それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生!   作:テキサス仮面

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3話目 エンゲブレト坑道防衛

 中央氷原 エンゲブレト坑道

 ここは老朽化したウォッチポイントのひとつであり、隣接するコーラル調査の本拠点となった燃料基地とともにベイラムが占領している。

 内部は改修を重ねているとはいえ、非常に古い。なんでもルビコン開拓中期から利用されていると言う話だ。

 

 そんな古ぼけた坑道の中、俺は底知れぬ不快感に身を震わせていた。

 嫌な疼きが肌を嵩撫でる。遥底からわずかに感じることができる違和感、臓腑が焼けるような痛み。そして不快感によって押し流されそうな意識が叫ぶ。

 

 

「この仕事辞めたい……!」

 

 

 もちろん聞きいられるはずもなし。ここはベイラムがようやく手にしたコーラル採掘場なのだ。

 

 集積コーラルから漏れ出たもの予測されるが、その規模はベリウス地方で見つかった「井戸」と呼ばれるコーラル溜まりと比較できない。

 ただ、コーラルを観測するセンシングデバイスと言う施設の老朽化がひどく、いつ爆発してもおかしくない状態だ。少なくとも俺の体はそう訴えている。おかげでエチケット袋がいくつあっても足りやしないよ! 

 何で他の人間はこんなところで普通に働けるんだ?? 俺がおかしいだけなのか!? 今すぐにでもここから飛び出して退職届をミシガン総長の顔に投げつける妄想で気を紛らわすも、現実化するまで時間はかかりそうに無い。まあ衝動任せの行動による結果なんてもの、想像しなくてもわかりきっているが。

 

 コーラルアレルギーが引き起こす痛みで視界が揺れる中、ふとレイヴンが「センシングデバイスを破壊するとコーラルが逆流する」と言っていたことを思い出した。もう大惨事確定ですねぇ! こんなところで誰も死なせたくないし……俺も死にたくない。衝動的に泣き叫びたくなるが、下唇を強く噛んでグッとこらえた。

 というか何でコーラル観測施設を破壊したんだ? レイヴンの飼い主はどんな依頼を取ってきているんだ? という初歩的な疑問は隅に置いて、嫌々現実と向き合うとしよう。

 

 このルビコンでの争いの原因は、謎大き理想資源コーラル。そんなコーラルがまとまった量で採掘できる重要施設を封鎖機構が見逃すはずもなく、

 

 

<<コード15! レッドガンG12銭塘だ、優先的に排除しろ!>>

 

 

 今日も封鎖機構による凸があるってわけで。飛び交うレーザーを避けながら、俺は敵戦力の侵入を阻むべくじゃじゃ馬のようなマシンガンで弾幕を張った。

 

 この坑道は目的の最大集積コーラルではないものの、星外に持ち出すに値する量が毎日手に入る。なので、最低限の戦力は配備されている。そう、最低限。

 

 最低限なんだよ!! 

 

 しかも戦闘に慣れたレッドガン部隊のMT隊員ではなく、中央氷原という最悪の最前線に回されてしまった不幸なベイラムMT隊員達ときた。採掘に主戦力回せないのはわかるけどさぁ。

 相変わらず強欲なベイラムは本命だけでなく第二第三のエンゲブレト坑道を求め、中央氷原のあちらこちらに手を伸ばしているのだ。

 補給線伸びきってるよ? 二兎追うものは一兎も得ず、過猶不及。ひとまずここと隣接する燃料基地に全力を回したほうが良くないか? 

 文面だけで状況を捉えてるベイラム上層部の脳天気さには空いた口が塞がらない。

 いっそのことベイラムの影で虎視眈々と戦力を温存している賢いアーキバスに転職してしまおうか? という邪念が沸々と湧き上がる。実行はしないけどな。そもそも実行する勇気があるならば、今頃ファーロンとか他所の経済圏でのんびり過ごしてるっての。無言の毒を吐きつつ、慢性化した喉の痛みをゼリー飲料で誤魔化した。

 

 迫りくるLCは高速で旋回し、ばら撒かれたマシンガンの弾を回避する。そして機動性に優れた射撃機体らしい挙動で、俺に向けて何度も引き金を引いた。そして月餅に吸い込まれる様にミサイルが直撃。コックピットが衝撃で激しく揺れ、視界を軽い眩暈が襲った。

 

 ACの倍の巨躯に乗るメインカメラの光が赤い糸を引く。その視線に込められているのは、混じりっ気の無い殺意か。

 

 俺はLCの頭上を取り、マシンガンの雨を降らせた。避けようとするLCをABで追いかけまわす。以前ならエネルギー切れしてたであろうが、今は違う。

 つい先日、ジェネレーターは大豊核心工業集団の中でも突出したEN容量を誇る「三台」へ変更された。重量こそ、長らく愛用してきた「明堂」の二倍に近い。「霊台」なら約三倍だ!持て余していた積載量をようやく有効活用することが出来て、月餅もどこか嬉しそうだ。んなわけないだろうと一人で乾いたツッコミを入れる。だいぶ疲れてるな俺。

 

 自身をいたわりながら俺はスタッガーに陥り足を止めたLCに、新調したばかりのブレードを叩き込んだ。

 緑色の煌めきが空間を切り裂かんばかりの勢いで飛び、LCの胴体を光で染め上げた。

 かつてコーラルの研究に耽っていたルビコン技研の作った兵器。ブレードというよりEN射撃武器に近い特性は月餅のアセンとは組み合っておらず、その真価は十分に発揮できていない。(もちろん俺の練度不足も加えて)それでなおパルスによる斬撃は致命的なダメージを与えるのに十分な火力を持っているようだった。

 

 

<<コード78 応援を要請……いや、コード31C! 助けてくれ!!>>

 

 

 LCの爆発と同時に男の断末魔が耳を劈いた。若い、声だったな。俺と同じかちょっと下ぐらいだろうか? 

 何ぜオープン回線にしたままなのか。勧告が終わったらすぐに切り替えればいいものの。

 

 ……うんざりする。携帯シーシャの煙で誤魔化したくなるが、流石にそこまでの余裕はないので我慢だ。

 腹の底で渦巻く不快感。人が死ぬのも殺すのも気分が悪い。だが、時間をかけている場合ではない。流れ弾が装甲を掠り負荷を積み上げていくのもお構い無しに俺は狭い坑道を駆け抜け、残りのLC機体に突撃する。

 

 

<<くっ……コード31A、2級士長がやられた!>>

 

 

 ヤバく終わらせないとまずい。久々の直感、この前のシュナイダーウーマンとは比較にならない違和感が警鐘として全身を震わせていた。

 奈落の底に落ちて行きたくなる衝動も伴っているが、これは無視でいい。今は重要な事じゃない。

 

 ……すごく、嫌な予感がする。俺は矢も楯もたまらず通信を繋いだ。

 

 

「MT部隊へ通達。可能な限り坑道上層部に集まってください」

<<G12、何故ですか? ベイラムの指示では死守が命じられているはずです>>

「死んで守れるものはありません。早く」

 

 

 ナイルさんのような毅然とした態度を記憶から引っ張りながら、精一杯上に立つものらしい口調で指示を出す。

 この坑道はあまり整備がされておらず、上昇推力が高くないMTでは移動すら困難だ。何かあってからでは間に合わない。

 それにこの坑道が襲われているということは、隣接する燃料基地も同時襲撃されていることを意味する。現に撤退命令を受理してもらおうにも、通信システムからは断片的なノイズばかり返ってくるのがその証拠だろう。

 責任は俺が負うしかないと腹を括った俺は、MTパイロット達に撤退命令を出す。先ほどよりもずっと強い口調で、だ。

 

 恐らくこの戦闘の衝撃でコーラルが溢れ出る。これだけは確信を持って断言できた。

 

 

<<MTが移動を始めた? 一体何のつもりだ>>

「アンタらも早く出たほうがいい。俺は炭鉱のカナリアみたいなもんだからな。当たるぞ?」

<<迷いごとを>>

 

 

 LCから響く女性の声がばっさりと俺の警告を切り捨てる。

 心外な。これは俺の本心からの言葉なのだが、真面目な封鎖機構が耳を貸すはずもない。

 LCから放たれたグレネードの衝撃が盛大に響き渡った。仕方ない、戦闘続行。

 シールド持ちLCにはミサイルが一番だ。食いやがれと何度も俺の窮地を救ってくれた頼もしい2連高誘導ミサイルを撃ち放つ。

 

 

<<あまい!>>

 

 

 何かが煌めき、順調にLCの脇を目掛けて飛行していたミサイルが爆散。そのまま煙を潜り抜け、LCはこちらと肉薄する。

 

 しまった! フレアか! 

 

 成功体験に基づいた自信がいかに危ういものか、知識として理解していても実際に体感すると心底肝が冷える。「パニくるな」と有名な言葉を慌ただしい俺自身に向かって言い聞かせ、息を整える。ヒッチハイクの予定はないのでタオルは持っていないがなんとかなる。というかなんとかするんだ。

 

 LCは「軽騎兵」の名に恥じない軽快な動きを持って、狭い坑道を駆ける俺を追う。

 不味い不味い、どさくさに紛れて撤退のだがこれでは引き離せないでは無いか。迫る危機感に肌を震わせ、俺は短期決戦に持ち込むべく以前よりも格段に向上したロック性能をもって短い間隔でミサイルを放った。

 次はフレアに惑わされなかったものの、LCは複雑な地形を用いて弾道を妨害。

 だがそれは俺にとってチャンスでもある。月餅はABをもって距離を詰め、ミサイル回避行動をとったLCに大豊自慢の重量を乗せた蹴りを喰らわせ、泣きっ面にもう一発!とロックが決まらないうちにリロードが済んだばかりのミサイルを放つ。

 

 

<<なっ!?>>

 

 

 ミサイルはまっすぐ進み、正面に直撃。ミサイルをノーロックで当てに来るとは思わなかったようだな。

 回避の間に合わなかったLCには、決して少なくないダメージが累積しているはず。

 

 後は畳み掛けるだけだと俺はブレードを起動させた。しかし、手の異様な震えにより動作がわずかながら遅れてしまったためLCは射程外へと姿を隠してしまった。

 大人しくしていてくれよ!こうしている間にも危機感が戦意を揺さぶり、警鐘が恐怖を煽る。なんであんたらにはわからないんだ? このままだと──

 

 

 

 突然生まれた思考の空白。その時、何かが壊れる音が耳元で聞こえた気がした。

 

 

 

「全員上に上がれ! 焼かれたくなきゃ早く!」

 

 

 弾かれるように俺は口を開き、喉が擦れんばかりの大声を広域放送の電波に向け叫んだ。

 それと視界が赤く染まり、振動が坑道全体を揺らしたのはほぼ同時だった。激しい痛みによってなんとか繋ぎ止められてる意識は、思考よりも早く現状を理解する。

 

 行動の底から轟音と共に光が溢れた。

 

 コーラル流出だ。

 

 旧型デバイスが勝手に壊れたのだろう。元々老朽化が進んでいたものだ、こればかりは必然。

 しかし視界を埋め尽くす赤い逆流はあまりにも多すぎる。あらゆるものを押し流そうとする強大な力は、まさに津波や海嘯のようだった。

 しかも、これは単なる水ではない。

 この坑道の至る所に打ち捨てられた旧時代の鉄屑が赤い光を被った途端、飴のように溶けていく様子に思わず息を呑む。

 高濃度のコーラルは金属を浸食するという特性をエアから聞いていなければ、この光景だけでパニックを起こしていたに違いない。

 未だ姿を見ることが叶っていない知人に感謝しつつ、俺は新たな敵影を知らせるマーカーを視線で追った。

 

 

<<コード23 現着。目標ACを確認! だがこれは……!?こいつが何かやったのか……!?>>

「やってねぇよ!?」

 

 

 思わずオープン回線でツッコミを入れてしまうが、そんなことやっている場合ではない。

 戦場に新たにLCの重武装版のような機体が現れたのだ。あれは惑星封鎖機構の執行機体、通称HC。こんな状況だというのに封鎖機構の増援が来てしまったのだ。実に間の悪い……!しかも情報と兵装に違いがみられる。もしや新型HCか? 

 

 

<<G12銭塘! 何が起こっている!? 先ほどの震動は一体…… 状況を説明しろ!>>

「コーラルが逆流してるんですよ!!」

 

 

 レッド先輩が通信の向こうで叫んでいるが、今はそれどころではない。目の前の敵をどうするべきか? 先程の手強いLCに新たなHC機……、平時でも勝つのはちょーっっと厳しいかなぁ!? 

 

 

<<コード31C! システムの判断は!?>>

<<「続行」 ……この状況で……!?>>

 

 

 あいも変わらず開きっぱなしの回線から、ベイラムもそこまでは言わない残酷な指示を受け絶望を滲ませた声が流れてくる。どこも人の命がすこぶる軽いな。俺はベイラムMT全機が撤退完了したことを通信で確認し、腹を括る。

 

 

「アンタら! 逃げる俺を追って「続行」しろ!」

<<……っ!?>>

<<こんな状況で貴様らなぞに……!>>

<<少尉、システムの指示に従い「続行」しましょう>>

 

 

 声が聞こえなくなるとウロウロと戸惑いを見せていた封鎖機構の機体は、俺の後を追い真っすぐに上昇を始めた。一か八かやけっぱちに叫んでみたが、どうやら意図が封鎖機構の連中に伝わったらしい。先頭を駆けるのは例の女性が駆る手強いLC。俺の意図を真っ先に汲み取ってくれたのも、おそらくはあのLCパイロットだろうか。

 とにかく助かった。戦闘は回避できたし、コーラルに誰かが呑まれる通信を聞かなくてすみそうだと少しだけ胸が軽くなる。

 だが遠足は帰るまでが遠足だとミシガン総長が言っていたではないか。寧ろここからが正念場だ。

 

 脱出を急ぐ間にも坑道全体を震わせ次々とコーラルが噴き出し、俺の意識が焼かれていく。

 気を失いそうになるたび、痛みが強制的に俺を引き戻す酷いループが繰り返す。吐きそうとかそんな可愛いもんじゃない、物理的に精神が焼かれているような痛みに殺されかけながら生かされていた。

 

 時が止まったかのような薄暗い坑道内は、今では鮮明な赤色で満ち静謐と暗闇は駆逐された。活性コーラルが何らかの影響を与えているのか、普段よりもずっとエネルギーの減りが遅い。これなら上昇推力がお世辞にも高いとは言えない月餅でも、ABでこの竪穴を上り切ることが可能だろう。なんとか地上に出られるはすだ!

 そう、俺は少しの安堵感から気を抜いてしまった。

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 間抜けな声が、喉から抜けた。

 

 腕に力が入らない。視界の周りから光が消え黒く染まっていく。

 意識が、まとまらない。上昇したいのに、やり方がわからない。何故だ。

 体が冷たい。全身が氷水に浸されたかのように熱を奪われ、奥歯の震えが止まらない。なのに、熱い、痛いと叫びたくてたまらなくなる。

 いや、とっくの前から叫んでいるのだが、喉が潰れて掠れた息しか出でいないのだ

 

 

 気がつけば、赤い光がコックピットを染め上げていた。

 

 

 意識共々荒れ狂う海嘯に呑み込まれ、四肢がバラバラに砕け肺の中を燃える水が満たす。まずい。何だかわからないが、これはまずい。警鐘が頭蓋を揺らすように鳴り響くが、最早正常な思考は保てない。

 

 

 

 

 腕はどこだ? いや、腕とはなんだ? そもそもここはどこだ? 俺は……『俺』? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<何をしている!?>>

 

 

 微かに声が耳を掠め、次の瞬間機体が衝撃を受け盛大に揺れた。その強烈な振動に全身を座席に酷く打ち付け、思わず舌を噛んでしまった。

 口内に広がる鉄の味と新鮮な痛みは、いつのまにか俺の意識を赤い海嘯から掬い上げていた。

 

 

<<こんなところで寝るとは、貴様正気か?>>

 

 

 重い瞼を持ち上げ、ノイズで軋む視界をなんとか頭に入れる。

 

 暗い……?

 

 一瞬理解に苦しんだが、俺は気付け薬代わりに口内に溜まった血を飲み込んで、ノイズの弾ける視界を見開き状況を整理する。

 

 視界全体に装甲損傷が激しいLCの姿。

 どうやら推力を失っていた月餅は、LCによって逆流するコーラルの波から引き摺り出され命拾いしたようだった。

 

 そのままLCに引率される形で縦に長い坑道を登り切り、なんとか脱出に成功した。

 撃墜寸前まで戦った機体に救われるとは、俺の悪運はなかなか強いらしい。

 だが、ろくに動かない機体と体では投降するしか無い。せめてMT部隊は見逃してくれと俺は回線を繋げようとしたが、先に口を開いたのは俺を助けてくれたLCだった。

 

<<システムに報告しなければ>>

 

 淡々としているがヤケにわざとらしい口ぶりで、それ以上追求することなく封鎖機構は生存機を集めて撤退していった。……見逃されたのか?

 とにかく助かった。どうやら今日の俺は運がいいらしい。いやよく無いわ。良かったらコーラルの波に巻き込まれないでしょうが。

 

 

<<た……助かったのか……?>>

 

 

 封鎖機構が去ったことを確認したのか、撤退済みのベイラムMT部隊が物陰から顔を覗かせる。

 

 

「らしいですね、……多分」

 

 

 その光景を最後に、俺の意識は暗転した。

 

 

 

 次に目を覚ました時、俺はルビコンで二番目*1に番寝心地の良いベッドの上で激痛に叫び、すぐに気を失うこととなったのだった。

 

 

*1
もちろん一番はレイヴンの膝上である




坑道破壊工作ベースの新型機体鹵獲阻止ライト版
 
執行1級士長と執行2級士長の搭乗機体が逆になっていますが気にしないでください。
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