オーガ怪奇譚   作:ソロモンは燃えている

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具体的な名前は出してないですが、元ネタは完全にあの映画なのでクロスオーバーのタグ追加しました。


呪いの家

 

 

 

 一人の女子高生が勇次郎の前で恐怖に震えている。

 その様子に勇次郎は苛立ちを感じていた。

 

「これじゃ、埒があかねえ。

 いい加減、話を進めろ」

 

 勇次郎の言葉に少女の肩が跳ねる。

 

「た、助けてください・・・」

 

「そいつは、さっき聞いた。

 何があって、俺にどうして欲しい?

 そいつを聞かせろ」

 

 気に入らねえ。

 この女は俺を前にして、他のものに怯えていやがる。

 この勇次郎を前にしてだ!

 

 テケテケとの戦いから、勇次郎は超常的な事件について調べ始めた。

 もちろん、ほとんどがガセネタで本物と出会うことはなかなか出来なかった。

 そんな時にこの女が現れて、助けてほしいと言ってきたのだ。

 自分を前にすれば、生物としての本能で体が恐怖に震えるはずなのに、この女は別の存在に恐怖し、震えている。

 こいつは本物だ。

 それも、向こうから来てくれた。

 是が非でも事情を話してもらおうか。

 

 やがて、少女は覚悟を決めた表情で語り出した。

 

「私は、高校でいじめられてました。

 ある日、いじめっ子達に肝試しだと言われ、ある家に連れて行かれたんです。

 その家は、住んだ人が皆、非業の死をとげる呪いの家だと噂されていました。

 でも、その日は何も起こりませんでした。

 所詮は噂話でしかなかったんだと、その時は思いました。

 いじめっ子達が次々に死んでいくまでは。

 あの家に入った者は誰も逃げられない。

 次は私が殺される」

 

 この女は、誰かから俺がテケテケと言う怪異をぶちのめしたことを聞いて、助けを求めてきたのだろう。

 なのにこの女は、俺を巻き込むことを躊躇っている。

 俺が呪いで殺されることを恐れてだ。

 面白い、呪いとやらで俺が殺せるか試してやろうじゃないか。

 テケテケとは毛色が違うが、俺を楽しませてくれよ。

 

 こうして、勇次郎は少女に案内されて呪いの家に足を踏み入れた。

 

 家に入った瞬間、空気が変わったことを敏感に感じ取っていた。

 濃密な殺意。

 いくつもの戦場を渡り歩いた勇次郎にとっては馴染みのある気配だが、戦場で感じたものとは違い、ねっとりとした纏わり付くような殺意だった。

 

「くっくっく。

 どうやら、この家の呪いってのは、ずいぶんとアクティブみたいだな」

 

 勇次郎の言葉通り、その殺意はさっそく形を取り、姿を現してきた。

 廊下の奥の部屋から学生服姿の女が出てくる。

 肌は異様に青白く、目は虚、ふらふらと不気味な動きでゆっくりと近付いてくる。

 

「ひっ!

 あ、あの子は、私をいじめていた同級生です」

 

 呪いに殺された者は、呪いに取り込まれるようだ。

 しかし、呪いに殺されると言う理不尽に対する恨みなど一過性のもの。

 そんな瞬間的な恨みでは密度が薄く、呪いの本体に取り込まれた瞬間に塗りつぶされて、自我もなく、呪いの一部として利用されるだけの存在になってしまっていた。

 

 そんな、常人であれば恐怖に震え上がるような光景を前に勇次郎は、落胆していた。

 

 なんだ、このお粗末なものは?

 

 同級生の霊がにじり寄り、勇次郎へと手を伸ばす。

 その瞬間、勇次郎の足が天高く振り上げられていた。

 まるで居合の様に、気が付いた時には既に放たれていた足が振り下ろされる。

 

 ズドン!!!

 

 轟音と共に霊の頭を地面へとめり込ませる。

 致命的なダメージを受けた霊は、霧のように掻き消えていった。

 

 考えてみれば突然のことである。

 武術の心得もない女子高生が。

 それも、自我のない操り人形のような状態で間合いに入ってきたのだ。

 勇次郎の踵落としに反応できるはずもなく、その直撃を受けた。

 

「ぬるいな。

 こんなもので俺が殺せるか!」

 

 そんな勇次郎の怒りの声に応えるかのように次の霊が現れる。

 一人ではない。

 奥の部屋から、先ほど消えたはずの少女の霊が二人の男子高生を連れて出てくる。

 階段の上からは、目が血走った中年の男の霊が降りてきた。

 4体の霊が勇次郎へと向かってくる。

 

「なるほど、多少はわかってるじゃないか」

 

 噂が本当なら呪いに取り込まれた人数はかなりのものになる。

 なのに出てきたのは4体。

 同時に飛び掛かれる限界の数。

 それ以上は、居ても邪魔になるだけ。

 格闘技の知識など持たなくても、人を殺そうとする呪いの本能が最適解を導き出したのか。

 

 しかし、それに対する最適解を勇次郎は持っていた。

 

 4体の霊が同時に襲い掛かる。

 その瞬間、勇次郎の姿がブレたと思ったら、轟音と共に4体の霊は吹き飛ばされ、壁に叩き付けられていた。

 

「同時に襲い掛かることが出来るのは4人が限度。

 であれば、同時に4人を倒し続けられれば負けはない。

 これじゃあ、朝まで掛かっても俺は殺せねえ。

 こんなものなのか?」

 

 勇次郎の心底がっかりしたような声に呪いが反応したのか、今までとは違った現象が起きる。

 

 にゃ〜〜

 

 奥の部屋から猫の鳴き声が聞こえてきた。

 

「ふっ、安心したぜ。

 どうやら、これでネタ切れではなさそうだな」

 

 こんなものでは満足できない。

 これで終わりでは、テケテケの方が遥かにマシだ。

 

 

 猫の鳴き声がする部屋に入った勇次郎が見たものは、青白い肌の子供の霊だった。

 その子供霊の口から猫の鳴き声が出ていた。

 

「ガキの霊か。

 お前は何を見せてくれるんだ?」

 

 そんな勇次郎の言葉にも子供霊は反応を見せない。

 ただ、こちらを見つめながら猫の鳴き声を口にしていく。

 

 にゃ〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 その鳴き声が一際高くなった時、異変は起きた。

 

 勇次郎の口が突然開く。

 口の中には何かが、いや、無数の猫がいた。

 口の中に到底収まるはずのない数の猫が出口を求めてひしめいている。

 何匹かは、既に口から頭を出している。

 頬を引き裂き、顎を引き千切りながら出てこようとしているのだ。

 

 

 その猫は、出口を求めて邪魔な壁を押し開こうとしていたが、突然壁が動かなくなった。

 後ろから他の猫達に押されて圧力が高まっていくのに壁は一向に動かない。

 

 硬い何かが自分の腹を圧迫している?

 

 その時、猫は呪いとなってから初めて本能が呼び起こされていた。

 これは歯だ!

 どうして忘れていた!?

 口の中に入る意味を!

 今、ようやく悟った。

 ここは、捕食者の口の中なのだと。

 

 ザクッ!ブチブチ!

 ゴキッ!バキッ!

 グチャグチャ

 

 肉を裂き、骨が砕ける音が鳴り響く。

 それは、勇次郎からではなく、その口の中の猫達から奏でられていた。

 ピクルやジャックにも同じような事が出来るだろう。

 ならば、かつてジャックに向かって噛み付きなど戦場では基本技の一つに過ぎないと言い放った勇次郎に出来ないわけがなかった。

 

 ぺっ!

 

 ズチャッ!!!

 

 勇次郎の口から床にズタズタに噛み砕かれた肉片や骨が吐き捨てられる。

 その光景を子供霊も、後ろで見ていた少女も呆然と見ていた。

 

「面白い手品だったが、所詮はガキだったな」

 

 いつの間にか勇次郎が子供霊の前に立っていた。

 そして、拳を握り締めて振りかぶる。

 自分を殺そうとしたのだ。

 相手が子供だろうと容赦するような男ではない。

 

 子供霊に向かって無慈悲に振り下ろされようとしていた腕を女の手が掴んでいた。

 

 動かねぇ。

 

 勇次郎は驚愕していた。

 振りかぶった腕を背後から掴まれている不利な体勢ではあるが、女の細腕で本気で力を込めていないとは言え勇次郎の動きを封じているのだ。

 

 女霊の本質は呪いである。

 テケテケとは違い、力はその筋肉量によって決まりはしない。

 呪いの出力(ちから)は怨みの念の大きさに比例する。

 女は生前から負の感情を内に溜め込む性格だった。

 そうやって溜め込んだ負の感情が非業の死を遂げた時、彼女を呪いへと転化させた。

 そして、呪いとなっても共に居てくれた子供霊に危害が及びそうになったことが、濃縮し、熟成され続けた、昏く、ドロドロに煮えたぎった怨みの念に火を付け爆発的に燃え上がらせる。

 

 よくも、愛しい我が子に。

 許さない!

 

 女霊は、その感情のままに勇次郎の背中を圧し折るべく腕を引き落とす。

 

 ビタっ!!!

 

 勇次郎の腕を床に叩きつけるつもりだったのに途中で止まってしまった。

 勇次郎は、仰け反った体勢で止まっている。

 

 メキメキメキメキ

 

 勇次郎の背中から異様な音がしている。

 鬼の顔が浮かび上がるほど異常に発達した広背筋が背骨を圧し折ろうとした女霊の力を受け止めていた。

 

 押し切ろうとする女霊の呪い(ちから)と跳ね除けようとする勇次郎の筋力(ちから)が拮抗している。

 その状態で、勇次郎の胴着が背中から破れていく。

 胴着が完全に破れた時、均衡が崩された。

 勇次郎の身体が跳ね上がり、女霊の腕が振り解かれてしまった。

 

 腕を弾かれた女霊は、露わになった勇次郎の背中に浮かぶ鬼の顔を見て驚愕の表情を浮かべる。

 それは、呪いとなってから初めて浮かべる、恨みや憎しみのない純粋な驚きの表情だった。

 

 背中に鬼の顔!

 この男は人間ではないのか?

 

 自分の呪いに反応しているのだから人間なのは間違いないはずだが、あまりに人間離れした肉体に思わず疑ってしまった。

 

 

「ようやく、お出ましか。

 待ちくたびれたぜ。

 お前がこの呪いの本体だな?」

 

 本命が出てきてくれた事で勇次郎の顔に禍々しい笑みが浮かぶ。

 側から見ている少女には、化け物同士が争っているようにしか見えなかった。

 

 

 女霊の姿が消えたと思ったら、次の瞬間には勇次郎の後ろに居て顔を掴んでいた。

 呪いであること(持ち味)を活かした物理法則を無視した瞬間移動である。

 このまま勇次郎を自分の中に引きずり込み、呪いの一部として吸収しようとしていた。

 

 頭に触れられた時、勇次郎は既に反応していた。

 如何に物理法則を無視できようと勇次郎の肉体に干渉する時には実体を持つ。

 女霊の掌からすり抜けるように抜け出し、振り向きざまに拳を叩き付ける。

 

 吹き飛ばされた女霊は、痛みを感じていることに混乱していた。

 実体のない呪いである自分がなぜ打撃で痛みを感じる?

 そう言えば、取り込んで呪いの一部として(けしか)けた者達も殴り飛ばされていた。

 その時点でおかしいと気付くべきだった。

 

 混乱する女霊の前で勇次郎が構えを取る。

 自分に向けて拳を突き出そうとする勇次郎から目を離すことが出来ない。

 

 

 機能美

 

 ナイフや日本刀、戦闘機など一つの機能を追求した物には美しさが宿る。

 勇次郎の殴るという動きもそれだった。

 そして、美しさが宿るほど突き詰められた武は、ある種の神聖さを持つ。

 相撲の四股踏みとは屍魂踏みとも呼ばれ、地の底に邪気を押し込め、祓う神事であったと言う。

 

 勇次郎の身体から、その突き出される拳から光が見える。

 自身を貫く衝撃と痛み。

 女霊は殴られながら理解した。

 この男は霊能力者ではないが、呪いを祓う力を持っている。

 

 男が再び近付いてくる。

 このままでは祓われて消滅してしまう。

 それだけは避けなければならない。

 例えどんな手段を使っても。

 

 

 勇次郎の拳が女霊の顔を捉える寸前、その姿を消していた。

 

「逃げたか?」

 

 勇次郎も一時的に退いただけだと理解している。

 家の中の空気は相変わらず殺意に満ちているからだ。

 

 

 

 ブンッ

 

 突然、居間のテレビが点いた。

 画面には井戸が映っている。

 その井戸から女が這い出て、こちらに向かってくる。

 その動きは、先程までいた女霊のようにも見えるが、別の存在だ。

 新たに姿を見せた女霊は、テレビ画面からも這い出てきた。

 

 

 かつて、この家の呪いを除霊しようとした霊能力者がいた。

 呪いが自分の手には負えないほど強力だと理解した彼が取った手段は、化け物(呪い)には化け物(呪い)をぶつけるんだよ!であった。

 見た者を殺す呪いのビデオをこの家の中で見る事で呪い同士がターゲットを巡って潰し合うことを狙ったのだ。

 呪いと呪いがぶつかり合った結果、打ち消し合うどころか呪いが重なり、更に強力な呪いが生まれてしまった。

 それが新たに現れた女霊の正体であった。

 

 

 映像の中から出てきた女霊が立ち上がり、勇次郎を睨み付ける。

 その目には、今まで以上の殺意と覚悟があった。

 

 

 ドクンッ!

 

 勇次郎の胸に痛みが疾る。

 見えない何かで心臓が締め付けられているようだ。

 

「ぐっ!」

 

 胸を押さえるが物理的に何かをされている訳ではないので如何にもならない。

 血流が止まり、脳に酸素が供給されなくなったことで意識が遠のいていく。

 勇次郎がその場に蹲り、倒れてしまった。

 心臓は完全に停止している。

 地上最強の生物と呼ばれた男の死因は、原因不明の心臓麻痺となった。

 

 

 勇次郎の死を確認した女霊は、この男を連れてきた少女に視線を向ける。

 

「ひっ」

 

 勇次郎が女霊を殴り飛ばしていた時は、この人なら呪いを解けるのではと期待していた。

 でも、結果は心臓を止められ、倒れている。

 

 もう、駄目なのかな?

 この呪いは、永遠に残り続けてしまうの?

 

 そんな絶望が少女を襲う。

 更なる絶望を与えようと女霊が少女へと歩を進める。

 勇次郎の遺体の側を通り抜けようとした時、死んだはずの勇次郎の身体が跳ね上がり、血管が異常に浮かび上がるほど握り締めた拳が女霊の顎を突き上げた。

 あまりの勢いに女霊は、吹き飛ばされることすら出来ずに頭が四散した。

 首なしとなった女霊の身体が床に落ちる。

 

「ああ、良かった。

 生きていたんですね」

 

 少女が安堵の声を漏らすが。

 

「いいや、心臓を完全に止められちまった。

 殺されるのは初めの経験だぜ」

 

 いや、当たり前でしょ。

 一度、殺されたら終わりなんだから。

 なんで、この人は生きてるの?

 

 少女の疑問は当然だ。

 死ねば終わり。

 蘇生処置が成功したなどの例外を除いて生き返りなどしない。

 本当にそうだろうか?

 かつて勇次郎との戦いの最中に老衰で死亡し、その後、生き返った人物がいた。

 一度、敢えて死ぬことで勇次郎に殺される未来を避けたのだ。

 心臓の鼓動さえもコントロールしてみせた男の武は、勇次郎さえも認めていた。

 

 その男『郭海皇』に出来て、勇次郎には出来ない。

 勇次郎は、そんな事をいつまでも許しておけるような男だろうか?

 答えは否!

 勇次郎は肉体が強いだけではない。

 地上に存在するあらゆる武術を体得していると言われるほど肉体操作の天才でもあるのだ。

 心臓は筋肉で出来ている。

 なら、それを自在に動かすなど勇次郎なら出来て当たり前である。

 

 

 失った頭部を再生させた女霊が立ち上がる。

 男の心臓は確かに止めたはず。

 なのに、今は平然と動いている。

 何が起きたのか正確に理解することは出来ないが、呪殺が効かない事は理解した。

 取れる手段も時間も残り少ない。

 女霊は追い詰められていた。

 

 今の女霊は、二つの呪いが融合した姿だが正規の手順を踏まずに無理を通した状態だ。

 呪いには発動のトリガーとなる条件がある。

 呪いの家ならば、家の中に入ること。

 融合しているもう一つの呪いは、本来なら呪いのビデオを見ることで発動する。

 条件を無視して呪いを発動させたことで反動が女霊を襲っている。

 この男を殺しても、その後は弱体化して人を殺すことができなくなってしまう。

 音を立てたり、物を少し動かすことで侵入者を驚かせることしか出来ない心霊スポットに成り下がるだろう。

 それでもいい。

 この男に祓われて消滅するくらいなら、害のない心霊スポットに成り下がってでも私の呪いは存在し続ける。

 そんな覚悟で無理をしたにも関わらず、男は未だに生きて立っていた。

 

 まどろっこしい真似では、この男は死なない。

 ならば、肉体を完膚なきまでに破壊してやる。

 かつて、霊能力者の霊的防御を貫いて肉体の半分を消滅させた、この姿でしか使えない技。

 肉眼で見えるほど高密度に圧縮された呪いの力をぶつける。

 呪力砲とでも呼ぶべき技。

 この技で最後。

 これでも殺せないのなら、事実上、私にこの男は殺せない。

 

 これまで積み上げてきた全ての負の感情を込める。

 本来、目に見えないはずの呪いが肉眼ではっきり見えるほど収束していく。

 そのエネルギーが勇次郎に向けて解き放たれた。

 

 

 勇次郎が空手の構えを取る。

 両の腕が円を描くように動き、呪力砲のエネルギーを散らしていく。

 『回し受け』

 愚地独歩がドリアン海王の火焔放射(ヨガファイア)を掻き消した時に使用した受けの奥義。

 独歩に矢でも鉄砲でも、火炎放射器でも持って来いと言わしめた技は、呪いすらも受け流して見せた。

 

 

 これでも駄目なのか。

 何故、この男は殺せない?

 私達の怨みや憎しみはそんな軽いものではないはずなのに!

 女霊は、初めて勇次郎という男を知ろうと思って見た。

 そして、霊的な視点で見たが故に理解してしまった。

 勇次郎が既に膨大な怨みの念を向けられていることに。

 

 勇次郎は、優しくもなければ人格者でもない。

 最近は丸くなったようにも見えるが、刃牙との親子喧嘩である程度満足したからに過ぎない。

 勇次郎を勇次郎たらしめているもの。

 それは、桁違いの闘争本能。

 1日たりとも殺傷せずにはいられない。

 誰でもいい訳ではなく、自分を楽しませることができる強者が対象なのがせめてもの救いか。

 勇次郎が殺した人間の数は、女霊のそれよりも遥かに多かった。

 そんな膨大な量の怨みを受けても歯牙にも掛けない精神。

 ああ、私如きが殺せる存在ではなかった。

 

 女霊が最後に見たものは、膨大な怨みの念さえも弾く強烈な意志が込められた拳だった。

 

 

 

 女霊が消滅したことで呪いは消えた。

 家の空気が変わったのだから間違いない。

 

「これで満足か?」

 

 勇次郎が少女に問う。

 

「はい、ありがとうございます」

 

 少女が笑顔で答えた。

 

「ようやく、私も逝けます」

 

 少女の身体が少しずつ透明になっていく。

 実は、この少女も既に死んでいた。

 呪いによって殺されても、怨むのではなく、呪いの終わりを願った。

 怨みを抱かなかった故に呪いに取り込まれずに済み、怨みに囚われた魂を解放してくれる存在を探して彷徨っていたのだ。

 やがて、少女の姿は完全に消えた。

 家の外は既に明るくなってきている。

 夜が明け始めていた。

 

「さて、帰るか」

 

 訂正しよう。

 勇次郎には、優しい人格者としての一面もあるのかもしれない。

 突然、目の前に現れた人ではない存在の願いに(例え戦いへの期待があったにしても)応えてあげたのだから。

 

 

 

 ひとまず、この呪いは終わりを迎えた。

 けれど、忘れてはならない。

 呪いとは人の怨みの念によって生まれることを。

 今も新たな呪いが生まれているかもしれない。

 勇次郎すらも飲み込むほど強大な呪いが生まれる可能性もゼロではないのだ。






あらゆる呪いを物理で超えていく(笑)
そんな話になりました。
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