらない、後悔も怒りもない。
だが、その目は冷えきっていた。
「なれないって分かってるくせに、それでも追いかけ続けて··········最後に救ったのは救えない命だけ」
呆れたように、どこか悲しそうに呟く。
「本当に、救えない主人ニャ」
「それでも、私にとっては英雄でした」
「··········」
アザミの言葉にタイヤキはただ静かに遠くで転がっているレウスXヘルムを眺める。
「ウチも同じニャ」
アザミとタイヤキは武器を握り、オストガロアに向ける。
「"あっち"で再会したら、1発ぶん殴ってやるニャ」
「私は蹴り上げてやります」
「それがいいニャ」
「でも、その前に───」
「あの骨もどきをぶっ殺します」