オーガ怪奇譚   作:ソロモンは燃えている

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寄生生物

 

 

 

 その日、勇次郎は日本のとある街を歩いていた。

 この街には、都市伝説のような噂話は特にない。

 近年、他の街に比べて行方不明者の数が多くなっているが誤差と言える範囲に留まっているため、警察が動いているということもなかった。

 そんな平凡な一都市でしかない場所を何故訪れているのか?

 それは、勇次郎が持つ類稀な感覚に導かれてのことだった。

 

 勇次郎の戦闘に特化した感覚は、相手が自覚していない弱点すら見抜く。

 それは、体内で密かに進行している病魔や妊娠の有無にまで及ぶ。

 街中を行き交う人混みの中に人間ではない存在が紛れ込んでいることを、その超感覚が捉えていた。

 そいつらは一般人にとっては驚異的な力を有していた。

 だが、勇次郎など強者と呼ばれる男達にとっては然程でもない。

 銃火器で武装した警察や軍の特殊部隊であれば容易く排除できる程度のものでしかなかった。

 

 それでも、勇次郎には予感があった。

 今日、この街で素敵な出会いに恵まれると。

 

 

 

 人通りのない裏路地に入ったところで、少し前から付けてきていた存在がようやく動いた。

 

「オマエが範馬勇次郎だな」

 

 声を掛けてきた男は、これと言った特徴を持たない平凡な男に見えた。

 しかし、勇次郎は街を歩いていた他の化け物共とは一線を画す力の持ち主であると見抜いていた。

 

「やはり、この街に来てよかった。

 今夜はよく眠れそうだ」

 

 勇次郎の顔は、早くも獰猛さを露わにしている。

 

「ふむ、人間の中には我々の存在に気付く超感覚を持つ者もいると言う。

 やはり、オマエもその類であったか」

 

「お前さんが人間じゃないのは分かっている。

 だが、重要なのはそこじゃねぇ。

 俺を満足させることが出来るかどうかだ」

 

「地上最強の生物に相応しい傲慢さだが、それも今日までのこと。

 私の名は藤堂(とうどう)

 今日、地上最強の生物の称号は私の物になる!」

 

 そう言うと男の両腕が先端に刃を持つ複数の触手に変化し、凄まじい速さで勇次郎に襲い掛かってきた。

 左右2本ずつ、計4本の触手が鞭のようにしなり、勇次郎の身体に迫る。

 鞭は、唯一人力で音速を超えることが出来る武器であるが扱いは難しく、実戦で使われることはほとんどない。

 今、勇次郎に振るわれているそれは化け物の肉体の一部。

 当然、手足のように動かせる。

 鞭では不可能な複雑な軌道も、複数の触手を連動させた連続攻撃も可能だ。

 しかも、先端は刃になっていて殺傷能力は鞭を遥かに超える。

 音速に達する4本の触手による刃の暴風に飲み込まれれば並の人間など一瞬で細切れにされる。

 だが、勇次郎はその暴風の中でも生きていた。

 

 (かわ)し、逸らし、弾く

 

 如何に勇次郎の肉体が頑強であろうと音速で振るわれる刃が当たれば大きなダメージを受ける。

 致命傷を避けることが出来ても触手は一本ではない。

 次々に振るわれる刃に飲み込まれ、ズタズタに切り裂かれてしまうだろう。

 一撃でも受け損ねれば、飲み込まれて死ぬ。

 そんな危険な領域で勇次郎は攻撃を防ぎ続けていた。

 

 勇次郎がバックステップで距離をとる。

 

「信じ難いな。

 生身の人間が私の攻撃をこれ程までに防ぐとは。

 地上最強の生物と呼ばれているのは伊達ではないようだ。

 だが、防御が精一杯のよう・・・!」

 

 距離をとったはずの勇次郎が目の前にいた。

 すでに拳を構え、突き出すだけの体勢だ。

 

 何故!?いつの間に!?

 

 藤堂の思考が驚愕で染まる。

 

 勇次郎の拳が突き出された時、その場に藤堂の姿はなかった。

 

 

「さすが化け物、これで終わりじゃなくて安心したぜ」

 

 勇次郎が見上げるとビルの壁に刃を突き刺して張り付いている藤堂の姿があった。

 両足も変形して、まるで草食獣のような逆関節になっている。

 この足で得た敏捷性と跳躍力で勇次郎の拳を回避していた。

 

「やはり、顔や腕だけじゃなく足も化け物だったか」

 

 勇次郎の超感覚で捉えた弱点は胴体部分のみ。

 つまり、人間部分は胴体しかなく、その他は寄生生物で構成されている。

 謎だった足の部分の寄生生物が戦闘にどう寄与するのかも明らかになった。

 

 あの敏捷性と跳躍力。

 周囲のビルの壁を使った三次元機動か。

 これは銃で武装した特殊部隊でも仕留めるのは無理だな。

 

「驚いたな。

 今のは中国武術の縮地か?」

 

「ほう、化け物の割に博識だな」

 

 縮地。

 テケテケがやったフィジカルごり押しによるものではない。

 初速から最高速度を出す体捌き。

 意識の空白をつき、出足を悟らせない抜き足。

 いくつもの高等技術を複合させた、まさに奥義と呼ぶに相応しい技。

 

 確かに驚異的な技だ。

 武術と言うものも侮れないな。

 だが、攻勢を掛けていればあの様な技は出せない。

 万一、距離を詰められても対処は可能。

 いや、そもそも三次元機動で的を絞らせなければ奴は何も出来ない。

 私の勝利が揺らぐことはない。

 

 

 藤堂が壁を蹴る。

 次の瞬間、反対側の壁にいた。

 地面や壁を蹴り、空間を縦横無尽に飛び交う。

 ビルに囲まれた裏路地と言う地形がこの動きを可能としていた。

 

 

 さあ、一方的な蹂躙の始まりだ!

 

 

 攻撃を仕掛けようとした藤堂の前に勇次郎がいた。

 

 

 如何なる攻撃にも間合いと言うものがある。

 それは寄生生物の攻撃も同じ。

 刃の大きさ、それを振るう触手の太さ。

 物体を両断するにはある程度の重さが必要になるため、伸ばせる距離には限界がある。

 それ故に攻撃時は必然として間合いを詰めることになる。

 もちろん、普通の人間とは比べ物にならないほど間合いは広い。

 だが、勇次郎は肉体の強さと技術でその距離を埋めてきた。

 かつて刃牙がピクルの超高速機動についていった時と同じだ。

 人間が積み上げてきた技術は理不尽なフィジカルの差すら乗り越えることを可能にしていた。

 

 

 バカな!何故、この動きについてこれる!

 いや、思考を切り替えろ!

 すでに奴の間合いだ。

 

 ここまで接近されると刃の触手では小回りが効かないため、腕を人間に近い形に変え、爪だけを刃にする。

 猛獣すら持たない鋭利な爪を持つ腕を振るうが、格闘戦に持ち込まれた段階で勇次郎に部があった。

 ここは、勇次郎の間合いだ。

 

 爪は躱され、カウンターの拳が胴体に叩き込まれた。

 

 藤堂が後方に飛ばされ、なんとか体勢を立て直し着地したが憎々しげな目で勇次郎を睨んでいる。

 屈辱を感じているようだが、人間部分を殴られたのにダメージを受けている様子はない。

 

「殴った感触がおかしかった。

 胴体部分も覆っているのか。

 だが、硬質化して鎧にしたって感じでもねぇ」

 

 人間の筋肉にはない柔らかさと弾力で衝撃が弾かれたような感覚を感じていた。

 

「弱点の胴体部分を完全に覆って硬質化すれば動きを阻害するが、それを避けようとすればどうしても鎧に隙間が出来てしまう。

 私のプロトタイプである後藤にあった欠点の一つだ」

 

「プロトタイプ?」

 

「ああ、かつて〇〇市で活動していた同族が実験で生み出した存在だ。

 人間との抗争が起きた後、話を聞くこともなくなった。

 おそらく人間に殺されたのだろう」

 

「〇〇市か、そう言えば何年か前に市庁舎で派手な銃撃戦があったな」

 

「そこで活動していた同族達は壊滅した。

 だが、行われていた実験のデータは我々に引き継がれ、さらなる発展を遂げたのだ」

 

「なるほどな、硬質化して防ぐのではなく筋肉の鎧で内側から弾くことで動きと防御を両立させたか」

 

 それだけじゃねぇな。

 奴の身体は、言わば考える筋肉。

 攻撃を受ける部分に身体を集めて分厚くしている。

 

 かつてビスケット・オリバが刃牙の剛体術すら防いだ筋肉操作による防御。

 藤堂のそれはオリバの上位互換と言えた。

 

 音速の刃を振るう触手。

 高い機動力と跳躍力を持つ足。

 三次元機動を可能とする地の利も取られている。

 その上、打撃に対する防御も鉄壁。

 

 ここまで不利な条件が重なっているのに勇次郎の顔には笑みが浮かんでいた。

 

「何がおかしい。

 状況を理解していないのか?」

 

「いいや、理解しているさ。

 理解しているから嬉しいんだ」

 

「なに?」

 

「戦場ですら命の危険を感じなくなって久しい。

 だが、お前たちのような化け物がいてくれた。

 俺の命にすら届き得る力。

 さあ、楽しませてくれ」

 

 勇次郎がゆっくりと歩き始める。

 一見、無防備に間合いを詰めているように見えるが藤堂は違和感を感じていた。

 

 おかしい。

 奴はこの程度の間合いなど一瞬で詰めてきた。

 なぜ今回はゆっくりと近づいてくる?

 何を狙っている?

 3次元機動のために跳躍する瞬間を狙っているのか?

 奴は私の動きに付いてくることが出来る。

 身体能力だけの馬鹿じゃない。

 間合いに入られれば、今度こそダメージを通してくるかもしれない。

 

 だが、分かっているのなら対処できる。

 逆にその状況を利用してやればいい。

 躊躇う必要などない。

 

 藤堂が勇次郎の周囲を飛び回りながら、触手による斬撃の雨を降らせる。

 それでも勇次郎の歩みは止まらなかった。

 

 勇次郎の間合いに入った刃は全て叩き落とされている。

 悠然と確実に間合いを詰めてくる勇次郎を前に藤堂は焦りを抑える。

 

 くっ、先程までの回避とは違う。

 奴は何をした?

 いや、集中を乱すな。

 どんな形であろうと必ず懐に入ってくる。

 やるべき事は変わらない。

 

 さらに激しく斬撃を繰り出すが、動きが荒くなったことで隙が出来てしまう。

 その瞬間に勇次郎は動いていた。

 静から動へと。

 急激な加速に刃は標的を見失う。

 

 次の瞬間、勇次郎は藤堂の前にいた。

 両腕は伸びきっていて引き戻している時間はない。

 跳躍による回避も勇次郎からは逃げられない。

 迫り来る勇次郎の拳を避ける術はないかに思われた。

 

 

 藤堂の顔に笑みが浮かぶ。

 

 勇次郎の拳が止まっていた。

 よく見ると勇次郎の太腿に刃が突き立てられている。

 藤堂の右足の付け根辺りから新たな触手が生えて斬りつけていたのだ。

 

「掛かったな。

 先程までの私が全力だと思っていたか?」

 

 反対の左足の付け根からも触手を出す。

 それだけではない。

 背中の肩甲骨辺りからも左右2本づつ触手が現れる。

 

「死ね!」

 

 新たに出した触手による刃が勇次郎を包囲するように迫る。

 さらに伸ばしていた触手の刃が退路を断つように後ろから迫っている。

 絶体絶命の状況。

 刃が勇次郎に触れた時、その肌を切り裂くことは出来なかった。

 

「なに!?」

 

 勇次郎は、刃が触れた瞬間に身体を捻り、刃先を逸らし、表面を滑らせた。

 そうやって刃をぶつけ合わせ、出来た隙間から離脱に成功した。

 

「ふう、危なかったぜ」

 

 そう言う割に勇次郎の顔に焦りは見えない。

 

「気付いていたのか?

 我々が5体ではないことに」

 

「へっ、殴った時に胴体にも一匹いるって分かったからな。

 気配が重なっていて分かりづらいが、もっといると確信した」

 

「なるほど、さすが地上最強の生物と呼ばれるだけのことはある。

 だが、足に傷を負った。

 それで今までのような動きが出来ると思っているのか?」

 

 勇次郎が足に力を込める。

 

 ビキビキビキッ

 

 流れ出ていた血が止まった。

 筋肉で強引に止血し、過剰に分泌されたアドレナリンにより血が凝固し傷口を塞いだのだ。

 人間離れした再生力により傷口は瘡蓋になりつつある。

 もちろん内部はまだ治っていないが、痛みさへ我慢すれば戦闘に支障はない。

 そして、痛みは勇次郎の動きを阻害する原因にはなり得ない。

 結果、戦闘続行に問題なし。

 

「傷が如何だって?」

 

「化け物め」

 

「くっくっくっ

 化け物はお前じゃねえか。

 全部で10匹か」

 

 頭、両手、両足の他に胴体の防御に一体。

 新たに生えてきた背中の2体と両足の付け根の2体。

 合わせて10体もの寄生生物が一つの身体を共有していた。

 

「藤堂か…安易な名前だな。

 10匹の頭だから十頭(とうどう)てところか」

 

「名前などどうでも良いだろう。

 プロトタイプの例に倣ったまでだ」

 

 藤堂が背中と腰の触手、計8本の触手を勇次郎にけし掛ける。

 両腕は人間の形を維持し、間合いを詰められた時に備えて構えている。

 手数を倍に増やしても油断せずに備えていた藤堂の判断は正しかった。

 

 刃と触手の接合部、固定するために硬質化している部分を打ち払うことで別の刃にぶつける事で一撃で2本の触手を防御する。

 つまり、4本の触手で攻撃されていた時と実質的に状況は同じ。

 まあ、そんな理論が通用するのは勇次郎くらいだが。

 言われるまでもなく、防御の難易度は格段に上がっている。

 

 ハードルの高さが2倍になろうが問題ないとばかりに圧倒的な技量で触手による攻撃を弾き返し、間合いを詰めてきた。

 

 人間とはここまで強くなれるのか。

 

 藤堂は、勇次郎の強さに戦慄を覚えながら両腕によって迎撃する。

 たちまち激しい乱打戦が始まった。

 

 両腕を硬質化して胴体を守る。

 引き戻した触手による四方八方からの攻撃も続いている。

 時折り、逆関節の足による蹴りも織り交ぜる。

 そこまでして勇次郎との打撃戦は拮抗した状況だった。

 

 

 藤堂は待っていた。

 切り札を切るべきタイミングをずっと、静かに。

 目の前の勇次郎(バケモノ)は、歓喜の表情を浮かべている。

 今の状況は、例えるなら互いの命を天秤に乗せているようなものだ。

 少しでも均衡が傾けば、たちまち飲み込まれて命を失うと言うのに恐怖を一欠片も感じさせない。

 死を恐れるという生物としての摂理から外れている勇次郎を理解できない。

 強者としての傲慢なまでの自負がそうさせているのだろう。

 だが、それは強さ故の鈍感さだ。

 付け入るべき隙になる。

 

 藤堂が初めて攻勢に出る。

 胴体部にいる同族に防御を任せ、両腕は勇次郎への攻撃へと割り振った。

 勇次郎を捉えるために藤堂の姿勢が前掛かりになる。

 

 勇次郎に引くという文字はない。

 藤堂の攻勢を受けて立ち、さらに激しい打撃をもって飲み込もうとする。

 必然として互いの顔がぶつかりそうなほど接近することになる。

 

 そこで藤堂が動いた。

 

 最後に残された切り札を切るのはここだ!

 

 藤堂の顔が変化し、鋭く尖らせた触手を槍のように突き出す。

 狙いは勇次郎の眼球だ。

 今まで人間の形を保ち続けていた頭部による至近距離からの奇襲。

 それにすら勇次郎は反応した。

 

 だが、完全には回避できず、右まぶたを切り裂かれ出血。

 血が目に入ってしまった。

 

「外した!?いや、回避されたか。

 だが、視界は半分潰した。

 血を拭いとる時間など与えん!」

 

 頭部すらも触手に変化させて総攻撃を掛ける。

 

「ちぃ!頭部まで攻撃できたのか」

 

 視界の半分を塞がれた状態で、さらに手数を増やし、逃がすものかと苛烈に攻め立ててくる。

 あの勇次郎が防戦一方に押し込まれていた。

 

「そうだ。

 藤堂とは十頭にあらず。

 全員が同等である十同だ」

 

 後藤は、頭部が他の4体を完全に支配していた。

 故に後藤自身は全体の統括以外、何も出来なかった。

 

 藤堂は違う。

 他の9体を支配などしていない。

 それぞれがそれぞれの意思で動いているのだ。

 人間との争いに敗れたことで寄生生物は自覚した。

 自分達は弱い生き物だと。

 だから、同族を支配するのではなく、手を取り合って協力する道を選んだ。

 

「私はお前と違って弱い。

 人間がいなければ生きることさえ出来ないのだから。

 だが、弱さを受け入れたからこそ我々が勝つ」

 

「なるほど、文字通りの一心同体ってわけだ。

 噂に聞いたマウスなんぞ話にならない連携だな」

 

 10体の寄生生物が集合し、一つの生物として動いている。

 他の個体を邪魔しないようにそれぞれが思考し、最適な動きを模索し続ける。

 一糸乱れぬ群体性物として完成していた。

 

 このままでは押し切られて死ぬ。

 勇次郎もまた賭けに出ざるを得ないほと追い詰められていた。

 

 もう少し…いや、これ以上は持たねぇ。

 くっくっ、部の悪い賭けなんて何時ぶりだぁ。

 単体では大したことない奴が集まって見事な化け物になってくれた。

 嬉しいねぇ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 嬉しくて、蹂躙したくなっちまうじゃねえか!

 

 勇次郎の動きが変わった。

 藤堂の攻撃を防ぎ切れず、少しずつ傷を負うようになってきたのだ。

 致命傷には程遠い小さな傷。

 だが、勇次郎を知る者から見れば驚愕の事態だ。

 あの勇次郎が防ぎ切れずに一方的に傷付けられている。

 小さな傷は積み重なり、やがて致命の傷へと至る。

 藤堂は勝利を確信していたが油断も慢心もなかった。

 だから、これは必然。

 

 勇次郎が強引に踏み込んでくる。

 

 このままではジリ貧だと判断して、強引に攻める気か!

 あまりに無謀だぞ!

 

 大きな隙を晒した勇次郎の背中に致命の一撃を突き立てようと触手が動く。

 

 だが、触手の動きが鈍い。

 その一撃が入る前に勇次郎の攻撃が間に合った。

 胴体部を捉えた勇次郎の拳。

 当然、胴体部にいる個体は全力で防御する。

 万が一貫かれてもダメージを受けないように臓器の位置すら動かしておく。

 

 二人の影が重なる。

 勇次郎の拳は藤堂の腹部を捉え、藤堂の刃は勇次郎の背中に突き刺さっている。

 

 崩れ落ちたのは…藤堂だった。

 触手が力を失い、勇次郎の背中から抜け落ちる。

 倒れた藤堂が勇次郎を見上げながら呟く。

 

「なぜ負けた?

 お前の攻撃は防いだはずだ。

 いや、攻撃が当たる前に我々の攻撃が届くはずだった」

 

「ダメージの蓄積だ」

 

「…なるほど、我々もただの生物だったな」

 

 藤堂は、自分の敗因を理解したのか納得の表情を浮かべている。

 そして穏やかな表情のまま萎れて、死んでいった。

 勇次郎の一撃は浸透勁だった。

 勇次郎の身体能力を持って放たれた浸透勁は、藤堂の臓器を蹂躙し致命傷を与えていた。

 それはショック症状をも引き起こし、血液から栄養やエネルギーを受け取っていた寄生生物にも影響を及ぼす。

 勇次郎の背中への一撃が致命傷にならなかった理由である。

 最後に勇次郎の背中へ攻撃しようとしていた触手の動きが鈍かった理由。

 それがダメージの蓄積。

 寄生生物の身体は考える筋肉で出来ている。

 勇次郎が傷付きながらも打ち払い続けたのは触手を構成する筋肉にダメージを与えるためでもあった。

 十分なダメージを与えた確信は、勇次郎にもなかった。

 それでも動かざるを得ないほど追い詰められていたのだ。

 

「負けたってのにいい顔で死んでやがる」

 

 短い生涯であったが藤堂に後悔はない。

 地上最強の生物に挑み、最高の戦いが出来た。

 自分の生に満足できた者の顔だった。






原作で怪奇口だけ女とかやっていたのを思い出したことでネタが浮かびました。
都市伝説とはちょっと違うかもですが(^_^;)
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