それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生!   作:テキサス仮面

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7話目 壁越え①

「ところでよ、お前の機体名の月餅って何だ?」

 

「大豊文化圏のお菓子です」

 

 まるで月見をするかのように、遠目に立ち塞がる壁をヴォルタ先輩と共に眺める。

 今から攻撃するんですけどね、ここ。

 

 今回の作戦は二方同時からのルビコン解放戦線の防衛拠点、通称「壁」強襲だ。

 正面の陽動及び制圧を俺とヴォルタ先輩、そしてMT部隊が行う裏で、イグアス先輩とレイヴンが別方向から強襲し、「壁」の主力兵器である「ジャガーノート」を落とす。

 注意すべきは市内への侵入を阻むガトリング砲、壁面に並ぶ砲台、そして壁の上から俺たち侵入者を叩き潰そうと待ち構えるジャガーノートによる砲撃。

 まさに、鉄の雨という例えがピッタリ当てはまる。

 あとMT部隊がいくつも配備されているのはまだしも、情報によるとBAWS製の四脚MTが複数巡回してるらしい。こちらはかなりの脅威だ。

 正面突破は愚の骨頂、まずは壁面に取り付いて砲台を破壊する。

 幸い頭の硬いベイラムから作戦遂行ルートの指示は出ていないので、玉砕覚悟の特攻は最後まで取っておけそうだ。

 本来ならレイヴンの雇用予定は無かったのだが、先日のダムに現れた無人兵器を受け、上層部は「数による制圧」を選択した。

 ブリーフィング時のミシガン総長の声色が明るかったことが記憶に新しい。これは賢いですよ上層部。

 まぁ、個人的にレイヴンさんの活躍をこの目で見ることが出来ないのは非常に残念であるが、こればかりは仕方がない。

 

 レイヴンとイグアス先輩が作戦位置に到着するまでの間、俺はヴォルタ先輩と雑談を交わしていた。

 

「饅頭でも良いんじゃねえのか?」

 

「そりゃないですよ、縁起が悪い」

 

「はぁ?」

 

「河を鎮めるための生贄なんですよ、饅頭って」

 

「それじゃあ月餅はどうなんだよ」

 

「戦勝祝い、ですかね」

 

 特に中身のない会話だが、緊張を抑えてくれている。本当に助かります、ヴォルタ先輩。

 こう見えて俺、結構恐怖で参ってます。

 五花海さんの「烏龍茶でも飲んで心を鎮めておいた方がいいですよ」というアドバイスを素直に実行するぐらい、いっぱいいっぱいなのだ。

 *大豊スラング*! ちょっと溢した……。

 寒さは感じないというのに手の震えが止まらず、危うく水筒をひっくり返しそうになる。

 

 はぁ……。

 果たして、「戦場に恐れは無い」と胸を張って言える時は来るのだろうか? 

 

「愉快な遠足の時間だ、役立たず共!!」

 

 そんな俺の憂鬱を吹き飛ばすかのように、ミシガン総長の号令がスピーカーから飛び出した。

 ……樹大枝細、樹大枝細。大丈夫、体を動かせば嫌でも不安に割くリソースなんて底を突く。

 

 

 さぁ、壁越えの時間だ。

 


 

 壁上からの砲撃が激しい。遮蔽を上手く使わないと。

 先輩と別れた俺は、左手の岩肌に張り付く形で雪の上を滑るように進む。

 ヴォルタ先輩は右手から侵攻し、街区で合流する手筈となっている。

 二手に分かれる事で、ジャガーノートの砲撃を分散させることが目的だ。

 ヴォルタ先輩より先行している俺の方に攻撃が集中し非常に危険だが、ここは機動力を生かし被弾を最小限にとどめる。

 あのヘリアンサスというふざけた自立兵器のインパクトに比べれば、ジャガーノートによる遠距離爆撃も落ち着いて避けることができてしまう。

 本当に肩慣らしになりましたねダム破壊。

 

 そんなこんなで滑り込むようにして、わき目も振らず街区に侵入。

 同士討ちを避けているのか、単に角度的に難しいからなのかは不明だが、頭上からの砲撃は落ちてこない。

 その代わりに、壁に設置された砲台が火を噴いた。

 

 街区に建ち並ぶ建造物は良い弾除けになる筈だが……相変わらず妙な違和感が肌に爪を立てている。

 あらゆる死角から銃口を向けられ蜂の巣になるだろう。ここを通るのはまずいな。

 街区の制圧はMT部隊の役目だが、この状況にMTを投下するわけにもいかない。

 まずはガトリング砲の破壊、そして()()()()を排除する。

 

「侵略者どもめ! ここを通してなるものか!!」

 

 ずんぐりむっくりとした四脚MTのお出ましだ。

 

 通常のMTより巨大な機体が、俺達目掛けブレードを振りかぶる。

 ACを若干上回る巨躯。武装の火力も脅威的であり、気を抜けばやられてしまうだろう。

 

 だが、さほど問題はない。確かに脅威ではあるが、あれは見知った兵器。

 BAWS製四脚MTはレッドガンにも配備されているし、何らなら訓練生時代に触ったこともある。

 決して未知の存在ではないし、ましてや半世紀前のふざけた無人兵器では無いのだ。

 俺は有効射程ギリギリを維持しながら距離を取って四脚MTにライフルを撃つ。いわゆる引き打ちというやつだ。

 

「ヴェスパー上位ならまだしも、レッドガンに負けるわけにはいかない! いくぞ!!」

 

 ……よし。

 

 四脚MTが俺に喰いついたことを確認し、程よく他の解放戦線戦力から引き離す。

 

「灰かぶりて、我らあり!」

 

 お決まりの文句を合図に大きく跳躍し、その高火力のブレードをちょこまか動く俺を沈黙させるために振り下ろした。

 

「いい的だぜ、お前」

 

 四脚MTが背後からの爆発を受け、その機体が硬直する。

 

「なっ!? いつの間に!?」

 

 爆風を巻き上げ姿を現したのは、タンクAC。ヴォルタ先輩のキャノンヘッドだ。

 今回の作戦において、俺の主な役割は「囮」。正面制圧の主力はそう、ヴォルタ先輩だ。

 グレネードによる攻撃をモロに受けて無事なはずがないが、ここはレッドガンらしく行こう。

 

 泣きを入れたらもう一発。

 俺はABの速度を乗せたブレードを、ヴォルタ先輩はタンクの重量を乗せた蹴りを四脚MTに叩きつける。

 

「ば、馬鹿な……! こんなところで……」

 

 敵機は大破、爆散。教習ビデオの教材に出来るくらい鮮やかな勝利だ。

 

 おっと、ぼんやり突っ立っている場合ではない。

 急いで退避すると、頭上からの砲撃が地面を抉り取る。

 やはり壁面に並んだ砲台を先に潰した方がよさそうだ。

 

 一時的に地上の敵をヴォルタ先輩に任せ、俺は壁面の障害排除に移行する。

 ABを吹かせ、ブレードとライフルで手早く砲台を破壊していくだけの簡単なお仕事だ。

 OSを強化して蹴りを入れられるようにしたいなぁ。

 

「おいおい、いつまでチンタラ遊んでるつもりだ? これがイグアスだったら、とっくに終わってるぞ」

 

「イグアス先輩を引き合いに出すのは、ちょーっと鬼じゃないですかねぇ!」

 

 あの人と比べないでくださいよヴォルタ先輩。そりゃ気持ち的には負けたくないですけど、流石に場数が違いすぎる! 

 兎に角、気持ち急いで壁面をきれいに掃除する。

 四角いところを丸く掃くような事はせずに、隅から隅まで綺麗さっぱり脅威を取り除いた。

 

「いい気になるなよ、企業の犬どもめ!!」

 

「臆するな! 同胞を守れ! 灰かぶりて、我らあり!」

 

 俺たちの奮闘を、解放戦線が放っておくはずがない。

 次々と敵MTが集まってくる。

 

「犬だぁ? こいつはウサギだぜ」

 

 壁側の砲撃が止まった現在の状況では、ヴォルタ先輩の攻撃に巻き込まれる方がよっぽど怖い。

 分裂したミサイルが取り囲むようにしてMTを蹂躙。

 ショットガンにより次々と蜂の巣にされ、腕と肩から放たれるグレネードは、ジャガーノートの砲撃より派手な花火を咲かせる。

 もう先輩1人でよくないですかね?

 

「居たぞ! 侵入者め、これ以上好き勝手させるものか!」

 

「ルビコンもコーラルも、我々ルビコニアンから奪う事は許さない!」

 

 激しい爆音に誘われ、砂糖水に集まる蟻のように次々と四脚MTが姿を現す。

 うーん戦いは数とはいうが…ベイラムもこれくらいのことが出来たらなぁ。

 一体全部で何機いるのだろうか? この様子だと10機以上配備されているかも? 

 

「土着共が、ごちゃごちゃうるせえ」

 

 そんなこと知ったことかと、ヴォルタ先輩は容赦無くショットガンを撃ち込んだ。

 


 

 ヴォルタ先輩と合流してから、一体何体の四脚MTを破壊しただろうか? 

 街区中を走り回り、虱潰しのように解放戦線の戦力を排除。

 道中には炎上する鉄くずが散乱している。炎には良い記憶が無いので、出来るだけ視界の外に追いやった。

 門番気取りのガトリング砲? 

 いつの間にか、ぶっ壊れてましたよ。ヴォルタ先輩に巻き込まれたんじゃないんですかね。

 大真面目に敵の攻撃を避けることより、味方のグレネードの回避に心身ともにすり減らしたよ本当に!

 まさに群羊を駆って猛虎を攻む、とはこのこと。ガチタン、コワイ。

 

 あらかた片付いたのか、解放戦線のMTは現れない。目視での確認、スキャンにも敵の存在は映らない。

 

「敵影、見当たりません」

 

「いくら数を集めても、雑魚は雑魚だったぜ」

 

「よくやったな、役立たず共! しかし気を抜くなよ、帰るまでが遠足なのだからな!」

 

 ミシガン総長の激励に、少し肩の荷が下りたような気がする。

 いやいや、気を抜くなって今言われたばかりじゃないか! 

 

 あとは壁上に鎮座しているジャガーノートというデカブツを排除すれば、あとはMT部隊の仕事。

 なのだが……

 

「イグアスの野郎、まだ終わってねえのかよ」

 

 現在、別ルートの侵攻が遅れている。

 どうやら想定よりも敵戦力が多く、その対処に時間が掛かってしまっているらしい。

 回線からは常にイグアス先輩の悪態が飛んできているので、ちょっと音量を下げた。

 

「俺たちで倒しちまった方が速そうだな」

 

 ヴォルタ先輩は皮肉っぽい笑い声を響かせる。

 冗談でもやめてください。

 俺たちの任務はあくまで前方の制圧で、ジャガーノートの排除は()()()()()()()()別ルートの襲撃組の仕事で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想定、外れてますねぇ! 

 

「G4! 貴様のその言葉、証明してもらおうか!」

 

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