そんなめっちゃエリート主人公が、僻地の提督にまで堕ちるという話
「だから何度も言っている。貴様に渡すような貧弱な艦娘はうちには居ない!」
提督の背後に隠れながら怯えた目を向けた駆逐艦が、目に涙を浮かべていた。
蝉が死にゆき哀愁漂う終夏、横須賀鎮守府。
所々薄汚れた白衣を着た長髪の男が背後に聳え立つ鎮守府を後目に門から出てきた。その表情は眉間に皺を寄せ、度が合っていないのか眼鏡を押し込み続けている。目の下のクマがさらに深くなったような気がした。
──クソ…、クソ…!クソ!クソ!どうしていつもこうなる…。何奴も此奴も非合理的に動きやがって、、舞鶴も佐世保も呉も横須賀も!何故に私の研究を理解してくれない…!!これが最善であるはずだと言うのに。。
男はその場で地団駄を踏む。白衣に無理やり取り付けた階級章が海軍所属を表していなければ、即刻不敬として鎮守府に逆戻りしていただろう。
「明坂少佐、移動の準備が完了しているであります。」
陸軍所属の艦娘─あきつ丸─が此方に陸軍式の敬礼を向けている。無言で黒塗りの車両に乗り込み常設されたお茶を口にすると、あきつ丸が運転を開始した。
数分間、つまらない
「その様子ですと、今回もダメだったようでありますな。」
「ハッ!何奴も此奴も腑抜けてばかりだ。非合理的な動きばかりするから過去戦争に負けていると言うのに、そこから学ばないとは、低能な連中ばかりだ。」
車の外の景色は林を抜け、広告の激しい高層ビル群に入る。この大通りを抜けたら直ぐに高速だ。近年高層ビルが更に減りつつあることも考えると、やはり横須賀周辺の立地の良さが伺える。
ふと目に入った光景を見て思う。どうしてだろうか、自転車をこぐ
──私の専攻は艦娘生態学、及び艦娘兵器利用科学だ。某年、
突然現れた深海棲艦─現代兵器の効かない化け物─に、世界中は蹂躙された。海上輸送が出来なくなったことで世界のライフラインが途絶え、日本は存亡の危機に陥っていた。遂に深海棲艦が陸上侵攻を開始しようとした時に現れたのが、人類の
そして本題、私の研究は主に2つ。艦娘の効率的な運用と、艦娘ないしは妖精の力を利用しない深海棲艦への攻撃方法だ。前者は資材集めによる遠征の効率的編成や、対深海棲艦への陣形などの研究、後者は例えば、衛生を介した電磁波攻撃、戦略的核ミサイルによる熱攻撃などである。尤も、今までに成功した試しは無いが。
ちなみに私が主要鎮守府提督を説得しようとしていた内容は、艦娘及び深海棲艦の肉体構造調査である。未だに謎に包まれている彼女らの身体構造。鉄やボーキサイトが主成分にも拘わらず人間と酷似した身体的特徴。それらを解き明かすことによって、同じような特徴を多く含む深海棲艦に決定的な対処法が生まれると私は考えていた。
そこに至るまでに
「非合理、でありますか。」
バックミラー越しに見えるあきつ丸の眉が、少しだけ斜めに傾く。またこの顔だ。私の研究について言及すると誰もがする表情。私の研究が成功することが一番効率的に深海棲艦に勝てる方法なのだから、少しくらい我慢して欲しい。
「残念ながら国際法は人間同士の争いにしか適用されない。艦娘からしたら私の研究は不都合かも知れんが、これが私の中で最適解だ。止めれると思うなよ。」
「いえ、当初からあきつ丸は明坂少佐のお考えを制限するつもりは無いのであります。」
「そうかい。」
車内に静寂が生じる。そこで気づいた。明らかに進む方向がおかしい、一体…この車はどこへ向かっている…??
「おいあきつ丸、一体どこへ向かっている?私はこれから大湊に向かう予定だ。この高速では進路が違うだろう。」
「いえ、合っているでありますよ。近道を用意しているのであります。」
「はぁ?そんなわけが無いだろう。私はこの地域出身だぞ、周辺地理は熟知しているに───」
瞬間、視界にモヤが生じる。これは、経験したことのある不快感だ。10数年前の訓練生時代、睡眠薬に対して耐性を付けるための訓練で…
「まさか…、貴様盛りやがったな!?最初に置いてあったお茶か……!!」
そう言っている間にも思考が闇に呑まれてゆく。久しくこんな薬飲んでいない上、過労と睡眠不足で生まれた目のクマからもわかる通り、とっくのとうに体は限界を迎えていた。
いつも以上に眉間に皺を寄せ運転席を睨みつける。
「くそ…あきつ……ま…、、、」
───車内後部座席から規則的な寝息が聞こえてきた。もう7時間は起きることは無いだろう。自然と運転手の口角が上がっていく。
「ふっ…ふっふっ、遅くなってごめんなさい。遂にこの時が来ましたよ、神州丸。この
黒塗りの車を運転するあきつ丸の目には、光が灯っていない。車内がトンネル内に侵入することで一層、目元の暗さが増していた。そんな2人だけの
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自分は今、とてつもない理不尽に顔を歪ませているのであります。
軍法裁判、原告側から見て目の前に立つ薄汚れた白衣を着た長髪の男が、裁判官席に座る元帥殿から判決を言い渡される。
その罰則は研究所の凍結、加えて、僻地鎮守府への追放。
あまりにも理不尽すぎる。そんなのあんまりではないか。遂に堪忍袋の緒が切れたあきつ丸が、声を荒らげる。
「なんで…、なんでアイツは死罪にならないのでありますか!アイツの罪状はどう考えて見ても、絶対にこの程度の軽い刑で許されていいはずが無いのであります!!」
目尻に涙を浮かべるあきつ丸に、冷ややかな目線を向けるマッドサイエンティスト。まるで何に対し怒っているのか全く理解出来ない。という表情が、あきつ丸の怒りを更に加速させる。
もう一度声を荒げようと思った矢先、元帥殿から静止が入る。
「あきつ丸、今の海軍に優秀な人材を即座に切り捨てられる程の余裕は無い。だから現状はこれで満足して欲しい。」
「ですが!それでは非人道的実験によって沈まされた神州丸が報われないでありますか!」
「研究の件は私としても申し訳なく思っている。部下の暴走を把握出来なかった私にも責任はあるだろう。」
「元帥殿は悪くは無いのであります…!!、全てはアイツが…」
元帥はふむ…といった仕草と共に思案を広げる。
齢七十を超え刻まれた皺があるにも関わらず、造形の良い顔の片目を瞑り、背後の傍聴席は固唾を呑んで次の発言を待ち続けている。
「あきつ丸、先も言った通り今の海軍に優秀な人間を即座に切り捨てられるほど、余裕は無い。そこで1つ案がある。今日出した判決を、仮のものとする。」
「仮、でありますか?」
「そうだ。今でこそ日本近海に留まっているが、これから先は領海外にも反撃を開始する。それにより勝鬨を上げ、今の海軍に明坂少佐を切り捨てることが出来るようになった時、もう一度軍法会議を開こうじゃないか。」
「つまり…日を改めて第二審を用意するということでありますね。」
「そういうことだ。」
元帥が頷くと、あきつ丸はマッドサイエンティストに視線を注ぐ。しかし、はなから発言権など与えられていない科学者は、最早この光景にも興味を無くしているように見える。恐らく、次の対深海棲艦兵器の可能性を思索しているのだろう。
1年間付きっきりで科学者の補佐役に居たあきつ丸にとって、奴が何を考えているのかすら容易に分かってしまう。そこに不快感を覚えながら、全身黒服の少女は妙案を思い付いた。
──そうだ、奴のアイデンティティである研究を封じればいいのでは?
自然とあきつ丸の口角が上がる。
「元帥殿、提案があります。」
「聞こう。」
「研究所の凍結、僻地への異動と言っても場所は鎮守府。そこには艦娘がいて、その艦娘に手を出されたら本末転倒なのであります。故に自分は、明坂少佐に監視の目を付け研究を出来ない状態にすることを提案するであります。」
長髪の男は目を見開き、動揺を隠せない。その表情を見て、あきつ丸は初めて報われた気持ちになった。
元帥はふむ、と一声置き。
「今はそれが、最善の選択だろうな。」
元帥が言葉を零すと同時に、長髪の男がこちらを睨みつけてくる。いやはや、気分がいい。こうして、軍事裁判は閉廷するのであった。ざまぁみろであります。
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憂鬱だ。
これから何を目的に生きていけばいいのか。研究を取り上げられた私に残るものなど、何も無いというのに。
最近ようやっと民間人輸送用列車の稼働が再開された中、私は軍人用特別車両の窓から外を見る。最近風景を見ることが多い。と思いつつ、景色が山ばかりになる事に気を落とす。
「そんなに異動が嫌なのですか?」
と、向かいの席から声をかけできたのは、私が配属される鎮守府の憲兵だという。なんでも、地元の国立大学を首席卒業した後、大企業の内定を蹴って鎮守府勤めになったとかいう、随分と異色の経歴だ。顔もいいので色々なところから引っ張りだこだったろうに、僻地とはいえど戦場の最前線に行くとは。
狂人の考えていることはわからん。
「別に、嫌という訳では無い。問題は研究が出来なくなることだ。資金援助の打ち切りならまだしも、物理的な拘束までされたら諦めるしかない」
「それはそれは、でも、仮に研究が許されていたとして、それに時間を取れるほどの余裕は無いかと思いますよ?」
「……どういうことだ?私が配属されるのは中央日本海を警備する鎮守府だ。上からは大湊、下からは舞鶴によって守られる。深海棲艦による大規模侵攻よりも自然災害を警戒すべきレベルだろう。」
「ふふ、そういうことでは無いのですよ、明坂提督。」
「……まだ着任して無いのだから大尉と呼べ。」
憲兵は口元を隠し上品に笑う。その一挙手一投足により、育ちがいいのだろうと親の努力が伺える。
数時間ほど慣性に揺らされていると、海が見え始めた。いつも見ているはずの海岸線だが、今日は何処と無く哀愁を感じる。珍しく、精神的にダメージを負っているのだろう。と自己分析は欠かさない。
「そうだ、明坂大尉の研究は何を目的にしていたのですか?」
ふと、思い出したかのように憲兵が疑問をぶつけてきた。糸目が若干開いていることから、憲兵自身の中では真面目な質問。品定めでもしたいのだろうか。
「決まっているだろう?国のためだ。それ以外に目的などない。……いや、訂正しよう。自身より圧倒的な身体能力を持つ
「人の心、無いんですか?」
「人の心をどう定義するかによるな。それを思考機関とすれば、持っていることになるし、例えば元帥殿が持つ崇高な思想のことを言うのであれば、私に人の心があるとは、世辞にも言えないだろうな。」
「屁理屈ですね。」
「私は研究以外のことは基本的に屁理屈でしか喋らないからな。」
先程まで見ていた列車の窓の先から憲兵の顔に視線を移すと、驚くことに笑みの表情を浮かべている。私と対話して明るい顔をする人間など、久しく見ていない。
「私はですね、艦娘の子達が可愛くて仕方が無いんです。見た目だけじゃなく、その心意気まで。だから、明坂大尉には是非とも、艦娘の子達の可愛さを知って欲しいのですよ?」
憲兵が子首を傾げると同時に綺麗に整えられた髪が僅かに揺れる。
「それに、大尉がこれから着任する鎮守府の子達は、中々に問題児ですから、きっと元帥殿も問題児に問題児をぶつけたかったのでしょうね。」
「逆に、私が艦娘に対して何らかの外道行為をするとは考えないのか?」
「やれるものなら、と返答しておきましょう。」
やれるものなら、ねぇ。随分と舐められたものだ、これでも駆逐艦だけでなく数々の艦種を泣かせてきたんだがな(決して褒められることでは無い)。
「あら、明坂大尉!そろそろ鎮守府の最寄り駅に着きますよ、駅前に私の車を用意しています。」
よく見ると、隣の民間人用車両には人1人居なかった。成程本当に、僻地であることがよく分かる。数分後、列車が到着する前のメロディが流れ、私は車内上部の棚から鞄を降ろして中から薬を取り出す。それを飲み込んでいると、
「……大尉、その薬は一体?」
「別に、ただの酔い止めだ。もう
「私の運転技術は信用されていないんですね…」
憲兵はショボンと言葉を零しながら身支度を始める。
──列車から降りると、辺り1面人の気配が皆無だった。分かりきってることだったが、実際現実に立ち会うとエリート街道から外れてしまった事に虚しさが私の心象を包み込む。
「大尉?」
「……気にするな、行くぞ。」
突然立ち止まった事を不審に思ったのだろう、憲兵が尋ねてきたが、私はそう返答した後歩き出す。すっかり暗くなった空から光を差し込む月を尻目に用意された車に乗り込む。運転は良くも悪くもなかった。
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「へ〜、あの人が司令になるんだ。不知火にも教えたげよ〜!」
憲兵の白い乗用車から出てきた長髪の男を、鎮守府艦娘寮の中から眺める影がひとつ。
柿色のツインテールが夜風によりなびいていた。
1話はそんなにヤバヤバじゃないンゴ。これから狂人の狂人による狂人のためのお話が加速します。
エロも同じように等加速度直線増加していくンゴォ。
でも執筆速度が遅すぎて加速度はlimX➝0なので注意。
何とか完結はさせます。それとお察しの通り理系ネタも若干あるので注意
それと軍法裁判の後、大将位の人に、「やっぱこいつ罰軽くね?」って言われて階級下がりました。
ミリタリー知識は全然ないので「これおかしいやろ!」って思っても、所詮は住所有定無職の妄想なので直ぐに感想欄とかで指摘してくれると嬉しいです。感想、批評。受け付けてます。