それゆけ!テスターAC乗り大豊パイロット訓練生! 作:テキサス仮面
ルビコンの空が赤いのは、アイビスの火で焼けたコーラルが漂っているからだと先生が言っていたっけ。
そのせいか、空に近づくと肌に痒みが生じてしまう。
いやだなぁコーラルアレルギー。
真面目にこの星から去る考えが脳裏をよぎるが、
まぁ、その二つ以上のものを得たら実行するかもしれないな。
それほどまでに染まれてしまうのなら
炎に身を投げるような馬鹿げた行いだが
それはそれで、良いかもしれない。
イグアス先輩とレイヴンの侵攻するルートに敵の増援があった。
なんと、二機目のジャガーノートだ。
雑魚なら無視して壁の制圧に向かえば済む話だったのだが、こいつは必ず排除しなくてはならない。
壁内の侵攻はだいぶ進んでいたというのに……運が悪い。
なら、本来の目標である壁の上のジャガーノートを誰が倒すのか?
いるじゃないか、ここに暇人たちが! というノリで壁上に向かうことを強いられたG12銭塘です。
内部の制圧をMTに任せ、補給を済ませた俺達はリフトで壁上を目指す。
機体を乗せゆっくりと昇っていく振動が、コックピット内にも地響きのように伝わってくる。
処刑台に上るというのは、こういった気分なのだろうか。
悶々とマイナスな思考に喉を締め付けられ、呻きが漏れそうになる。
それを断ち切ったのは、個人回線から響くヴォルタ先輩の声だった。
「銭塘、ミシガンの言うことは聞いとけ」
普段の傲然とした様子ではなく諭すような声色に疑問を抱くが、とりあえず口を挟まず黙って耳を傾ける。
「あいつは本社のボケどもとは違う。クソ親父だが、俺らを切り捨てるような真似はしねぇ。今回もあのクソ親父が何とかレイヴンを捻じ込んで、まともな作戦になったんだ」
本来は大豊の人間である俺を露払いに使い倒して、イグアス先輩とヴォルタ先輩で正面から攻略といった感じだったのだろうか。
さすがに戦略に疎い俺でも、今回の経験でそれが愚策だということが嫌でも分かってしまう。
戦力を一方面に集中させれば、それに応じ防衛側もボーダーラインを固めるはずだ。
仮に俺1人を囮に別ルートを叩くにしても、ジャガーノートの増援が想定内だとは考えにくい。
やはり数、数は正義。そして数を投入するタイミングも大切だ。
「やはり時代は樹大枝細……!」
「お前、話聞いてたか?」
リフトが大きく揺れを伴い停止、俺たちは巨大なシャッターの前に並んだ。
残った茶を飲み干し、空になった水筒を備え付けのスタンドに戻す。
「先輩」
「なんだ?」
目の前のシャッターが重々しく上がり、外の光を招き入れた。舞い込んだ雪がカメラを濡らす。
「古典において今の先輩のセリフは「死亡フラグ」っていうんですよ」
そして、待っていましたと言わんばかりに、ジャガーノートの「壁」のような巨体が俺達に牙を剥いた。
「禍を転じて福となす。今から叩き折ってやりましょう」
重装機動砲台ジャガーノート。
ルビコン解放戦線が処点化した交易上の要衝、通称「壁」に配備された無人兵器。
正面は重厚な装甲で固められており、さながら動く「壁」(しかも高速移動すると来た!)。
注意すべきは、大量のミサイルに機関砲に壁に近づく侵略者を吹き飛ばす砲弾。
わかりにくいが地雷の散布まで行っているという、まさに防衛欲張りセットといった存在だ。
ベイラムの諜報仕事してるって?
これ、全部俺の実体験なんだよ!!
引き逃げアタック(俺が勝手に呼称しているだけ)をギリギリ躱すが、ミサイルまでは気が回らない。
被弾による衝撃を、下唇を噛んで耐える。こんな調子ではリペアありきでも長くはもたないぞ。
ジャガーノートのキャタピラが盛大に火花を散らしながら、滑るようにして突撃を繰り返す。
直線距離においての推進力がとんでもない。しかもあの重量、タンクACの何倍になるのだろうか?
「ゲロウサギ! ちゃんと
「ゲロはやめてください!」
幸にも、ダメージが入りやすそうな部位は分かりやすい。
あの巨体を脅威的なスピードで押し進める背面のブースター、そこを撃ち抜かれて無事な無人兵器が存在するとしたら、とっくの昔に解放戦線は企業も封鎖機構もぶちのめしているはずだろう!
「早く何とかしてくださいよクワガタンク先輩!」
「クワガタじゃねぇ!」
ヴォルタ先輩がグレネードを撃ち込もうとするも、ジャガーノートはその機動力の高さを活かし上手く正面に衝撃を流してしまう。
ミサイルも全て平面に吸い込まれ、まさに壁打ち。
俺のミサイルはアレの機動力に振り回され、逆に俺たちを巻き込みそうになったので温存中。
ベイラムもジャガーノート運用しましょうよ?
背面に張り付いて至近距離からミサイルを放つことができれば、ダメージが期待できそう……なのだが、それが一番難しい。
せめて左右や頭上から攻撃を当てたいが、いかんせん二人とも機体の速度が足りないのだ。
兎にも角にも、チャンスは作るしかない。
俺はライフルを跳弾もお構いなしに撃ち続ける。
ダメージにはつながらないだろうし、ACS負荷も蓄積しているとは思えない。
ジャガーノートは目の前でウロチョロする木っ端ACを排除すべく、その巨体を俺に向け突進させる。
巨大な山車の進路に、身を投げ出すわけにはいかない。
俺はステップで横に逃げ、死の予感が右手を通過する感覚に身を震わせる。
命が幾つあっても足らない!
それでも、ヘリアンサスというふざけた兵器よりは何倍もマシ。
ブルートゥとかいう狂人が相手ではないという事実だけで、顔を上げることが出来る。
「お前に殺されてやるものか」
ふいに漏れる言葉は単なる強がりか、はたまたアドレナリンによって生み出された偽りの無敵感か。
どちらでも構わない。心底にどうでもいい。
降り注ぐミサイルと砲弾を何とか避け続けるも、微量のダメージが累積していく。
奮闘して走り回っているのはACの機体だというのに、俺の呼吸は酷く乱れていた。
まるで生身の体で逃げ回っているかのようではないか。
お茶、飲み干すんじゃなかったなぁと喉元まで上がってきた嘔吐感に後悔しつつ、ABを噴かす。
猛スピードで唸りを上げる「壁」に接近、狙いはそのはその背面。
勿論、無慈悲な無人兵器が見逃してくれるはずもなく、俺にその強固な装甲見せつけるよう旋回した。
あわや絶体絶命。このままでは瞬く間に視界を鉛玉が覆うだろう。
まぁ、そうならないんだけどな。
俺はQBを用いて、
もちろん地上まで落下するわけではなく、段差を用いてジャガーノートの射線から姿を消しただけだ。
その場に取り残された無人兵器は空に向かい砲弾を放つ。それは派手な音を鳴らして地面をへこませるだけ。
残念だったな。俺はちゃんと仕事をこなしているんだよ。
そして無防備に晒されたジャガーノートの背面に、ヴォルタ先輩の駆るキャノンヘッドの火力のすべてが叩き込まれた。
素早く段差から上がると、そこにはスタッガー状態に陥り沈黙した無人兵器の姿がある。
これがチャンスだ。
焦らず、手際よく、完璧に。
俺はその背面に取りつき、最早おなじみのゼロ距離でのミサイルを撃ち込み、ブレードを起動させる。
そして普段あまり使用しない、最大火力を叩きむ。
チャージによって大きく威力を増したパルスの刀身が、重厚な装甲を焼いた。
「大体半分ってところか!?」
撃破とはいかなかったが、かなりのダメージを与えられたはず。
そのはずだ。
しかしスタッガーから復帰したジャガーノートは、相も変わらずキャタピラから火花を散らし、「止めることのできない巨大な力」という名前にふさわしい挙動で攻撃の手を緩めずにいる。
あくまでも資源に乏しい解放戦線の無人機だ。先ほどの戦法をもう一度行えば、同じように弱点を晒してくれる可能性は低くはないはず。試してみる価値はあるだろう。
だが、
俺は己を囮にするべく、ジャガーノートの正面からライフルを放つ。
そして敵の行動に応じる様にして、無人兵器は砲弾と大量のミサイルを展開。
てっきり手の震えは、恐怖からくるものだと思い込んでいた。
「もう慣れたよ、お前の動き──―」
一瞬、意識が飛ぶ。
砲弾の回避行動は間に合ったものの、ミサイルによる追撃をを避け切れず、被弾。
直撃を避けダメージを減らす姿勢制御システムの負荷限界により、制御不能に陥った俺の機体は無防備に山車の前に身を晒す。
「馬鹿野郎! 避けやがれ銭塘!!」
無人機とは違い、人間の体力は有限なのだ。
ACを遥かにに上回るであろう重量を乗せた突撃を、モロに食らった。
辛うじて機体は生きている。だが気休め程度にしかならないリペアすら使いきってしまった。
もう後はない。
畜生、治療した歯がまた砕けたじゃないか。
舌に切り傷を増やす破片を、血の混ざる唾と共に吐き出した。
ものすごく痛い、痛みを感じない部位が無い。視界は歪み、白い火花が視界を飛ぶ。腕は鉛のように重く、動かすだけでげっそりと体力を持っていかれてしまった。肺にはまともに空気を取り込めず、喘息のように苦しい音が出てしまう。
それでも、動ける。動かなきゃならない。
元より俺は囮。主戦力である先輩の為に再びチャンスを作らなくてはならない。
この糞ったれな戦いを終わらせるために、迷わず進め。
操縦桿を思い切り倒し、月餅が出せる最大速度で接近する。
回避は機体が絶えられるギリギリの範囲意にとどめ、最短距離でジャガーノートの頭上を取った。
右手のライフルが火を噴き、左手のブレードで背面を二回切り付ける。
確実にACSに負荷を与えられているはずだ。
しかし、あともう一歩、あともう一押し必要だ。
クソッ! 蹴りを入れても足らない!
俺がもたついている間にも、ジャガーノートは大きく旋回し高速移動によって俺から距離を取った。
ヴォルタ先輩も引き離された場所におり、彼の放ったミサイルはすでに装甲によって受け止められたばかり。
このまま再び高速移動されてしまえば、折角のACS負荷蓄積も重ねることが出来ないまま直ってしまうだろ。
誰か……追撃を──
消え入るような意識の刹那、矢のような一撃が無人兵器の背に突き刺さる。
そして首が落ちたように、ガクンとジャガーノートの動きが止まった。
「よう、クソ新入り。まだくたばってなかったか」
晒されたブースターを蹴り飛ばし、無人兵器が再び動き出す前に距離を取るのは、イグアス先輩だ。
ジャイアントキリングを意味するであろうエンブレムに反し、非常に堅実的で無駄がない。
イグアス先輩と入れ替わるようにして、タンクの放つグレネードがキツい一発をお見舞いした。まさに阿吽の呼吸。
それでもまだジャガーノートの息の根を止めることは叶わない。
奴は再びキャタピラを回し始め、これでもかとミサイルを放つ。
「んなもん当たるかよ、土着供のガラクタが。とっととやっちまえヴォルタ」
「はっ! 言われなくとも!」
シールドでミサイルの爆風を受け流したイグアス先輩は、宙を飛びジャガーノートの気を引く。
単に逃げるだけの囮役ではない。
きちんとタンクの射程範囲内に収まるように立ち回り、その火力を余すことなく打ち込めるよう戦っているではないか。
先輩たちは俺の立ち回りが霞んで見えるほど的確な攪乱と攻撃の連携を繰り広げ、確実にACS負荷を蓄積させていく。
そして、頭上から
垂直?今の攻撃は誰のものだ?
先輩達のミサイルとは明らかに弾道が違うと、鈍い思考で必死に現実を理解しようとする。
そんな俺の目の前に、一羽のカラスが降り立った。
レイヴン。
視界を白く染める吹雪の中でも、その輪郭が融けることはない。
黒の中に僅かに青色が混ざる彼女は、赤い
「仕事の時間だ、G12」
「……えぇ!」
彼女の声は濁った膜を破るように、俺の意識を覚醒させた。
やることは決まっている。これ以上の言葉は不要だ。
機体と俺自身に火を焚べ、カラスと肩を並べ空を駆ける。
目標は、ジャガーノート!遮るものは、何もない。
彼女と俺は速度を落とすことなく、パルスブレードを振り下ろした。
淡い緑色を帯びた光が弾け、ジャガーノートを内側から引き裂いた。
巨躯を支えていた巨大なブースターから火が漏れ、派手な爆発を起こして俺の視界を白く塗りつぶす。
視界が戻るころには暴力的な山車は完全に沈黙しており、轟々とその鉄の体を燃やす炎だけが存在を主張していた。
「ジャガーノートの撃破を確認。「壁越え」は成功だ」
レッドガンが解放戦線の主要防衛拠点、通称「壁」を落とした。
このルビコンでのコーラル争奪戦において、ベイラムはかなり有利になったといっても過言ではない。
あのアーキバスすら尻込みしていた拠壁を手に入れ、ベイラム上層部は普段出さないようなボーナスを作戦参加者にばら撒いたくらい上機嫌のようだ。
そして例の独立傭兵をアーキバスに加担させるわけにはいかないと、懐柔する方向で動いていると耳にした。
彼女と敵対したくないのは俺も同じなのだが、ちょっと複雑な気持ちが渦巻いて気分が悪い。
金銭で釣って露払いや囮をやらせ、勝てばベイラムの手柄に。負ければ不安要素が潰れて安心。
いつも通り企業らしい独立傭兵の扱いだってことはわかる。
でも俺としては、彼女の意思で選んで欲しい。その上で対立し、排除されるなら俺は良い。
レイヴン。その名の通り、大空を羽ばたくカラスのように、この焼けた空を自由に飛んでくれ。
そんな彼女の自由意志を望む俺の脳裏に浮かぶのは、
『大豊のパーツ欲しさに、露出度の高い衣装のキャンペーンガールの仕事を受けるレイヴン』
これはこれでアリだと、一瞬でも納得しかけた俺の頬を殴る。
「いきなりどうした」
「ちょーっと煩悩を駆逐してました」
「そ、そうか」
俺の奇行に若干引き気味のナイルさんはそれ以上触れることなく、今後の作戦の注意点の解説を再開する。
ごめんなさいレイヴン。不意の妄想が現実になってしまったら、責任取って俺もその衣装を着て隣に立ちます……。
現実に意識を戻し、ナイルさんの話を頭の中でまとめてみる。
壁を制圧したが、問題はここからだ。
壁の防衛は俺たちでやっていかなければならない。
攻めるよりも守り続ける方が難しいのは俺でも知っている。
何事も維持ほど大変なものはない。
現に俺たちレッドガンは、今日は俺とナイルさん以外不在状態。
常に壁の防衛に戦力を回し続けなくてはならないし、解放戦線による各拠点の襲撃も収まることを知らない。
そのうえでコーラルの探索にリソースを減らすわけにはいかないと来ると、もう大変だ。
日々ほぼすべての主要戦力がばらばらに活動しなくてはならず、入れ替わり立ち代わり戦闘が続くものだからドックも休まる時間が無い。
というわけで、まだ片手で数えられるほどの実践しか経験していないド新人すら、戦力に換算しなくてはならない……もしかしなくてもブラック!
「そういえば例の申請だが、通ったぞ」
「え、ブースターのことですよね? やったー!」
よし! よし! 壁越えを成功させた今ならそう無下にはしないだろうと、淡い希望を抱いて出したブースター交換の申請が上手くいったらしい。
やっと推進力不足から解き放たれる……! いくらジェネレーターの容量が多かろうとも、推進力が低ければ高速移動する敵を相手に出来ないことを痛感した俺にとって何よりの朗報だった。
その分体に馴染ませるのに苦労しそうだが、きっと充実して楽しいだろう。
「そうだ、調整が終わったら模擬戦お願いします!」
「ふむ、構わんぞ。俺も壁越えで調子に乗っている新人の鼻を折ってやらなくてはならないからな」
「はは……お手柔らかに……」
その後、ナイルさんとの模擬戦が行われることはなかった。
このやり取りの数日後、捕虜奪還を強行した解放戦線によって阻止に当たったG2ナイルおよびMT部隊は撃破され、生存者は誰一人としていない。
回収された機体のログの解析によって、その犯人が明らかとなった。
強襲者はとある独立傭兵と解放戦線の一員、インデックス・ダナム。
俺が以前ダムで助けた男だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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