それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生!   作:テキサス仮面

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2話目

 大豊。

 正式名称、大豊核心工業集団。

「樹大枝細」というコンセプトを掲げる、宇宙でもそれなりに大きい企業だ。

「樹大枝細」ってのは、中心はしっかり先端は最小限という意味で、決して胸は豊満で手足はスラリという意味じゃないし、思っても口にしてはいけない。

 

「おぉ、大豊娘娘……」

 

 俺の横に座るAI製のグラビアに鼻の下を伸ばしている医者のようになってはいけない。これでも大豊ルビコン支部の医療部門の主任というのだから驚きだ。

 

 先日のテスターAC輸送任務失敗から早1日。

 大豊ルビコン支部の医務室のベットは、タコ部屋宿舎のものより柔らかかった。

 

 幸いにも九死に一生を得た俺は大豊のルビコン支部で手当てを受け、こうしてルビコンに来てから一番寝心地の良いベッドに横になることが出来た。

 先生の話によると、先の戦闘の最中にレイヴンの雇用主がレッドガンに連絡を入れ、近くを巡回していたレッドガンのG2ナイルさんがMT部隊を連れて駆け付けたということらしい。護衛を務めてくれたレイヴンにも頭が上がらないな……。

 

 襲撃者の名は、RANK 26/E ノーザーク。及び08/B オーネスト・ブルートゥ 。

 相手はルビコンで主流の傭兵雇用システム内のランカー、しかも2人。ランクが低いといっても、無数にいるルビコンで活動する傭兵の上澄。RANK 30/Eのレイヴンならともかく、よく生き残れたな俺……。

 あの気持ち悪さを伴った直感がなければ、今頃ベッドではなく棺桶に横たわっていただろう。

 先生曰く、俺はコーラルに過敏に反応する体質の可能性があるらしい。コーラル漬けのドーザーを察知する体質? 嬉しくないなぁ。

 

 目由来の吐き気を堪えながら、寝違えた首筋を揉む。

 ACの視界投影が合わなかったのか、眼球周りがすこぶる痛い。十分な睡眠を取ったはずなのに、疲弊し切った目は霞んで頭痛と吐き気を呼び込んでいる。

 強化人間になれば投影も眼球上からでは無く、脳に直接送ってくれると聞くたびに手術を受けたくてたまらなくなる。

 

「なぁ、先生。俺も強化人間になれないかなぁ?」

 

「人権と引き換えだよ」

 

「今もあってないようなものでは?」

 

「全然違うよ! 正式な企業の社員と道具でしかない強化人間じゃあ住める世界が違うんだ」

 

 えぇ〜、本当でござるかぁ? と怪訝な視線を医者に向けると、スッ…………と目を逸らされた。

 人の野心は人の価値を超えてはならないってことですねはいはい。

 医者との会話を切り上げ、見舞いに来た同期が置いていったパック入りひまわりのタネを頬張る。

 

 強化人間、レイヴン。

 

 あの丸っこい機体に乗った傭兵は無事なんだろうか? 

 手に取った通信端末を睨み、真新しい連絡先を無言でなぞる。

 

 膝上に吐瀉物をぶちまけた挙句、咄嗟に連絡先を交換するとか俺最低だよ……。

 思い起こされる醜態。何やってんだよと自責に苛まれつつも、よくやったと背中を叩く自分がいるのがもどかしすぎる。

 しかし、自分を守ってくれた人が可愛らしい女の子と来た。

 古典SF作品では定番の展開に、テンションの上がらない男はそうそう居ないだろう。

 強化人間であることは、まぁ人生人それぞれだ。

 きっと理由があるのだろうと、アドレナリンの抜けた頭は理性で溜飲を抑えつけた。

 

 まぁ、俺がMT部隊に配属されたら……次会うのは戦場だろう。

 敵対したくないが、こればかりは仕方がない。

 ざっくりうちのデータベースを調べると、ベリウス南部グリッド135に展開していた我が大豊MT部隊は彼女の手により壊滅しており、アーキバスの手に渡ってしまったという事実が淡々と並んでいた。

 彼女はあくまでも独立傭兵。今回はたまたま護衛任務を引き受けてくれただけであり、次会うときは殺しにくることだってありうる。

 やだなぁ、勝てる気がしないし撃ちたくないなぁ。

 

 だが、殺されるなら彼女がいい。敵対するにしても、あの火炎放射器使いよりずっと良い。

 あのゾワゾワする、完全に見えてる世界が違う男なんて2度とごめんだ!! 

 

「いててて……」

 

 心の中で絶叫した影響か、ヒビの入った肋骨がまた痛み出した。目も首も肋骨もぼろぼろ。

 真人間たる証の痛みに耐えかね、俺は呻き声を漏らす。

 俺以上に重傷そうに見えた彼女は大丈夫なのだろうか? 

 吐瀉物ぶち撒けという苦い記憶と、いつか敵対するかもしれない独立傭兵への連絡に躊躇いはあったものの、結果として関心を抑えられるほどではなかった。

 

『独立傭兵レイヴン。今回の護衛任務、ありがとうございました。俺個人からも礼を言わせてください。後、貴女のパイロットスーツを汚してしまってすみません……』

 

 出来るだけ簡素かつ明確に。詰め込みたい気持ちと争いながら通信端末に声を吹き込んだ。

 

 返事が返ってくるとは思わない。だが、礼を直接伝えなくては気が済まない。

 単なる自己満足でしかないが、これだけはやっておかねば。

 送信が完了したことを確かめ、通信端末を雑にベッドの上に転がした。

 恥がぶり返してくる前に、別のことで思考リソースを埋めよう。

 

 そういえばルビコン産ミールワームは何を飼料にしているのだろう? ベイラムへ向けたACの輸送任務という大仕事に向け、気合いを入れるために同期に勧められるままノリで口にしたが……。

 ミールワームは人類の宇宙進出の歴史と長く付き合ってきた家畜。

 育成期間もコストも低く、あまりにも当たり前すぎて飼料に何を使っているのか気にかけたことがなかったが……まさか……コーラル……? 

 

 これ以上はやめよう。味は良かったのでそれでヨシ。ピリピリのパチパチと新しい感覚が中々だった。

 うん、考えないでおこう。吐いたけど。

 

 何故か背筋が寒くなってきたのでシーツに包まろうとすると、ベッドに振動が伝わった。

 

「ん?」

 

 震源は手放したばかりの端末。

 亡き両親と職場、そして手にしたばかりのレイヴンの連絡先ぐらいしかない端末にメッセージが入っているではないか。

 生成AI技術の普及と共に手の負えなくなった迷惑メールか?

 排除設定強めにしてるからそうそう来ないのだけど、と首を傾げながら画面をタップする。

 

 …………? 

 

 なんだろうこれは。目が滑って内容がなかなか飲み込めない。どうやらうまく頭が回っていないようだ。

 医者に端末を押し付けて普段より肌割りの良いシーツを頭から被って外気をシャットアウト。

 寝よう。ちゃんと寝よう。

 

「え、ちょっと待って。ちょっと待って」

 

「なんですか先生。推しアイドルの隠し児でも発覚したんですか?」

 

「現実のアイドルとかナイワー……って違い違う! キミ! ちょっと! ちゃんと読んで!!」

 

 驚愕に目を丸くする医者にシーツをひっぺがされ、端末を顔に押し付けられる。

 

「キミ! レッドガンに転属だって! しかもAC、番号付き!! 聞いてるかい訓練生くん!?」

 

 

 

 聞いてません。

 

 

 

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