それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生!   作:テキサス仮面

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Chapter2最終回です。短編集みたいな感じです。


6話「先行調査」

 中央氷原に点在する旧時代の拠点、俺たちはそこを仮のねぐらとしていた。

 惑星封鎖機構が大災害後に建造したと思われる年代物の施設だが、多少の手入れでだけで拠点として利用可能だった。

 ただ封鎖機構に察知されては困るので、電力使用はガレージ等ごく一部だけに限られる。暖房はジェネレーターから溢れる排熱のみ。寒さを誤魔化すことは出来るが、十分とはとても言えない。

 

 こんな時こそ我が大豊核心工業集団が誇る、インスタント火鍋の出番だ。

 

 

なんであるんだよ! 誰が入れた!? 俺電撃喰らってたよ!? あっっっぶなっ!! 

 

 

 ………………樹大枝細、樹大枝細。過ぎた危機には囚われず前向きに行こう。うん! 

 ついにレイヴンと食事ができると、ウッキウキで食事の準備をしたのだが、

 

「オレは食えねぇぞ」

 

 ときっぱり言われてしまい、俺はショックのあまり言葉を失った。

 なんでもレイヴンにとって食事とは、栄養補給目的の点滴のことを意味するらしい。

 そもそも消化器官は軒並み死んでおり、固形物や刺激物は入れられないと彼女は語った。

 

「声もこれがなきゃ出ない」

 

 とレイヴンは首輪を指す。それは人工喉頭というものらしく、失われた声帯機能を代用する装置だと彼女は言った。

 この可愛らしい声は彼女本来のものではない。食事も口から取ることはできず、睡眠も脳内に埋め込まれた脳深部コーラル管理デバイスを用いた機械制御。

 

 レイヴンは人らしい生活を送ることすら、ままならない。

 

 この事実に俺は、ガツンと頭を殴打された。

 俺はレイヴンと親しいと思っていたが、単に俺が一方的に言葉を投げつけるだけで何も知ろうとしなかったという現実を突きつけられ、恥ずかしさの余り悶え死にそうだ。

 

「でも嗅覚と味覚は僅かだが機能している。味見ならできるぞ」

 

 そう言ったレイヴンは、俺の持つ強化プラスチック容器に入った火鍋を受け取るなり直接舌をつけた。

 

「なんだこれ」

 

 レイヴンは眉を顰めると、近くにあったボトルの水を口に含んだ。それ俺の水。

 

「火傷しますよ! 冷ましますから、直接はやめてください!」

 

「味分からねえし、鼻もバカになる。オレには無理だ」

 

 レイヴンは舌を出して痛そうに唸る。可愛いなぁ。

 

「まぁ火鍋ですからね」

 

「火鍋ってなんだ?」

 

「火鍋です」

 

 ところでもしかして、これって間接キス……? 

 

「お、それが噂の大豊レーションか。私も味を見ていいか?」

 

 ぬっとレイヴンの背後からアーキバス強化人間部隊のロゴが入ったジャンパーを着た好青年が身を乗り出した。

 距離近いんだよ、お前。レイヴンはうちの同盟企業であるベイラムが雇っているんだ、何様だよお前。

 

「いいぞ」

 

 レイヴンは興味津々に覗き込んでいたラスティに火鍋を渡した。

 それ俺の火鍋。

 

「ん、これは……」

 

 付属の使い捨てスプーンで軽くスープを口に含んだラスティは、しばらく舌を転がして黙り込む。イケメンは何をやっても絵になるなコンチクショウ。

 

「なかなかイケるな」

 

 えっマジ? 

 五花海さん以外レッドガンのメンバーは口をつけようともしないが、まさかルビコニアンはこれの良さがわかるのか? 

 いいや、落ち着け俺。どうせお世辞に過ぎない。競合企業らしく俺たちの気を引いて情報を集めようとしているだけさ。

 

「これにルビコン産のミールワームを加えるのもよさそうだ」

 

 こいつ話がわかるな。

 

「思います? 思います? マジで火鍋にルビコンミールワーム合いますよ。俺食べましたもん」

 

「大豊はいつもこんな美味いものを食べられるのか。羨ましいな」

 

「これもいいですけどあくまでインスタントです。食堂ならもっといいもの出ますよ」

 

「その話、詳しく聞こう」

 

「これの何がいいんだ? 舌が痛え」

 

 


 

 

 正直休んでいたい気持ちもあるのだが、競合企業の人間に借りを作ったままでは不味い。

 危機感と妙な感覚に背中を押され、俺もレイヴンと共に先行調査を行う事にした。

 

 結果はそれなりといったところで、順調に周囲の地形や遺棄された旧時代の拠点のマッピングが進んでいく。

 封鎖機構の施設や防衛ライン警備体制を調べ、本社にフィードバック。これには俺の体のコーラルに対する過剰反応も大いに役立った。

 

 氷原自体はベリウス地方の時とさほど変わらないのだが、ただある方角から強烈なコーラル特有の不快感を強く感じる。

 今までにない感覚で、氷原到着後しばらく俺はこの感覚に振り回されていた。

 

 言葉で表すなら、全身が磁石で引っ張られるような、波に押し流されるような感覚。自分の意思ではない何かに吸い寄せられる不快感が、吐き気やめまいといった体調不良を伴って俺をもみくちゃにする。

 

 幸いにもこういった不調はレイヴン……というか、エアと同行しているときは軽減されることに気が付いたので悪化は防げている。

 エアのコーラル密度も凄まじくて気を抜くとすぐに吐くレベルなのだけど、この中央氷原で感じられる不快感は比較にならない。

 

 その方面を慎重に調べると、採掘場に燃料基地そして宇宙港といった重要施設が幾つも確認できた。

 もちろん封鎖機構の戦力もすさまじく、遠目で観測することすら危険と隣り合わせ。

 企業の氷原への進駐が始まれば、本格的に封鎖機構と殴り合いになりそうだ。

 

 え? 封鎖機構は宇宙政府軍? 

 企業の経済圏の人間からすれば何それ知らんって感じなんだよね……飼い慣らされてらぁ。

 

 時折不快感が増減することがあるので、もしかするとコーラルを動力源とした大型移動兵器が配備されているのかもしれない。

 コーラル、もといC兵器。かつてこの星に存在したルビコン調査技研という変態集団が作り出した狂った成果。もう二度と会いたくないのだが、俺の悪い予感は当たる。きっと中央氷原で障壁になるに違いない。

 

 と、まぁ上への提出の為に集めた情報を整理していたが……非常に気が重い。ルビコニアンと交渉して一部採掘権を得るだけにして協力するとか出来ないかなぁ。ベイラムは無理かぁ。

 そんな憂鬱を甘味で誤魔化すべくシーシャを吸おうと外に出たら、先客と鉢合わせしてしまった。

 

「やあ、君も吸うのかい?」

 

 爽やかな声にぴったりな爽やかなルックスの好青年が、親しみやすく声をかけてくる。

 ヴェスパー第四隊長ラスティ。その印象があまりにも好印象すぎて、逆に警戒心が強くなる。

 

 ラスティは海越えを果たした後、さも当たり前かのように同じ拠点を使っている。いや本当に報告書に何と書けばいいんだ……!? 

 

「大豊のタバコか? よかったら一本交換しないか? シュナイダーのには飽きてきてね」

 

「すいません、タバコじゃなくて携帯シーシャなんですよ。ニコチン入ってませんし」

 

「電子タバコの類か、そちらはあまり馴染みがないな」

 

「レイヴンが興味持っちゃったんでこっそり吸うしかないんですよね」

 

 ラスティは整った容姿を崩し、キョトンと不思議そうな顔をする。

 

「何も入っていないなら別に問題ないだろう」

 

「あのですね……」

 

 そういう話じゃないでしょ。

 

「一応成人向けの製品なんだから、害はないといわれてもね、勧めちゃダメなんです」

 

「君は随分真面目だな。今まで随分苦労したんじゃないか? そもそも君はレイヴンの年齢を確認したのか? 偏見だけで判断するのはどうかと思うぞ」

 

 ぐぬぬぬぬ…………。女性に年齢を尋ねるのはタブーというが、あんたはイケメンだからそれすら話のネタになるんでしょう。

 

「私なら仕事終わりに酒を奢るぐらいするがな」

 

「寒冷化したルビコンじゃお酒も子供の時から飲まなきゃやって行けなさそうですもんね」

 

「ああ、まったくだ」

 

 …………さらっと皮肉で言ったことを肯定されてしまったのだが。

 ラスティの横顔を盗み見るが、爽やかな笑みを浮かべているのに対しその目は笑っていなかった。

 

「実は君の言うとおり、私はルビコニアンなんだ」

 

 まるで明日の天気を語るように、さらっと口にする。

 

「星外企業についているのは、この閉ざされたルビコンの空を切り開くためなんだ」

 

 おいおいおい、待て待て。いきなり明かし始めるな! 

 

「その為なら同胞に刃を向けることも厭わないと?」

 

「ああ、痛みなくして空にはいけない。ルビコンはそうでもしないと、燃えることすらできない程落ちぶれてしまったからな」

 

 要するに封鎖機構をルビコンから退けるために企業を利用すべく入り込んだと? スパイ? いや、ルビコン出身=解放戦線と決めつけるのは尚早だ。

 功績を上げて、アーキバスへ融通が利くよう真っ当に働いている可能性も十分にある。

 微妙に情報をぼかして言い切らない態度に眉を顰めた俺を見て、「内密に頼むよ」とラスティは付け加えた。

 

「それはつまり、貴方は解放戦線の人間ということですか?」

 

 ラスティは俺の質問に答えずタバコを蒸してやんわりと会話を拒絶する。クソッ、煙に巻かれてしまった。

 嘘はついていないが、全てを明かすつもりはないって? 素人の詮索じゃ太刀打ちできそうもない。策も無く余計なこと言うんじゃなかった。

 

 いつまでも足りない頭を回してもらちが明かないので、俺は苛立ちを煙に乗せて吐き出だした。

 立ち上る煙がゆらゆらとルビコンの風に流され、赤い空に溶けていく様子を俺はぼんやりと眺める。

 再び吸い込むと、煙の熱に混じって甘い液体が口の中に広がった。どうやらリキッドが吸引口から零れてしまっているようだ。不良品だが嫌いな味ではないので特に気にすることも無く吸い続ける。中身が零れた分、吸える回数が減ってしまうのはまあ問題だが。

 

 しばらくし、ラスティは「ところで」と切り出した。

 

「元々先行調査に出る予定はなかったものでね、よければ少し物資を分けてくれないだろうか?」

 

 こいつぅ……食糧不足を訴えられると断るに断れん。間食用に取っておいた物資がある。最近食欲が少なくなってきて食べ切る自信がなかったので、必要な人のもとに届くならまぁいいか。

 

「いつまでも競合企業の人間に借りを作っておくのは良くないですからね。俺の個人的なものですが、出所は足がつかないようにしてくださいよ」

 

「助かるよ」

 

「今はひまわりの種1ガロンしかないですが」

 

「ガロン」

 

 昔ならそれくらいペロッといけたんだが。うーん。

 


 

 先行調査はもうじき終了する。ラスティはベイラムと鉢合わせしないようここを離れた。あとはレイヴンの迎えが先に来るか、ベイラムが来るか、それを待つだけだ。

 任務が終わればこの数日間のように自由に話せる機会はもう訪れないだろう。

 俺が企業を辞めて独立傭兵になるか、レイヴンが正式にレッドガンに入隊するかでもしない限り、コンプライアンスに縛られ続ける。

 

 俺は1人、格納庫のレイヴンの機体の元に脚を運んだ。

 目的はエア。最後の最後まで顔を合わせることをぼんやり拒否された彼女に挨拶をしておきたかったからだ。

 

「エア、起きてますか?」

 

 コックピットは俺のはるか頭上にあるが、ここからでもルビコニアン特有の感覚を肌で感じることが出来る。しかしよくコックピットで休息が取れるなぁと感心した。俺は訓練で長時間コックピット内に拘束させることに耐性を得たが、好き好んで寝袋として使う趣味はない。あまり長時間座っていると、嫌な記憶がフラッシュバックしてしまうからだ。

 

<<おはようございます。レイヴンは未だ睡眠中ですが、何かありましたか?>>

 

 格納庫のスピーカーからエアの声が響く。ちょっと意外だ。いつもレイヴンと共にいる時にしか声を発さなかったイメージがあるのに。

 

「ちょっと最後に挨拶をと思いまして。ところでなんでスピーカーを?」

 

<<レイヴンの声を借りてばかりでは、彼女に迷惑をかけてしまうと色々模索していたのですが……意外となんとかなるものですね、慣れてきました>>

 

 もしかして彼女もレイヴンのように、機械を介さなければ声を出せないのか? 最悪コックピットから降りられない体なのかも……? 

 いらぬ想像力が回り口を閉ざしてしまった俺に対し、彼女の方から質問を振ってきた。

 

<<識別名G12銭塘、レッドガンではなくあなた個人として聞きたいことがあります。あなたはルビコニアンをどう思っているのでしょうか?>>

 

 俺は打算も無く素直に思いを述べる。

 

「普通に生きる現地の人々。……可能であれば戦闘を回避したい、です」

 

<<戦いたくないと?>>

 

「好き好んで戦う人間なんて少数派ですよ。住む場所と着るものと食事が脅かされなければ、戦う必要なんてないでしょう人間は。まあ俺みたいに所属するコミュニティの方針で戦わされることは珍しくないでしょうが」

 

 エアはしばらく考え込むように言葉を止めた後、慎重に口を開いた。

 

<<実はV.Ⅳラスティの機体からある情報を入手しました。彼は……どうやらルビコニアンのようなのです。以前あなたは彼のことをルビコニアンと言っていましたが、面識があったのですか?>>

 

 そのことか。この際話しておこうと、俺は自身のコーラルに過敏に反応する体質をエアへ説明した。すると彼女は少し驚いたようだった。

 

<<貴方はコーラルを感知することができるのですか?>>

 

「そうみたいなんですよね。ルビコニアンとかドーザーや旧型強化人間とかも何となくわかります」

 

<<……私もですか?>>

 

「はい」

 

 目を瞑っていたって彼女の存在がはっきりと感じ取れるくらいだ。イグアス先輩と顔面突き合わせだ時よりも、激しくその存在を肌で感じ取ることができる。もしかしてルビコニアンの中でも特別な人なのかもしれない。

 

 上着のポケットが振動する。どうやらベイラムの調査部隊が間もなく到着するようだ。

 あまり長居をしてレイヴンを起こしてしまうのはよくないだろう。名残惜しいが別れの時間だ。

 

「Good Night, Sweethearts」

 

 レイヴンにかけて古典SFのタイトルで別れを告げる。あの小説好きだけど、苦手なんだよね。小説の主人公と同じ状況に立たされたら、俺は選べない。選べないまま台無しにするような気がするから。

 ……キザっぽいというよか、滑ってるな。めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。これがラスティなら映えたんだろうなぁ! 

 

<<あなたはレイヴンとの交流を続けたい。ですが企業の監視の目が強くなって難しくなった。そうですよね?>>

 

 羞恥心に急かされ速足で立ち去ろうとした俺をエアが引き留める。と、同時に再び俺の端末が振動する。送り主は……エア? 

 

<<ヴェスパーⅣの機体を覗いた際、暗号通信システムを見つけたので私なりに手を加えてみました>>

 

 は? 

 

 要するに……

 

<<これで企業を気にすることなく、今まで通りに話すことが出来ます>>

 

 

 貴女が、神か。

 

 

<<もしかしたら、貴方もレイヴンのように私たちの声が見える様に……>>

 

 


 

 暗闇の中、赤い光が弾けたような気がした。

 脳の中に仕込まれた機械が、強引に意識を再起動させる。

 ぱちりと瞼が開かれ、その澱んだ赤い瞳が周囲の後景を脳に送る。

 無機質且、非常に狭いコックピット。彼女を生かす鉄の鎧であり、彼女を平和から隔離する牢獄の中で621は目を覚ました。

 

「おはようございます、レイヴン。よく眠れましたか?」

 

 脳内に響く優しい声が、彼女の細い体を包み込む。

 

「ああ」

 

 正直睡眠という感覚は理解できないが、彼女は否定しない。

 常人ならとても快適とは言えないコックピットの中での生活こそ彼女にとっての「普通」なのだから。

 

 コーラルによって意識を拡張した旧型強化人間にとってACは自分の体と等しく同じものであり、むしろちっぽけで面倒ごとばかりの生身の体が煩わしい。彼女の雇用主たるウォルターは彼女に普通の生活を取り戻させると言っているものの、肝心な彼女自身は乗り気ではない。

 人として生きようとすれば、十数時間おきに脳機能の最適化の為に睡眠をとる必要があるし、老廃物の処理や……シャワーを浴びることを要求される。彼女にとってはそんな「あたりまえ」のことすら億劫であり、仕事以外の機能は必要ないと思っていた。

 

「え! レイヴン? 起きたんですか?」

 

 外の音を拾っていたスピーカーから、うわずった男の声が響いた。

 彼女はその声の主を確かめるべく、コックピットのハッチを開ける。

 

 脳に直接投影されていたACのカメラの視界が切れ、異なる視点へと切り替わった。先ほどのモノより彩度は落ち、若干ぼやけて見える。これが彼女自身の目が映す光景だ。

 ACの精密なカメラが映し出す光景に慣れた身としては、生身の体がとらえる劣悪な画質は非常に物足りない。

 背中に接続されたコードが自動的に切り離され、彼女は完全に人の体に収まった。

 不自由な生身の体だ。15mほどもある巨大な機体から降りるのも一苦労。戦闘に必要な機能以外削げ落ちた体にはこれだけのことですら大ごとだった。

 強化人間と言えば脳機能の拡張だけではなく、どんな劣悪な環境でも長時間戦える強靭な体を手にする者もいる。

 だが、彼女は「失敗作」。

 ACを動かす時だけしか発揮されない生体CPUが関の山だ。

 そんな戦闘と与えられた意味以外何も持たない自分に、なぜこの青年は構うのだろうか?と621は首を捻る。

 曇りのない笑みを浮かべた青年、銭塘はガレージのタラップを慎重に降りる彼女の手を引いた。

 

「おはようございますレイヴン。もしかして起こしちゃいましたか?」

 

「いや」

 

 機械的に必要最低限の睡眠が取れたと判断されたため再起動しただけにすぎない。それを淡々と伝えただけなのに銭塘はコロコロと表情を変える。驚愕、憐憫、そして元の笑みに戻った。

 

「もうすぐベイラムがここに到着するんですが、レイヴンはそれまで何かやりたいことってありますか?俺何だってやりますよ!」

 

「今何でもすると言ったな?」

 

「携帯シーシャは駄目ですからね」

 

 即時にNGを出され621はうー、と不満をあらわに唸る。そんな621の姿を小型犬のようで愛らしいと銭塘は思った。

 

「じゃあ、お前が膝枕しろ」

 

 

 

 

 彼女は銭塘の太腿に指を這わせる。レッドガンの中では貧弱と揶揄される細い身体も、621からすれば充分肉付きが良い。パイロットスーツ越しに僅かに感じられる熱が心地良く、彼女は冷気で冷えた頬を彼の太ももへ擦り付けた。

 

「あ、あんまり動かないでください……!」

 

 彼はこそばゆいのか、身を捩って悶える。だが、「「何でもする」と言ったのはお前だろ」と彼女は聞き入れる気はないようだ。

 封鎖機構を警戒し暖房を入れていないガレージの寒さは高性能なパイロットスーツでも耐え難いものであり、彼女は銭塘の羽織っていたジャケットを剥ぎとって再び彼の膝の上へ横になる。

 

「あわわわわ……!」

 

 膝先よりも体の中心に近い方が熱を感じられることに気が付いた彼女の動きに翻弄される。

 そんな銭塘をよそに、うつらうつらと621の瞼が重く下がっていく。機械による制御ではなくごく自然な生理機能としての睡眠は621にとって非常に稀なことである。

 何故膝枕を彼にさせたのか、621にはよくわからなかった。ただ気絶した彼を自身の膝に乗せたことを思い出し、気がつけば言葉が口から出ていたのだ。

 今思えば単に眠かったからかもしれない。機械上は十分だと判断されたのに身体は睡眠を求める。そんなこともあるのかとぼんやり思考を浮かべつつ彼女は心地よい暗闇に身を預けた。

 

「レイヴン? あの、寝ちゃうんですか? まって、俺の上着……レイヴン??」

 

 静かな寝息だけがガレージで響く。自身の膝の上で二度寝を始めた少女をどうするべきか、結局ベイラムの部隊が到着する数時間後までその答えを出すことが出来ないまま、銭塘は悩み続けたのであった。

 

Chapter2 完 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<中央氷原の調査は順調だ>>

 

<<よくやったラスティ。これで企業に対し優位な拠点を作ることが出来る。しかしカーゴランチャーとは思い切ったことをするものだ。シュナイダーの反応に注意しなければな……それで例のレッドガンの特殊才能者(タレント)の事だが>>

 

<<本物だ。彼はコーラルの認知ができる。この数日観察していたが、間違いないだろう>>

 

<<ベイラムめ、とんだ掘り出し物を手にしたものだ>>

 

<<ただしあくまでも大豊の人間だ。レッドガンはともかく、ベイラムに忠誠心はない。そこを抑えれば、信用を得るのは容易だったさ>>

 

<<まさか明かしたのか?>>

 

<<大豊をベイラムから切り離す為のカードになる。友好を深めておいたほうが話が進めやすいだろう。それに私がルビコニアンであることを見抜いていたからな、隠しても不信感を募らせるだけだ>>

 

<<解放戦線のこともか?>>

 

<<いや、まだだ。しかし中央氷原では本格的に封鎖機構とやり合うことになる以上、ベイラムの要求がより大きくなるのは目に見えている。大豊を揺らすタイミングは遠からず来るだろう。技術があろうと売る相手がいなければ企業は成り立たない。ルビコンも大豊もある意味似たようなものだな>>

 

<<あちらは交渉下手が転じた結果だ。ルビコンとは違う>>

 

<<どうだか。ルビコンもここまで落ちる前にやれることがあったんじゃないのか?>>

 

<<ラスティ……はぁ>>

 

<<しかしBAWS第二工廠の襲撃の件といい、今回のグリッド086での不明機体、ストライダーの時もそうだが企業ではない勢力がこのルビコンで暗躍していると見て間違いはないだろう。いったい何の為だ?純粋にコーラル目的だとしても、工廠の「井戸」が手つかずだったのが気にかかる。ルビコン技研の遺産を有しているような輩だ、ルビコンをさらなる災禍に貶めるやもしれん>>

 

<<それはこちらで調べる。ラスティ、お前は潜伏に集中しろ>>

 

<<…了解した。そちらも大豊を抱き込む方法を探してくれ。あちらの火鍋とかいうレーション、なかなか悪くないからな>>

 

<<あれを……食べたのか?>>

 

<<ん?>>

 

<<い、いや……気にするな>>

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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