迷惑アーティストと芸術セクター   作:回者

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「ここが目的地? 見事に何もないけど」

 

 休憩を終えてから、バツ印の場所に着くまではそう時間がかからなかった。印は中央部を指していたから、迷うことはなかったし、低木ぐらいしか邪魔になるものはなかったからだ。だけど、目的地には何もなかった。地面には枯れた草花が散らばっており、僅かにここが花畑だったことが想像できる。

 

「うーん、やっぱり偽の地図だったか――」

 

 わたしも考古学者であるから、観察眼には自信がある。だから、地面の違和感に気づいたのだ。少しの欺瞞が施されているが、地面に蓋のような物がある。少しのセキュリティロックが掛かっていたが、この程度なら専門でなくても解除できる。

 

「これは……木箱っぽいね。なんだか、埋蔵金を掘り起こしたみたいで、わくわくするサ」

 

 中はちょっとした収納になっていて、木箱が入っていた。パズルと協力して持ち上げて、外に持ち出した。もちろん、こういった掘り出し物は慎重に扱う。その点でいえば、器用なパズルが傍にいて助かったかもしれない。パズルの発言のように、わたしは木箱に手を触れ続ける度に興奮が増していくのを感じていた。

 パズルはもう待ちきれなかったようで、地面に降ろした途端に、封を剥がして開封しようとする。わたしも後に続いた。

 

 

 

「フェーン! これ、リコのところで見たことあるサ!」

 

 そう言って、パズルはブロック玩具を取り出した。わたしも見たことがあるが、それは限定品でも何でもない、ただの安物のおもちゃだ。

 

「パズル、遊んでないで探してくれない。まだ色々詰まってるんだから」

 

 他にもどこかのアニメのキーホルダーだったり、可愛らしいぬいぐるみだったり、丸っこい石だったりが中に入っている。わたしは一気にがさっと下から掴んで取り出した。

 

「――フェーン、それを見せるのサ。そう、その丸っこい石サ!」

 

 取り出したものから石を探して、パズルに投げて渡す。パズルは受け取ると、石をじろじろと見つめた。

 

「うくくく、あちきたちは苦労してこのおもちゃ箱を探しにきたようだね」

 

 わたしも思っていたことを、パズルが代弁する。間違いなく、ここにいたエージャントのものだろう。それも、かなり幼い。地面を偽装できるような権限を持っているのだから、もしかしたらアドミニストレーターかもしれない。

 

「でも、結構楽しいサ。ほら、これとか傑作だわサよ!」

 

 パズルはあの石を見せてくる。よく見ると、絵の具で何か絵が描かれてあった。二人のエージェントが手を繋いている絵だ。二人とも真っ白な髪をしており、間には明確な身長差があるようだ。

 

「ハァ……パズル、そんなのただの子供の落書きだよ。何の価値もない」

 

 わたしは苛立っていた。自分でも気づかないうちに、眠っている物に大きな期待を寄せていたようだ。もしかすると、とてつもなく大事なものが、それこそマグラシア脱出の糸口となるものがあるかもしれないと思っていたのだ。

 でも、結局は子供の遊びに付き合わされただけだった。あんなに見ていてわくわくしていた、羊皮紙も今は憎らしい。

 

「そんなことないサ。この絵をちょっと見るだけでも、描いてたときの楽しさとか、二人の仲良し具合とかが伝わってくるからね。あっちにあったやつらよりもよっぽどテーマがはっきりしてるし、想いがこもっているのサ」

 

 まあ、あちきの作品には敵わないけどね。付け加えた言葉は照れ隠しのようで、かえってパズルがこの中身を気に入っていることを実感させる。

 

「わかったよ。そこまで言うなら、木箱ごと持ち帰ってみようか。化石竜を使えばあんまり負担にならないし」

 

 パズルに連れてこられなければ、このセクターに来ることはきっとなかっただろう。だから、ちょっとしたお礼のようなものだ。それに、今は少しでも早くオアシスに戻りたかった。自室にある工具でも見て、メンタルを整えたかったのだ。

 

「いや、こいつらはここ、ピエリデスセクターに置いとくのが一番サ。誰かに見せようとつくったわけじゃなさそうだし。でも――」

 

 えらくしおらしい発言だ。確かに、わたしも現実で遺物を発掘したときは、毎回少し悩むものだ。例え使っていたのが大昔の人だとしても、勝手に持っていくのは誰かへの冒涜なのではないかと。

 

「このまま地面に埋まってるままだなんて、もったいないだわサ! 色んな人に見せたい! アーティストとして、どうしてもそう思うのサ」

 

 だけど、今を生きる者として、誰かが生きた証をそのままにしておくわけにもいかない。せめて研究に使うことで、わたしたち学者だけでも覚えようとする。もったいないとは違うが、その人から何かを受け取りたいと思ってしまうのだ。

 

「だから……どんなやつでも思わず立ち止まっちゃうようなアートに、このあちきが仕上げてやるのサ!」

 

 

 

 誰も手入れをしていなかったからか、花園はひどい様子だ。低木も木も、葉を伸ばさずに枝がむき出しになっている。肝心の花はすっかり枯れ落ちてしまったようで、唯一生き生きとしている植物は雑草ぐらいのものだった。だけど、そんな色のない花園が、今鮮やかさを取り戻そうとしている。

 

「パズル、少し休憩したら? ずっと動いているから、疲れがかなり溜まっているはずだ」

 

 あの宣言通り、パズルは木箱の中身を使って、アートを造り始めた。大きな彫像だ。彫像は立体的で、作業するには大きく体を動かす必要がある。ここには足場と言えるものもないし、造るのはとても大変なはずだ。

 

「……返事なしか。まあ、楽しそうだし、疲れなんてどこかに飛んでいそうだね」

 

 アーティスト人形だからか、パズルの集中力は高かった。たまに声をかけているのだが、とても耳に入っているようには思えない。そんな光景は、まるで現実でのわたしのようだった。

 

「ハァ……やっぱり、先に帰っておけば良かったか」

 

 わたしは、雑草だらけの芝生に座って、適当に読書をしていた。読んでいるのは、セクターを周るときに見つけた本たちだ。分厚くごわごわとした皮の表紙と、つるつるとした中身の紙。そうやって本を触って感じる感触は好きだったが、今はあまり楽しめそうになかった。

 ぺらぺらとページを雑にめくり、一冊の本を読み終える。だけど、いまいち集中できなくて、中身の内容は頭に入っていなかった。

 

「ええと、次の本はどれが――あれ? この本、どこかにあったっけ……」

 

 つい先ほど読んでいた本とは二回りも小さいものが、積み重なっていた本から落っこちた。その表紙には、大きな文字で日記と書いてある。

 

「多分、木箱から色々出しているときに混ざったんだろう……暇だし、読んでみようか」

 

 

 

「――ん、うーん、届かない……もうちょっと素体が高ければな~」

 

 なんだ、騒がしい。今、結構良いところなんだけど。

 

「おっとっと、よしセーフ――じゃない!」

 

 パズルの制作は締めに差し掛かっていて、身長のためなかなか手を付けていなかった上部を造っている最中だった。ただ、つま先立ち、それもぎりぎりまで伸ばしたものでないと手が届かないようで、どうしてもパズルのバランスが悪くなってしまう。

 それで、ついにはバランスを崩して、後ろに倒れこんでいるようだった。

 

「あれ……痛みがこない?」

 

 パズルはつぶっていた両目を開ける。目線はちょっと斜め上に傾いている。きっと、背中にはごつごつとしていて、ちょっぴり硬い感覚がしているだろう。

 

「まったく、危なっかしすぎて見てらんないよ」

 

 化石竜は小さく翼をはためかせて、パズルを少し浮かせる。パズルが彫刻のてっぺんに手を降ろせるぐらいの高さだ。

 

「ふむ、あのときは考える余裕がなかったけど、結構乗り心地は良いんだわサ。フェーン、ナイスなことするじゃんサ!」

 

 ついさっきまで怪我をしそうだったというのに、パズルは陽気に作業を再開させる。それとも、わたしを信頼してのことなのだろうか。

 

「パズルがどんなアートを造るのか、わたしも見たくなったんだ」

 

 日記の内容は、二人の姉妹の話だった。毎日芸術を学んで、作品をつくって、二人で遊ぶ。姉妹は仲違いすることもなく、水入らずで楽しい日々を過ごしていたようだ。だけど、言い方をかえればずっと二人ぼっちだったとも言える。姉妹は、特に妹の方は孤独をより感じていた。

 だから、誰かがセクターにやってきて、一緒に作品をつくってくれる光景をずっと夢見ていたようだ。それこそパズルのような型破りな人物を、そして作品を期待していたのだ。

 

「そうだ、これも使ってくれない?」

 

 手に持っていた日記をパズルに渡す。日記から何かを感じ取ったのか、パズルは一番目立つ場所、彫刻のてっぺんに設置した。

 

 マグラシアは遺物も遺跡もないし、考古学者泣かせな場所だ。だけど、たくさんの人がいて、また消えている。ならば、誰かはその事実を見つけて、覚えておかないといけない。まだ現実には帰れそうもないし、わたしがその役目を担ってみても良いかもしれない。ちょうど作品が完成して興奮しているのか、今はそう前向きに思えるのだ。




 イオスガチャですり抜けてパズルが出てきたので
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