それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生! 作:テキサス仮面
初任務後の収支報告に目を通したら、見慣れぬ桁数に思わずタブレットを滑らせそうになった大豊所属レッドガン兼任G12銭塘です。
まあ、修理費とかいろいろ天引きされるので、俺の手元に残るのはそこまで多くないけどね。
独立傭兵だと修理や維持費、各種手続きを個人でしなきゃいけないので、どちらかが優れているというわけでもない。
書類処理はいつの時代も面倒なので、企業付きの方が気楽だと俺は思っている。
レイヴンは…どう思っているのだろうか?ちょーっとだけ気になるなぁ。
さて、我が大豊核心工業集団の掲げる「樹大枝細」の「樹大」には、「食事」が含まれているのは有名だ。
古来から食事が士気に直結していると言われ、保存性だけに着目した結果、「こんなもの食べるぐらいなら、餓死した方がマシだ!」と兵士に言われてしまうレーションは少なく無かった。
そしてそんな表面のコスパ重視すぎる劣悪な思考は、現在に至るまで最前線で戦う人々のメンタルを蝕んでいる。
だが、大豊は違う。味! 量! 加熱式! 生産コストや保存性を気に掛けながらも味には手を抜かず、常に研究に心血を注いでいるのだ。
単に文化的に食事に対する関心が高いからという理由もあるが、それだけでは無い。
他社製品の取引の際に食料を用いて価格交渉するのが大豊の主な戦法であり、それはルビコン下においても遺憾なく発揮されている。(昔から交渉で負けがちなので、相手が文句を言いにくい食料しか選択肢が無いと言ってはいけない)
そうしてBAWSやエルカノといったルビコン星内企業からMTや武装の価格の融通を利かせ、ベイラムが求める理不尽な物資要求を何とかクリアしている。
ACパーツだけではない、食品も立派な大豊の誇る製品なのだ。
食物で何とかなるのかって?
大豊の農業研究施設を甘く見てはならない。
品種改良を重ね、豊作が約束された作物。最適化され、短期間での農業を可能とする植物工場。そして長期間保存かつ美味を追い求める食品工場。
封鎖機構の目を掻い潜りルビコンに持ち込まれた大豊の技術により、生命の生存に向かない惑星下でも食糧生産を可能としている。
ルビコンで活動するベイラムへの食料も我々大豊の支援があって成り立っているのだ!
さて、脳内大豊わっしょいはここまでにしよう。
今日は手に入れた資金で、あるものを入手した。
そう、アーキバスのレーションである! 欲しかったんだよなこれ!
ルビコンで同期から大豊の闇市で入手できるという話を耳にしてから、機会を伺っていたのだ。
ようやく迎えた休日を利用して品物を入手し、個室状態のレッドガン(同居人はG7だったらしい)の宿舎で堪能する、最高だな。
包装や容器はいたって普通。商品表示シールを見るに、製造元はアーキバス関連企業のシュナイダー社のようだ。
ん……加熱剤が無いぞ?
大豊のレーションは、加熱剤の火力が違う。火鍋だって水さえあれば15分で煮える。流石にそのレベルは期待していなかったが、ちょっとがっかり。温かいものがないと戦意に響くのでは? と訝しんだ。
とりあえず口に入れてみよう。
一言で言えば、最悪だ。
冷えたペースト状の豆? は味気が無い。
合成肉らしきコンビーフも塩分が行方不明。
不気味なほど色鮮やかなサラダは食感が悪い。
チョコバーのような何かは黒い油かな?
おまけに粉末コーヒーが泥水同然と来た。
酷い、これは酷い。大豊と同盟を組む前のベイラム飯も悪名高かったと聞くが、もしかこれはそれ以上なのではなかろうか?
……良い経験ではあった。シュナイダー及びこれを従業員に食わせるアーキバスに対し、拒絶感情を抱くことが出来た。
これで心置きなく戦うことができる。
とりあえず口直しを要求する。
ミールワームほど人間に貢献した家畜はいないだろう。
肉という物は、同じものが二つとして存在しない。部位一つ規格を合わせるのは困難だ。故に加工段階の長年機械化が進まず、人間の手作業に依存してきた。
その歴史を打ち破ったのが、ミールワームだ。
本来は釣り餌や家畜の飼料用目的で育成されていたのだが、偶然にも通常の何倍も成長する突然変異した個体が現れたのだ。
改良を重ねあらゆる資源で養育可能かつ、ほぼ統一された規格の肉は工場で大量生産されるようになり、人々の生活を支えるようになったのだ。
彼らミールワームがいたからこそ、人類は恒星間航行を成し遂げることができたといって過言ではない(諸説あり)。
とはいっても形成肉にするのが前提であり、こうして原型を留めた状態でいただくことは珍しい。が、ルビコニアンには一般的なことらしい。
まぁ、アイビスの火という未曾有の災害に焼かれたルビコンの有様だと、ミールワームの生育ポットぐらいしか残らなかったとかそんな感じだろう。
この気温だとまともに育つ作物も少ないだろうし、封鎖機構による弾圧が星外からの食物輸入や技術の再取得を拒んでいるのは想像に難しく無い。
……もしかして、ドーザーや解放戦線が大豊を襲撃する理由ってこれ? 食料目当て? ……防衛戦力増やして下さい本部!
樹大枝細の社訓に違わず、このルビコンの戦力は最低限にしか振り分けられていない。
例えるなら我が大豊重量AC「天槍」の頭部パーツのような必要最小限の機能だけで抑えられている。
そう、大豊本部にとってこの同盟ベイラムのルビコン進駐は「枝細」なのだ。
確かにコーラルは夢の資源だろう。新世代のエネルギー資源及び情報導体というミールワームのように人類のステージを上げる可能性を秘めていたのだろう。
星そのものを焼く大火も生み出してしまったが。
そんな危険な資源を追い求め辺境の星で一攫千金を狙おうなんて、過ぎたるは、なお及ばざるが如し
。
斜陽企業じゃあるまいし。もっと手堅くいきなさいよ。
……脳内で愚痴を吐いても腹は膨らまないし、気持ちも晴れない。とにかくまともな食事を摂ろう!
ここレッドガンの食堂では、次の重要任務に備え作戦に参加する大豊出身者や希望者を集め開かれたささやかな鍋パーティーが開催されている。
火鍋ならインスタントという選択肢もあるのだが、誰かと共に頂く鍋は格別な物だ。(インスタント火鍋をコックピットに持ち込んで、爆発を起こした事件のせいで入手し辛くなったのは残念である)
火鍋の中で泳ぐミールワーム(大豊産だ! ルビコン産では無い)の肉は弾力があり、スープの辛味を程よく吸って口にするほど食欲を誘う。
別に肉ならば合成肉や培養肉といった選択肢も今は存在する。しかしながら、依然として人は「自然の恵み」という響きに惹かれてしまうのだ。
要するに、命を食す感覚、というものを欲するのだろう。
火鍋の程よい刺激が憂鬱な気分や先程の残念なレーションを忘れさせてくれる。
奢りという言葉にホイホイ誘われてきたイグアス先輩が、一口含んだだけで咳き込み悶絶する姿を視界の隅にやりながら、大豊馴染みの刺激に舌鼓を打つ。
これで鍋を共にする未来の戦友たちのように酒が飲めたらよかったのだが、体質的に楽しめないので残念だ。
その代わりに人一倍肉を食べようじゃないか。
図々しい?大豊的には普通だよ?というか自分からガンガン行かないと、何も得られないからね。人口だけはとにかく多いからさ。
ところでなんか舌の上でパチパチするのですが。
聳え立つ壁。
とても人の手で作られたとは思えない巨大な壁が、侵略者を拒むように威圧感を放つ。
ルビコン解放戦線が拠点化した交易上の要衝、通称「壁」。
無数の砲台に数多のMTが遠目からでも確認できる。
そして……壁の上に待ち構える巨大な影。これらを今からすべて俺たちが乗り越えなくてはならない。
せいぜい犬死しないように気を付けないとな。
さあ、壁越えの時間だ。