それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生!   作:テキサス仮面

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2話目 封鎖機構強行偵察

 オールマインド。それはルビコン内で主力の傭兵雇用システムだ。

 

 オールマインドの提供するサービスの一環として、ACパーツの売買がある。

 封鎖されたルビコン内でありながら様々なパーツを取り揃えており、その豊富ラインナップの中には一体どこから入手したのかわからない最新パーツまで並ぶ。

 企業の人間にはあまり縁の無い話だが、企業関係なく好きにパーツを選んで機体をアセンブルする際にオールマインドは欠かせないだろう。

 あとオールマインドが開発したパーツの評価も上々らしい。一応中立を謳っているので俺も金さえ貯まればオールマインド製のパーツを検討してみようとは思っている。

 イグアス先輩もオールマインド製の逆脚かミサイルへの換装を考えているとヴォルタ先輩が言っていたっけ。

 

 そのオールマインドから直接指名依頼が俺の元に届いた。

 

<<登録番号 Rb81 識別名 銭塘。協力を要請したい案件があります。

 惑星封鎖機構による実力行使は中央氷原だけでなくルビコン全域にわたって制圧艦隊を展開。

 惑星封鎖機構の存在は我々にとっても不利益なものです。そこで我々は傭兵の方々のサポートを兼ね、独自に惑星封鎖機構の強行偵察依頼を発注しました。作戦目標は、施設の制圧ではありません。

 しかし、敵防衛部隊については、可能であれば撃破してください。報酬にはかつて存在したルビコン技研の開発した高性能FCSをご用意しております。奮ってご参加ください。オールマインドは全ての傭兵のためにあります>>

 

 任務の詳細が送られてきたので慎重に目を通す。

 


 

旧宇宙港強行偵察

■COMBAT ZONE

中央氷原-バートラム旧宇宙港

■OBJECTIVE

敵施設の強行偵察

■REWARD

IA-C01F: OCELLUS

■DETAIL

・敵撃破に応じて報酬を加算

 


 

 ようは、封鎖機構を倒せレアなパーツが手に入る!ということだ。

 中立を謳う傭兵支援システムだというのに完全に封鎖機構を敵に回すやり方に疑問が浮かぶ。傭兵を支援する上で封鎖機構が邪魔なのはわかるが、いくらなんでも大胆過ぎる。これが露見すれば自身らが封鎖機構に狙われてもおかしくないだろう。

 なら何故?任務仲介やパーツの売買、アセンブルの提案等食い扶持が無くなるならルビコンを去ればいいだけのこと。オールマインドという組織?はルビコンを去れない理由があるのだろうか?

 ……と、まあ裏はその道に詳しい人が考えることにして、俺は情報収集を兼ね依頼を受けることとなった。

 

 

 

 

 

<<聞こえていますか?通信は切らないでくださいね>>

 

 

 はい、その道に詳しいオペレーター、奸佞邪智の擬人化こと五花海さんです。

 

 企業付きの傭兵は単にシミュレーターが強いだけでは価値が低い。俺だって機械上のどこから集めたかよくわからないデータを相手にした模擬戦であるならば、レッド先輩にも五花海さんにも勝てる。

 しかしシミュレータで再現しきれないさまざまな外的要因の前ではデータは参考程度にしかならず、過信し過ぎれば足元をすくわれる。

 それに企業に属している以上、企業戦力の指揮を任されたり場合によっては前線での資材の運用や配分など仕事は多岐にわたる。その経験を活かしこうしてオペレーターをやることもある。

 独立傭兵とは責任の重さが違うのだ。

 シミュレータの中でしかまともに戦えない俺からすれば遠い話であるが。

 

 

<<『オールマインドが支援する』甘美な響きですね。ええ、あまりに露骨すぎるほどに。安心してください。万が一のことがあっても骨は拾って差し上げます>>

「そうなる前に回収してください」

 

 

 冗談とも本気とも取れる五花海さんの発言に、思わずため息を漏らしてしまった。

 レッド先輩の清々しいまでの大声量が恋しく思えてならない。

 しかしこんな裏がありそうな依頼とくれば、本職経験がある人間を起用するのが一番。

 そもそも怪しい依頼を受けなきゃ済む話なんだが?というツッコミは野暮だろう。

 アーキバスよりも先に中央氷原に乗り出したベイラムは、少々前のめり過ぎて封鎖機構による強襲で多くの基地を廃棄せざる終えなくなった。

 そんな痛手を負ったタイミングで、傭兵支援システムから対封鎖機構支援としかいいようのない依頼が来たのだから無視という選択は無かった。世知辛い、これが大企業の姿なのか……?

 

 にしても指名依頼とは?

 納品用テスターACの輸送事にこれでもかというほど過った『嫌な予感』に身を震わせる。くそっ、妙な懐かしさを感じてしまうな。せめて変なACが出てきませんようにと、俺は天に強く願った。

 

 

<<機体反応……これは、ヴェスパー!?>>

 

 

 五花海さんが驚愕に声をあげた。

 どうやら俺の願いは拒否されたらしい。休暇申請の差し戻しより対応が早いじゃないかハハッ。渇いた笑みが顔に張り付くのを感じながら、システムを戦闘モードに切り替える。

 

 

<<このたびの依頼受諾、オールマインドより感謝をお伝えします。今作戦では複雑な戦況でのデータ回収も兼ねて、僚機が──―>>

 

 

 聞いてません。

 もう出だしからもう雲行きが怪しい。ブリーフィング時にそんな話したっけ?と任務詳細を再確認すると、「途中合流する僚機あり」という見覚えのない一文が追加されていた。

 えぇ……?『騙して悪いが』と銃口を突きつけられても驚かないし、むしろ安心してしまいそうだと辟易させられた。もうどうとでもなーれ!

 

 

<<おはようございます。初めまして>>

 

 

 何が飛んできても対処してやると身構えていたところに、オールマインドではない女の声が優しく差し込まれた。

 

 

<<私、アーキバス強化人間部隊ヴェスパー第9隊長ソブレロと申し上げます。本日はPitohui共々よろしくお願いします>>

 

 

 初めは風に乗った羽が空から降ってきたのかと思った。

 ゆっくりと優雅に純白の機体が降り立つ。安定性能の高さ故かパイロットの技量がなせる技かと呑気に感心していたのも束の間、

 

「なんだこれは」

 

『それ』を理解し始めた途端、強烈な不快感に俺は思わず後退りしそうになった。

 

 

 異形──

 俺にはそう形容する以外の術が思い浮かばなかった。

 

 まともな技術者であればこんなものを世に送り出すはずもない。一言で表すなら、「細枝」。しかし大豊的な意味合いではない。

 必要な箇所だけを残し、それ以外は極限まで削ぎ落とす。

 大豊によく似ているようで、致命的なまでに剃りが合わないとう確信めいた直感が脂汗と共に背筋を舐めた。

 

 これが無人兵器であるならば理解できる。頷ける。

 だがこれは有人機。

 人が乗るために、人が乗ることを前提に、

 人の命を度外視したものだ。

 

 Pitohuiは、あまりにも極端な存在感を放ちながら、俺の方へ上半身を回す。

 

 

<<LAMMERGEIER、猛禽類の名を冠したシュナイダーの試験機。それを私に合わせ調整したものです。愛らしいでしょ?>>

 

 

 愛らしい。脳がその言葉の理解を拒み、数秒フリーズしてしまった。

 毒蜘蛛か、花蟷螂と表すしかないそれが愛らしい、と?

 俺の中の「愛らしい」という言葉が指すのは、レイヴンのような存在だ。断じてこんな未知のエイリアンのような奇形ではない。

 

 

<<シュナイダーは空力を求めると聞きましたが、いやはやここまで来るとは。まったく、感服しますね>>

<<ありがとうございます。その言葉こそが私達シュナイダーにとって最大の賛辞となります>>

 

 

 流石の五花海さんも何処となく動揺が滲んでいた。それを素直に褒め言葉と受け取ったパイロットが丁寧に返答する。コア越しで顔はわからないが、深々と頭を下げる様子が目に浮かぶようだ。

 

 

<<ルビコンは本当に素晴らしい場所ですね>>

「はあ」

<<封鎖機構にコーラル、従来の戦場では回収する機会が滅多に無い貴重なサンプルを得ることができ、技術研究を担うヴェスパー第9部隊にとって毎日が驚きと好奇心に満ちています。あなたもそう思いませんか?高度感応者の感覚は強化手術で完全に再現する事はできないと言われています。貴方の忌憚なき意見をぜひお伺いしたいのですが、お時間よろしいでしょうか?>>

 

 

 高度感応者?いわゆるドミナントと呼ばれる「先天的な戦闘適応者」のことだろうか?確かとある学者が提唱した説で、アーキバス系列など技術力に秀でた企業が検証を行っていると聞いたことがあるが……。お世辞にも俺が戦闘適応者だとは思えない。何か勘違いしているのだろうか?

 

 

<<何も話さないでください>>

 

 

 動揺がおさまらない中、訂正しようと口を開きかけた俺を五花海さんが止めた。

 

 

「何故です?」

 

 

 オープン回線からローカルに切り替えると、スピーカーから呆れたようなため息が聞こえてきた。

 

 

<<貴方、自分がどれだけ口が軽いか自覚ないのですか?G5と大差ありませんよ>>

「えぇ……?何かとつけてレイヴンにスパム送ってたイグアス先輩と……?」

<<ちなみに、貴方の方が少しばかり酷いですからね>>

 

 

 そんな馬鹿な!と声を張り上げそうになる。俺はちゃんとログが残らないようにして……。

 して…………

 

 

 レイヴンとエアに愚痴と称して任務内容を口走っていたような……雑談と称してベイラムの情勢を語ったような……

 

 

<<自覚、ありませんか?>>

「…………」

<<よろしい。最低限の相槌だけにして、愛想良くぼかしておきなさい。後、作戦終了後に私のところへ来てくださいね。勿論情報端末をお忘れずに」

 

 

 終わった……!

 五花海さんのことだ、前から勘づいて機会を伺っていたに違いない。

 ミシガン総長に絞られるのか、五花海さんに通信システムを悪用されるのか。どちらにせよ最悪だ。

 さよなら俺の数少ない楽しみ……。

 

 

<<どうされましたか?何か問題でも?>>

「ナンデモアリマセンオレカライエルコトハトクニナイデス」

 

 

 はぁ、と不思議がられたが、五花海さんからそれ以上の追求はなかったので良かった。たぶん。

 ……今は目の前のことに集中しろ、俺。最悪な気分を無理やり振りほどき、視界に浮かぶマーカーに目を向けた。

 

 強行偵察、あるいは威力偵察。こちらから電撃的な攻撃を仕掛け、敵勢力や敵陣地の状況を調べる重要かつ危険な任務だ。リスクは高いがその分のリターンも大きい。しかも依頼主が負担を引き受けてくれるというのだから、苦渋を味わされている企業にとってはおいしい依頼だろう。

 

 

<<目標は惑星封鎖機構が強襲艦隊の母港として接収したバートラム旧宇宙港における配備戦力の調査です。近辺増援が到着次第

 作戦目標はあくまで施設の制圧ですが、撃破した場合に応じて報酬も加算されます>>

 

 

 オールマインドが淡々と機械的に依頼内容を再度告げる。簡単に言ってくれるな。遠目に見ただけでも、SG(サブジェクトガード)に混じりLC機体が幾つも混ざっている。しかもかなりの数だ。味方が居ようとこれはかなり苦しそうだが……。

 

 

<<すみませんが……極力無力化に止めませんか?>>

「……は?」

 

 

 ソブレロと名乗った女の唐突な提案に、思わず聞き返してしまった。

 

 

<<封鎖機構とはいえ、彼らも人間です。可能な限り生存させるため、抵抗力を奪うだけにとどめたいのですが、よろしいでしょうか?>>

「人を殺したく無いと?」

<<ええ、命ほど希少で価値あるものはありません。どんな命でも等しく平等であり、理不尽に奪われることは避けるべき……とはあくまでも私個人の身勝手な意思でしかありません。貴方がやめて欲しいとおっしゃるのなら、私は情を捨て全て殲滅いたします>>

 

 

 これが、アーキバスの人間。しかも部隊長の言葉なのか?

 淡々とした声だが、僅かながら震えているような響きが共感を誘う。

 

 

「いや、貴女のやり方でいこう。俺も命を奪うのは好きじゃ無い」

<<あぁ、ありがとうございます。流血を厭う貴方とは、分かり合えると思っていました。無力化した封鎖機構の人々は私にお任せください。私とPitohuiが責任を持って対応いたします>>

 

 

 ぱあっと花が咲いたかのように華々しい声がコックピットに響いた。

 あぁ、よかった。この人は俺と同じで人を殺したくないのだ。この惑星、いや初めて感じるある種の安堵感に包まれた心地だ。

 五海花さんのため息が聞こえてきたが、この際聞かなかったことにする。

 

 

<<それでは 作戦を開始しましょう>>

 

 

 オールマインドが作戦開始の合図を切り、同時にシュナイダーACの背が閃光に包まれた。

 

 

 それはABのはずだった。

 

 

 だが……それは、俺のよく知るものと違った。

 異常な速度。大豊のACでは到達不可能なスピードで機影が小さくなる。

 

 

<<私が奥の強襲艦を調べてきます。貴方はこの周囲の敵戦力を>>

 

 

 機体はどんどん引き離されていくというのに、通信越しの声だけがそばにいる。現実が乖離していく。

 

 

 恐ろしい。

 守るべきコアを曝け出したその姿が。

 悍ましい。

 飛ぶためだけに他を切り捨てたその姿が。

 

 

 それをどうしようもなく、美しいと思えてしまう自分が怖い。

 

 

<<G12、敵はまだ健在ですよ?よもや想い人に気を取られていたのではありませんよね?>>

 

 

 はっと弾かれるように意識が引き戻される。あいも変わらず空を駆ける奇形は淡々と敵機を無力化していた。

 ……俺はあんなものに魅入られていたのか?思い返すだけで肌が粟立つ。

 

 背筋を撫でる冷や汗をはらうように、俺はブースターに火をつけた。

 

 


 

 

<<増援を確認しました。作戦はここまでです>>

 

 

 結果として、精鋭部隊からの増援が無ければそこまで脅威ではなかった。増援到着までにかかる時間も明らかになり、これはかなり有効な情報となっただろう。

 

 俺たちは手早く作戦領域から撤退。オールマインドの提案した脱出ルートに沿い、敵の索敵をやり過ごす。方角的にエンゲブレト坑道付近だが、これベイラムが報復対象にされるのでは……?

 只管続く嫌な予感に身を震わせていたところ、僚機に動きがあった。

 

 ……何をやっている!?

 

 Pitohuiのコアが開き、人影が外気にさらされた。

 ヘルメットから溢れた美しく淡い光沢を放つ髪がルビコンの風に揺れる。

 極限まで絞られているがぴっちりとしたパイロットから浮き出る曲線は成熟した女性のものだ。

 そして特に目につくのが、背中から伸びるコードだ。強化人間の証たる人間とACを繋ぐそれは、胎児と母親をつなぐ臍の緒同然。そんなものを晒すだなんて、いったい何を考えているんだこの人は。

 

 

<<本日はありがとうございました>>

 

 

 剥き出しになったコアをさらに無防備な状態にさらしながらも、妙齢の女性はヘルメットを脱ぐと俺に向け深々と頭を下げた。ふわりと雪の煌めきを放つ髪が重力に従うように落ちる。

 通信は氷原から吹き下ろされる風とジェネレーターの駆動音がノイズとなり非常に聞き取りにくい。

 

 

<<烏滸がましいのですが、よろしければ貴方と直接顔を合わせたいのですが>>

 

 

 相手は丁寧な態度をとっているが、あくまで競合企業の傭兵だ。V.Ⅳラスティの時のように事情があったわけではない。流石にそれは色々とまずいと拒絶する。

 

 

<<ああ、無理もないですよね。ですが私は貴方と個人的にお会いしたいというだけで、企業の意向とは何ら関係ありません>>

 

 

 その優しげな言い方が、逆に胸を鋭く抉った。

 

 

<<またお会い……いえ、戦場で再会するのは良いことだけではありませんね。では、貴方の行く道が素晴らしいものであることをお祈りしています>>

 

 

 そう締めくくり、彼女はコックピットへ戻った。動作の一つ一つが洗礼され妙にゆっくりに見える。

 

 シュナイダーのACが完全視界から消えたことを確認した俺は、安堵のあまり喉に詰まっていた息を吐きだした。

 

 

「あの胸で空力は無理でしょ」

<<大豊娘娘でしたね>>

 

 

 今回の件で色々思うところがあったが、結局頭空力シュナイダーウーマンの樹大枝細に全てを持っていかれてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「ということがあったんですよ」

 

 

 帰投後、通信端末を五花海さんに提出しこれまでこの事を洗いざらい話す事になってしまったが、話を聞くだけ聞いたのち通信機のデータをコピーするだけで解放された。これからどうなるんだろう……。V.Ⅸに関心を持つなと念押しされたくらいで、これといった罰則は与えられなかったし。

 ミシガン総長と話し合っているのだろうか。

 うう……不安だ。米も3合分しか喉を通らない。

 

 とりあえず悩んでも仕方がないので、レイヴンに今日のことを報告することにした。

 

 

<<傭兵システムからの名指しの依頼は私たちも受けましたが、どうやら不特定多数にばら撒いているようですね>>

 

 

 レイヴンと共に話を聞いていたエアもこの違和感が気になるようで、彼女なりにも色々裏を探っていると語る。それとレイヴンがオールマインドからの依頼を受けた際は、……ケイト・マークソンが僚機だったらしい。

 

 名指しの依頼、直前になって僚機の存在を明かされる。

 なんだかものすごく怪しいぞ。

 本当に一体なんだったんだこの依頼は。

 

 そしてそれより気になることが一つ。

 

 

「ヴェスパーⅨの機体を見たときは仰天したんですけど、パイロットはそこまで悪い人ではなさそうなんですよね。五花海さんにはやめておけって言われたんですけど、俺からしたらあんたの方が大概だって」

<<………………>>

「まぁ、空力を信奉しているような機体は俺も無理ですけど」

<<…………>>

「しかしコアブロックの規格はぱっと見普通っぽかったけど、周りの装甲がないだけであんなに印象変わるものなんですね」

<<…………>>

「あの加速力からするに、コアのジェネレータ出力補正がかなり高いのか?オールマインドの売買リストに載ってくれたらスペック確認できるのに。……V.Ⅸに頼んだら教えてくれそうだな……」

<<……………………>>

「あんな機体にさえ乗ってなければ……。うーん、競合企業じゃなかったら連絡先聞けたんだけど」

<<………………………………>>

 

 何故か、レイヴンが一言も発さないでいることだ。

 

 

「レイヴン、もしかして寝ています?」

<<起きている>>

「えっと、退屈ですよね俺の話ばかりして」

<<………………>>

 

 

 なんだこの無言の圧は。通信越しだというのに真横から睨み付けられているようなプレッシャーが、ずきずきと俺の胃に痛みを齎しながらのしかかる。

 

 

「俺何かしました?レイヴンの気を損ねるようなことをしているのであれば言ってください……」

<<この話は嫌いだ>>

 

 

 レイヴンは淡々と短い言葉で言い放つが、その声色には明らかに苛立ちが見える。理由は不明だが、どうなら彼女の気に触ってしまったらしい。これはまずい、なんとかして機嫌を直さねば。

 

 

「じゃあどうしましょうか?」

<<この前みたいな格好の画像が見たい>>

「この前?」

<<広報の撮影での格好だ>>

「えーっと、旗袍で検索すれば多分それっぽいものが」

<<いや、お前が着た姿が見たい>>

「は?」

 

 

 想定外すぎる要求に思わず声がうわずった。なんと、レイヴンは可愛い服装が好みなんだろうか?俺のような野郎を見て何が楽しいかはわからないが……

 

 

<<出来ないのか?>>

「あれうちの人間の私物なんで、今は手元にないんですよ」

<<じゃあ他のやつでいい>>

「俺個人で女性用の衣服は持ってません」

<<何でだ?>>

「いや、普通は異性用の服を個人的に所有することはないですよ。ましてやルビコン進駐なんかで」

<<普通…………普通……>>

 

 

 彼女は普通という単語を反芻するかのように繰り返した。以前から少し違和感を持っていたが、やはり彼女ら教養というか常識が欠けている様子が見られる。

 ウォルターに飼われれる以前の記憶は無いと彼女から聞いてはいたが、やけに「普通」を気にするところが気になった。

 

 

「衣服というものは基本的に男女の身体的構造に合わせて最適化されています。なので異性用の衣類を身につけることは非合理的なので「普通」は着ません。ただ、資金やデザインのバリエーションなどを理由に異性の衣類を好む人間はそれなりにいますよ。ACで例えるならEN武器が主体だけど適性の低い大豊ジェネを使ったり接近武器を使うのに不向きな腕を使ったりとか、そんな感じです」

<<確かラミーとブルートゥがそうだったな>>

 

 

 うっ!?聞きたく無い名前が!

 別に普通にこだわる必要はないと説明したら、不意にトラウマが呼び起こされ動悸が荒くなる。

 

 

「あ、アセンの相性は大事ですからね!技研FCSは上に持ってかれてしまいましたが、代わりに支給されたベイラムのベストセラーFCSは非常にバランスが良く……」

 

 

 今回の報酬、パーツでの支払いと訊いてはいたが、なんと届いたのはルビコン技研で生産されていた高性能なFCSだったのだ。

 しかしかつてルビコン栄華を誇ったコーラル研究の先端、そこで作られたものが俺個人の下にやって来ることは無く、代わりにベイラムのベストセラーFCSを受け取ることとなった。

 技研製パーツに関心が無いわけではないが、スペック上の数値にそこまで大きな違いは見られなかったので特に不満は無い。ミサイルのロックオン性能が格段に上がったので、じっくり使い心地を確かめるのが楽しみだ。……多くは望まないが、技研FCSと比較する機会も欲しいものである。

 

 

<<お前、アセンの話だと楽しそうだな>>

「そうですかね?」

<<オレもオールマインドから貰った技研のパーツがある。お前が使え、その方が面白そうだ>>

 

 心なしか楽しそうな彼女の声に気を取られ、言葉の意味を飲み込むのに少し時間がかかった。

 それって、

 

「要は……プレゼント?」

<<そうなるな>>

「やったぁぁぁあ!!!絶対装備します!ありがとうございますレイヴン!!」

<<やっぱり面白いな銭塘は。オレは好きだぞお前のうるさいところ>>

 

 

 レイヴンの不意な発言に、俺の心臓は一瞬止まる。

 いやいやlikeであってloveでは無い無い。驕り高ぶるな、冷静に、理性的にだ。

 

 

「で、そのパーツとは?」

<<ちょっと待ってろ。エア、頼む>>

 

 

 すぐに俺の端末に画像が送信された。細長いシルエットだが、レーザー武器だろうか?…………なんだろう、無性に嫌な予感がする。

 

 

「IA-C01W2: MOONLIGHT?」

<<お前ブレード使うだろ?戦い方もそんなに変わらないだろうし悪く無いと思うぞ>>

 

 

 ゆっくりとデータに目を通すが、数字が頭に入るたび身に覚えのある嫌な予感がキリキリと胃を縮めていく。

 

 

<<どうした?嬉しく無いのか?>>

「い、いや嬉しいことには嬉しいのですがね……」

 

 

 これはまずい。

 

 付属されたサンプル映像を見る限り、俺が普段使っているブレードとは似ても似つかない挙動だった。どちらかといえばEN武器の挙動であり、パルスで切り付ける接近武器とは別物。もしかしてジェネレーターのEN武器適正が火力に関わってくるタイプの武器では無いだろうか?

 大豊は実弾兵装を想定した内装がメイン。これでは宝の持ち腐れになってしまう。

 頬が思わず引き攣ったが、顔の見えない通信でレイヴンが俺の表情に気がつくことはない。

 

 

<<前の大豊の依頼で太陽守という兵装を入手した。エアと調べたが、お前の大豊というところだと月とうさぎ、太陽とカラスの組み合わせは縁起がいいらしい。オレはレイヴンで太陽、お前はうさぎで月光。いい組み合わせだろ?>>

 

 今までにないくらい上機嫌なレイヴン。直接その笑みが見れないことが悔しくてたまらない一方、俺の顔は複雑な気持ちでめちゃくちゃだった。

 

 金兎玉烏、ないし白兎赤烏、意味は歳月や月日でそれ以上の意味はないはずだ。おそらくレイヴンたちは汚染されたネットワークで間違った情報を拾ってしまったに違いない。そもそも俺の機体名が月餅なので月要素はすでに存在しているのでこれ以上盛る必要はない。

 

 

「気持ちはありがたいのですが……いや本当に嬉しいんですよ!でもですね、これはちょーっと」

 

 

 遠回しに彼女の親切心を断るため、断腸の思いで言葉を選ぶ。だが、それをレイヴンは許さなかった。

 

 

<<……お前の嫌がることを当ててやろう。G3五花海にこの前のオレの写真を売り捌かれること。違うか?>>

「レイヴン、何をするつもりですか!?」

<<五花海とは連絡をつけてある>>

 

 

 脅しか!?自分を安売りしないでくれ……!というかいつの間に!?

 

 

「わかりました!わかりました!装備します!だから五花海さんだけはやめてくださいおねがいしますから!!」

 

 

「わかればいい」と妙に嬉しそうな声色を最後にレイヴンとの通信が終了した。まさかレイヴン自身を人質にするとは思わなかった。

 雰囲気変わったなぁ。プレゼントだったり俺の弱みに漬け込んだりと、かつて人形のようだった頃が懐かしく感じるではないか。

 

 

「いいこと……なのかなぁ?」

 

 

 彼女の成長?をしみじみ思いつつ、俺は新しいアセンを強引に馴染ませるため、急いでシミュレーターを起動させるのであった。

 

 


 

 

 

 

 

 

「G3、まんまとやられたな」

「私はやめておいたほうがいいとアドバイスしましたのですがね。中立とはよく言ったものです。おかげでしばらく封鎖機構と楽しく踊れますねぇ」

「奴らの掌の上で、か。オールマインドを介した任務は全てアーキバスに筒抜け、そういうことだな?」

「そう見ておおよそ間違いは無いでしょう」

「封鎖機構に対して傭兵を雇えば、此方の状況を読まれてしまう。……チッ」

「なら、ちょうど良いものがこちらに」

「貴様御得意の商売なら間に合っているぞG3」

「いえいえ、後輩が出所の怪しいものを無断で使用していたのでご報告をと」

「G12か」

「ええ、こちらです」

「……暗号通信システムだと?何処のものだ」

「解放戦線のものかと。しかし明らかに改変が加えられています。しかもかなり高度な技量で」

「それは確かなのか?」

「少なくともベイラムには感知できませんので、ご安心を」

 

 




IA-C01F:OCELLUSは、FC-008 TALBOTに交換させられました。
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