それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生! 作:テキサス仮面
穴があったら入りたい。
俺は先程迄の醜態を思い返し、舌を噛んで悶えていた。
ドーザーに招かれるように侵入したグリッド内は非常に狭く複雑なうえ、いたるところでMTが客人達を出迎える。そりゃもうすごい花火さ。まるで祝い事のような派手さで、思わず
まぁ特に印象深い思い出は無いし、ドーザー相手に錯乱したという事実の前では押し流されてしまうが。
せめてドーザーどもを派手に吹っ飛ばして、魔除けと幸運を願おう。
<<もう大丈夫か?>>
「…………はい」
レイヴンが心配してくれているのが声色から伝わってくる。それがより一層俺の羞恥心を刺激し、声を絞り出すのもやっとだ。
よくよく思い返せばあのドーザー、アリーナに居たやつじゃん! 直前にやり合ったじゃん!
仮想空間では機体の動作は再現できても、コーラル漬けパイロットは対象外だったらしい。ますます恥ずかしくなってきた。
このまま舌を噛み切りたい衝動に駆られる。
誰か殺してくれ!
<<銭塘!>>
レイヴンの呼びかけがなければ、そのまま頭上から落ちてきた球体が直撃していただろう。
「脅かすなよもう!」
俺の叫び声に応じるようにその球体だったものは重火器を展開する。トイボックスかよ、こんちくしょう!
いちいちまともに相手する必要なんてない。俺は機体を上昇させ、細い通路を道なりに進む。駆除に躍起になった家主を避け、出口を探す鼠の気分だ。良いところがどこにもない。
吸い寄せられるように携帯シーシャを手に取り、甘いフレーバーで憂鬱を誤魔化す。
あぁ、桃味を買い込んでおけばよかったなぁ。電撃を主とする変わったMTを片付けながら俺は後悔を煙に乗せて吐き出した。
「早く終わらせて帰りましょう! ……あれ?」
強引に気合を入れ直した時になって、ようやく周囲の違和感に気がついた。なんとレイヴンの姿が見えないのだ。
<<銭塘! 聞こえないのか?>>
「えっ、どこに居るんですか?」
<<お前が居なくなったんだろ>>
わぁ、逸れた。こんな歳になってまで迷子になるとは…本当に恥ずかしい。レイヴンに迷惑をかけてばかりではないか!
自害したいのは山々だがこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないと来た道を戻るも、狭い隙間を通り抜ければミサイルカーニバルに垂れ流される溶岩、助けを求める借金取りの断末魔。
「なんだよここは一体!」
形容するなら、まさしくダンジョン。
入り組んだ道の先には明らかに罠としか見えない物資コンテナまでご丁寧に用意されており、RaDの遊び心が伝わってくるではないか。
まじめにやれ!
クソッ。皮膚を焼く幻痛によって嫌でもドーザーに囲まれていることがわかってしまう。俺たちはお尋ね者ってか?
何となくわかってきたが、ドーザーは解放戦線や強化人間より感じる不快感が強い。そのおかげでストレスが爆発しそうだ。(さっきしたばかりだというのに!)
この際プライドは抜きだ。一刻も早くレイヴンと合流しなければ俺が持たないので、縋るような思いでエアに助けを請うと、「はぁ」と彼女のあきれ返った溜息が返ってきたのだった。
<<大丈夫か?>>
エアによる誘導によって無事にレイヴンと合流することができたものの、彼女の機体は損傷が激しく真っ黒だ。
レイヴン曰く、複数の四脚MTに出会したらしい。しかも付近の可燃タンクの爆発に巻き込まれるという不運が重なったようだ。一体どこに行っていたのだろうか? いや、逸れたのは俺か。
これだけの高性能MTを大量に用いた上で四脚まで? 凶暴な武装集団とは聞いていたが、あまりにも戦力が多すぎる。
大豊やベイラムにちょっかいをかけてきていたドーザー達とは天と地の差があるし、下手すれば解放戦線の連中より驚異的ではないか。
先が見えないというのに、2人とも損耗が激しい。もう少し慎重に進まねば、と頬を伝う冷や汗を拭いながら俺は気を引き締めた。
<<どいつもこいつも不甲斐ないね。ビジターの歓迎もままならないのかい? いっそなことあんたら2人を雇って、目障りなコヨーテどもを啼かせたほうがよっぽど面白そうじゃないか>>
グリッド内に賞賛とも皮肉とも取れない女の声が響く。
お断りだね、誰がドーザー何かに雇われてやるものか! と俺はコックピットで中指を立てた。
ACの指先にパターン外の動きをさせられないのが残念で仕方がない。
少し進むと、やけに開けた場所に出た。奥にはRaDのエンブレムが描かれた巨大な隔壁らしきものが見え、その前方にはMTが複数。しかも四脚まで居るときた。
この奥がRaDの重要防御区画ないしは、俺たちが目的とする上層区画に繋がる場所だろうか。
あからさま過ぎる、と直感が叫ぶ。
隔壁を守る戦力は確かに多いが、正直なところ意外性に欠けると思えないだろうか? 俺がドーザーの立場なら、ここまで到達した意気の良い客人方のために心をこめたおもてなしをするだろう。
注意深く周囲を見渡すと、ちょうど敵MTの頭上にぶら下がる燃料タンクのようなものに目が留まる。
俺のマシンガンの射程では届かないので、レイヴンに狙撃を頼む。
結果は想像通りだ。衝撃で落下した可燃物質は盛大な花火となってMTを巻き込んでいく。
ドーザーの薄っぺらい賞賛を聞き流し、生き残った手負の四脚MTをレイヴンとともに袋叩きにした。いくら頑丈な盾を構えたところで、二方向からの攻撃を同時に防ぐことはできやしない。ジャガーノートを相手にした俺たちには復習のようなものだった。
<<降参するよ、これ以上は割に合わないからね。通してやるよ、行きな>>
そうドーザーの女が口にすると、ゆっくりと巨大な隔壁が開いていく。まるで奥にある何かを見てほしいと言わんばかりに、だ。
「あのカーラとかいうドーザー、何かおかしくないですか?」
<<何のことだ?>>
「いきなり住処を荒らし回ったACに目的を問うこともなく、まるで値踏みするかのように「歓迎」して、一体何のメリットがあるんですかね」
<<そのような無意味な行動に快楽を見出している狂人、という線もあるのでは?>>とエアがやたら冷たく言い放つ。この人ドーザー嫌いなのかな?
確かにドーザーがいかれている可能性を否定できない。むしろそうであってほしい。
<<あのカーラというやつが、オレたちの目的を知っているって言いたいのか?>>
「なーんか怪しすぎますね。この先が罠である事は確定としても、まだ何か裏がありそうな予感がする。気をつけましょう」
ドーザーの気配こそ感じないが、嫌な予感だけは当たる自信がある。
先に何があるか全くわからない状態だが、俺はかけなしの補給シェルパをこのタイミングで使用すること選んだ。
レイヴンも同じ選択をしたようで、損傷が激しかった機体も殆ど元通り。
<<いくぞG12銭塘、仕事の時間だ>>
「了解!」
どんな劇を望んでいるのか知らないが、せいぜい踊ってやろうじゃないか。
俺とレイヴンはモニター越しに視線を交わし、慎重に奥へと足を踏み入れた。
<<アンタたち、なかなか悪く無いね。嫌いじゃないよ>>
何かが薄暗い部屋の中で物影が動く。
俺にはそれが一体何なのか、理解ができなかった。いや、脳が理解を拒絶したと言うのが正しいだろう。
<<でも、さよならだ>>
女の言葉に呼応するように、巨大な物体が俺たちに向け巨大なアームを振り下ろした。
<<なんだこれ>>
改めて近くでそれを見たレイヴンは困惑したような声を漏らす。
<<解体作業を行う無人重機のようですが、性能は侮れません。粉砕アームに巻き込まれたら終わりです……気を付けて>>
エアが冷静に観察情報を伝える横で、イカれたオモチャが火を噴きながら踊り始めたではないか。
「あんなものを動かして誰が喜ぶか、この変態どもめ!!」
俺の叫びは無常に回転する粉砕機の音にかき消された。
落ち着け俺。まずは冷静に観察をしよう。
おそらく火を噴いているところが溶鉱炉で? アームで粉砕して放り込むのか?
ふざけて……、いやかえって合理的……? いやでも……えぇ……?
<<銭塘、目の前の敵に集中しろ>>
「り、了解!」
レイヴンの声で我に帰り、雨のように降りかかる融解した金属を紙一重で回避した。
外気温の異常を伝えるアラームがけたたましく叫ぶ。コックピットまで熱くなってきたぞ!
……一体どうしたものか。俺は回避行動をとりつつ思考を再開させたが、鈍い頭では突破案は見つかりそうもない。
腹に熱した金属を抱えられる溶鉱炉に外部からダメージが通るか?
愚公山を移すというが、蟷螂の斧という言葉もある。正面から無策に挑むべきではないだろう。
パルスブレードで粉砕アームの関節を狙うとか……とぐちゃぐちゃの思考でなんとか解決策を捻り出そうと唸っている横で、レイヴンは正面の開口部にライフルを叩きこんでいた。
ああもう! 思考が桎梏になっているぞ。兵は神速を尊ぶ、考えるにしてもまず動け。樹大枝細、樹大枝細!
レイヴンを見習い、俺は自動粉砕機の上方に飛ぶ。狙いは溶鉱炉の上層に大きく開いた投入口だ。
外側は何度撃ち込んでも跳弾してしまうし、ACS(姿勢制御装置)によって直撃は回避され微量なダメージしか入らないだろう。
だが逆に言えば、ACSは弱点でもある。
負荷を重ね機能不全に陥らせれば足を止められれば、パルスブレードの斬撃で内側から焼くことも容易になるだろう。
俺はマシンガンの雨を大きく開いた投入口に向かって落とす。ACがまるまる飲み込める大きさだ。そこにはぐつぐつと煮えたぎる炎と真っ赤に燃えた鉄屑が煌々と薄暗い屋内を照らす。思わず自分がそこに落ちてしまう姿を幻視してしまい、身震いが止まらない。クソッ、考えるな!
レイヴンは掃除をするかのように粉砕アームによる薙ぎ払いを軽々と避け、的確に開口部にダメージを当てていく。
そして内側への攻撃が効いたのか、カクンと無人兵器は項垂れる。スタッガーだ!
<<効いています。攻撃を止めないでください>>
エアの声を合図に、俺はブレードを展開。装甲がいくら堅くとも、パルスの斬撃は内装に届くはずだ。そう思いたい。
<<やるねえ、聞いていた以上だ>>
女の褒めるような声色に早期決着を期待してしまうが、無残にも次の一言によって打ち砕かれる。
<<だが、クリーナーが笑えるのはこれからさ>>
クリーナーは粉砕機を上げ、熱せられた内容物をまき散らし始めた。それに加え、下の開口部から何かを吐き出し始めたではないか。
吐き出された溶解した金属が赤く地面を埋め尽くしていく。さながら地獄のような光景に、俺は思わず顔を顰めた。
足場は次々に呑み込まれ、ステップを踏むように回避を取るのが難しくなっていく。
これって余計汚しているが、クリーナーという名前はどうなんだ?という雑念は隅に置こう。長期戦はまずいと直感が警鐘を鳴らす中、俺はABでクリーナーとの距離を詰めた。
「速戦即決でいきますよ!」
<<どういう意味だ?>>
「速攻で叩き潰すってことですよ。俺が注意を引きますんで、レイヴンはできるだけ早くぶちのめしてやってください」
<<わかった>>
相手の動きが変わろうが、弱点の位置が移動したわけではない。
「イカれ溶鉱炉! こっちにこいよ!」
本体を蹴り飛ばして強引にクリーナーの注意を引く。投入口からゴミが噴き出す頻度も上がっているが、出来るだけ破砕機の軌道上を動き回る。俺を追い掛け回す間は、開けっ放しになっている下の開口部はほぼ無防備だ。その間レイヴンは、融けた地面を器用に避けながら開口部に向かって弾を撃つ。
そしてクリーナーが再びごみをまき散らそうと両方の破砕アームを上げた瞬間、俺はレイヴンの隣に着地し彼女と同時に下の開口部へと攻撃を叩きこんだ。
積み重なったACS負荷が弾け、クリーナは動きを止める。これでラストだ。
「クリーナーが、汚すんじゃないよ!」
閉所ばかりであまり役立てていなかった俺の肩のミサイルが、真っすぐ開口部に飛び込み大爆発を起こした。
<<スマートクリーナーの撃破を確認。やりましたね>>
ついにスマートクリーナーのその巨体は完全に停止した。
どっと疲れが押し寄せてくるが、まだここは敵地。気を抜くわけにはいかないと気を張っていたが、しばらくもしないうちに広域放送から降参を告げられた。
<<……ビジター 私たちは不幸な出会いだった。あんたたちとは仲良くした方が賢明みたいだね。上層に行くんだろう? 案内しようじゃないか、この「灰かぶり」のカーラがね>>
灰かぶり。聞き覚えのある言葉だ。
解放前線の戦闘員がよく口にしている文句だったと思うが、ルビコニアンという意味なのだろうか。まぁ、さして関心はない。芝居かかったドーザーの言葉にいちいち気にする必要なんてないからな。
「で、カーゴランチャーは何処にあるんですか?」
<<そう焦るんじゃないよ。準備も必要だし、誰かさんが暴れ回った後を片付けてから、案内してやるよ>>
汚したのはスマートクリーナーだろと突っ込みたくなるのをぐっとこらえる。
「具体的には?」
<<まぁ、二日くらいかね。その間泊まっていくかい? >>
「戻ります」
やってられるか!
ただえさえコーラルアレルギーで痛みと息苦しさと吐き気でのたうち回りたい状態だっていうのに、こんなところで数日も待てるわけないだろいい加減にしろ! と吐き出したいのを何とかこらえた。理性を忘れるな、相手の気が変わって移動手段を破壊されたら無駄足になる。
<<大豊に戻るのか?>>
「えぇ。ドーザーに囲まれるなんてごめんですよ」
<<じゃあ、オレもそっちに行く>>
え?
え?
「今、なんといいましたか」
<<だから、オレもお前と一緒に大豊に行くって>>
レイヴンのその一言で、俺の理性は行方不明となった。