それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生! 作:テキサス仮面
どうも、ただいまベリウス地方の大豊基地で療養中のG12銭塘です。全身痛くて死にそう。
先日の坑道防衛で新型を含めた封鎖機構との戦闘時のコーラル奔流によってベイラムはエンゲブレト坑道を泣く泣く破棄を決めた。以降も残った拠点で連日封鎖機構との戦闘を繰り広げている。
どうやら例のオールマインド依頼の強行偵察で、ベイラムは封鎖機構のヘイトを買ってしまったようだ。おのれオールマインド。
そんなもんでベイラムの補給基地こと大豊には資材をよこせという連絡が引っ切り無し。特に今日は尋常じゃ無いくらい大騒ぎになっていた。
なんでも大規模反抗作戦を同時展開するのだとか。レイヴンもその作戦の一環として、封鎖機構に制圧された壁を取り戻しに行っている。大丈夫だとは思うが、5体満足で帰ってきて欲しいものだ。
しかし、この後に及んでアーキバスに動きらしい動きが見えないのが気がかりである。ベリウス地方ではベイラムと解放戦線の潰し合いを助長していた可能性が高く、戦争の舞台が中央氷原に移った今は封鎖機構と上手いことぶつける算段に違いない。
しかも真相は不明だが、オールマインドがアーキバスに加担ないしはベイラムの弱体化を狙っている可能性も先の直接指名依頼の件を受け浮上してきた。
ミシガン総長と五花海さんの懸念が外れていることを祈れるほど、俺は能天気じゃ無い。投資するならアーキバスですよね、はい。
嵌められたとはいえ、ベイラム劣勢の原因を作ってしまった俺も防衛に向かいたいのは山々だったが、ドクターストップが出ている以上は動きようがないので、おとなしく怪我の治療に専念することにした。……のだが、これがもう滅茶苦茶つらい。
何せ致死量に値するコーラルを機体越し尚且つ一瞬とはいえ浴びてしまったのだ。最初のうちは四六時中耳鳴りと吐き気が止まらず、寝ることもままならなかった。
アレルギーなら根幹的な治療はともかく薬で症状を一時的に鎮められるはずなのに、コーラルにはそれがうまく通用しないときた。
先生は治療の間色々と調べていてくれたみたいだが、これと言って成果はないらしい。本当にアレルギーなんだろうか……。
レイヴンの見舞いが無ければ、そのまま退職願を書き始めていただろう!
それに、せっかくこちらに戻ってこれたというのに、体が食事を受け付けない。なんという悲劇だろうか!!
コーラルの奔流に焼かれかけて、五体満足で生還できただけで優秀?新型LCとHC相手にしてよく立ち回れた?配備されていたMT全機生還は誇っていい?そうですね、そうですね!
体の内側から絶えず火に炙られているような痛みを引きずりながら、ベッドで喘ぐ日々を味わうといい。
「でも、水はいけるんだろ?酒でも飲むか?」
「アルコールアレルギーなんですけど!?」
特にお前!俺の隣でひたすらひまわりの種を喰らってる同期の涇河、お前だよと無言で呪詛を贈った。見舞いっていつから拷問になったんですか??
「アレルギーって免疫の過剰反応のことだろ。アルコール分解できない体質はアレルギーじゃ無くね?」
「俺に聞くな」
「まぁ酒なんてもんより気持ちよく酔えるものがあるうちは味なんか知らなくていいからな。正義とか夢とか……女とかさ」
「そんなものでどう酔えと?」
「お前毎日酔ってるだろ、童顔同士お似合いじゃん。制服デートとかいけるんじゃねぇの?てかホテル入れる?」
「とりあえず殴っていいか?」
俺とほぼ同い年のくせに、やたら年長者風を吹かせる涇河を叩き倒し取っ組み合いまで発展。先生がすっ飛んでくるまでにヒートアップした結果、入院期間が延びました。
やるもんじゃないね、マジな喧嘩ってやつは。
ACというものはおおよそ15M前後ある。そんな巨大な兵器が無数に歩き回るもんだから、必然的に戦場も拡大していく。人の生活圏を超え、無数の荒野を墓場に変えていくのだ。
大豊標準機体をベースにした月餅は大抵のACより頭ひとつ分低い故に、戦場においてはMTの如く小柄に感じてしまう。
しかし、ガレージで人の視線から見上げるとなると話が変わる。重厚なパーツバランスも組み合って圧巻させられるものだ。
俺はこんなものに乗っているのか?まじまじと見つめるほど、狭いコックピットと巨大な機体が結び付かずあまり実感が湧いてこない。
分厚い装甲をまじまじと見つめていると、足元から忍び寄る冷気が背筋を震わせた。
やはりどこのガレージも外気の影響を完全に防ぐことはできないものか。人間誰しもが持つごく自然な生理反応は、無理やり動かせるようになった体に追い打ちをかける。
俺はレッドガンの上着を羽織っただけの軽装で出歩いたことを酷く後悔した。
宇宙開拓が当たり前になった現在では、人類の生活圏が地球内の身だった頃に比べ各種技術は比べることが出来ないほどに向上した。治療もその分類から外れることなく、高密度コーラルのもつ莫大な熱量に焼かれた体は半月もしないうちに自力で起き上がることを可能にさせていた。
リハビリをしたいと医者を説き伏せ、なんだかやけに落ち着かない気分を晴らすべく基地内を散策していたのだが、虚勢を張って痛み止めを貰わなかった選択の報いがここにきて俺を苦しめる。
痛みのあまり自分の体を支えることすら困難となり、ずるずると月餅に寄りかかる様にして座り込んでしまった。しかし冷たい金属の床は冷気を直に伝えてくるので、身が凍えて仕方がない。そして寒さに抗おうとする身震いは、全身の痛覚を揺り動かすのだ。
酷い、地獄だ。
勤務していた整備士が見つけてくれなければ、翌日激痛で顔を強張らせた死体がガレージの床に転がっていたに違いない。
感謝の言葉を震える口で伝えたら、軽くゲンコツが脳天に降ってきた。
理不尽である。
「お前さん相変わらず無茶な戦い方するな」
雑に渡されたジャンパーに包まる俺を、年配の整備士はその険しい顔つきを一層歪め睨みつけた。彼とは初対面ではない。パイロット訓練生時代からお世話になっている大ベテランの方だ。以前のブレードの展開時推力を用いた移動方を多用して雷が落ちたのが記憶に新しい。ブレキャン移動はブレードが負荷で爆発するのでやめよう!
「敵が強いんですよ」
「相手は関係無い。おまえ自身の問題だ」
彼は俺たちの乗る整備台を移動させ、コアの付近で固定した。
「推進力任せの突貫紛いの近接戦闘ばっかりしやがって、死にたいのか?」
重厚なコアにできた凹凸を手の甲で叩きながら、歴戦の整備士は俺の猪突を諫める。
別にそんなつもりはないと言い返すが、彼は怪訝そうに眉間の皺を深めたままだった。
「すんませんね、こいつ最近こんな感じなんですよ。キツく絞めといてください」
「何でいるんだよ涇河」
その顔が視界に入った瞬間、俺は脊髄反射でツッコミを入れていた。
なんといつの間にか現れた涇河が、整備士の背越しに生意気な笑みを向けていたのだ。奴は俺と視線が合うなり、そのムカつく笑みをより一層主張させる。
「お前は抱え込んで爆発させるタイプだからな。人様に迷惑かけないよう、見張っておこうって思ってな」
「お前のせいで爆発しそうなんだが?」
奴の軽口に、今にも頭の血管が爆ぜてしまうような気がしてやまない。
「そんなに気負うなって。適度に発散しておけよ」
「戦友を埋める時に感情まで埋めるなって?お前もついに俺のおすすめSFを読んでくれたのか!」
「何それ知らん」
「ぬか喜びっ」
盛大に乗りツッコミを叫び、激痛が再び全身を走った。
これはまずいぞ、さっきよりも痛い。強い痛み止めがなければ睡眠すらままならないくらいものすごく痛い。焼かれた皮膚もそうなのだが、何より皮膚の下を何かが這う様な痛みが、電撃が神経を直接登ってくるような感覚が不定期に俺を苦しめる。発作か?
それでも影に問う罔両のような気分から抜け出せたのは幸いだった。もう二度と寝たきりの日々を過ごしたくないものである。
激痛に耐えかねあわれに呻く俺を憐れんだのか、涇河は笑みを止めると懐から取り出したものを俺に投げてよこした。
「見るに耐えねえから、痛み止めやるよ」
投げ渡されたのは、携帯シーシャ。中身が見えるデザインのようで、宝石のように輝く透き通った赤いリキッドが容器内で波打った。
そして、慣れ親しんだ吐き気を伴う不快感が、手からじんわりと広がり……俺は叫ぶ。
「こんなもの使えるか! コーラルドラックじゃないか!?」
涇河の神妙な表情はすぐに剥がれ、見飽きた憎たらしい笑みをニマニマと見せつけた。
こいつ、俺の反応を楽しんでやがる!
あとで先生に突き出してやると、証拠をジャケットのポケットに放り込んだ。
こんにゃろう、後で痛い目に合わして……
その時、ピリッと電気が体を走ったような違和感が全身に走り、反射的に体が振り向いた。
なんだ、これは?
懐かしいようで、初めてのような感覚
涇河は何も言わずに怪訝な視線を向けてくるが、そんな事どうでもいい。
まずい、まずい、まずい。
嫌な予感がまさしく的中し、けたたましい警報が空気を揺らした。同時に何処かで轟音が響く。それに続くように小規模な振動が俺たちを揺らした。
「なんだぁ!?」
「うっわ、襲撃かよ」
息もつく間も無く再び鈍い振動が腹の底に響き、驚く二人の隣で俺はキツく下唇を噛んだ。単に重傷だから体調が悪かったんじゃ無い、虫の知らせだったのだと今頃になって気付かされた。
この振動、防衛ラインを突破されたか!?ということは、侵入を許したということになるだろう。
焦燥感に背中を押され、今すぐ動きたくなる衝動に襲われる。
……待て待て、周囲に非戦闘員が居る状態でACを動かすわけにはいかない。15mの巨大で歩き回れば人間なんて簡単に踏み潰せてしまうし、ブースターの熱は空気を焼き焦がしてしまうだろう。周辺にいるはずの二人に退避を促すべく、俺は声をあげようとした。
「って、お前何やってんだよ!?」
驚愕が口を衝いて出る。
なんと涇河が格納庫の隅に配置された四脚MTに乗り込もうとしているではないか。
「柔軟な対応ってやつよ!緊急事態だしな!」
「お前動かせるのか??輸送担当だろ!」
「模擬戦はお前とほとんど変わらない点数だったんだぜ?覚えちゃいないか?随分偉くなったもんだ」
「だけども!」
「やれるならやれるだけやるんだよ!ダメだったら死んだ後に後悔するだけさ。何も問題ねえよ」
俺は不安を無理やりねじ伏せたような声色の涇河に少し気圧される。
チラリと背後に目をやると、「何かあれば俺が責任を取る」と歴戦の整備士は無言で頷いた。
「……支援を頼む」
頼みたくなどない。奴とはあまり仲が良くないし、借りなんて作りたくない!と気が進まない。
しかし今はどう考えても緊急事態。いちいちこんなことで悩んでいる場合ではないと、俺は腹をくくった。
「別に俺がやっても構わないだろ?」
「支援をやれ!」
こんな時までふざけんな!
俺は生意気に笑う涇河を怒鳴りながら、整備台を蹴って月餅に乗り込んだ。
座席に体を打ち付けながら慣れた手つきでシステムを立ち上げる。
メインシステム起動とCOMが淡々と声を発し、装着したデバイスによってACの視界と俺の視界がリンクする。15M前後のAC、それが今の自分の体だ。もう生身じゃない、無力じゃ無いという感覚がパニックを少しずつ退け思考をクリアにしていく。視界投影の痛みにすら安堵感を覚えた。
よし……!
整備士が避難したことを確認し、俺はブースターに火を入れた。
っ……!体を軋ませる重圧に思わず舌を噛んだ。パイロットスーツ無しでの圧はボロボロの体に堪える。
室内、しかもACでの戦闘を前提としていない場所での行動だ。似たような状況を想定した訓練は何度か体験しているが、実践は別物。下手に移動するだけで大豊の同胞を巻き込みかねない。
最新の注意を払うよう涇河に呼びかけ、俺を先頭に移動を開始する。補填要員とはいえレッドガンに入れるような奴だ、今のところ涇河の動きに問題は見られない。
「後方に敵影は?」
<<今のところ無い。アイツら腹でも下して勝手に帰ってくれねぇかなぁ>>
「うちの警備が撃退してくれるとは思わないのか?」
<<全滅する方にレーションを賭けるわ>>
酷い言いようだが正直なところ否定しずらい。日頃から解放戦線やドーザーとの小競り合いが続いているが、ここまで攻撃を許したことは無かったはずだ。楽観的な考えた捨てた方が身のためだろう。
互いにセンサーに意識を置きつつ、先を急ぐ。道中見かけた職員は避難用シェルターへ避難を呼びかけ、パニックに陥っていたガードメカのパイロットを宥めたりするうちに、「嫌な予感」が吐き気を伴いやってきた。
不意に閃光が視界を奪い、続いて爆音が耳を劈いた。耳と目にダメージを受けパニックを起こしそうになるが、理性をかき集め俺は咄嗟に叫ぶ。
「ドーザーだ!多分!」
<<なんだよ多分って!?>>
「感覚的にコーラルまみれの連中なのは確定だ。ただ、解放戦線っぽくは無い!それだけ!」
<<まぁ、解放戦線なら大人しく降伏して食料差し出せば最悪命は助かるからな。最悪を想定するのが一番ってか!>>
言葉を交わしたおかげで頭が真っ白になる前に意識を取り戻すことが出来たのが幸いだ。一人だったらどうなっていただろう、考えるだけで背筋が寒くなる。
爆炎の向こう側で火器を携えた人影が揺らめいた。予感的中、いよいよ敵のお出ましだ。
涇河は四脚MTを大きく後ろへ跳躍させ、月餅の射線から外れた。逃げたわけじゃ無い、居ると邪魔なので退いてもらったのだ。
スキャン完了、熱源探査では生体反応は機体外に視えず。安全を確かめ、俺はずいぶん慣れた引き金に手をかけた。
我が大豊核心工業集団の開発したマシンガン「常陳」は、弾薬が多く弾がばらけやすい仕様になっている。強敵相手には取り回しが悪いが、有象無象を相手にするには適していた。当に今のような状況にうってつけ。味方への流れ弾さえなければ、この製品はベストセラーを目指せるだろう!
俺はじゃじゃ馬のように暴れるマシンガンの振動を全身で感じながら、這いずり回るドーザーのMTを蜂の巣にしていく。
しかしレーダーから敵の存在を知らせる赤色が消えることは無い。機体を回し敵影を確認。後方からわらわらと虫のように現れたMTにも、マシンガンを浴びせた。この独特なシルエット……たしかRaD製のものか。
「涇河!」
<<わーってるって!>>
涇河は四脚MTのグレネードキャノンでドーザーをまとめて吹き飛ばした。ただえさえ火力の高い兵装をこんな閉所で放てばどうなるか、身をもってドーザー共が教えてくれる。9連キャノン式じゃなくてよかったよ本当に。
俺もマシンガンの長いリロードの間、前方から引き続いて殺到する敵を大豊自慢重量級の機体にものを言わせ蹴り飛ばした。
敵の規模がわからない以上、弾数に縛られないブレードを使いたいところだが、このパルス衝撃波を飛ばすタイプに俺が慣れ切っていない以上、味方を巻き込む危険が高すぎる。相棒同然の高誘導ミサイルと同じく使い所を考えなければ。
死角にドーザーの気配を感じた刹那、俺の体は思考よりも先に行動に移っていた。壁を蹴り大きく速度をつけ敵機の上空へと飛び上がり、マシンガンが吠える。
どうやらウチの四脚MTを狙っていたようだが、敵の凶弾は目標を掠めることなく爆散した。
<<こりゃ九死に一生ってやつだな?一生宝くじ当たらなさそうで怖いぜ>>
涇河はカラカラと笑うが、声色から滲み出る疲労は隠せない。無理をしているのは明らかだった。実践経験の少なさが響いてきているのだろう。俺にも心当たりがある。いくら腕に自信があろうといくら練習を重ねようとも、死線を潜る恐怖感は実際の戦場でしか学ぶことができないのだ。
しかし俺も普段の6割にも満たない体調での長期戦は無理だと体が訴えている。これ以上は唐突な意識の喪失もあり得るだろう。
一刻も早くこの襲撃を鎮圧しなければと、見えない戦いに焦燥感だけがただただ募る。
俺は状況が一変しないかと、祈るように操縦桿を握り締めた。もちろん良い方向へと、だが。
そんな俺の願いが届いたのか、突如として耳を割く高音が鳴り響いた。
──え?
視界から、何かが消えた。
蝋燭の火を吹き消すように、あっけなく。
よく見ろ。現実を認識するんだ。霞む視界を凝らせば、それが消えたのでなく移動しただけだと分かった。
涇河ののる四脚MTが蹴り飛ばされたのだということに気がつくまで、一呼吸要した。
そしてよく聞いた高音が、耳障りな騒音が、唸りをあげる。
四脚MTの装甲はACに劣らず重厚。なのに、薄紙のように引き裂かれた。
<<……もしや、あの時のご友人ですか?>>
凶悪な獲物を引き戻す動作が、首を傾げるようなしぐさと見間違う。
<<お久しぶりです。見ない間に随分と頼もしくなりましたね!>>
嫌だ。
<<今日は急な依頼でお邪魔しています>>
嫌だ。
<<そういえば、レイヴンは……いらっしゃらないようですね。彼女にもお会いしたかった……>>
嫌だ。
その声が、悪夢に触れる。
「ブルートゥ……!?」
<<はい、ご友人>>
悪夢の中から現れた男は気安く親しげに、さも本当の友人のように俺の呻吟めいた叫びに応えたのだった。