個性【ボイスデーモン】のヒーローアカデミア 作:ねぎトロ丼ねぎ多め
「検査結果がでましたが…いやはや驚きましたよ。身長・体重ともに以前より増加していますがそれ以外全くもって健康です」
後に『神野の悪夢』と呼ばれるようになった世紀の大事件から数日後、オレは病院にて検査を受けていた。
「だからなんべんも健康そのものだって言ってただろうが」
「何度も説明しただろう。お前に撃ち込まれた『ニトロ』という生物の細胞は世界一の猛毒にも引けを取らない程の猛毒を有している。本来ならもっと精密な検査を行う筈だったんだぞ」
検査の結果、身長と体重が増加したこと以外異常無し。強いて言えば身体能力が大幅に増強されていたということぐらいだろう。
「私もこの道に勤めて20年ほど経ちますが、このようなケースは初めてです。毒を投与されて体の一部が動かなくなったと言う話なら聞いたことがありますが、一切効かないどころか逆に身体能力が上昇するなんて…貴方の体は一体どういう構造をしてるんですか?」
「知らねえ」
「はあ…まあこの様子なら近いうちに退院して問題ないでしょう」
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三日後
「あ゛ー…ようやく解放されたぜ」
『ハハッ!良かったじゃねえか!これでクソ退屈な入院生活ともオサラバだ!』
…ニトロの細胞を注入された時から出てきたボイスデーモンは完全にオレの体に居着くつもりらしく、あれから一週間経つが消える気配が無い。
『人聞きが悪いなぁ、俺だって好きでこの体に憑依してるわけじゃねえよ』
(オレの考えてることを勝手に読んでんじゃねえよ。…どういうことだ?)
『あの時俺達は一体化しただろ?そのせいで文字通り一心同体、もう戻れねえ状態なんだよ。つーか戻れるならとっと戻ってるぜ。何なんだよこの世界。グルメ細胞もねえしお前は何か弱くなってるし…あのクソトカゲをぶっ殺すためとは言え、軽率すぎたぜ』
(その割にはえらく楽しそうじゃねえか)
『まあな、個性っつうのが中々面白そうでな。あっちでもそういう固有の能力を持ってる奴はゴマンといたが…ほぼ全人類が持ってるのは驚いたぜ』
そんな会話を脳内で交わしていると、突然目の前にタクシーが止まり、そこから相澤が出てきた。珍しく戦闘服ではなくスーツに身を包んでいる。
「お早う。退院早々で申し訳ないが、今から家庭訪問を行う。着いてきてくれ」
「…は?」
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数時間後
「ここで間違いないか?」
「ああ、此処がオレん家だ」
相澤に連れられタクシー、新幹線を乗り継ぎ秋田の方の実家に戻ってきた。
「にしてもいきなりすぎんだろ」
「急遽決まったのに加えてお前のご両親の都合がつく日が今日しかなかったんだ」
ガラガラと家のドアを開ける。
「あっ!声野おかえr…」
ピシャッッ!!
「…なあ相澤。オレの見間違いじゃなけりゃいまそこにねじれがいたんだが」
「安心しろ、見間違いじゃないぞ。ほら後ろ」
ゆっっくりと後ろを振り向くとそこにはどこか不気味な満面の笑みを浮かべたねじれが。
「…もう一回言うね?おかえり!」
「お、おう…」
『おいゼブラ!コイツ何なんだよ!?俺自身数々の惑星の猛者共と殺り合ってきたが此処までの殺気は初めてだぞ!!?』
ボイスデーモンが脳内で喧しく叫び散らかす。
(オレにもよくわからねえよ、こっちが知りてえくらいだ)
「あ、こんにちは相澤先生!遠路はるばるご苦労様です!」
そうこうしていたらねじれだけでなく家の奥から親父まで出てきた。
「ご無沙汰してます、Mr.ビ…お父さん。…爆音、何やってんだ。親御さん出てきたぞ」
「あっコラ声野!何ボーッとしてるんだ!早く先生にお茶を!」
「茶ぐらい自分で出せ馬鹿」
「あっお前!お父さんに向かってなんて口の聞き方なんだ!お父さん泣いちゃうぞ!この真昼間に!他人の目も一切気にせずに!」
「あ゛!?ふざけてんじゃねえぞ!!」
「さあ!嫌なら今すぐ俺と先生に謝りなs「フンッ!!!」み゛っ…!!!?」
「!?」
「ヒュッ…」
いつもの調子で暴れ出した親父に出てきたお袋が金的をかまして黙らせる。
「すみません先生、ウチの馬鹿旦那が…さ、立ち話もなんですしどうぞ」
そう言いながら気絶した親父を米俵みてぇに担いで家の中に入っていく。
「お義母さんのソレ相変わらず強いよねー!私も出来るかな?」
「ふふ、爆音家の嫁になったら修行しなくても自ずと出来るようになるのよ」
2人は何やら悍ましい会話をしながら家へ入っていく。
『まあそのなんだ…お前も大変なんだな』
……悪魔に同情される日が来るとはな。
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「それで全寮制についてのことでしたっけ?」
「おい待て、全寮制ってなんだ。初耳なんだが」
「あ、声野は入院してたから知らないんだっけ?」
「度重なる敵による襲撃…その大元を逮捕できたとはいえ敵連合の残党を筆頭にまだ脅威は拭いきれていない。そこで今回生徒の安全を強固にするために以前より検討されていた全寮制に至った。…お父さんにプリントを渡したはずだが、見ていないのか?」
…話の流れが見えてきたぞ。
「親父ィ…!」 「あなたぁ…?」
「ひっ!?すすすすすすみませんでしたああああ!オールマイトが引退したせいでここ最近召集かけられたり敵が出てくることが多くなって忙し過ぎて忘れてましたぁぁ!!」
肩を掴まれたこととオレとお袋の殺気に当てられ、ノータイムで土下座をする。そこにプロヒーローとして、そして一家の主としてのプライドは微塵も無かった。
「はぁー…いい加減もとの話題に戻しましょうか。それで全寮制についてなんですが…」
「…はい」
「私は大賛成ですよ」
「!?」
予想外の返答だったらしく、相澤は目を見開いて驚いている。
「あら?先生、何かありましたか?」
「いえ、今回の件では我々の怠慢と油断が原因でで声野くんが敵に誘拐されさらには毒物を投与される事態にまで陥ってしまったのでもっと非難されるのを覚悟していたのですが…」
「いえいえ、とんでもない!同じヒーローだからわかりますが、今回の事件は防ぎようが有りませんでした。先生方に落ち度はありませんよ」
ニコリと微笑むお袋。…これで下で締め技喰らってる親父が居なかったら完璧だったんだがな。
「お義母さーん、お義父さんなんか青くなってきてるよ?」
「大丈夫よ、いつものことじゃない」
「タスケテ…タスケテ…」
顔が青いを通り越して白くなってきたな。もう反省してるみてえだし、助け舟を出してやるか。
「そんぐらいにしとけお袋。心拍音と呼吸音が消えかけてる。そろそろ親父が死ぬぞ」
「あら本当?」
ぱっと手を離し、親父が解放される。
「おい無事か?」
「あ、あぁ。なんとかな…」
生まれたての子鹿並みに足を震わせながら立ち上がる親父。
「お父さんの方は…」
「あ、僕も妻と同じく賛成ですよ。雄英のシステムなら心配する要素が無いし、何より声野はちょっとやそっとのことじゃやられないんで」
「……」
「コイツはちょっとアレな部分もあるのでご迷惑をおかけすると思いますが…うちの息子をよろしくお願いします」
そう言ってお袋と共に深々と頭を下げる。
「…はい。必ず息子さんを一人前のヒーローに育て上げてみせます」
こうして難航すると思われていた家庭訪問はあっさりと終わりを告げた。