それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生! 作:テキサス仮面
それは、ヒマワリに似ている……かもしれない。
ダムの分厚い氷をものすごい勢いで削りながら、悪夢から飛び出てきたような兵器がこちらへと向かってくる。なにこれ? ふざけてるの? 誉とは?
「まさかあの時鹵獲したのか? 気をつけろヘリアンサス型だ!」
「ハンドラー・ウォルター! あのふざけた兵器のことを知っているのか」
「技研の無人兵器だ。以前ストライダーを襲撃した機体を回収したのだろう……解放戦線の技術も侮れんな」
レイヴンの飼い主の声色には微かながらも動揺が滲んでいる。技研、確かかつてルビコンで活動していた勢力とは耳にしたことはあるが、あんなものを作る変態集団だったとは。滅んで当然か。
「カビの生えた技研の遺産だ! そんなものに後れを取るなよ役立たず共!」
解放戦線によって投入されたヘリアンサスとかいう無人兵器は全部で3体。
いずれも見たこともない軌道で、元気よく戦場を駆け巡っている。ここは地獄か?
うぅ……、また以前のような不快感で胃が捩れそうになってきたではないか。
なんだよ、あのふざけた無人兵器はドーザーみたくコーラルを吸ってるのか? ああ、悪寒が背骨を撫でる。最悪だ。
俺たちを踏み潰そうと向かってくる無人兵器を高台に上がって回避しようとするが、跳ねるように登ってくるでは無いか!
バリバリとダムの施設をお構いなく粉砕し、火を吹きながら目標へ向かうイカれた兵器に、再び思い出したくもないトラウマがフラッシュバックする。
チェーンソー、火炎放射器、ご友人。
来るんじゃなかった、こんな星!
胸の内で泣き言を叫びつつ、空中へと退避した。
すると無人兵器は足元をグルグルと大回りに旋回するだけで、それ以上何かする様子は見えない。
流石に空を飛んでくることはしないようだ。(これで飛行機能があったらお手上げだ!)
火花を散らしながら氷を粉砕する巨大な歯車が、俺たちを追ってぐるぐると駆け巡る。
しかも単に前転するだけではなく、複数の歯の回転方向を調節して器用に異次元の方向転を可能としている。
本当に現実と思えないふざけた光景だ。あの激しい騒音を聞くだけで呼吸が浅くなり、胸が苦しくなる。誰かアレを止めてくれ!
皆も空中の方がマシだと気がついたようで、気がつけば皆同じくらいの高度に止まっている。
以前のジェネレーターの容量であれば、きっと保っていない。本当に真っ先に変えてもらえて助かった!
しかし、イグアス先輩はまだいい。問題はヴォルタ先輩だ。
あの高速で動く巨体とタンクはどう見たって相性が悪いし、ホバリングにも適していない。
でも近距離で撃っても俺たちのライフルの弾は跳弾。ヴォルタ先輩の重火力で押し通すしか無いように見える。
こんなものどうすれば……
「ミサイル撃ってこないな」
観察を続けていたレイヴンが、何かに気がついたようだ……え? これ、ミサイルも付いてくるの?
「レイヴンはあれと交戦した経験がお有りで……?」
「あるぞ。あの時はMTもいたし、へりあんさすももっといた。ミサイル撃ってこないなら、全然マシだな」
マシ、とは。
下でものすごい勢いでダムの氷をかき氷に変えていくあれが、弱体化していると? 今ばかりはイグアス先輩の舌打ちに共感せざる終えない。
「やってられるかよ、だったらお前がやれ野良犬」
そう言ってイグアス先輩は、目標の変電施設へ向かおうと機体を方向転換させる。
確かにターゲットじゃ無いから無視しても良いよね。うん、そうしましょう先輩。
だが次のレイヴンの一言が、先輩の動きを止めてしまった。
「レッドガンには無理なのか?」
「あ?」
「すとらいだー護衛してた時、ヴェスパーのラスティとかいうやつと戦って、その時にこいつらに襲われたが、ラスティは大体なんとかしたぞ。レッドガンには無理なのか?」
おそらく彼女は煽っているわけではないのだろう。しかしまぁ、それが伝わるはずもない。
「テメェ今なんて言った? ヴェスパーがやれるならレッドガンに出来ねぇわけがねぇだろオイ」
イグアス先輩はブースターを吹かして勢いよく高度を下げる。目標は……下で転がる無人兵器だ。
「そこで指くわえて見てやがれ野良犬。レッドガンの流儀を土着共に叩き込んでやる」
ああもう! 普段はレッドガン辞める辞める詐欺する癖に! 俺とヴォルタ先輩のため息が重なるのも無理はない。
「面倒ごとを増やすんじゃねぇ」
火力支援へ向かうヴォルタ先輩に続く前に、
「レイヴンはあれをどうやって破壊しましたか……?」
経験者に対処法を乞う。恥? イグアス先輩になじられるのはいつものことなのでモーマンタイ。
「ダーッっと行って、ドンッと倒して、パパッと片付ける」
しかしながら、そのアドバイスは非常に大雑把であり、とても真似できそうにはなかった。
高速で接近し、バズーカなり高火力武器で瞬殺狙い? ちょーっと難しいですね月餅じゃあ。
「……ミサイルが有効だ」
見かねたレイヴンの飼い主がさりげなく助言をくれた。ありがとうございます……。
ものすごくスルーしたいけれど、先輩達だけに相手させるのは許されないだろうし、壁越えで持ち出されたらたまったものじゃないので、ここで破壊しないというわけにはいかない。
はぁ、気が進まない。やっぱりダム施設破壊だけして帰りませんか? ……と言い出す度胸は無いので、渋々空きっ腹を括って俺は地上へ向かった。
「しかしどうするべきか……」
小動物のように走り回る無人兵器に目が回りそうだ。
ミサイルが有効と聞いたが、高速移動するそれを捉えるにはFCSの性能がいささか足りない。
なんとか足止めするなり、方向転換するタイミングを見計らうしかこのミサイルを当てるのは難しそうだ。
というか、あの中に飛び込みたくないが、腹を括ってしまったものは仕方がない。やるしかないのだ。
狙うなら先輩達のターゲットとは異なるものをと、しばらくドッグラン気味な地上の様子を伺っていると、チャンスが飛び込んできた。
転がる車輪の一つがダムの施設に引っかかり、動きが悪くなっているではないか。
これならば! ミサイルロックが入ったことを確認し、その晒された広い側面に向かってミサイルを放つ。
そしてブレードでぶった斬ると、無人兵器は派手に爆発を起こす。
ACほど頑丈では無いようで、何とか撃破に成功したようだ。
ヴォルタ先輩は無人兵器が曲がろうと体勢を整えたタイミングを見計らい、肩のグレネードを炸裂させた。
スタッガーが入ったのか、無人兵器は派手に転倒。泣きを入れたらもう一発。
そこにイグアス先輩がブレードからのキックというレッドガンらしい追撃を入れた。
残りは一体。この調子でやれるなら、あとは余裕だな!
と気が緩んだも束の間、俺の視界は眼下に燃える解放戦線のACの影に、人の姿をとらえてしまったのだ。
パイロットが脱出に成功したのだろうか?
だが、その後方から無慈悲にも無人兵器が迫っている。
直撃ルートだろう。人の身ではとても避けられそうにない。
…人を見たら寝覚めが悪いじゃあないか!
「おい、新入り! クソ兵器に突っ込むんじゃねえ!」
ヴォルタ先輩の静止を無視し、最大出力で人影の元へと向かう。そして大破したACとイカレた無人兵器の間にその身を滑り込ませた。
無人兵器の刃がガリガリと機体を盛大に揺らす。
視界を覆う炎に、チェーンソーのような歯に削られる衝撃。どれもこれも、あの狂人との戦いをフラッシュバックさせる。
今にもスピーカーから誰かが囁く声が聞こえてくるんじゃないのかと、どうしようもない不安が恐怖を伴い込み上げてくるではないか。
クソ! 樹大枝細、樹大枝細!! 混ぜるな止まるな飲み込まれるな! あの悪夢のような時間はとっくの昔に終わってるんだ。
今は目の前の悪夢と向き合えってんだ俺!
ミサイルロックなど関係ない。反動も爆風も知ったことか! とゼロ距離で高火力のミサイルを撃ち放つ。
衝撃で無人兵器は少しよろめいてと体勢を崩し、その巨体を支えられず盛大に倒れ込んだ。
そこにがむしゃらにブレードを叩きつけようとするが、焦りのあまり目論見が甘かった。
純粋に距離が足りなかったのだ。
目の前で盛大な空振りをして見せると、スタッガー状態から復帰した無人兵器は、まるで巻き戻しを見ているかのように器用に回る力を用いて起き上がる。
…やってしまった。
考えも無しに突っ込んで、このありさま。まずい、早く距離を取らないとまたあの炎が襲ってくる!
だが、フラッシュバックするトラウマに思考を阻害され、その場に立ちすくんでしまった。
「そんな調子でよく生き延びられたな。ある意味、関心するぜ」
起き上がったばかりの鈍い機体の側面に激しい爆発が巻き起こった。そして続けざまに銃撃が装甲を貫く。
跳ねる様に振り返ると、ライフルの銃口から煙を昇らせるイグアス先輩の姿があった。
終わってみれば、あっけない。大破したヘリアンサスの凶悪な刃は砕け、わずかに原型を残した残骸が緩やかに回る。
口の中に酸味が広がり、喉の渇きを伴う不快感が主張し始める。
胃の中に何も入ってなくてよかったよ。
振り返ると、先ほどの爆風で吹き飛ばされたのか、ACパイロットらしい男は雪の中に転がっていた。
すぐにその傍に隠れていたMTが駆け寄り、男は無事に保護された。
あの様子からしてまだ生きているのだろう。
安堵感よりも、ドっと虚脱感が肩にのしかかる。何やってるんだろうな、俺。
しかし解放戦線のACパイロットという事は、この作戦領域の指揮官と考えられるのだが……。
だが実際にはそんなこと知ったことでは無いと、お構いなしにあの無人兵器は転げまわっていた。
自分達で手綱を握れない物を運用するんじゃあ無いよ!
俺から遠ざかる男の姿から視線を外す。
今後も彼が生き残れるかどうかは、神様のダイス次第だろう。
これ以上干渉する気はない。二度と視界に入らないでくれ。
「任務完了。オレは帰るぞ」
レイヴンはいつの間にか変電施設を破壊し終え、戦場から離脱していた。
「役立たずも役立たずなりに役立つことが証明された。遠足はここまでだ!」
宿舎のベッドに転がり、大豊では味わえない静寂を堪能する。
しかし、閉じた瞼の裏に、MTを撃ち抜いた時の光景が何度もチラついた。
あの悪夢から飛び出したような無人兵器ではなく、ましてやご友人ご友人と煩い狂人ではなく、単なるMTの事が忘れられないのだ。
戦場では何体も撃った。正確な数すら把握していない。
あの時は何も感じなかったというのに、じわじわと真綿で首を絞められているようではないか。
初陣の昂揚が抜け、初めて人を殺した重みを噛み締める。
平穏に暮らしてたって、見えないところで誰かを食い潰してるんだ。
誰かを、企業を介して、常に誰かを殺しているんだ。ただ今日は、直接俺が殺した。それだけだ。
まるで今まで罪なく生きていたと思い込むんじゃ無い。今更、他人から奪うことを躊躇するな、と心の奔流を飲み込みゴミ箱に顔を突っ込んだ。胃酸が喉を焼く。
MTは機体越しに殺したくせに、寝覚めが悪いからって生身の人間だけは助けるだなんて、酷い自己中だ。
何がしたいんだろうね、本当に。