そういうのが苦手な方はUターンやで!
「思ったより外見は悪くないな。」
鎮守府敷地の中に入り中庭の向こう側を見渡すと、今まで見てきた中でも比較的大きな建造物群。向かって正面に大きな二階建ての建物。壁に1号館と大きく書かれている。右側には所々明かりが付いていて生活感がある2号館、恐らく艦娘寮だろう。そして左側には屋根に設置された煙突から煙が出ていて同じように3号館とあり、工廠や入渠施設を兼ねているのだと、初見でも直ぐに理解出来て助かる。
特に目立った損傷もなく、新築なのだろうな。という感想を呟くと、
「完成されたのはおよそ7か月前、本当は直ぐに提督が着任する予定だったのですけど、思ったより人材が集まらず、、、と言った形で今日ようやく人が回ってきたんですよね。」
車を駐車して戻ってきた憲兵は私の目を見て答えると、ささ、どうぞこちらへ。と手招きをしてくる。会釈して着いていくと、憲兵が人一倍大きな
「今まで提督が居なかったのに、どうやってここを回していたんだ?」
「実はですね、先程もお伝えした通りここは問題児が集められた鎮守府でして。」
「あぁ、聞いたな。」
「その、既に他の鎮守府で問題児という烙印を押された子達がここに集結しているのですよ。」
憲兵の話を耳に入れつつ1号館に入ると、広い玄関にザラ板。100足は収容できるであろうシューズボックスが有る。こういう場所には珍しく土足厳禁なのか。私の僅かな表情の変化に気づいたらしく、憲兵はスリッパを持ってくる。大学では心理学を専攻していたんだったか…。優秀な人材がこんな辺鄙な場所に居るというのは、やはり拭いきれない違和感を催す。
「……成程、良くも悪くも、鎮守府での経験がある奴が多くここに在籍していると。」
「はい、それにここは僻地ですから。基本的に哨戒任務しか担当していないんですよね。」
「しかし人の手が必要な執務もあるだろう。それはどうした?」
「それはまぁ…私が代理に。」
「……普通なら問題になりそうな話だが。」
「如何せん僻地ですし。この地域を纏めあげる偉い人が態々問題にすることでも無いと思って話を止めていたのでしょう。」
苦笑いを浮かべる憲兵、しかし直ぐに表情を一転させると、
「提督だって問題起こしたのに緘口令敷かれてるので、トントンですよっ」
「耳の痛い話だな。」
そんな談笑と共に階段を登りきると、執務室。と書かれたドアの前に到着。憲兵が目配せで私に入室するよう知らせると、躊躇無くドアの取っ手を捻る。
勢いよく開くドアと一緒に、大量にチョークの粉が付着した黒板消しが落ちてくる。しかし、そんなわかり易い罠に引っかかるほど私も馬鹿では無い。黒板消しがそのまま等速落下運動により空をきり、衝突のさい少しの音を立てると同時に、あれっ!?という少女の甲高い驚愕の声が鳴り響く。
「おっかしいなぁ…妹達に試した時は不知火以外見事的中させたのに。」
と、1人おっかないことを呟く少女。駆逐艦のようなガキの見た目からは、中々に嗜虐心を唆らされる。
そんな如何わしい考えを読み取ったのか憲兵は私の肩に手を置いてくるが、気にせずにいると少しづつ握力が上昇し始めた。ものの数秒で痛覚に戦慄させられるマッドサイエンティスト。
「…痛いな」
「監視役ですのでっ!」
目の前で珍劇を繰り広げられ首を傾げた栗色ツインテールの艦娘が、私に一言告げるとそれに合わせて肩にかかる負荷が消えた。
「初めまして提督。やっと会えて嬉しい!陽炎型駆逐艦1番艦、陽炎よ。よろしくねっ!」
キュピーンと、キメ顔をしながら元気よく挨拶する駆逐艦。両手に付けた白色の手袋がマッドサイエンティストとお揃いなのが、中々に不快。とは鬼畜外道科学者の本心ではあるが、後方肩掴み系監視役を意識して艦娘を苛めるようなことを言うことはできない。
「初めましてにしては、随分とおいたが過ぎるようだがな?」
私は足元に落ちている白い粉塗れの黒板消しに視線をやった後、陽炎の目を見てそう返す。恐らく次不審な考えをした瞬間肩が消し飛ぶかもしれん。と考えると、自分でも驚くほど自然に返答ができてほんの少しだけ目を見開いた(こんなでもマッドサイエンティストは普通の会話だと思っている)。
いつもなら開口一番に艦娘を怯ませてしまうのだが。いや、曰く問題児、なのだから私にも怯えないメンタルの持ち主であるやもしれんが。
「えっと〜…、まぁなんて言うか。新らしく入ってくる人への抜き打ちテスト……みたいな?」
「それは上官に対してもやるものなのだな。」
「えへへ…ほら、ほかの鎮守府だと卯月とかもやってたりするし!」
「知らん。」
即答する私に腕を胸の前に置き少し後ずさる陽炎。
「私にとって艦娘とは直ぐに壊れるものだ。故に態々1個人の名前を覚えるほど、関係は出来上がっていなかった。」
何を隠そうこの長髪白衣の男、実は10数年海軍に、しかも研究者と居座ってるのだが艦娘の名は主要な戦艦や空母しか頭に入って居ないのである。
「前に伝えられていた通り、かなり艦娘兵器派としての側面が強い方なのですね。」
陽炎と問答をしていると、後ろから憲兵とは違う声が聞こえてくる。幼さを感じる音域に対して酷く冷酷な声質だ。
「陽炎型駆逐艦二番艦。不知火です。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。」
目の前に立ち綺麗な海軍式の敬礼をする陽炎型二番艦。眼光は確かに鋭いが、稚拙の象徴のような体躯故に然したる影響は無い。それに、
「どうしてこう、艦娘というのは頭髪の主張が豊かなのだろうな」
「司令官のその不衛生な長髪よりはマシかと。ヘアケアの方法、ご指導致しましょうか?」
「……確かに。ここはこいつみたいな問題児ばかりのようだな。」
「こいつではありません。不知火には歷とした不知火という名前があります。司令官、部下を貶す上司は嫌われますよ?」
「問題ないな。その時は調きょ………いや、なんでもない。」
後ろから
「もう〇九〇〇だぞ。ガキはおねんねの時間じゃないのか?沢山寝ないと身長伸びねぇぞ。」
「駆逐艦は基本ロリコン紳士枠を狙うから!身長は問題ないのよっ!」
「体格の大きい戦艦が被弾しやすいのを知ってて、不知火は自ら身長を伸ばすことのメリットを理解することは出来ないですね。」
「駆逐艦が頑張って身長を伸ばそうとするのは私の性癖には合ってるんですがねぇ…」
憲兵による急な爆弾投下により場が凍る。流石に信頼していた憲兵から裏切られ、不知火もジト目で憲兵を見上げている。曰く、やっと司令官が来たことによってテンション上がってるようだ。と、伊達に7ヶ月同じ屋根の下で過ごしてない。
「そんなことはどうでも良くてだな、執務は翌日から開始する。今日はもう解散だ、私の私室は何処になるんだ?」
「執務室左側の扉の先になるわよ。はい、これが鍵ね!」
陽炎から渡された鍵を使い、私室に入る。たらいも黒板消しも仕掛けられていないか慎重に動いていると、シングルベットに明らかな膨らみがあることに気づいた。布団が上下に揺れていることから、振動物。おそらくは人間であることが予想された私は、すぐさま布団を吹っ飛ばす(爆笑ギャグ)と、中には白セーラー服に黒ストッキングの、もみあげの長い少女が包まりながら寝息を立てている。
「おい憲兵!」
「お呼びですか?」
呼んだ直後に扉から顔を出す憲兵。見張っていたのか?
「何があってもいいように待機してたんですよ。」
「心を読むな心理学者。それよりもベッドの上で横になってるこれは何だ?」
「あぁ〜、この子は時津風ちゃんですね。さっきの子達と同じく陽炎型の子です。」
「また陽炎型か…こいつも悪戯目当てでここに忍び込みやがったのか?」
窓が開いているので、あそこから入ったのだろう。地上からは5mはあるはずだが、艦娘には関係ない話か。陽炎に連れて帰ってもらおうと執務室を目指しベッドから顔を背けると、
───落ちる。
脳がそう神経に電流を吐き出すのは、憲兵が倒れ込む私を受け止めた直後だった。
「わ〜い!引っかかった引っかかった!しれぇ…詰め甘いよ?」
遅れて理解する。後ろにしがみついてる
しかしその手は憲兵に捕まれ、支えていた膝が無くなった私はバランスを崩しついに地面に顔が衝突する。それを最後に、私は気を失った。
「おー、しれぇ髪の毛長いねー。私より長い!でももみあげは同じくらいだー。」
「時津風ちゃん、そろそろ提督を解放してあげてください…。それにもう寝る時間ですよ!」
「えー、早いよ早いよぉ。」
「それに提督、意識失っちゃってますよ…、時津風ちゃん、提督をベットまで運びましょうか。」
「そうだねー、しれぇもごめんねー。でも、しれぇからお触りしたら怒るからね!」
既に気を失っている提督に話しかける時津風を見て微笑む憲兵。
時津風と一緒に提督を運び込み、陽炎型の部屋まで時津風を見送った後、
「提督、軽かったなぁ。」
憲兵はそう呟きながら艦娘寮に併設されている自室に向かう。偶然トイレに行く時にすれ違った艦娘曰く、その表情は珍しく満面の笑みだったという。
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「腹が、減ったな。」
気づいたら知らない天井だった。すぐ様私に割り当てられた私室だと気づけたがな。
時計を見ると時刻は〇四〇〇。長時間の移動や心労で7時間も睡眠時間を取ってしまっていた。いや、もう研究者では無いのだから時間に追われる日々でもないのか。と考えていると、胃の収縮運動により初めて空腹感が私の脳を刺激してきた。
「鞄にまだ何かあったか?」
執務室に入り鞄の中身を探るがめぼしいものは見当たらない。
「しょうがないな…この時間に食堂は開いているのか?」
一応金を持って食堂に行こうかと考えたが、そこで昨日風呂に入って居ないことを思い出した。
「……スンスン……先に風呂だな。」
することが2転3転しているが、最優先事項としてとにかく風呂に入ろうと。私は持ってきていた下着とジャージを取り出す。そして、入渠施設のある3号館を目指したのであった。
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数年前まで入渠施設は艦娘もとい女性のためだけのものとして設置されていたため、男性用の風呂は私室に隣接されていた。しかし、男性の来客に個室を使わせられない、だとか足を伸ばせる快適な環境でこそ執務に良い影響が出る。だとか、
その影響がこんな辺鄙な鎮守府にも適用され、男性用の大きな入渠施設が配備されている。
中には合法的に混浴できなくて落ち込む提督なども居たらしいが、軍隊という環境下で自身の部下を性的な目で見るのは流石にどうかと思う。というのはマッドサイエンティストの希少な常識観念だ。
男、と書かれた良く見る青いのれんをくぐると、目の前に広がる光景に意に反して笑みが溢れる。
「ここはかなり、木造の温もりがあるな。」
大学生の時に通っていた銭湯によく似た構造で、既に十分すぎるほどの満足感を覚える長髪の男。脱衣所に入ると、すぐに服を脱ぎ捨てバスタオルを持ちお風呂に突入する。適度に汚れを洗い落とし、いよいよ風呂に浸かると、
「あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙。。。」
抗えない気持ちよさに条件反射で口から声が漏れる。久々に肩までゆっくりと沈み、問題続きて疲弊した私の精神に良さそうだ。
そうして風呂で10分ほど寛いでいると、何やら脱衣所の方から声が聞こえる。女声だ。
「ねぇねぇ浦風、ホントに提督居たらどうするの〜!?」
「そんときはうちが提督さんを誘惑したるけぇ!安心しな初風。」
脱衣所の扉に偶然影ができて体格はまたしても駆逐艦であるとわかった風呂では眼鏡を外さない派の科学者は、先程までの朗らかな表情を打ち消し眉間に皺を寄せる。
(ガキどもが………また程度の低いお巫山戯か?)
「さ〜て、パンドラの箱、開きんさい!」
謎の掛け声と共に男性用の風呂に入ってくる駆逐艦2人、まさか本当に提督がいるとは露知らず、硬直してしまう。
「……そんな所に突っ立ってないでとっとと
「えっと…もしかして提督?」
おずおずと聞いてくる水色の長い方。
「違うと言ったらこんな僻地に男が1人で迷い混んだことになるな。」
「そ、、そうですよねぇ…。ほ、ほら、完全停止してないで浦風行くよ!」
「」コク
先程から頬を赤く染めたままの水色の短い方が長い方に連れられ脱衣所に戻ったことで、一息つきながら足を組み直す。
「問題児って言うもんだからヤベェやつでも来るのかと思ったが、所詮は男を知らない初心者だな。」
そう言いつつも自身が未経験であることは棚に上げていることは内緒だ。
「ふぅ……後10分程度でいいか。」
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男性用脱衣所にて、主張の強い水色の髪を持つ少女が2人。扉の向こう側にいるマッドサイエンティストにバレないように小声で話し合っている。
「騙されてるわね!」
「もううちらのことねぶり腐っとるよ!」
「色仕掛けなんて初めてだけれど、妙高姉さんが言ってた通りにやってみるわよ…!!」
「へ〜、一体誰に色仕掛けをするんですか?」
「「──!!!」」
少女たちにとってはもう何度も聞いたその憲兵の声に、顔を青くしてガタガタと振り返る。曰く、怒らせたら1番不味いのは憲兵なのだと。7ヶ月間の経験が語っている。
「時津風ちゃんのような可愛い悪戯はいいですよ?でも不健全な悪戯は不知火ちゃんが怒っちゃいますよっ!」
ぷんぷん、という効果音が似合う程度の叱り方。しかしその先を知っている少女達にとって、例え目の前に
そそくさと自室に戻って行った2人を見て憲兵は室内乾燥機にボタンを押してから脱衣所を出る。
数分後、戻ってきた長髪の男は高校時代のジャージを着て何事も無く去っていった。
こうして鎮守府の風紀は守られているのである。
今回は焦らし回となります。決して作者が広島弁が分からずお色気枠の浦風を即退場させたわけではありません。ホントだよ!
エロは…なるべく増やせればええな。って感じで筆が乗れば綴るかも。と言ったところ。
そして皆さんお気づきかと思いますが、作者は陽炎型箱推しになります。なので、陽炎型以外の駆逐艦は(リクエストとかない限り)滅多に出ません。そこはご愛嬌と。
ちなみに憲兵と明坂提督はあった初日に手合わせしてて、提督がフルボッコにされてます。故に抗うつもりは無いのです。