マッドサイエンティスト提督が艦娘に絆されるまで   作:句点

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カキカキしてたら一万五千字でびっくりしたっぽい。
分割すべきだったんだろうけど、めんどくさかったから諦めたっぽい。


4.明るい坂に灯る暗い火 (不知火) ※

 

 

……飯が美味い。今朝、何故かいつの間にかに弁当が再生していて、その中身の小籠包内部の液体により舌を焼き焦がされた(大袈裟)が、それを除けば至って普通。そう、普通に美味かった。

どういう訳か負けたような気分を味わいながら、マッドサイエンティストは朝食に比べ一回り大きい包みを解く。憲兵から貰った昼食である。

人から受け取れる施しは全て受け取ることが信念の長髪の男にとって、今回のことは僥倖。何故あの憲兵が私にそこまでの優しさを示すのかは分かりかねるが、多分、数ヶ月入らなかった提督の穴が塞がれたことで自身の執務が無くなり、これで思う存分艦娘と接することが出来るようになるからだろう。ノーダウト。

 

 

弁当箱の蓋を取り外すと、中には配色豊かな食材達。

蓋しかなり多くの種類があり、僻地であるこの場所で一体何処から物を確保しているのか。そんなことを考えていると、突然眼前の色とりどりの光景にモノクロが過ぎる。否、弁当箱だけではなく部屋全体の光量が減少している。室内上部から光が消えたことを確認して、停電だと気づくマッドサイエンティスト。原因は電気の使いすぎによるものか、はたまた発電所の設備故障か。

恐らく前者だろう。と仮定して、

 

 

「アンペアブレーカーはどこだ?」

 

 

幸いにも時刻は一二三〇。日光によりカーテンで締め切られた室内にも一定の明るさはあるため、執務室を出るのは容易い。しかし、ここ(鎮守府1号館)の広さは少なく見積っても高等学校の1校舎ほど。加えてつい昨日配属したばかりの長髪の男にとって、ブレーカーを見つけるまでの時間は恐ろしいほど長いと見た。

艦娘か憲兵の誰かが上げてくれるように祈りつつ館内を散策していると、

 

 

「あら、数時間ぶりでしょうか、司令。少し老けましたか?」

「お前こそ口周りの皺が増えたんじゃないか?不知火(毒舌ピンク)。」

 

 

両手で首ほどまである書類を抱えた不知火が、艦娘寮(2号館)方面からやって来た。

 

 

「失敬ですね。不知火はあまり笑わないので痕は付きにくい筈なんですが。」

「私にとって親しくない仲に礼儀は無いんでな」

「そうですか…。不知火は司令との仲は良好だと思っていました。」

「ッ……、直近の私とのダイアログを確認して欲しいものだが。」

 

 

不知火の不意打ち口撃により押され気味なマッドサイエンティスト。相手の気持ちを思いやれない事を除けば、人から好意的感情を吐露されることに耐性がないのが弱点だろうか。曰く、どう反応していいのか分からないとの事。典型的なコミュ障である。

 

 

「まぁいいでしょう。不知火は執務室に書類を届けに来たんですが、なんで明かりが付いていないんですか?節電は重要ですが死角から何か衝突してきたら書類が危ないかと。」

「そうだな、私もそう思うがどうやらこのシャットダウンは人為的のものでは無いと思われる。」

「……その心は?」

 

 

科学者は書類を置くために執務室に引き返しながら、不知火の疑問を解消し始める。

 

 

「ああ。まず第一に、先日着任したとは言え鎮守府のトップである私に何も無い時点でおかしい。

そして第二に、仮にこの停電が人為的によるものであれば、直ぐに明かりがつくはずだ。原因は知らんが、停電する時の条件など普通は直ぐに予想できるだろうからな、対策も取りやすい。

最後に何より、お前が知らないという事だ。」

 

 

私は真剣に説明を聞いている不知火の目をちらっと見て、また前方に集中する。この廊下の先に執務室の扉があることを意識しながら、話を続ける。

 

 

「私が知らない…ですか?」

「そうだ。本来、鎮守府を停電させる可能性があるような行為は無許可にはできない。よって上の立場に連絡した上で、同僚にも伝えるというのは必須事項だろう。」

「成程……理解出来ました。けれど、ここの艦娘だとそれすら怠っている可能性はありますね。」

 

 

懸念点はそこか。問題児を集められていると聞いてるが故に、そこを突かれると困る。が、ここは軍だ。1番わかりやすい方法が解決策だろうな。

 

 

「そうなったら軍らしく罰則でも与えればいい」

「……研究を盾にされて出来ないのでは?」

「憲兵伝に執行すればいい。」

「ふむ、それなら大丈夫そうですね。流石司令、頭の作りだけは1級品ですね、そこは見習いたいものです。」

「アイデンティティだからな。」

 

 

一瞬目線を背中に受けたことを感じた。皮肉が肯定され空回ってしまったことに、どうしようもなく思っているのか。そんな経験の多いマッドサイエンティストは、問題児の気持ちを想像する力になら多少精通しているのかもしれない。

 

 

執務室に到着した私は、不知火に書類を置かせるよう指示し、頭にあった疑問を吐露する。

 

 

「今日はなんでここに来たんだ?」

「朝食堂で聞かなかったんですか?」

 

 

そう言われて朝の話をまたも思い出す。未だに少し舌はヒリヒリしている。

 

 

「聞いてないな。弁当箱のネタの1つに舌をやられてな、足早に執務室に戻ったから加賀以外との艦娘とは殆ど喋っていない。」

「道理で、着任式なのに主役が居なかったんですね。私から説明しておくと、今日の昼から秘書艦制度を導入するという話なんですが。」

「───秘書……艦…?」

「…司令…、まさか海軍に10年以上在籍していて秘書艦制度をご存知ないんですか…?ふふっ……司令の落ち度ですね。」

 

何故か知っていて当たり前なことらしい。目の前の少女の嘲笑が物語っている。

 

 

「なんだお前。なら空母ヲ級の戦闘パターンは把握しているのか?最前線で戦うお前ら(艦娘)なら知っていて当然だが。」

「5年前に論文として提出されたものですよね。あれのおかげで対空戦闘がとても楽になったそうですが、こんな僻地に空母ヲ級が湧くのは年数回程度です。それに大抵、加賀さんがゴリ押ししてくれますよ?」

「知らないなら教えてやろう。そもそもヲ級の出現地帯がどの海域でも一定に─────………」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

時刻は〇三〇〇。夢中になって執務室のホワイトボードにペンを滑らせていると、いつの間にか不知火の姿は消えていた。

態々統計データまで引っ張り出してきたというのに、全くご指導ご鞭撻とは一体なんだったのか。

とは言っても、こんなことをする(有難い話をバックレてしまう)のは大学生時代の私と似通っていて地味に近親感を感じているマッドサイエンティスト。規律のある防衛大学校では、私のような不良生徒は学年に1人居るか居ないか位だ。

 

 

尚私の場合は途中から艦娘の研究を始めた事が理由となって特例で見逃されていただけで、そういう(不良)学生はすぐに教官のしごきにより優良生徒へと改変されていただけであるが、そんなこと人に興味のないマッドサイエンティストが知ることでは無い。

 

 

しょうがないので、執務卓の上に綺麗に積まれた書類の山を削ることにする。多いと言えば多いが、研究者である提督にとってこの程度の量(顔程度まである高さの書類)は片手間でこなせるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────何時間たっただろうか。頂上から麓まで下山した目前の書類が暗みを帯びてきた。ふと窓の外を見ると、徐々に太陽が地平線の下へと移動し続けている。それに比べて、未だに天井に備え付けられた照明は明かりを纏っていなかった。どうやらまだ停電は改善していないらしい。いよいよ自然発生的な停電か…と思考を巡らせていると、コンコン。と木製の扉をノックする音が聞こえた。入れ、そう告げると廊下の向こうから艦娘がやって来る。不知火だ。部屋の明かりに照らされていない不知火は、ピンク髪が若干紫がかっている。

 

 

「遅かったな。」

 

 

時計の針は〇六〇〇を指し、3、4時間は居なかったであろう艦娘の姿を見つめる。此方が座っているためか、同じくらいの目線だ。駆逐艦はこの高さで過ごしているのか。と、そんな(下らない)ことを考えていると、

 

 

「司令…、この時間までずっとここで執務をしていたんですか?」

「そうだな。」

 

 

実際そうなのだからその通り返答すると、なんとも言えない表情を浮かべため息を吐き出す少女。横目にホワイトボードに書き連ねられた統計を見て、またも大きくため息をついた。流石に上官に対してその行為は失礼では無いだろうか。尤も、私自身が失礼の権化のような物だから気にはしないが。

 

 

「はぁ…、それよりも司令、至急お伝えしないといけないことが。この鎮守府から私たちを除いて憲兵殿と艦娘が居なくなりました。」

「………は?」

 

 

今不知火の口から出た言葉が全くと言っていいほど呑み込めない。一言一句が私の脳の情報処理機能を破壊しまわっている。

 

 

「すまん不知火、執務作業により私の脳がイカレていたのかもしれん。もう一度言ってくれるか?」

「ですから、不知火と提督を除いた艦娘と憲兵殿が鎮守府から居なくなりました。」

「マジで言ってるのか…?外出許可証なんぞ一切見当たらなかったが。」

 

 

執務卓のサイドテーブルに安置された確認済み書類を一目見るも、その中には食料の取引書類、入渠施設用の特別水道代など、ありきたりのものしか無かった。

 

 

「はい、私も鎮守府の周りをランニングしていたらいつの間にかに。」

「居なくなっていたと?」

 

 

無言で頷く不知火。困った。クーデターか?まぁ別に勝手にすればいいのだが、いかんせん私はここのトップ(提督)である。

自分としては正直なところそんな問題一蹴してしまいたいのだが、立場が邪魔をして思わず頬杖をついてしまう。

 

 

──そういえば、電気が復旧していないのもそれが理由か。まぁそれは置いておいて、あとは艦娘がどこに向かったかだな。

 

 

「艦娘の艤装は?」

「3号館の倉庫に全員分安置されていました。」

「となると海には行っていないか。」

 

 

30人以上も心中されたら即刻大湊の絶対マッドサイエンティスト殺すマンとか、横須賀の正義感で動く奴らに首を持っていかれるだろう。流石にマッドサイエンティストでも、朝加賀に言ったことをフリだと捉えられるのは想定していない。

 

 

「一旦時系列を整理しよう。私は朝食堂を最後にお前以外の艦娘とは会っていない。」

「お前ではなく不知火です。………私も、ほかの艦娘とは朝食の後は会っていないですね。今日の秘書官は私なので、司令に渡すための書類を整理していたあとは誰とも顔を合わせていません。」

「ほう、つまり3、4時間以上彼女等は鎮守府に居ないと。」

 

 

───ドォォオンンン!!!!

 

 

突然の爆音。それは、、、どこかは分からないが間近から聞こえた。

反射的に体を窓から遠ざけ海側(深海棲艦)からの攻撃を警戒する。不知火も同じようにしてこちらに近づいてきた。

爆発により外壁が崩れる音が収まると、若干航空機が飛行する際の音が聞こえる。今のは空母による爆撃か。と結論づける。が、まだ敵が空母だけとは限らない。

 

 

「敵ですね。」

「哨戒もやっていないとは、心底呆れるな。ところで艤装と補給状態はどうなってる?」

「補給は済んでいますが、艤装は先程もお伝えした通り3号館の倉庫にあります。」

「そうか…。」

 

 

不知火の話を聞きながら窓の向こうを覗き見る。

幸いにも敵は駆逐艦イ級、駆逐ロ級、空母ヲ級の三体のみだ。これに戦艦や重巡でもいたら流石に死を覚悟したが、これなら不知火だけでなんとかなるだろう。問題は不知火を無傷で出撃(・・・・・)させることだ。

 

 

「私が敵を引きつけよう。その間に着装、出撃しろ。」

「…!、驚きました。私に囮にでもさせてその間に逃げるのかと。」

「研究内容として艦娘を囮に深海棲艦の推定接敵感知距離を測ったことはあるがな。元来、艦娘は戦闘兵器だ。戦力として扱えるお前(不知火)を囮にするというのは、かなり非効率だと私は認識している。

……確かに私は研究者としては優秀な部類に入るかもしれんが、所詮幾千万も存在する矮小な人間の1人に過ぎない。私の代替品はいくらでもいるからな。

それに、ここを置いて逃げて鎮守府が破壊される。それが1番非効率、非合理だろう。

……今する話では無かったな、私たちが話している間にも奴らは攻撃をし続けている。無線を渡しておこう。隙を作るから機を見て先の命令を実行しろ。」

 

 

喋り終えた所で不知火を見ると、若干体が震えている。武者震いか緊張かは知らんが、運動神経が活発であることだけは分かった。

 

 

「司令、不知火は単騎でヲ級と戦闘したことはありません。駆逐艦2体は何とかなっても空母付きだと自信は無いです。」

「さっきの私の話、結局聞いてなかったんだな。……まぁ問題ない。あれ(対空母ヲ級戦術)は駆逐艦1人でもヲ級を倒すための理論だからな、私の命令する通りに動け。ジャイアントキリングの甘汁を啜らせてやる。」

 

 

日が完全に隠れ始める。夏の日照時間的に、夜戦突入による有利戦闘はあまり期待できないが、それでも先制爆雷も駆使すれば勝てるだろう。

そう考えながら長髪の男は、白衣の内側に備えていた拳銃を取り出し残弾数を確認するのだった。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

───私が1号館(海から見て正面)を出て艦娘寮(海から見て左)方面で大きな音を出し、ソナーを引きつけよう。その後タイミングを見計らって数度発砲する。それを合図として不知火は3号館艤装倉庫(海から見て右)を目指してくれ。1、2分は稼げるだろう。

 

 

先程まで階段を降りながら話し合ったことを思い出す。初めての1人艦隊決戦。緊張で手が若干湿っていることを感じる。

 

 

「司令……。」

 

 

憲兵殿から着任を聞いた当初、不知火はあまりその人物に期待していなかった。ここに飛ばされる前は横須賀近くの鎮守府に居た不知火にとって、その非道な噂話は前の司令がよく話していたからだ。曰く、残虐なことを護国を守る艦娘に対して実施するのは、日本人としてどうか。と。

しかし、会って1日と少しで既に不知火はどういう訳か無意識的にマッドサイエンティストに感情を寄せていた。

 

 

───行けない、私ってこんなにチョロかったっけ。

 

 

そうこうしている間に、バアァァァァンン!と、とてつもない破裂音が耳をつんざいた。

 

 

「戦車でも持ってきているの!?」

 

 

思わず魂消て声を張るもすぐに頭を落ち着かせる、次の銃声に備えるためだ。伊達に戦艦並の眼光と呼ばれていない。

 

 

まるで1号館の出口に目を向けた不知火と示し合わせるように、銃声が3回。私は補給していた燃料を使い始める。本来は海に出てから使うものだが、つべこべ言っていられない。

急速に肌を刺激する空気の流れが遅く感じるようになり、肉体が人間から艦娘に変わっていく(・・・・・・・・・)

 

 

「不知火、期待に応えてみせます!」

 

 

一直線に艤装倉庫に駆け出す少女を留めるものは、何も無かった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

さて、どうやって敵を引きつけるか。ピンク髪(不知火)に宣言したはいいが、何をするのが最適解であるか未だに結論を吐き出せないでいるマッドサイエンティストである。

 

 

───悩んでいる暇はないな、敵駆逐艦の攻撃も馬鹿にならない。次の空母の攻撃機が下がったタイミングで出よう。

 

 

そう考えた私は思案していた案のひとつを実行するため、手元に中身の無いペットボトルを持つ。そして白衣の中からガス缶を取り出した。ヲ級の攻撃機が来たタイミングでガスを全てペットボトルにぶちまけ、さらに水を加える。

 

 

ドライアイス。恐らく誰もが聞いたことがあるであろうそれは、別名固形炭酸とも言われる。もしかしたら学校の授業でも取り扱っていたのかもしれんが、小中高と学校に通っていない長髪の男には知らん世界の話だ。

二酸化炭素が常温常圧で気体状態ということからもわかる通り、融点が水に比べてかなり低い。それ故に固形二酸化炭素のドライアイスは超低温物質である。

そんなドライアイスの何よりも恐ろしいところは、気化状態での体積増加率だ。750倍と言われても、もしかしたらピンと来ないかもしれないが、マグマに触れた水が急激に気化して起こる水蒸気爆発と同原理と表現すれば恐ろしさも少しは伝わるだろうか。

 

 

体積を増加させ始めたドライアイスを見つめつつ、あとは隠れながら艦娘寮前に設置して膨張し続けるペットボトルが破裂するのを待つ。

タイミングよく爆撃を終えて艦載機がヲ級が戻るのと同時に、最早大きすぎる圧力に耐えきれないであろうペットボトルを、耳を手で塞ぎながら踏みつける。

 

 

──パアァァァァンンン!!!

 

 

銃声の数倍の破裂音に脳が震えるも、その大きな音にソナーが反応したのだろうか。黒い化け物共がこちらに体を向けている。私はすぐさま懐から取り出した拳銃を深海棲艦に向け、発砲する。三発中一発、奇跡的にヲ級の大きい帽子に当たったが、そんなものは効かないのだということは重々承知している。

 

 

「さて、何とか逃げ回るとするか。」

 

 

そう呟いた私は、敵を引きつけるように鎮守府内を走り回った。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

3度の銃声の後、パラパラと銃声が聞こえる。燃料使用により研ぎ澄まされた感覚神経曰く、少しづつ離れているとの事。

 

 

「まずは、先制魚雷で駆逐艦2隻を沈める。」

 

 

またも司令と別れる前に言われたことを思い出し、口に出す。装備としてもつ酸素魚雷に手を触れ、自分の命綱に思いを込める。

 

 

「いつまでも待たせる訳には行かないわね。」

 

 

不知火は敵に察知されないように離陸。海風に薄紅の髪を揺らしながら、タービンを調整しつつ動き出した。

空は暗くなりつつあるとはいえまだ青味を帯び、少しづつ太陽色に染まり始めるだろう。この眩しさで深海棲艦が動きを鈍らせてくれればいいものの、太陽に背を向けている奴らに圧倒的光量が迫ることは無い。

 

 

「沈め…!」

 

 

なるべく声を落として魚雷を海に落とす。そのまま一直線に敵駆逐艦に進み、衝突と同時に水しぶきが上がる。ついでに連装砲もおまけの、完全な不意打ち攻撃だった。

水面に浮かぶ大きな黒い姿が消失したことで、どうやら一撃で持っていけたことに安堵、それと引き換えにヲ級もこちらの存在を知覚する。

 

 

『しジジぬジぃ…ジジ……よくやったな。…ジジジ』

「司令、…駆逐艦2体は轟沈、残りは空母ヲ級一体です。」

『ジそジジか、今のジジころヲ級の直あジジ機が私を追ジている。が、そちらに向かい始めたな。』

 

 

回線がしっかり通り始めたことで少しばかり息を着く。そんな間も弾薬を消費し続けているが、駆逐艦の火力ではそこまでのダメージは与えられていない。対してヲ級の帽子からは攻撃機が半無限に出てくる。遮蔽物を駆使しながら上手く避けていたマッドサイエンティストと正反対に、ここは海上。遮るものは何も無い中、タービンを回して対応する。

 

 

──夜戦まではもう少し時間が必要。…残った魚雷をクリティカルで当てなければ厳しそうですね。

 

 

「司令、指示を貰えますか?」

『魚雷は何発残っている?』

 

 

そう言われて左肩付近に装備された四連装魚雷に意識を向ける少女。2発分を駆逐艦2隻に使ったため残っている魚雷は半分だ。

 

 

「2発です。」

『2発、把握した。それとこちらからもお前を確認したが、陽の光が邪魔だな。上手く命令できなかった時はすまん。』

「お前ではなく不知火です、困ります……よ!」

 

 

声に力を込めながら向かってきた攻撃機を撃ち落とす。嗚呼、何故今まで加賀さんに対ヲ級戦闘を任せてきたのかと、自分を責める。

 

 

『こちらが損害を受ける前に2発魚雷を放つぞ。』

「わかり、ました。」

 

 

ヲ級の直庵機は今の所10機。幸いにもこれ以上増える余地は無さそうだが、それでも装甲の薄い駆逐艦にはトンデモ兵器に変わりは無い。

 

 

──事前に言われた通りの動作で飛行するおかげで、意外と避けられはしても一撃が致命になり得るわね。それに、一度に操る量が10機前後なのも助かったわ。一気に2、30機も操られたら即死ね。

 

 

と言って撃ち落としたところで、嘲笑うかのように忌々しい帽子から新たな攻撃機が出てくる。まるで叩いたら増える不思議なポケットのようだ。

 

 

『サングラスがあった、なんでも忍ばせておくものだな。』

「そんなどうでもいいこと報告しないでください…!気が逸れます!」

 

 

指示の通りやすさが違うので、本当はどうでもいい事では無いのだが、マッドサイエンティストからは特に言うことは無い。

 

 

『事前に伝えられている通りの動きができて何よりだ。次に敵艦載機を一機撃ち落としたらヲ級に急接近しろ。そして攻撃されるタイミングで魚雷を放て。』

「…!?攻撃されますよ!?」

『攻撃されても当たらなければいい。深海棲艦も馬鹿では無い、しっかりと予想した着弾地点に向かって迎撃する。なら予想と反した場所に行けばいい訳だ。シューティングゲームでは敵の進行方向上を狙うだろう?』

「急接近して急停止しろと言いたいんですね。停止しても直ぐに再照準されるのでは?とんでもない無茶ぶりですよ。」

『そのための魚雷だ。』

「?」

 

 

無線からの司令の声に疑問のおかげで反応できなくなる。それに心做しか、敵戦闘機の攻撃頻度が上昇した気がした。

 

 

『そろそろ夜だ。奴さんも早めに終わらせたいんだろう。……で、魚雷の使い方だが、発射による推進力の反作用を利用して後退する。説明は以上だ。』

「ぶっつけ本番でやるような事じゃないですね…!下手したら沈みますよ!」

『このまま耐え続けてもジリ貧で沈むぞ。』

 

 

理不尽すぎる。そう零して額の汗を拭う不知火。目の前の航空攻撃に対応しながら、簡単に狩れそうな敵航空機を見定める。

 

 

──居た、恐らく次の航空攻撃に参加してくる。

 

 

予想通り、黒い鮫の様な形状の艦載機に照準を合わせ、発砲。

見事的中と同時に、タービンを高速回転。燃料の消費量が増え、視界の端がぼやけ始める。

急接近に対応するため敵も自分の少し前を狙っているが、それに合わせて魚雷を敵空母目掛けて射出。

 

 

──つまらない、なんてことは無い。綺麗に自身の攻撃が憎き相手に着弾し、それに合わせてか敵航空機も動揺しているように見える。

急背進しながらそれを見て、表情には出さずとも興奮に心拍数を跳ねあげる。アドレナリンも分泌されているのだろうか?燃料は未だフルスロットルで投入し続け、超越的な反射能力で連装砲により追撃を開始する。

 

 

『…沈んだみたいだな。』

 

 

数十秒間打ち続けた後、提督の声が無線機から聞こえてきた。

 

 

「まさか本当に駆逐艦1人で勝ってしまうとは。司令を信じられなかったのは不知火の落ち度ですね。」

『言いたいことはあるが話は後だ。残りの敵艦載機を駆逐次第帰港しろ。』

 

 

了解、という少女の声を聞いてマッドサイエンティストは無線を切る。鎮守府を見るとかなりの荒れ果てた姿に辟易してしまう。直すのは妖精だからいいとしても、あれらは私のことを嫌っている。曰く、その非道な思考回路に嘗ての上官を思い出すのだとか。私の研究内容の有用性を理解している故に、干渉されることは無いが、逆に此方からも干渉しにくい。

 

 

(憲兵に相談だな。)

 

 

あの人あたりの良さなら妖精からの信頼も厚いだろう。しかし、夕暮れに空が染まる中、結局停電の原因は解明できていない。

 

 

落ちた太陽の方を見あげると、空中のある1点の違和感に気づく。

 

 

(電信線が途切れている…?)

 

 

周りも見渡すがあそこだけ唯一電信線が途切れている。電力供給がシャットアウトされてるのはあれが原因か?

 

 

思い立ったら即確認。電信柱付近に来ると、建物による影で分かりにくいが柱と柱の間で丁度電線が切れているのが分かる。

 

 

『ジジれい。作戦がジジう了しましジジ。』

 

 

とりあえず、帰投したであろう不知火をこちらに呼ぶことにした。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「これが原因だったんですね。」

 

 

万有引力により地面に落ちる電線を見下ろしながら呟く少女。

 

 

「何か心当たりはあるか?」

「いえ、私はなにも。」

「…これの修復に関しては妖精に任せるのが得策だろうな。」

 

 

妖精の方を見るが、目をそらされてしまった。当然と言えば当然。未だ帰ってこない憲兵に押し付けることもできない以上、私か不知火が担当するしかない。と言っても感電する可能性があるため迂闊に動くことはナンセンスだ。

 

 

「ジレンマだな…艦娘以外にももっと知見を広げるべきだったか。」

「妖精とは仲が悪いんですか?」

「10年前から嫌われ続けている。……そのくせ私から離れることは無いのだから、訳が分からん。」

 

 

ここが切れている以上、鎮守府に灯りが灯ることはない。鎮守府から離れようにも僻地である以上外に出ることは叶わない。

この鎮守府には憲兵用の自動車しか無いから、徒歩3時間の最寄り駅まで行くのは現実的では無いのだ。

 

 

「司令、私からも頼んでみましたが、妖精さんが振り向いてくれません…。何故でしょうか…。」

「さぁな。」

 

 

目に見えてしょぼくれている少女。コノシレイトドウレツダナンテ…という罵倒を聴き逃しては居ない。今気にするほどの事では無いと無視をするが。

 

 

「司令、やはり憲兵さんが到着するまで待ちましょう。」

「今はそれが最善だな。」

 

 

不知火との意見が一致したので、承諾すると、少女は思い出したかのように私に言葉を紡ぎ出した。

 

 

「……司令、そういえば3号館の倉庫は電気が付いていました。どうしてなんでしょうか?」

「3号館が?」

 

 

疑問と共に3号館を見るが、入渠施設に付随する煙突からは煙は出ていないから自動で薪を入れる機能は動いていないし、見た感じあかりは付いているようには見えない…

 

 

───いや待て、倉庫の方だけ確かに明るいな。

 

 

「行ってみるか。」

 

 

はい、という不知火の承諾を得て歩き出す。

確かに、倉庫には人工のあかりが部屋の中を灯していた。

 

 

「……非常用電源じゃないか?」

「なるほど、言われて見ればそんなことを前に憲兵殿が言っていた気もします。」

 

 

艦娘の艤装が保管される倉庫、それ故に厳重な警備を保つように非常用電源が設置されているのだろう。

自分の横に立つ不知火を見ていると、何故か九死に一生を得たような表情で安堵している。

 

 

「どうした?」

「ああ…いえ、私、明るい場所じゃないと落ち着かないんですよ。」

「…?珍しいな。そういう体質か?」

 

 

倉庫の椅子に腰を掛けて不知火を見る、先程まで派手な運動をしていたので、体を休めたかったから丁度いい。

 

 

「私が、この鎮守府に着任する2つ前の鎮守府(場所)に居た時の話です。」

 

 

そう前置きを置いた少女は、過去を語り始めた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

私は九州の鎮守府に配属していた時の話です。

そこの司令は、その地域には珍しく艦娘を家族のように扱う人でした。適材を適所に配置することに長け、日本近海海域を奪還する作戦時にも素晴らしい戦果を挙げた方です。

 

 

ただ、家族として接する余り駆逐艦を過酷な戦場に寄こす人ではありませんでした。したがって、他鎮守府に比べ私やそれに準ずる多くの艦娘の主戦場は、遠征であることが多い鎮守府でした。

 

 

そんなある日、いつも通り資材を求め遠征に出撃しようとした日。旗艦である私は司令に、今日の遠征先はいつもより気候が激しいと忠告されていました。

そのことを殆ど身に刻んでいなかった。というのが、私の最初の失態でした。

 

 

艦隊は、私を含めた駆逐艦4人。いつも一緒に遠征を巡っていた、付き合いの長い人達でした。そのうちの1人が、初めての遠征先で、夜になったら危ないからと念の為探照灯を装備しようと提案しました。しかし、当時の鎮守府経営において資材不足は常に悩みの種として、我々の行動を縛っていました。

 

 

その事態を鑑みて私は、探照灯の装備を取り止め代わりにドラム缶を装備しようと提案しました。

若干、メンバーは反対している部分もありましたが、日が沈むまでに帰ってくればいいと私が話を押し切り、そのまま出撃することになったのです。

 

 

意気揚々と抜錨した私達は、そのままの勢いにドラム缶に沢山の資材を詰め込んで行きました。

そろそろ半分位のルートを進んだ時、突然強風が吹き荒れ始めました。幸いにも燃料投下時の艦娘の身体能力により、吹き飛ばされるなんてことはありませんでしたが、その自信も直ぐに消失することとなりました。

 

 

海が大きく荒れ始め次第に渦潮が出来上がり、どんどんと強くなるその引力に、私たちは為す術なく巻き込まれていきました。

気づくと、私達4人は日が沈み始めた中、どこかも分からない小さな無人島に漂着していました。

 

 

太陽の位置関係的に帰るべき方角は分かりましたが、一体どこまで離れて来てしまったのか。私達には確認することができませんでした。加えて、メンバーの1人が大破した状態での漂着どったのです。

私たちは急いで帰ろうと決断しました。ある種の極限状態で判断能力が鈍っていたのか、本来その島で提督による捜索を待つべきだったのかもしれませんが、私たちにはそれが最善だと思いました。これが2つ目の失態でしょうか。

 

 

島を出立してから1時間程。すっかり空のあかりは途絶え、夜の海に。しかも天候も悪く月の光も届かないダブルパンチ。探照灯が無いせいで数m先しか見えず、深海棲艦に怯えながらの帰り道。

そんな状況を嘲笑うかのように、気づいたら数m近くに迫っていた敵が現れました。

 

 

戦艦1隻、重巡1隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦2隻のバランスの良い敵艦隊。それに比べてこちらは大破を抱えた駆逐艦4隻。勝ち目のあるわけない勝負に、私たちは一目散にタービンを回して逃げ続けました。聞こえ続ける機銃の音。こちらを追いかけているぞ。と強く主張する背後の音に、いつしか私は表情を大きく歪ませ、泣き喚きながら海上を走っていました。ドラム缶を棄て、矜恃を捨て、仲間を捨て。

敵から補足されなくなるまで、悲鳴は3回。何とか鎮守府に帰投できたのは、私だけでした。

 

 

司令は私のことを責めることはありませんでした。私の慢心が原因だったにも関わらず、私は悪くないとそう言いました。上官である自分が止めるべきだったと、そう自分を矛先にして。

今日は休めと司令に言われ、私は自室に戻りました。

 

 

見たんです。悪夢を。また、あのメンバーで遠征に行き暗黒に包まれた中深海棲艦に襲われ、最後に帰ってくるのは自分1人。

司令に慰めを貰おうと、ふらつく足取りのまま執務室に行きました。

 

 

司令が泣いていました。今までみせる事もなかった涙。遠征メンバーの中に、司令のケッコン相手が居たからだと思います。

私は、自分を赦せなくなりました。もう無理だ。諦めよう。そんな考えが頭に取り付くようになって、私は遠征、果ては演習までも出来なくなり、次第に自室に引きこもるように。司令に姿を見せなくなりました。そんな時、部屋を明るくして寝ることで毎日見ていたあの悪夢を見なくなったのは僥倖でしたが。

 

 

程なくして、司令が退役することになりました。隣室の駆逐艦に言われて三日後に知りました。その次に空いた席を埋めるように着任した新たな司令官は、直ぐに使えないと知った私を別の鎮守府に異動させました。

 

 

結局、次の鎮守府でも、段々海に出ることは合っても中途半端な戦績しか残せず、数ヶ月前まで無能の癖に周りと同じ飯を貪り、遂に問題児を収容する僻地鎮守府が生まれ、元々ここが自分の居場所だったかのように流れ着きました。

 

 

そこで出会った憲兵殿や陽炎姉さんのいた環境で、戦績もある程度挙げ始めましたが、部屋を暗くして寝ることは出来なかったのです。それが理由で、姉妹とは別室にしてもらったりしました。

 

 

未だに、凶悪を絵に書いたようなあの敵艦隊が忘れられない故に、深海棲艦と戦う時恐怖で身を震えてしまいます。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

話し終えた不知火は、以上です。と私に一言伝え、目を瞼で閉じた。

 

 

「鹿屋の話か?」

「……そうです。」

 

 

再び目を開けた不知火。

 

 

「鹿屋の初代提督とは、話をした事がある。恐らくお前が今話した件でな。」

 

 

その言葉を聞きこちらを真剣な面構えで見つめる少女。対してマッドサイエンティストは、何を考えているのか読み取れない。言い換えれば無表情とも取れる。眼鏡を片手で調節して足を組み直すと、その口を開き出した。

 

 

「研究目的で、使えない艦娘を寄越せって私から直接要望したんだよ。それも恐らくお前がダウンしてる時にな。」

 

 

不知火の表情が変わっていく。鹿屋の提督が少しでも性格に難ありだった場合、このマッドサイエンティストにモルモットとして使い潰されていた可能性があったからだ。しかし、そんなことは不知火には一度も話が通らなかった。

 

 

「突っぱねられたさ。……しかも、何て言ったと思う?」

「………」

「ここにいる家族は手放さない、だと。私にとっての研究が、あの提督にとってお前らだったんだろう。」

 

 

……ふふっ。と少女が俯きながら笑みをこぼした。

 

 

「嬉しい…です。けど、もしかしたらそこで研究対象として飛ばされていた方が良かったのかもしれません。」

「………」

「司令。私を、研究の糧にしてくれませんか?」

 

 

微笑みながらこちらを向く少女。

 

 

「断る。」

「…どうして、ですか?」

「朝言っただろう。私が研究を封じられているからだ。」

 

 

両者の間で沈黙が生じる。そんな時、

 

 

パチッ。という音と共に灯りが切れた。

 

 

「…ッ!?」

 

 

暗闇の中で腕を組みガタガタと震え出す少女。

 

 

「司令…司令官……!!」

「おい、落ち着け。ここに深海棲艦は居ない。」

 

 

そう声を掛けるも震えは止まらない少女。

頭の中で舌打ちをし、不知火のそばまで駆け寄る。肩を掴むと、不知火がハッと顔を上げた。

その瞬間、上半身に拘束感が生まれる。腕を回され、抱きつかれたのだとわかった。が、まだ震えは収まらないようで、ガタガタと、体は過敏に反応している。

 

 

同時にマッドサイエンティストの頭の中にも空白が生まれる。ここ十数年、40センチ近くも小さい女児と戯れたことなど無く、どうしていいか分からないと脳が情報処理を放棄している。

 

 

──いや、そういえば。過去にも似たような経験があった気がする。思い出せ。過去を学び次に役立てるのが歴史の使い方だ。その時はどう対応しただろうか。まだ10代前半の時の記憶。たしか、頭に手をやっていたのだろうか。

 

 

思い出したら即行動。無意識的に手を少女の頭に置く。同時に目の前の華奢な肉体が細微、ビクッと痙攣した後、大人しくなる。抱きつかれる腕の強さが少しだけ増した気がした。

 

 

自分らしかぬ行動に脳がショートしながら、半ば本能的に手で少女の頭部を撫で続ける。

 

 

その時、パチッと音が鳴ったかと思ったら目の前の光景に光が宿る。電気が復旧したようだ。

 

 

「……司令?」

 

 

部屋の明るさに気づき顔を上げながらこちらに意識をやる不知火。その蒼い瞳からは涙が零れ落ちている。

 

 

「お前、大丈夫か?」

「お前…ではなく不知火です。」

 

 

今にも泣き出しそうな少女。その表情にドキリと心臓が主張する。おかしい、これまで艦娘の泣き顔など多少の快楽にしかならなかったというのに。何故かその少女の表情に言葉では言い尽くせない感覚を覚える。

 

 

不知(しら)(ぬい)。」

「司令。…私は誰かに、こういう風に優しくされたかったのかも知れません…。」

「姉の方が適任…じゃないのか?」

「司令にしか、司令という立場だからこそ特別な意味を持つのではないかと。」

 

 

私と不知火が見つめあっているその時、ガタン!と、扉が開いた。扉の向こう側を見ると、ここ数日間で見慣れた、黒髪、糸目の中に少しだけ覗かせる黒目の軍服を着た女性。憲兵が立っている。

 

 

「明坂提督!探しましたよってドェェエエエエエ!?!?」

 

 

まるでこの世のものとは思えないという形相でこちらを見る憲兵。一体何がそんなに可笑しいのかと、疑問に思っていると。

 

 

「なんで…明坂提督に不知火ちゃんが抱きついてっ…!?」

 

 

言われてみてそういえばと思い出す。しかし、不知火の方からこちらを離す様子が見られないので、憲兵が引き剥がしにかかった。

 

 

「ちょっ…と、不知火ちゃん力が強いですよっ!」

 

 

そう不満を垂らしながら何とかして不知火を引っぺがした。少しだけ残念がる不知火の表情があったが、それにマッドサイエンティストは気付かず、憲兵の方を見上げる。

 

 

「…憲兵、今日1日どこに行ってたんだ?」

「あれ?聞いてないんですか?朝明坂提督の歓迎会なのに、提督が居なくなってしまわれたので、夜にもう一度執り行おうとその準備に近くの都市に買い出しに行ってたんですが。」

 

 

そんなことを今更言われても聞いていなかったぞ。

 

 

「っていうかなんで1号館があんなにボロボロだったんですか!?不知火ちゃんと大喧嘩でもしたんですかっ!?」

「いや、それに関しては私も言いたいことがある。哨戒用に人員位残しておいてくれ。おかげで深海棲艦がここまで攻めて来たんだぞ。」

 

 

それを聞いてさらに驚愕を顔に映し出す憲兵。表情筋だけ見たらこいつも人間やめてるな。

 

 

「えっ!?いやでも、、、哨戒は大湊警備府の方々が引き受けてくれると…。」

「大湊警備府?そんなものは欠片も来ていないが。」

 

 

今度は困惑に顔を染めて言い放った憲兵。さすがに私の表情にも困惑が移ってしまう。

 

 

「おかしい…ですね。申請を出したら、大湊の提督さんから直接連絡をもらったんですが。」

「それと、電信線が途切れていたんだが、お前らの仕業じゃないのか?」

「電信線…は夕張ちゃんにお願いして直してもらいましたけど、それは深海棲艦にやられたものじゃないんですか?」

「?」

「?」

「見解に行き違いが生じているな。大湊か。きな臭くなってきやがった。」

 

 

──あそこのトップとは学生時代からの因縁が続いている。こちらとしては突っかかってきたガキを跳ね飛ばしていただけなんだが。なんでこうなるかね。

 

 

人の心が分からないマッドサイエンティストのまた俺何かやっちゃいました展開ではあるのだが、そんなこと当の本人には知る由も理解する由もない。

こうして一旦は幕を下ろした着任二日目事件。長髪の男曰く、こんなに長い1日は長い研究人生の中でも稀であると。

ちなみに、この後の第二次歓迎会は憲兵と雑談を交わしながら滞りなく終わった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

執務室の横にある私室。幸いにも今日の戦闘への被害も少なめで、憲兵によって修復妖精が働き、マッドサイエンティストの私室は完璧に復活していた。

その部屋のベットには影が2つ。方や体格の大きい方は規則的な寝息を立てており、もう片方はその大きい人間を抱き寄せながら目を開けている。

 

 

「明坂司令…不知火を照らす探照灯になってくださいね。」

 

 

そう言ってジャージの胸の部分に顔を埋めるピンク髪の少女が1人。その青く綺麗な目はしかし、ハイライトを消して混淆な色彩を象っていた。

 

 

「裏切ったら、知らないうちに一緒に燃えてしまいますから。」

 

 

暗い部屋の中(・・・・・・)眠りにつく少女。その夢は、幾年振りの吉夢だったという。

 

 




次回、大湊編始動。

思ったより即落ち二コマだけど私のクソザコ語彙力じゃこれが限界っぽい
タグにヤンデレを追加しました。
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