それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生!   作:テキサス仮面

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1話 グリッド侵入①

 

<<で、そのレイヴンって傭兵とはどうなのさ?>>

 

「どう、とは?」

 

<<ヤリたいのかって話よ>>

 

「撃ち落としていいか?」

 

 冗談などではなく、俺は本気でマシンガンの引き金に手をかけていた。

 

 クソッ、調子狂うな。

 グリッド086に侵入するため長々とヘリに揺られていたが、パイロットがこうもデリカシーのない人間だとたまったものではない。

 

 連日の防衛戦で少なくない人数が消えていくせいで、遂に俺の同期の訓練生連中まで、人材の補充としてここで顔を合わせる羽目になった。その一人がこの男、涇河だ。

 涇河は大豊訓練生時代の同期で、宿舎も長らく同室だった。寝相の悪さも手癖の悪さもよく知ってる。殴り合いで解決しようものなら痛み分けになるし、かなりゲンナリする。

 久々にレイヴンと会えるというのに、こうもやる気が削がれてしまうとたまったものではない! 

 別にレイヴンと男女の関係を求めているわけでは無い。(求められれば即応じるが)もっとレイヴンのことをよく知りたい。友人になりたいとぼんやり思っているだけなのだ。

 それを第三者に茶化されるのは心底気分が悪い。俺は買ったばかりの携帯シーシャが空になりそうなくらい溜息を吐き続けていた。

 

<<お前だって男だろ? え?『ACパイロットになったらモテる!』って喚いてたじゃん?>>

 

 涇河は相も変わらずスピーカー越しに平然と詰ってくる。そういえばそんなことを口走っていたかもしれない。たった数か月前の自分自身の青さが、とてつもなく遠くの出来事のように感じられた。

 

「モテたところでルビコンじゃあ意味無いんだよ、忙し過ぎて」

 

<<上層部にモテモテってことだろ? この調子なら栄転も夢じゃないな>>

 

「いやだよ、勘弁してくれ」

 

<<お前の学ならホワイトカラー目指せるし、いいチャンスじゃん?>>

 

 何がチャンスだ、今更そんなことするつもりはない。そもそもなりたくないからMT乗りを選んだのだ。

 膨れ上がる苛立ちを煙で誤魔化そうと思いっきり吸い込んで、咽た。クソッ、カシスオレンジ味なんて二度と買わないからな。

 

「ここだ、早く降ろせ」

 

<<グリーン(了解)>>

 

 一刻も早くこの男から離れるため、苛立ちに任せるまま命令を出した。直後、大きな音が鳴り響き、ヘリから機体が切り離された。

 難なく足場に着地し、レイヴンの指定した合流地点に無事到着。

 

<<んじゃ、人生初のデートを楽しんでこい>>

 

「撃ち落とすぞ」

 

<<へいへい、馬に蹴られる前にお暇しますよ>>

 

 ヘリは複雑に重なった巨大建造物から離れ、あっという間にレーダから消えた。

 ようやく訪れた静寂を、一服しながら堪能する。

 月餅にもACの視界投影にも随分慣れたものだ。目の痛みは一向に治らないが、今はこうしてACの操作に意識を置きつつ片手を遊ばせることが出来る。(シーシャを吸うためにしか使わないが)

 しかし慣れというものからは、慢心と不注意が生まれる。気を引き締めなければ。

 

 グリッド086

 

 開発惑星お馴染みの建造物グリッド。コーラル採掘よりもはるかに長い歴史を持つ超大型施設の大半はドーザーというコーラルを服用する中毒者の巣穴と化していると聞く。正直、ここに来るのは気が進まなかった。

 

 少し昔話をしよう。

 昔々、大豊文化の源流となる国家が薬物により深刻な損害を受けたことがあった。他国の策略で薬漬けにされた国の内情は酷いものだったらしい。そんなことがあったもので、大豊の祖先国家は薬物規制を厳密に取り締まってきた。

 そして時が流れ、国家の役割を企業が担うようになってから、大豊経済圏で競合企業の手引きにより大規模な薬物流行が発生。歴史は繰り返さないが、韻を踏むとはまさにこのこと。

 これ以来大豊は薬物取り締まりに躍起になり、教育も手を抜かなかった。

 お陰で薬物や中毒者に対する忌避感及び嫌悪感がすっかり骨まで染み付いている。レイヴンが指定した場所でなければ、正直この任務は蹴っていただろう。

 

 出撃前に五花海さんが俺に見せたのは、ルビコンで密かに蔓延するコーラル薬物だった。

 俺に勧めたのはあくまでも冗談で、問題はこれがルビコンに進駐するベイラム内部に出回っていたという事実にある。

 カートリッジ式の携帯シーシャの中身を井戸から湧き出た薄いコーラルと差し替えるだけでお手軽に酔うことが出来る。燃焼させたコーラルは、直接服用するよりも「脳がパチパチ弾ける」感覚、もとい多幸感が得られるらしい。

 しかもコーラルを罰する規則を敷いている経済圏は存在しないので、完全合法だ。いや、「違法ではない」が正しいか。最悪だよもう。

 

 憂鬱な気分をぼんやりと携帯シーシャで誤魔化していると、程なくして俺が乗ってきたものよりも大きいヘリが上空を通過し、見覚えのある機体が俺の目の前に着地した。

 

「久しぶり、レイヴン」

 

<<ああ>>

 

 レイヴンは可愛らしい声で短く返事をする。レイヴン、レイヴンだ!もはや懐かしさすら感じる少女の声に、俺の顔は綻んでいた。元気?最近連絡無かったけど何かあった?と、長々と挨拶したい気持ちをグッと堪える。仕事だ仕事!

 

 今回のレイヴンの機体は、俺と初めて会った時と同様のテスターAC護衛の時の丸っこいフレームだ。改めて見ると犬に見えなくも無い。やっぱり可愛いなぁ。パイロットと合わせると、相乗効果でますます愛らしく見える。いいね、本当にいい。メーカーがドーザーということを除けば。

 

 しかし……なんだ? この強烈な違和感は。

 

 レイヴンのACのコックピットに当たる箇所に顔を向けるだけで、焼けるような幻痛が皮膚に爪を立てる。確かに彼女はコーラル技術を用いた旧型強化人間だが、ここまでコーラル反応は酷く無かったはず。何があったんだ? 頭からコーラルでも浴びたのか? 

 

 ふと、ある可能性が脳裏をよぎる。誰か生粋のルビコニアンでも相席させているなら……いや、ACのコックピットに2人も乗るわけがない。

 あまりに非現実すぎるので、すぐに思考の隅に追いやった。

 

「しばらく返事がなかったけど、何かありましたか? 大丈夫でしたか?」

 

<<コーラルに流されたが、大丈夫だったぞ>>

 

「それって大丈夫なのか……?」

 

<<エアに助けて? もらったし、問題はない>>

 

 何故に疑問系? エアって誰だよとツッコむ気になれず、ひとまずスルーすることにした。

 

「……それで先行調査なんですが、まずどうやって海を越えるつもりなんですか? 移動手段は?」

 

 アーレア海横断は封鎖機構の戦力が集中していることもあって、未だどの勢力も成し得ていない。

 大気圏から侵入を試みようとすれば集中砲火され、ドローンを飛ばすと観測不能海域に出くわし探索出来ずじまい。

 流石のベイラムも何かがあると察してはいたものの、リスクが大きすぎると手をこまねいてきた。

 

 そう、実際のところ「海越え」は「壁越え」に匹敵する重要任務なのである。

 

 先行調査を引き受けたということは、レイヴンには何らかの移動手段を有しているということなのだろう。

 海を越える方法に関して俺はまだ何も知らないが、船にしろヘリにしろ安全に抜けられるはずがない。それに到着した後もどうなることやら。

 長期任務を覚悟してある程度物資は積んだものの、先が見えない以上心ともない。

 レイヴンはルビコン開拓の歴史に埋もれた移動手段でも見つけたのだろうか? 

 

<<ここの上にあるたいりくゆそう? カーゴランチャーってのを使って、海の向こうに行くって>>

 

 レイヴンはいつもと変わらぬ淡々とした声で俺の問いに答えた。

 

「んんんんん」

 

 大陸、輸送。

 レイヴンから送られてきた資料によると、グリッド086上層部にある物資輸送用の施設に乗り込んで広大なアーレア海を越えると。

 うんうんなるほどね。

 

「なんでそうなるんですか」

 

 大陸間輸送用。その名前からしてグリッド建設用の資材や採掘プラントで得た資源の輸送に用いられるもので、どう考えたって人を乗せるものとは思えない。

 

<<出来ないのか?>>

 

 出来る出来ないの可能性を探す以前の話です。

 

「あのさぁ……この作戦立案したのは誰?」

 

<<エアだが?>>

 

 誰だよ。

 コーラルアレルギーによる不快感で苛立ちが収まらず、力が任せにコックピットを蹴り飛ばした。

 吐き気と頭痛がぐるぐる回って、レイヴンを直視することも難しい。

 

「ちょっとそのエアとかいう常識知らずを出してください。言いたいことがあります」

 

 怒鳴りたい衝動を何とか抑えたが、長くは持たないだろう。舌を撫でるシーシャの味がどんどん薄くなっていく。吸い過ぎだ! 

 

<<エア? どうする? 銭塘が話したいって言ってるが>>

 

 通信越しにレイヴンは何故か困惑しているようだった。

 エアというのはレイヴンのオペレーターか何かか? 物資輸送用の施設で人を移動させようなどと、馬鹿げた発想をする人物だ。まともな奴のはずがない。あるいは生身の体を持たないAIとかだったりしてな。だとすればモノを運ぶカーゴランチャーは最適解だと判断するかも。

 

「出れないと? 貴女を無謀な作戦に投げ込んでおいて、当の本人は何をしているんです?」

 

 レイヴンの機体を睨みつけた。

 別に彼女に対して怒ってるわけではないが、樹大枝細を体現した(DF-HD-08 TIAN-QIANG)視界では他に向けられる場所がないのだ。

 

<<機械に強いなら俺のコレ使えばいいだろ>>

 

 少し悶着があったようだが、程なくして聞き覚えのない女性の声がレイヴンの回線から響いてきた。

 

 

<<ハロー……ハロー? ……私はエア。ルビコニアンのエアです。貴方のことはレイヴンから聞いています>>

 

 

 ようやく問題の人物が応じたようだ。始めて通信機を使ったのか、何処となく自信なさげで音量調節がめちゃくちゃだ。

 しかもルビコニアンと来たか。この星の人間は皆コーラルで頭がイカレるのか? 

 待望の人物の登場に俺の苛立ちは治る気配もなく、自然と声に棘を含んでいた。

 

「自分は指示を出すだけだからって、人の命を数字でしか見てない事務職って嫌になりますね」

 

 口走った皮肉に、しまった! と後悔が胸を刺す。だが、これくらい言わせてくれ。

 

<<……確かに私はレイヴンの声を借りなければ、貴方と対話することすら叶わない非力な存在です。だからこそレイヴンと共に海を越える、その為にここにいます>>

 

「まさかAC内に? レイヴンと?」

 

 どうせ「心だけは」という意味だろう。

 ありえない。そう勝手に決めつけ、嫌味を込めわざとらしく訊ねる。

 そんな筈がないだろうと思い込んでいた。

 

<<ええ、そうですが何か?>>

 

 俺はエアの返答を耳にするなり、思わず携帯シーシャを手から落としていた。

 

「……………………」

 

 違和感があるべき場所に戻るようにストンと胸におさまった。

 コーラルの不可欠な星で育った生粋のルビコニアンが強化人間とコックピットに相席している。それならこの凄まじいアレルギー反応に納得がいく。空いた口は塞がらないが! 

 

「すいません、覚悟が決まってる方でしたか……」

 

<<……はい?>>

 

 あの狭いコックピットに二人乗りとは恐れ入った。

 自分も危険な目に遭うことを承知したうえでレイヴンと共に行動している人物をどう悪く言えるものか。

 先ほどまでの悪い先入観はすっかり反転してしまい、苛立ちと共に吹き飛んでしまった。ベイラム上層部にその爪の垢を煎じて顔にぶちまけてやりたい。

 そして入れ替わるように羞恥心と罪悪感が俺に覆い被さる。

 ああもう何やってるんだよ俺。不安で調子がわるいのか? 

 頭が冷えたことにより、苛立ちも鳴りを潜めた。多少冷静さが戻ってきたようだ。

 確かに大陸間の物資輸送用の設備なら、速度的に封鎖機構の目を潜り抜けられる……のか? そうかな……そうかも……。

 

<<問題が無いなら行くぞ銭塘、仕事の時間だ>>

 

「は、はい」

 

 何とも気の抜けた返事をしてしまったが、とにかく仕事だ仕事。集中しよう。グリッド086に侵入し、最終区画到達を目指す。ひとまずこれが今日の仕事だ。

 

<<道中は「RaD」と名乗る非常に好戦的なドーザーが住み着いているようです。危険を伴うでしょう。私もサポートします>>

 

 レイヴンはエアの指示を受けたのか、グリッドのカタパルトに向かう。

 この手のものは管理権限を持たないと使用できないはずなのでは? と浮かんだ疑問はすぐに解決された。

 

<<これよりグリッド086に侵入します。システムにバックドアを作成、垂直カタパルト、ロック解除……>>

 

 よくわからないけどサラッとすごいことしてないか? 

 レイヴンがカタパルトに押し上げられたのを見届け、俺もその後を続く。

 ACに乗ることはあまり好きではないが、カタパルトによる射出のロマンは人並みに感じている。

 

「G12 銭塘、行きます! ……なんてね」

 

 垂直カタパルトが勢いよく水平に機体を押し上げた。

 一瞬の浮遊感を味わいつつ、新たな足場に着地。10点満点中、9.8ってところかな。

 

<<マーカー情報を更新しました。ひとまず上層を目指しましょう>>

 

 コックピットに相席しながらでも、オペレーターの仕事をこなすエアに感銘を抱かずにはいられない。

 俺の方にもマーカーの緑のポイントが浮かんだのを確認し、機体を前進させた。

 

 すると早々に警戒アラートがコックピット内で叫び出す。

 視界を向ける前に反射的に後退し、白煙を伴う手荒い歓迎を避けた。

 

<<敵だな>>

 

 レイヴンは素早く敵影を捉え、ベイラム製ライフルで戦闘に応じた。

 

 見たことのない兵器がちょこまかと狭い足場を這い回る様子は、どこか砂糖菓子に群がる昆虫を彷彿とさせる。

 俺もミサイルを避けながら上空を奪い、マシンガンの雨を降らせた。

 異様に固い。普通のMTならとっくに爆散している筈だが、しばらく持ち堪えたではないか。おそらくこれがRaDの戦力か。

 

 RaD製のMTはBAWSのものより質が良い上に交戦情報が少ない。そういった点から脅威度が非常に高いため、戦闘ログを本社にフィードバックするだけで金になるだろう。

 まぁ今回の任務がどれほど時間がかかるかわからない以上、弾薬と機体と相談しながらだけど。

 

 しかし……悪く無い景色だなぁ。

 

 グリッドの隙間から漏れる光と砂煙で淡くぼやけた砂漠という光景は見応えがあるものの、MTに囲まれていては呑気に観光なんてしていられない。戦闘さえなければ本当にデートなんじゃないか? 

 

 そう呑気なことを思い始めた矢先、前方から再び強烈な違和感を浴びせられた。

 

 痛みは隣にいるレイヴン及びエアから発せられるものの方がはるかに強いものの、この覚えのある感覚の前では薄れてしまう。

 

 いつだ、いつ感じた? 

 頭の中で漠然とした確証はある。だが、受け入れたくないと理性が拒む。

 おそらくこの幻痛の強さからして、コーラル漬けのドーザーのものだろう。

 しかもかなりの中毒者。骨の髄どころではなく、その焼け爛れた脳を満たす髄液全てがコーラルに置き換わっているレベルの狂人だ。

 

<<なんだあ 見ねぇツラだな>>

 

 気怠げな男の声と共に、頭上からACが落ちてきた。

 黄色い機体に、異形と呼べる左手のシルエット。

 

 それをトリガーに、何か俺の中で弾ける。

 

 アレとは違うと頭では理解したというのに、最悪の記憶が現実を押しやり理性を焼いた。

 

「ブルートゥ……!?」

 

 

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