それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生! 作:テキサス仮面
ここからChapter3スタートです。
プロローグ
人々は企業と共に各星系に散らばり、人口はもう正確に数える事はできないほど増えただろう。
人体を拡張する強化人間手術、長期間の星間飛行を実現させた冷凍睡眠、そしてAC。
フィクションの中にしかなかった大抵のものは、既に現実として俺たちの生活の一部に溶け込んだ。
ワープゲートは近いうちにどこかの企業が実用化させるらしいし、大昔に宇宙に打ち上げられた偉大な犬のクローンは験担ぎとして大抵の民間宇宙船に乗っている。
噂によれば
しかしながら未だ人類は「人間」以外の生命体と出会うことができていなかった。
大昔に空に打ち上げた人類の存在を刻んだ黄金のレコードは、未だ誰のもとに届かず暗い宇宙に漂っているのか、はたまたそこいらの隕石にすり潰されたのか。
このボトルメールを受け取るべき相手は、まだ幼年期を終えていないのかもしれない。
ヨルゲン燃料基地、それがベイラムの中央氷原でのコーラル調査拠点の名だ。
俺とレイヴン(あとヴェスパーⅣラスティ)の見つけた封鎖機構の古い施設からそこま遠くない場所にあり、稼働していたころは隣接する宇宙港にエネルギーを回していたと思われる。
基地が放棄されてからそれなりの時間が経過しているようだったが、再利用するには問題が無いほど良好な状態。おそらく非常時に封鎖機構が再び運用できるよう残してあったのだろう。アーキバスの初動も遅く、先行して中央氷原に到達したベイラムは、景気よく「物量による制圧」というべき派手な進駐を始めた。
その結果がこれだ。
「封鎖機構の艦隊とか……どうすればいいんだよ!?」
俺、大豊所属戦闘員兼レッドガンG12銭塘は、情けなくコックピット内に悲鳴を響かせ、最大推力でレーザーの雨を潜り抜けていた。
地面に影を落とすのは暗雲ではなく、ACをはるかに上回る巨大な戦艦。しかも一隻ではなく複数の巨大な艦影が空を覆う光景は、さながら映画のワンシーンのような威圧感を放っていた。背中越しに感じる只ならぬプレッシャーに、思わず息を呑んでしまう。
<<ルビコンに不法侵入した全ての勢力に告ぐ。ただちに武装解除し 封鎖圏外へと退去せよ。これ以上の進駐は 惑星封鎖機構への宣戦布告と見なし、例外なく排除対象とする。繰り返す 例外はない>>
機械的な通告が広域放送によって氷原に響き渡るも、阿鼻叫喚に染まった戦場で一体どれだけの人間が耳を傾けることができるだろうか。
封鎖機構の強襲艦から降り注ぐ攻撃に手も足も出ず、ベイラムのMTは逃げることもままならない。
<<執行部隊だと!? 何故辺境の惑星に!?>>
<<助けてくれ!>>
<<くそっ! こんな星来るんじゃなかった!>>
<<レッドガンは何処だ!?>>
回線は幾多もの救援要請と悲鳴で溢れかえり、有益な情報すらノイズと化した状態だ。訓練を受けた兵士とはいえ混乱に陥ってしまうと役に立たなくなるのは俺も身をもって体験しているが、この惨状は目を瞑りたくなるほど酷い。
あまりにも一方的であり、もはや害虫駆除の絵面ではないか。地獄があるならこんな光景が無限ループしているのだろうかと恐怖に肩を振るわせながら、俺はベイラムMTを狙う封鎖機構の機体を自機である「月餅」で蹴り飛ばした。
樹大枝細を掲げる大豊核心工業集団の「天槍」をベースにした重量級機体の重みは下手な火器よりと強力だ。封鎖機構の運用する歩哨MTはその威力に耐えられず、いとも簡単に爆散する。
「俺が弾除けになるんで、撤退してください!」
<<た、助かった! 恩に着る>>
「仕事なんで!」
大破を免れたMTが戦線を離脱したことを横目で確認し、俺は引き続き味方の撤退を援護するためにミサイルを放つ。目標は、宙に浮かぶ巨大な敵影だ。
<<コード15! 秩序を乱す企業どもめ!>>
俺に向け鋭い声が投げつけられた。
重火器を背負った支援特化と思われる封鎖機構の機体(確かLCだっか?)はミサイルを悠々と回避。そのままバズーカを炸裂させつつ、お返しと言わんばかりに俺に向けてミサイルをばら撒いた。
爆風の衝撃でコックピットが揺れる。ミサイルは完全には避けきれなかったものの、幸い重厚な装甲に守られて致命傷にはつながらない。大豊の機体じゃなければとっくの前に爆散しているところだ。樹大枝細! 樹大枝細!
<<支援型は後ろに下がれ。これは私が処理する>>
<<了解、支援を継続する>>
自社のコンセプトに感謝をしているところ、封鎖機構に動きがあった。重量を感じさせない機動力で、盾を構えた機体が支援機と入れ替わるようにして俺の上空に滑り込む。
<<排除する>>
拒絶の言葉と共に、敵機は引き金を引いた。
相手は開幕早々シールドを展開しながら中距離からの狙撃、所謂引き撃ちと呼ばれる戦法を展開。参ったな。近距離仕様の月餅の兵装とは相性が悪いと焦りが募る。
この距離からではマシンガンの弾がばらけてしまい無駄撃ち同然。ブレード叩き込もうにも、これだけの距離があっては回避行動が間に合ってしまうだろう。
俺も負けじとロックオンを定め、肩の二連ミサイルを敵機に向けて放つが、結局必要最低限の挙動で避けられてしまった。
本当に嫌になるな、引き撃ちってやつは。弾幕が薄くなったタイミングを見計らって貴重なリペアを切り、イグアス先輩との模擬戦を記憶の中から引っ張り出した。
相手から一定の距離を置きつつ、的確に遠距離攻撃を与えるこの戦法の打開策は、瞬間火力を持ってスタッガーに持ち込むことだ。ついでに蘇ったイグアス先輩のサンドバック状態だった嫌な記憶にうんざりしながら、被弾を出来るだけ避けつつ時が来るのを待つ。
さて、そろそろかな?
<<なっ!?>>
右舷から飛んできたミサイルが見事着弾。敵機は完全に不意を突かれ、パイロットの動揺が通信越しに伝わってきた。
高誘導ミサイルを甘くみてはいけないぞ。ちゃんとロックオンさえできれば、なかなか凄いんだからなこれ。一回避けただけじゃ止まらないぞ。
俺は晒されたチャンスを掴み取る為ABで距離を詰め、その推進力を乗せたまま敵機を盾ごとブレードで叩き割る。
激しい光が視界を覆い、爆風が巻き起こった。
<<LCがやられただと? 油断したのか?>>
<<企業め! 畳み込め!>>
息を吐く暇もなく、次から次へと先ほど撃破したものと同様の機体が飛んでくるでは無いか。
ええい、どれだけいるんだよ!?
伝達によれば、現在俺たちを襲っている部隊は封鎖機構の通常戦力SG(サブジェクトガード)ではなく、本来ならば出てくる事のない執行部隊と呼ばれる殺意の高い戦力らしい。それだけ企業は封鎖機構の逆鱗に触れたというわけだ。
助けてくれレイヴン! と泣き言を叫びたいが、彼女は大豊の依頼を受け同じく中央氷原に展開するアーキバスの調査情報を取得しに行っている真っ最中。
任務の仲介を担当しているG6レッド先輩曰く、彼女の方にも強襲艦が襲来しており絶賛対応中とのことだ。
まさに絶体絶命とはこのこと。当然彼女による救援は見込めない。ACが俺一機しかいない状態だったら勝ち目などなかったはずだ。
<<クソッタレ! 封鎖機構の奴ら調子に乗りやがって……>>
<<喚いてねぇで撃ちまくれ!>>
不幸中の幸いな事に、イグアス先輩とヴォルタ先輩の2人が補給のため立ち寄っていたのが救いだった。
俺が散々苦戦していたLCはものの数秒で鉄くずとなった。
その後も二人は次々と到来するLCを悠々と撃破していく。ああ、やっぱりこの二人のコンビはすごい、G4&G5は伊達じゃない。息も絶え絶えな俺とは大違いだ。頼もしい先輩達の活躍により、徐々に戦況が好転していくのが感じられた。
こちらは頼もしい先輩たちのおかげでなんとかなりそうだ。少しずつこの状況に慣れてきた俺は、レイヴンの無事を祈りながらゆっくり息を整える。
あいも変わらずコーラルが吐き気と不快感をもたらしているが、今日は大したことがない。ある一方から感じる不規則なコーラルの気配も、足裏からじわりじわりと広がる違和感にも十分耐えられる。
……よし、やるぞ。
右往左往する味方のMTを守るべく、俺は再び月餅を駆って躍り出た。
執行部隊の運用する機体はどれもACの上位互換と言って過言ではない性能をしている。
有象無象の雜兵ですら、うちのMT部隊では歯が立たない。練度もそうだが根本的に機体性能の壁を越えられないようだ。
肩を掠める死の気配に身を震わせながらも、俺は速度を落とさない。疲労が身体にのしかかる負荷をさらに重くする。それでも、止まらない。
ABによる最大推力で弾幕を回避しながら封鎖機構の歩哨MTをマシンガンで削っていった。
<<子機が展開されたぞ!対処しろG12!!>>
「わかりました!!」
スピーカーから炸裂する轟音に負けじと俺も声を張り上げた。レッド先輩、そのうち声だけで敵を倒せそうだなぁと場違いな思考を早々に断ち切り、俺は地に落ちる影の原因を見上げた。
到来した強襲艦から展開した子機が、レーザーを雨のように撃ち放つ。
せっかく逃したMTが撃破されてしまったら寝覚が悪すぎると、俺は被弾も構わず距離を詰める。そして大豊の装甲を舐めるなよ?と、表面を焼いただけの子機にたっぷり実弾のお礼を送りつけてやった。
<<気に入らねえ。封鎖機構の連中共、綺麗に基地をぶっ壊さねえようにしてやがる>>
苛立つイグアス先輩が低く唸る。
……そういえば妙だな?確かにエネルギープラントを破壊してしまえば簡単に燃料基地としての利用価値奪えるというのに、封鎖機構の部隊はちまちま虫を潰すようにこちらの戦力を削るだけに見える。なんと脆いエネルギー貯蔵タンクすら無傷ではないか。
<<ふざけけんな。どいつもこいつも俺たちを見下しやがって。やるぞヴォルタ>>
<<ああ、偉そうな空の連中に目にものみせてやるよ>>
イグアスとヴォルタ先輩はABを用いて大きく動いた。目標は封鎖機構の戦力の中でもひときわ大きい機体、特務機体「エクドロモイ」。人の姿から外れた異形の兵器は超高速で風を切る。
<<コード5。敵は二機、コード44。……企業所属G5イグアス及びG4ヴォルタ。排除対象のG1では無い。たかだか企業の雑兵2体、相手にする意味もないが排除する>>
<<誰が雑兵だぁ!?>>
エクドロモイのパイロットの機体性能に基づいた発言に対し、イグアス先輩のウサギの尻尾程度の長さしかない堪忍袋の尾に火がついた。
恐ろしい特殊機体の高速移動に、ベイラム製中量二脚ヘッドブリンガーが噛み付く。
企業標準機「MELANDER」、そのカスタムモデルである「MELANDER C3」は、優秀な機体とはいえ尖った性能はしていない。だが、イグアス先輩はその技量のみでエクドロモイの立体機動を完全に捕捉していた。
空を駆けるその姿は、間違いなくレッドガンのエースパイロット。
他者に突っかかる野良犬のような気性の荒さも、今では軍用犬を思わせる頼りある威圧感に変わっていた。
<<おいおい、マジになるなよ。MTと大差ねえ封鎖機構のゴミだ>>
ヴォルタ先輩は落ち着いた声で相棒に声を掛けつつ、グレネードキャノンで敵機に致命的なダメージを与え確実に追い詰めていた。
おっとスタッガーに陥った瞬間イグアス先輩が地面に向けて蹴り落とし、待ち構えていたヴォルタ先輩がタンクの超重量任せに突撃。続けて凶悪なショットガンを撃ち放した。
まさに泣きを入れたらもう一発、レッドガンらしい戦い方だ。
<<コード31C! ……コード78!!>>
息の合った挟撃に翻弄されるエクドロモイはオープン回線のまま救援を求める。至近距離からの散弾は、いくらACの上位互換といえども耐えられない。
<<お前らがこの星から出で行きやがれ!!>>
イグアス先輩は再びACS負荷を負ったエクドロモイをパルスブレードで叩き切り、派手な花火を炸裂させた。
まさに快勝。リニアライフルを下ろし大きく戦闘スタイルを変えたばかりだというのに、封鎖機構相手に後れを取るどころか圧倒しているではないかと、俺は感嘆を漏らす。
<<そんなエクドロモイがやられただと!?>>
<<コード31C!>>
慌ただしく勧告用の回線を切り替えることも忘れたまま飛び交う通信からするに、封鎖機構の主力機体がやられ動揺が広がっているのだろう。
動くならいまだな。
俺は甘くなったレーザーの雨を潜り抜け上昇し、強襲艦の頭上を取る。もちろん機銃の集中砲火を受けるが、大豊のコアをなめてもらっちゃ困る。レーザーはともかく実弾にはめっぽう強いからな。樹大枝細! 樹大枝細!
ついでにACに取りつかれることを想定していない作りなのか、下にいる時よりもはるかに安全だ。設計ミスでは?とツッコミを入れつつ、艦橋へとパルスブレードを展開し、危機感に従い素早く離脱。
案の定、動力系統に誘爆したのか派手に爆発し、薄暗い氷土を明るく照らした。
<<そんな!強襲艦が……!>>
<<へっ、封鎖機構も大したことねえな>>
イグアス先輩の嬉しそうな声がやけに気に障る。
……あれにも沢山人が乗っていたと思うと気分が重い。
仲間や同胞を守る為という理由はあるが、そもそも封鎖されたルビコンで好き勝手していた企業……俺たちに非があるのだ。
金の為に殺しをやるイカれた傭兵どもと何が違うのだろうか?
せめて慣れたくはないものだ。人を殺す以上、俺はこの苦痛を背負っていきたい。たとえそれが自分自身を慰める行為でしかないとしても。
ナイルさんのことを思うといまだに胸がうずく。
でも前を向いて進むしかない。それが一番いいと信じて。
戦艦が堕ちたことにより、現場はますます混沌の渦に呑まれて行った。
完全に形勢逆転。
この場を乗り切ったという安堵感に、座席から滑り落ちそうになったので慌てて姿勢を正した。
<<チッ……耳鳴りがしやがる>>
勝利の気分に水を指すような声色が耳を打つ。その発信源はイグアス先輩だ。彼はこのルビコンに来てからというものの、こうして体調不良を訴えることが多いという。コーラルを使った旧型強化人間だからか?そういえばレイヴンも変な音が聞こえるとか言っていたような気がする。
なんだか声につられてから俺まで気分が悪くなってきたぞ。肌が泡立つような焼けるような独特の、慣れた不快感に喉の奥が酸っぱくなっていく。
うぅ……。慣れたけど慣れないな、このコーラルアレルギーには。
あっ。
「もしかして先輩もコーラルアレルギーですか?」
<<あぁ?>>
後日調べてみたらコーラル濃度とイグアス先輩の耳鳴りが割と関係性があることが判明。ちょっとだけ先輩から感謝されたが、サンドバックの記憶が薄れることは無いだろう!
封鎖機構の襲撃を耐えきり五体満足で帰還した俺は、わずかな休息を薄暗いガレージで過ごしていた。
「封鎖機構相手に空戦やれる気がしないんですよ……」
<<アセンを変えたいのか?>>
「武器は何とかなるんですけど、パーツとなると点で駄目で……」
俺は端末を片手に月餅を見上げる。通信の相手はもちろんレイヴンだ。
個人回線とは異なる回線、いうなれば秘密回線。氷原調査の際、電子機器に心得があると語るエアが俺の端末に入れてくれた特殊なものだ。これを介した会話はログに残ることはなく、企業の耳を気にすることなく自由に話すことが出来る。ちなみに俺のACのシステムにも同様の暗号通信システムを入れてもらってある。月餅のセキュリティ……ザルすぎ……?
エアが介入した痕跡は綺麗さっぱり残っておらず、今のところ怪しまれている様子もない。携帯端末だけではなくACまでハッキングできるとは本当にすごい。
バレたらどうなるか分かったものではないが、これで気兼ねなくレイヴンと話ができるようになったので全く問題はない。何かあったらその時何とかしよう。エア様万歳!
「選びたくても上から大豊パーツを使えって圧力がかかって選択肢がないのが辛いんですよね。これ以上機体を重くしたくないんだけどなぁ。どこに行っても大豊大豊……生まれた時から大豊一色だなぁ」
<<大豊、確かお前の故郷なんだよな>>
「ええまあ、正確には大豊経済圏ですけど」
<<お前の故郷ってどんなところなんだ?>>
「出身はここからそんなに遠くないですよ。まあ大豊経済圏らしく人口密度くらいしか特徴無いですけど。レイヴンはどうなんですか?」
<<わかんねぇ。オレにはウォルターに意味を与えてもらう前のことはなんも覚えてねぇ>>
「ある言語にこんな諺があります。『故郷とは魂のある場所だ』と」
<<どういう意味だ?>>
「故郷ってのは、自分にとって大切な思い出とか記憶がある場所のことであり、必ずしも物理的な場所を指すわけじゃないってことですよ」
<<そんな考え方もあるのですね……>>
エアが感銘を受けたかのような声で相槌をうった。
<<じゃあ、オレの故郷はACのコックピットだな。ウォルターと仕事ができるし、エアとお前に会えたのもここにいたからだしな>>
「その考えもありですね」
ルビコンに来てから誰もいない自宅に思いを馳せたことなど一度も無かった。
俺にとって故郷とは、同胞と呼べる大豊の人たちのために戦えるこの場所なのかもしれない。
「G12! 時間だぞ!」
突然降りかかる大声量。ミシガン総長さながらの迫力が、鼓膜をスタッガーに陥らせる。おずおずと顔を上げると、ベリウス地方でから呼び寄せられたレッド先輩が堅い顔を俺に向けていた。
「じゃあ続きはまた」
<<ああ>>
慌てて通信を切り平常を装う。せっかくログが残らないようにしてもらったのに、バレてしまっては意味ない。間に合ったとはいえ、レッド先輩は若干訝しんでいるようだ。というか隣の五花海さんの細い視線が俺の浅知恵を見透かしたような笑みを浮かべているではないか。冷や汗が頬を伝う。もしやバレた……?
「貴方が何をしていたのか当ててみましょう。大螺旋交差演奏法を用いた占いによりますと……文通、ですね?」
なんかめちゃくちゃ胡散臭いですねそれ。
「お相手は、ムム! 独立傭兵……カラスの影が!」
「貴様! まさかあれとね、ねんごろに!? 駄目だ!! 断じて許されない!!」
一体何を勘違いしたのかレッド先輩はコールサインを体現したような顔色で俺に詰め寄った。凄い迫力だ。『ミシガン総長の幼体』とイグアス先輩が揶揄していたのも頷ける。失礼極まりないけれど。
「ログ見てくださいよ。何もないですからね」
レッドさんには妹がいると聞いているが、幼い女性であるレイヴンと重ねているのだろうか。鼓膜を破壊しかねない声量で俺に迫るレッド先輩を押し返すように、俺は通信端末のログを開示した。
綺麗さっぱり、無罪放免。
レッド先輩は俺の潔白を飲み込み、「封鎖機構戦力に対するミーティングだ! 決して遅れるなよ!」と大音量を反響させながら立ち去った。追及がなくて助かった……。腹芸の自信ないんだよ。隠し事をしなければ良い話って真面目なツッコミは聞き入れません。レイヴンとの通信は俺にとって死活問題だからな。
で、なんでまだいるんですか五花海さん? 彼は胡散臭い笑みをより一層深め、ニヤニヤと俺を見据える。
「程々に、ですよ何事も」
「何のことです?」
その薄い笑みに混じる嫌な雰囲気に、冷や汗が背を流れる。やばい。エアのシステムのおかげでレイヴンとの通信ログは残らないが、胡散臭いことに精通している五花海さんのことだ、俺の行動を訝しんでいる可能性が高い。焦りが顔に出ないよう平常を装いつつ、彼の言葉に身構えた。
「そのコーラルへの敏感さ、誰が見ているかわかりませんからね」
細い目から鋭い光を覗かせ俺を一瞥し、五花海さんはそのまま立ち去っていった。気づかれて……いないのか? 妙に狐に包まれたような違和感が残る中、端末に短いメッセージが届く。
送り主はレイヴンだ。
<<そうだ今度また海越えしよう。お前も楽しかっただろ?>>
「楽しくはなかったですねぇ!」
思わず一人でツッコミを叫んでしまい、整備中の職員たちから視線を集めてしまった。
あんなコロンビヤード砲で月に行くような体験、二度目はいらないのだけど……。と複雑な気持ちに包まれる中、俺は端末のパスワードを見直すことにしたのであった。