それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生!   作:テキサス仮面

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Chapter2
プロローグ


 

 この濁った空が星の光を見せることは少ない。

 なぜならアイビスの火で焼かれたコーラルが、常に外からの光を遮ってしまうからだ。

 

 こんなよく冷え込むルビコンの夜には、熱々な火鍋が恋しくてたまらなくなるのが人間というものだろう。

 ルビコン進駐に巻き込まれた多くの大豊の同胞達も同じ気持ちを抱くようで、水だけで作れるインスタント火鍋は物資の中でも常に品薄。闇市で違法な取引までされていると言う噂まである。

 這い寄る孤独と寒さを退ける大豊製インスタント火鍋、その利便性のあまりコックピットに持ち込む奴が多いのは誰にでも想像がつくだろう。

 しかし残念なことに、アーキバス製のスタンバトンといった電気攻撃によって加熱剤が爆発する事が判明。

 今では最前線への配給制限がかかり、紙タバコの次ぐらいの希少価値を持ってしまった。

 

 まったく酷い話である。

 

 

<<戦闘配備につけ!>>

 

 

 ベイラムが制圧した「壁」は今日も騒がしい。

 

 ベリウス中部、ベイラム調査拠点「壁」。

 ベイラムのMT部隊が駐留する調査拠点で、慌ただしく持ち場に移動するMTを視界にとらえつつ、送られてきた情報に目を通す。

 襲撃者は……解放戦線か、ドーザーよりはやりやすい。

 統率が取れている相手と言うのは、行動に理由がちゃんとあるため先を読む事ができる。

 対してまともな思考も纏まりもないドーザーは、何をやるのか全くわからないのでいつもヒヤヒヤさせられる。(あいつら自身、何もわかっていないのでは?と俺は訝しんだ)

 

「大人しく帰ってくれれば楽なんだけどなぁ」

 

 樹大枝細を体現した堅牢なコアの中だというのに、直接炎に炙られているような感覚がゆっくりと肌を逆撫でする。

 ルビコニアンを相手にする時はいつもこうだ。

 この辺境の惑星に来て発覚した俺のコーラルアレルギーは日に日に主張を強め、骨の髄までコーラルがしみ込んだルビコン住人達をこうして感じ取れるようになってきたのだ。

 もちろん頭の中にコーラルを入れている旧型強化人間や中毒者共もわかるし、そのうち集中すれば判別もできるようになるかもしれない。全く誇れない特技だ。

 

「……クソッ」

 

 幻の痛みが脳を蝕み、思わず喉に込み上げる酸味が気分をさらに悪くさせる。薬が役に立った試しはない。医者も首を捻らせていたが、耐えていればそのうち何とかなるものだ。……いくぞ。

 俺は慎重に息を深く吸い込み、平常を装って無線のスイッチを入れた。

 

「チームを外れないよう常に連帯して行動するように。あと、インスタント火鍋は破棄してください。スタンバトン等、強制放電を目的とした攻撃を喰らうと爆発の危険性があります」

 

<<お言葉ですが、慎重も過ぎれば臆病では?>>

 

 マニュアルを読み上げるだけの俺に、MTパイロットが声を尖らせた。オールバニーさんかぁ、苦手なんだよねあの人。

 いくら言葉を取り繕っても、血の気の荒さは隠せない。明らかに俺に対しての不満が滲んでいるではないか。

 その気持ち、わかるよ。こんなやつに指揮されたら不安しかないよな。

 だが、警戒を緩める気はない。

 

「「ありえない」なんてことはありえない。俺は不本意に死なせたくないだけですよ、誰もね」

 

 スキャンを放ち敵影を捉えると、次々と視界に認識タグが表示される。すべてお馴染みのBAWS製MTのようだ。

 まぁ大豊製の頭部パーツの索敵範囲内ということは、目視で確認できる距離なのだけども。

 

 数は20を超えるそれなりの量だが、四脚MTの姿は見当たらない。後から出てくるのか否か、まぁ前者だろうな。

 あれ一機だけで部隊全体の損害が大きく変わるのだ。ドーザーの度胸試しじゃあるまいし、四脚MTを投入しない作戦など自殺行為でしかない。

 

「警戒を厳とせよ。抵抗する者は排除してください」

 

 俺はレッドガンとしてMTパイロット達に指示を出した。

 もちろん自信など無い。本当にこれでいいのだろうか? もっとボーダーラインを固めるべきでは? もっと俺が前線に出て敵を引き付ければいいのでは? 

 様々な選択肢が目の前に散らばり、一体何が最適解なのかまるで分らない。

 だが、やるしかないのだ。

 

<<侵略者共め! 我々の壁を返せ!>>

 

 解放前線の戦士が、広域放送を用いて叫んだ。侵略者、侵略者。一体何回聞いただろう。返す言葉も無い。

 

「鼠壁を忘る、壁鼠を忘れず。んで干戈の交わりは避けられず、か」

 

 俺は耐Gスーツのポケットから安い携帯シーシャを取り出して咥える。自動的に電源が入ると、口内にわずかな熱を持った煙が溢れ、甘ったるい合成甘味料のフレーバーが鼻を抜けた。

 ニコチンどころかその代用品すら入っていない菓子同然の品だが、俺にはちょうど良い。

 

「ここはベイラムが所有する施設です。直ちに離脱するか、武器を置いて投降してください」

 

 俺も広域放送にて一応忠告をするが、これを素直に実践したものは今まで誰1人としていない。

 

<<盗人たけだけしい! 我々は貴様らを許さない!>>

 

<<企業から壁を取り戻すぞ! 災禍の灰の中で生きてきた我々を甘く見るな!>>

 

<<灰かぶりて、我らあり!>>

 

 解放前線お決まりのセリフを合図に、殺意の雨が降り注いだ。

 

「結局、いつも通りか」

 

 ため息が煙を伴って狭いコックピットを満たしていく。

 後悔先に立たず、行動しない後悔よりした後悔、と何度も言い聞かせながら俺はブースターに火を着けた。

 今までよりも負荷がかかるが、その分早い。

 

<<ACが来るぞ!>>

 

<<臆するな! あれはレッドガンの末席、俺たちでもなんとかなるはずだ!>>

 

 厳密にいうと、末席はG13レイヴンなのだが。

 俺は両手に持った大豊核心工業集団の開発したマシンガン「常陳」を、MTに向け撃つ。

 解き放たれた2匹の猟犬のように銃弾の雨が襲い掛かり、次々と解放戦線の戦力が潰れていく。

 常陳は個人的に勝手は良いものの、弾数の多さゆえにリロード時間がかなり長いのが欠点だ。

 

<<ベイラムめ……貴様らの横暴も今日までだ!>>

 

 ただ黙ってやられるつもりはないと、解放戦線に動きがあった。

 勢いよく雪を蹴り、大きく跳躍。四脚MTが仲間の盾になるかのように、前線に躍り出たのだ。

 やはりいたか。これ無しで突貫してくるわけがないのだが、上手く接近されたものだ。

 四脚MTはショットガンを振ってこちらのMTを牽制し、背部のスナイパーキャノンをもって砲台を破壊していく。

 非常に手際が良い。今回の襲撃の主力とみなしてよいだろう。

 

「四脚の相手は俺がやります。各員、その他戦力の排除をお願いします」

 

 俺は月餅を駆り、敵主力の進路を阻む。

 四脚MTの獣のように力強く地面を駆る姿に、思わず操縦桿を握る手に力が入ってしまう。

 たかがMT、されどMT。ACの相手ではないと慢心すれば、簡単に足元を掬われるだろう。

 四脚MTは頑丈かつ跳躍力を兼ね備えているものの、通常推力は鈍重。ならばそこを狙うのが得策だろう。俺はACの機動力を生かし、四脚MTの比較的装甲の薄い背面へと入り込んだ。

 

<<その程度か!>>

 

 どうやら俺の動きは相手の想定内だったらしい。ぐるりと四脚MTの胴だけが回り、ブレードが月餅を薙ぐ。

 二脚の兵器とは異なる人型から外れた挙動に咄嗟の反応が遅れ、パルスによる一撃をもろにくらってしまった。

 

 まぁ、天槍の装甲を焼き切るにはもうちょっと回数が必要かな。

 姿勢制御装置(ACS)の負荷限界によるスタッガーも、その後の被弾が無ければどうしたことも無い。

 距離が近すぎる為、スナイパーキャノンは使えないし、ショットガンも冷却中。

 仲間の為に先行したのが不味かったな。

 俺はそのまま懐にマシンガンを叩きこみ、四脚MTは突然脚部を折った。

 

 直撃を減らす姿勢制御装置、通称ACSの負荷限界、スタッガーに陥ったのだ。俺はすかさず左手の武装をハンガーに装備したパルスブレードと持ち替え、斬撃を放つ。

 そして泣きを入れたらもう一発と、ボロボロの四脚MTを蹴り飛ばした。

 

<<た、助け……>>

 

 水気の混じった騒音を最後に、回線は静かになった。

 ブースターの熱が溶かした地面も、明日には元通り冷たい雪の下に埋まるだろう。

 雪に混じる、様々な赤色。錆に、炎に、血に、焼け爛れた空の光から目を逸らすな、と言いたげに主張する。

 

 いつまでもその赤に目を向けていたかった。だが、通信が俺を引き戻す。

 

<<G12銭塘! 戦況はどうだ?>>

 

 俺のコールサイン。すっかり馴染んだその名を胸の内で反芻する。

 

「いつもと、変わりませんよ」

 

 俺は短く答えると空を仰ぎ見る。

 凍土の夜は終わりを告げ、闇は解けていく。

 

 そうして再び俺の目に映るルビコンの空は、相変わらず焼け爛れていた。

 

 


 

 

「もしもーし、聞いてるかい? 訓練生く……銭塘君?」

 

 任務も無事に終了し、メカニックと新しいブースターの調子を談笑中だったのだが、楽しい時間はそう長く続かないものだ。今も通信端末越しに先生からクドクド忠告を垂れ流され、気分は最低値を絶賛更新中。誰か代わってくれ! 

 これでも俺は大豊ルビコン支部(細枝だが)の貴重なACパイロット。尚且つベイラムとの緩衝材でも有る俺を使い潰さないために、しょっちゅう医者の目が入る。

 ストレスならレイヴンと言葉を交わすだけで軽減できるのだが、ここのところ暫く返事が返ってこない。何かあったのだろうか? 心配だ……。

 まぁ壁という重要施設を得て機密保持のため監視が厳しくなった以上、今までのようなフリートークは望めそうに無いのだけれども。

 

「ルビコンに来てからずっと低血圧で体重も減少気味だし、そもそもちゃんと寝てるかい?」

 

「大丈夫ですって、食欲ありますし。ちゃんと寝てますよ」

 

「キミの事だから、食べた分吐いてるんでしよ? それにシュミレータぶっ続けで気絶は睡眠のうちに入らないからね!」

 

 甲高い声が俺の鼓膜を劈いた。

 なんと、通信機越しの音声だけで看破されてしまったではないか。この医者、人の心が読めるのか?はたまたレッドガンの施設をハッキングしているのか? そうでも無いと、単なるバイタルデータだけでそこまでわかるはずがない! 

 

「コーラル被曝も気にしてくれないと、担当であるボクも困るんだよね」

 

 と、言われましてもね。コーラルで燃えてその灰が空に大地に現地民に至るところに未だ存在している状態で、一体どうやって気をつければいいのやら。ベリウス地方北西ベイエリアが、謎の爆発ののち消失してから妙に体調が悪いし。

 先生の言葉が義務とはいえ善意であることを理解できても、苛立ちが障壁となって受け入れようとしない。

 俺は無意識に携帯シーシャを取り出していた。

 

「というかキミ! いつから喫煙始めたの!? そっちに行った大豊社員から聞いたんだけど!! ニコチンとかタールは論外だけど、電子タバコのリキッドの溶剤だって肺にダメージを与えるんだから

 

「あーミシガン総長が呼んでますので、また次回にお願いしますね」

 

 これ音声だけだったよな? やはり千里眼か何か持っているに違いない。こわいなーとづまりすとこ。

 シャッター閉めるように通信を終わらせ、携帯シーシャの甘味を舌の上に乗せる。積み重なった鉄と灰の入り混じる奇妙な味わい、レッドガンの施設なら大抵の場所で感じられるが、ここでは一際濃く感じる。

 格納庫は火気厳禁だが、喫煙を指摘する者は誰もいない。零れた煙は小さく渦を巻き、空に溶けていく。雑念と共に苛立ちを吐き出したかったが、喉の奥に引っかかったまま俺に重くのしかかる。

 

 ゆっくりと視線を下げると、樹大枝細を体現した重量級AC「天槍」もとい、俺の「月餅」が静かに次の出撃を待っていた。

 

 ACに初めて乗った時から、何処か変われたのだろうか? 

 オールマインドから戦闘技能検証プログラム「アリーナ」へ招待され、擬似的とはいえAC戦を重ねているものの、いまだにテスターAC輸送時と何ら変わらぬ新兵のままという漠然とした不安が離れる事がない。

 傭兵としての成長? 精々マウスピースを使えば歯を割らなくて済むと学習したことと、聞き慣れないMTパイロットのコールサインを多少覚えられるようになった事ぐらいか。

 下でMTをこねくり回しているのはチョールナヤだったか? その隣でルビコン産の兵器に罵声を浴びせているのは瀾滄で、男所帯のむさ苦しい絵面に花を添えているのは秩父のはず。……いや、利根か? 

 

 古いミリタリー映画に無人機の発展で「パイロットは全滅する」という台詞があったが、現実はそうならなかった。無人兵器の有勢な時代はあったものの、ACのコア理論により結局人の時代に戻ったという。おかげで辺境の惑星で肉体労働に励むことができている。一体働かなくてもAIが全部やってくれる時代はいつになったらくるのやら。

 

 ふと、月餅の肩に描かれた小動物の赤い瞳と視線が交わった。

 不快な気持ちが頭をもたげるので、エンブレムから目を逸らす。

 何だよ、吊られたうさぎって。

 

 缶のタブを開け、ほんのり甘い茶で憂鬱を飲み下す。大豊の文化圏で伝統的な赤い缶に入った漢方茶だ。

 味が想像できない? 渋みのない紅茶を想像してほしい。大体似たようなものだし、薬草で出来ているので体にいい。機会があったら飲んでみるといい。国家という形態で運営されていた頃から販売されているので、これを聞いているどこかの誰かも手に取れるかもしれないぞ。

 

 ……一体誰に向かって言っているのだろうか。

 

 気がつけば下での騒ぎは激しさを増し、遂には取っ組み合いまで発展したようだ。

 レッドガンにはよくある事だし、イグアス先輩としょっちゅうやり合う俺が止めに入ってもどの面って感じだし、ここは静観しよう。

 

 ぼんやりと茶をすすりながら観戦を続けていると、なんとも言えない感覚が俺に覆い被さってきた。いわゆるデジャブというやつだ。

 たしか最近あの場所で、彼らとは違う顔ぶれが血のつながった兄弟のように和気藹々としていたことを思い返した。

 彼らはもう戻ってこない。捕虜を取り戻しにきた解放戦線を叩くためナイルさんと共に出撃し、死んだ。

 

 ナイルさんが殉職して、もう二週間が経った。

 

 ただ長期任務に出ているだけで、今にもすれ違うのではないのかと現実逃避をしてしまう自分の弱さが嘆かわしい。

 

 元々彼はミシガン総長の補佐ポジションだったため目立つことはなかったものの、その間空白がもたらす負荷は俺の想像をはるかに上回っていた。

 その結果、こうして部下と意思疎通もまともに取れないど素人の俺が日々夜警に駆り出される始末。

 

 亡くなったのは、ナイルさんだけじゃない。ここでは、あいもかわらず死傷者が絶えないのだ。

 顔見知りを失う事には慣れず、欠けた空白を新たな補填人材で埋める日々に段々何かが擦り切れていっている。

 レッドガンの先輩達も、文句を言いつつ楽しんでいるように思えるが、その心情を測ることは俺にはできない。

 

 機密保持の為の通信監視も、本来なら失敗しないであろう作戦でベテランが死亡した事にショックを受けた上層部が情報漏洩を疑ったのが原因だ。

 ナイルさんだけでなく、優秀なMTパイロットを複数人数損失(テスターAC輸送の際、ともに負傷したレイヴンを救出した隊員も含まれている)したとなれば、上も黙っちゃいられないというわけだ。

 

 俺が解放戦線のパイロットを助けていなければ、彼は死なずに済んだのだろうか。

 捕虜奪還に参加したのは、かつてダムで戦ったナダムとケイト・マークソンという独立傭兵、および解放戦線のヘリ一機だけ。

 たったこれだけの戦力でまんまと捕虜を奪われた挙句、防衛部隊も全滅させられたのだ。

 しかし、ナイルさんの死を俺のせいだと責めるものは誰1人としていなかった。むしろ俺が罰を求めると、それはナイルさんへの対する侮辱になるとミシガン総長に殴られた。

 

 この形容しがたい喪失感も、吐き出される煙のように薄れ四散してしまうのだろうか。

 一瞬の甘味は、何も答えない。

 

「夜警お疲れ様でした、G12」

 

 わざとらしく足音を響かせながら声を掛けられ、俺は顔を上げた。

 胡散臭い笑みを浮かべ俺に近寄ってきたのは、先輩であるG3五花海さんだ。

 その風貌こそ典型的な大豊文化圏の文化の色が強いものの、実際のところかなり謎に包まれている。

 俺が知っているのは、かつてベイラム経済圏を蝕んだ詐欺師であることと、俺からエンブレム代をふんだくったことぐらいである。

 

「しかし、()()()ですか」

 

 五花海さんはにやにやと薄寒い表情で、何かを考えるように俺を見つめてくる。何か嫌な予感がするぞ。

 

「せっかくですし、紅龍のエンブレムに替えませんか? 今ならお安くしておきますよ」

 

「で、次は羊ですか? 干支じゃあるまいし」

 

 どうせまた法外な値段なんだろと俺は跳ねのけた。

 よくよく考えたら「吊るされたウサギ」のどこが縁結びに繋がるんだよ。いや、実際に効果あったけれども! 

 

「前回は説明不足な点があって申し訳ありませんでした。ですので今回はお詫びを兼ねてお買い得にしておきますよ?」

 

「要件は何ですか?」

 

 白々しい謝罪には一切取り合うつもりはない。早く本題に移ってくれ。

 

「おやおや、釣れませんねぇ。まあ手短にいきましょう。独立傭兵レイヴンの飼い主がアーレア海を越えた先にある中央氷原にコーラルが集積しているという情報をベイラムに売りましてね、その真偽を確かめるべくベイラムはレイヴンに先行調査を依頼しました」

 

 レイヴン。その名が彼の口から出た瞬間、わずかに心臓が跳ねた。

 

「それで?」

 

 高まる関心を気取られぬよう、素っ気なく続きを促す。

 けれど五花海さんは薄っぺらい笑みに鋭い眼光を乗せ、くつくつと笑う。嫌な人だなぁ。

 

「先の壁越えで上層部は独立傭兵レイヴンを有用と判断し、先行調査にG12を僚機として随伴させろとの命令を下しました。もちろん監視を兼ねてのことですがね」

 

「……俺を?」

 

「ええ、なんでも同盟企業から推薦の声が上がったとか何とかで」

 

 五花海さんはその手に持つ端末を操作すると、遅れて俺の端末が振動する。

 どうやら次の任務の詳細が送られてきたようだ。

 

「ベイラムだけでなく、大豊もあの独立傭兵を高く評価しています。どこかの誰かが、アレを過剰なまでに褒めちぎる報告を上げてますからねぇ」

 

「「アレ」じゃ無い。G13 レイヴンですよ」

 

 概要を聞いた以上もう十分だ。この人は言葉が多すぎて嫌になる。

 五花海さんに背を向けシーシャを口につけるが、舌を外の空気がなでるだけで肝心の煙は出ない。

 あーあ、すぐ無くなるんだよなぁ安いやつは。量で選ぶとダサいデザインしかないので論外だし。

 もう少しくらい吸えないものかと試してみるも、無常にLEDランプの点滅がリキッド切れを知らせる。

 そんな俺を見て五花海さんは狙っていたかのように再び声をかけてきた。

 

「そろそろカートリッチ式なんてどうです? 大容量モデルありますよ?」

 

 五花海さんがそう言い切るなり、突然慣れ親しんだ不快感が肌を焼いた。俺は思わずぎょっと身を震わせる。

 原因の発生源は五花海さんが取り出した新品の携帯シーシャ。

 リキッドの内容量が直視出来るタイプのようだが、中で揺れる液体はまるでルビコンの空のように赤く濁っている。

 

「五花海さん、その中身は??なんで赤いんですか、コーラルですよねそれ?ねぇ!?」

 

 俺が大豊の人間とわかって言ってるのか? 正気か? 

 何だよその笑み、騙されないからな。

 

 

 

 


 

 

 

 

 レイヴンと2人きりの任務。

 

 始めこそいまいち実感がなかったものの、時間の経過に伴いまるで氷が解けるように火が燃え広がるように高揚が心中を満たしていく。

 久々に日差しが差し込んだような、そんな気分。ようやくルビコンにまともな青空がやってきたのだ! 

 勢い余って待機時間にアリーナのFランク帯を突破。OSの調整は済ませた。

 ブーストキックとハンガーウェポンに続き、新たに搭載したのは「アサルトアーマー」。広範囲のパルス爆発という攻防どちらにも切れる切り札を積んだ月餅は、どこか誇らしげに見える。

 さぁ、レイヴンと2人だけの任務を頑張るのだ!と張り切って俺は出撃した。

 

 

 それなのに、どうして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<G12、仕事の時間だ>>

 

 

 

<<共に海越えと行こうじゃないか、戦友>>

 

 

 

<<様子のおかしい人です。早くいきましょうレイヴン>>

 

 

 

「愉快な遠足かよ……!」

 

 

 

 どうして、こうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「大豊の人間なら薬物には多少警戒しているとは思っていましたが、なぜこれを見てコーラルと分かったのでしょう?しかも、赤色?どこからどう見ても()()()()じゃあないですか」

 

「…あなたの懸念は的中していたようですね、ナイル」

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