ちょっとづつRが16〜17を微小増加しています。
起床。目の前にピンク髪。理解を諦めた脳。二度寝。
〇七三〇。起床ラッパにより二度寝から解き放たれ、窓の向こう側を見る。本日も晴天である。
本来なら陽光によってセロトニンが分泌され良好な目覚めだった。いや、目覚め自体は良好ではある。
問題は覚醒した後。私の体をにしがみつきながらジャージに顔を埋める
「おい、不知火。起きろ。」
ゆさゆさと体を揺するも、目の前の安心しきった表情が崩れることは無い。
憲兵に助けを求めるか、と内線に手を伸ばそうとした時。
パチッと少女の青い瞳が開かれる。
「不知火。何をしている。」
「……司令…、…久しぶりにいい夢が見れました。」
こちらを上目遣いで覗きながら、そんなことを報告する少女。涎が垂れていることには気づいていないようだ。
「…まあいい、それはさておき離れてくれないか?」
数刻逡巡してから、名残惜しそうな手つきで腕を解く少女。若干足元に目線を向けたかと思ったら、布団を捲って起き上がり、どこか後ろ髪を引かれるような面持ちでこちらを見つめている。
──やめろ、そういう表情をするな。反応に困る。
「私は食堂に行くぞ。」
薄紅の髪を束ね上げながら、腕に付けられた髪飾りを使って結始めていた少女に告げる。
「司令、髪長いですね。」
「…?あぁ、床屋に行く時間が勿体無かったからな。」
私の返答には何も返さず、ベット上に立ち上がる少女。
何だ何だ?とまじまじ少女のことを見ていると、よし。と決断を下したかのように首を縦に振った。
「ッ!おい不知火何して…!!」
私目掛けてベットの上を走り出したと思ったら、飛びかかってきた。少女の華奢な足とは思えない力で腰にしがみつき、その影響で不知火諸共地面に倒れ込む───すんでのところで両手が地面に追いつき、不知火が私に馬乗りのような状態になると、
「出来ました。ゴムは違いますけど
笑みを浮かべながら私から離れる少女。どこからともなく手鏡を持ってきて、それに合わせて立ち上がった私の方に向けると、不知火と
「懐かしいな。」
どういう意味だ?と首を傾げる少女に、思い出を海馬から引き出すように少し時間をかけて次の言葉を再生するマッドサイエンティスト。
「大学生時代までこんな感じで髪は結んでいたからな。」
「そうなんですね。防衛大学校でも許されていたんですか。」
「そうだな。あの時代は……多様性がどうのこうの騒ぎ出していた頃だったからな。校則も少し緩んでいた時期だった。」
なんで私が防衛大出身なのを知っているんだ?と思いはしたが、着任時の書類でも見たのだろう。と半ば無理やり頭に思い込ませ、執務室への扉を開ける。
サイドテールに白い道着。黒い胸当てをつけた少女が執務卓に書類を置いて座っていた。航空母艦、加賀だ。その感情の読み取れない表情から、目だけがマッドサイエンティストを睨みつけるように感情を顕にしだした。
「提督、おはようございます。……なぜ年端もいかない駆逐艦を侍らせているの?」
「勝手に私の部屋に侵入してきた。私の意思では無いということだけ言っておこう。」
加賀は心配するように眉を動かしながら不知火を見つめ、事情を聞き取るように話しかける。
「本当なの?もし嫌な事が有れば憲兵に頼りなさい。」
「大丈夫です、加賀さん。ご心配をおかけしてすみません。」
申し訳なさそうに言う不知火に、これ以上加賀は追求することは出来ない。
「そう、それならいいのだけれど。2人とも、早く着替えてきたらどう?寝まぎのまま仕事をするのはアットホームでしょうけど、特に提督がその服装だと示しがつかないわ。」
そう言われて自分の服装を見ると、確かにジャージのまま執務室に来てしまっていた。
「…加賀の言う通りだな。部屋に戻って着替えてくるとしよう。不知火、お前も一度自室に戻れ。昨日見た中の編成書類に不知火の名前があった。確認も取ってこい。」
「分かりました。司令、後でまた会いましょう。」
不知火が執務室から出ていくのを見送り、加賀に一言言ってから部屋に戻る。
白衣をまとう時、髪に手を触れ解こうかとも思ったが、今日はそのままにすることにした。
「加賀、私は朝食を取りに行ってくる。悪いが誰かここに来たらお前が対応してくれ。」
「分かりました。お構いなく。」
その言葉を聞いて執務室を出て、
特にそれに反応することも無く歩く速度は変わらない。しかし、少しばかりマッドサイエンティストの心に引っかかるものがあるのもまた事実である。
食堂に着くと、何人かの艦娘たちが既に朝食を食べていた。
ここの鎮守府の食堂は艦娘による当番制であり、毎日数人が班となって朝昼晩の調理を担当している。
「しれえ、しれえは何食べるの?」
突然声を掛けてきたのはもみあげの長い黒髪の少女。私が着任初日、いつの間にか部屋に侵入し私の意識を刈り取ってきた
マッドサイエンティストは不快感を隠そうともせず表情を少しばかり歪めるも、まるで気にしていないような時津風に、仕方ない。と考えて返答する。
「……私は菓子パンなどのインスタント食品で生活していたからな。進んで食べようと思う味はわからない。」
「不健康だよ、不健康!じゃあしれえ!あたしと一緒に向こうで食べよー!あっちで待っててー」
時津風が指さした先にある空いた席に抗う暇なく向かわされるマッドサイエンティスト。別に断る理由もないので流されるまま机に付き、少女の到着を待つ。
数分後、両手でふたつの日替わり朝食を持った少女が、楽しそうにこちらに向かってきた。
「はい、しれぇ。」
右隣に座ってきた時津風から割り箸を受け取り、目の前で食べ始めた姿をまじまじと見つめる。それに気がついたのか時津風がジト目でこちらを見あげ、
「何?しれえ。これはあげないよ。」
「いや、別にお前の分を取るつもりは無い。それよりも、なんでお前は私の隣の席で食べているんだ?他にも空いている場所はいくらでもあるだろう。」
食堂を見渡すと、数十人は入るであろう椅子に座っているのはせいぜい10数人。そんな疑問を口にすると、
「何で?何でだろうー、わかんないかも。」
えへへ、と笑いながら食事を再開する少女。そうか、と私も諦念に従い朝食を貪る。いつもと変わらない沈黙という状況下。しかしその沈黙がいつもより、
ちなみに数刻後、眉間に皺を寄せた不知火が朝食を持って私の左隣に座ってきたが、何がそんなに不機嫌なのだろうか。時津風が、
「怒ってる怒ってる!」
と笑い出したのでさらに眼光の鋭さが増していたが、一体どういう理屈であそこまで非人間じみた眼力を感じさせられるのだらう。光が目というレンズを介して運動神経でも阻害する特殊効果でも生み出しているのか?
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特に何事もなく、哨戒、遠征を終え、今日の執務は終了となった。
明日は出撃させてもらえるかしら。という淡い希望を持った加賀に資材状況の書類を渡して目のハイライトを無くした後、艦爆を見せつけられた時は死を覚悟したが、何とか思いとどまったようで助かった。
「提督、明日の秘書艦は陽炎型駆逐艦七番艦、天津風です。少し癖の強い子なのでくれぐれも手は出さないように。」
そうとだけ言葉を残して去っていった今日の秘書艦。
今の所長髪の男が知る事では無いが、僻地鎮守府の唯一(と言っても2人)まともだったのが加賀と不知火である。
どういうことかと言うと、残り30人の艦娘、全員が全員。ネジが外れているのだ。もちろんそんなことは三十日後の秘書艦1周目が終わったあとに分かる事だが。
「〇八〇〇か。風呂と食事を済ませて二三三〇まで待機だな。」
食事と風呂なら風呂を優先するマッドサイエンティストは、そうと決めた矢先自室の着替えを持ち即座に入居施設に向かう。ちなみに服を桶に入れて持ち歩く派の人間だ。
風呂と食事を終えた後は昨日、ある人から手紙で呼び出された件を片付ける必要がある。
──思えば、ここ3日余り規則的且つ健康的に生活しているからか、体が軽いな。研究とは時間との戦いだったから色々な時間を犠牲にしていたが、こういう生活習慣の方が効率的だったかも知れないな。まぁ後悔先に立たず。ではあるが。
太陽の光が失せて室内の可視光線比率が上昇した結果、窓が鏡になる。そんなことを脳裏に留めつつ、写った顔から目のクマが消えつつあることに、睡眠時間の偉大さを改めて認識する。
いくらか足取りが軽くなるマッドサイエンティストであった。
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衣服を籠にまとめ、風呂へと続く引き戸をに手を伸ばす。そのまま横に引くと。眼前に居ていい存在では無いものが大きな湯船を独り占めしている。
「どうしてここにいる。不知火。」
待っていたとばかりにくつろぐ少女。
綺麗に結われた薄紅の髪に水が滴り、質量が増加したことでうなじの当たりに髪が引っ付いている。1部の人間が見たらその雲鬢に色々な思いを馳せるのだろうか。
「
確かに普通の廊下に比べたらすれ違う数が段違いだったが、32人なら入れる程度の浴槽はあるはずだ。
「出ないのか?」
「長風呂派です。」
言葉では追い出せないと悟ったマッドサイエンティストは、諦めて体を洗い始める。背後から視線が飛んでくるが、気にしたら負けなので無視。
数分後、湯船に体を入れここに着任してから3度目の大浴場を堪能する。エッジの効いた低音が、湿度と温度により響を得て広い空間を駆け巡る。
不知火とは離れた位置に移動したのだが、それを見てムスッとした表情でこちらの傍に寄ってくる少女。
「出会って3日の人間に裸体を晒すのはどうかと思うぞ。」
体育座りで顔の半分を湯の下に入れ、ぶくぶくと泡立てる少女。
「……衛生的に見て褒められたことではない。私は構わんが公衆の面前でやるなよ。」
はぁ、とため息をついて忠告を入れた後、風呂の湯船など元々綺麗さを求めるものでは無いがな。と付け加えておく。
観念したかのように、顔を上げる少女。こちらを見あげたかと思ったら、ある一点を見つめ出した。
確かめるように自分の下腹部を触りながらチラチラと男性のアイデンティティを見る少女。端無く中学生か……と呆れてしまったのはしょうがない。
「……一応言っておくが、私がそういうことに応じることは無いからな。」
「……またまた、大丈夫ですよ。憲兵殿からは私から弁明しておきます。」
女性ばかりの環境だと溜まってしまうのか、確かに女学校の生徒は比較的性に寛容になりやすいと聞いたことはあるが、艦娘でも同じことは起こるらしい。
「そういう問題じゃない。ここは軍だからな、そういう風紀は保たれていなければならない上、私はそういった汚職で消えた軍の上司を何人も見ている。そして何より、…………エレクタイルディスファンクション。」
「?」
伝わらなかったようなのでもっと生々しく伝えることにする。
「勃たないんだよ。学生の時からな。」
「…………っえ?」
本当に本当に信じられないものを見るように目を見開いて私の顔を見る少女。
しかし事実なのだからしょうがない。学生時代、研究員となってからは日夜時間を削りながら唯ひたすらに研究だけを追求してきた。
3大欲求の内1つを消せることは、当時の私自身。なんなら今でもこうなった体自体には感謝しているが、生物学的に子孫を残せないのは、若干なりとも思うところはある。
最も、屑の子は屑。物心着いた時すでに親という概念が存在しなかった私の子が、正しき存在になるとは思えない。こんな悪しき血は途絶えるべきであることは分かっているのだ。
横を見ると、未だに私を前に硬直している少女。そんなにショックだったのか。が、別にこれ以上かける言葉も無いのでとっとと風呂を上がることにする。普段は長風呂派だが、不知火がいる手前中々長時間浸かるのは少しばかり、気まずい?のか?
思ったより人間っぽい感情があって、1人驚くマッドサイエンティストだった。
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「おう、おそーいよ、明坂てーとく。」
艦娘寮も消灯した頃、連絡橋の橙色光源により生まれるふたつの人影。
「いつもお前が早すぎるだけだろう。島風。」
「遅きこと、てーとくの如しってことかなー?」
駆逐艦という幼い容姿に反して、随分と露出度の高い服、なんの趣味なのか黒兎の耳飾りをつけた少女を前に、私は
あの人は雰囲気の割にこんなのが趣味なのか?と。
「明坂提督、通話の準備ができてます。どぞー。」
手渡された通信機に口を近ずけ、機器の向こう側に意識を集中する。
二三三〇。南中にある到達せし満月が、雲から顔を出した。
護衛艦かがが空母改装完了したそうですね。嬉しい。これからも日本の海を日本たらしめて欲しいっぽい。
ちなみに提督の息子は市販の薬では治らないそうです。