その剣の名は赤頭巾(レッドフード)   作:Othuyeg

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――それはきっと、ただのご都合主義にすぎなかった。

終わった物語に、あってはならない続きを求めた。
それが、彼の決意を汚すものだとしても。

彼女は、『()()()()()()()()』。


――だから、始めようか?

……在り得べからざる、キミの物語の続きを。


頁一.『混沌(カオス)』と『奴隷騎士』の邂逅

 遠く遠く、遥か彼方の吹き溜まりの底。

 灰と砂だけが舞う、何もない廃れた都。

 

 

 「……ここは」

 

 

 彼は、そこで目を覚ました。

 

 

 「……輪の都か」

 

 

 ムクリと、うつ伏せに倒れていた体を起こし、周囲を確認する。……暗い。篝火の明かりで、辛うじて周囲が見える程度だ。

 

 小人の王たちは皆死に絶えており、死体が散乱している。

 元々風化しかけていたみすぼらしい玉座は、全て砕け散っており、跡形もない。

 

 ただ、暗闇に覆われた世界に、篝火だけが輝いていた。

 

 

 「そうだ、あの男は……火のない灰は、暗い魂の血を、お嬢様に届けてくれただろうか」

 

 

 それだけが心残りだった。

 自分の願いを聞き届け、共にフリーデを打ち倒してくれた彼ならば、まさか手に入れた暗い魂の血を放置することなぞありはしないだろうが……。

 ――いや、待て。それよりもだ。

 

 

 「儂は……何故、生きている。何故……正気を保っている?」

 

 

 そうだ。それが疑問だった。

 あの時、あの記憶が確かならば、自分は暗い魂を喰らい、その血を自らに宿したことで正気を失い、灰の英雄に討たれたはずだ。なのに何故――。

 

 

 ――その疑問には、ボクが答えよう。

 

 「!?」

 

 

 声が、聞こえた。

 

 ――……何だ? 神の類か?

 

 内心で呟いたその問いを見透かしたように、声は言う。

 

 

 「似たようなものさ。ボクは概念の枢機卿、或いは『議会』とも呼ばれる存在の一柱だ。司る概念は『混沌(カオス)』。名を、ハコス・ベールズというんだ」

 

 

 以後お見知りおきを。そう言って彼の目の前に現れ、無邪気に笑う少女は、しかし神に相応しい神威を纏っていた。

 

 

 「……そうか。それで、何故儂は生きている? お嬢様の画はどうなった。この暗闇はどういうことだ? 貴様の司る混沌とは儂の知るもの(イザリスの混沌)と同一か? お前の目的はなんだ。説明しろ」

 

 

 彼女の自己紹介を興味なさげに一蹴したゲールが、矢継ぎ早に質問を投げかける。それに、彼女は慌てたように答える。

 

 

 「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ。一つずつちゃんと説明するからさ。えっと、先ずは何故キミが生きているか、だね? それは、ボクが権能でキミを蘇らせたからさ。『あり得る可能性を現実にする』権能でね」

 

 

 褒めてくれてもいいんだぞ、とばかりに胸を張るハコス。それに対し、ゲールは懐疑的な目を向けた。

 

 

 「……ならば、尚更あり得んだろう。儂は英雄ではない。増して、ロスリックの鐘が鳴らねば蘇らぬ火のない灰でもない。儂が蘇る道理など――」

 

 「あったんだよ。ただ一つだけ、キミが暗い魂の血に適応する可能性が。だからボクはキミを蘇らせられた。ない可能性は、ボクでも現実に持ってこれない。これで答えになるかな?」

 

 

 ゲールの台詞を奪い、ハコスが語る。

 

 

 「……成る程な」

 

 

 彼女は嘘はついていない。恐らく、信じてもいいだろう。

 そう判断したゲールは、フンと鼻を鳴らし、話の先を促すことにした。

 

 

 「……今はそれで納得しておくとしよう。それで、続きを話すがいい」

 

 「うんうん、そうしてくれるとありがたいね。それで、次にキミのお嬢様の画のことだけど……。安心していいよ。キミが自らを犠牲にして作り出した顔料は、灰の英雄がしっかり届けてくれたからさ」

 

 

 その言葉を聞いて、ゲールの全身から力が抜ける。……これで良かったのだ。お嬢様の描く画はきっと素晴らしいものとなるだろう。

 

 

 「そうか……! ならば、儂はお嬢様の下に戻らねばならん。きっと、帰りを待って――」

 

 「……できないよ」

 

 

 上機嫌に話を急くゲールに、ハコスが残念そうに顔を伏せ、言う。

 

 

 「なっ……! 何故だ! それが何故出来ん!? ここまで儂は一人で来た! ならば一人で帰ることも……!」

 

 

 愕然とし、叫ぶゲール。それに構わずハコスが続ける。

 

 

 「その理由が、キミの三つ目の疑問の答えにもなる。聞いておくれ」

 

 「……構わん。話せ」

 

 

 ゲールは一時落ち着きを取り戻し、話を聞くことにした。しかし今も、ゲールの頭の中は、お嬢様のことでいっぱいになっていた。

 

 

 「理由は……この世界が既に滅んでいるからだ」

 

 「!! ……それは一体、どういう意味じゃ」

 

 「そのままの意味さ。ここは、既に終わってしまっている。灰の英雄が、彼の火防女と共に火継ぎを終わらせる選択をしたから……」

 

 

 ――だから、この世界はこうして暗闇に包まれているのさ。

 

 ハコスのその言葉によってゲールの胸に去来する想い――それは深い悲哀と悔恨だった。

 

 

 「ならば……! それならば何故儂を蘇らせた! 一体何故だ!?」

 

 

 思わず激昂し叫ぶ。その叫びは悲しみで溢れていた。しかし、ハコスは怯みもせずに続ける。

 

 

 「落ち着きなよ……。もちろんそれについても説明するつもりだからさ。……まあ、ずっと立ち話ってのもなんだからね。座って話さない? ちょうど篝火もあることだし」

 

 「……フン」

 

 

 言われるがまま、ゲールは手ごろな瓦礫に腰を落とす。それを見届けたハコスも正面に座った。

 

 

 「さて、キミを蘇らせた目的について話そうか。と言っても、そう難しい話じゃない。単純にボクが、キミを気に入ってしまったってだけのことさ」

 

 

 ハコスが語ったのは、酷く単純で、そして個人的な理由だった。

 

 彼女の目から見ても、ゲールのこれまでの歩みは立派だと思うし、それを認めない気もなかった。しかし……それでも納得できないことがあるのだ。

 それは――何故彼が、自らを犠牲にしなければならなかったかだ。

 

 彼女とて分かっている。彼がああするしかなかったのも、自らの意志であの選択をしたことも。そして、自分の……ハコスの選択が、彼の決意と覚悟に泥を塗る行為であることも。

 ――だが、それでも。彼の孤独な旅の果てが、剣も鎧も、クロスボウさえもズタボロになってまで進んだ使命の旅の果てが、彼の死で終わることが、どうしても納得出来なかった。

 

 つまるところ。ハコスが彼を蘇らせた理由は、ただの同情と憐憫だった。それが、彼にとって無意味で無価値な、余計なお世話だったとしても。

 

 

 「誰かが言った。『頑張りとは、努力とは報われるべき願いの名である』と。そうだね、その通りだと思う。だからボクはキミを……これはそんな話なんだ」

 

 「……!」

 

 

 予想外の答えに言葉を失うゲールを前に、ハコスは語り続ける。まるで独り言のように。それでいて彼女が語る言葉は一つ一つが重たいものだった。

 

 

 「ボクが生まれて、キミとキミの世界を知り、キミの軌跡をなぞり上げた時。ボクは思わず涙を零してしまった。世界とは悲劇なのか。人間性を捧げ、絶望を焚べて、たどり着いた果てが、玉座の一つだって無いこんな終わりでいいのかと。もちろん、キミはそれでいいと思ったからそうしたのだろう。だけどボクはそうじゃない。だから、誠に勝手ながら、キミを蘇らせ、新しい世界に招待することにした」

 

 

 謡うように語るハコスに、ゲールは戸惑いつつも尋ねる。

 

 

 「新しい世界……だと?」

 

 

 ゲールのセリフに、待ってましたと言わんばかりに食いつくハコス。

 

 

 「そうだよ! キミの世界が滅んで後、キミの世界の上に生まれた、『ボクたち』の世界だ!」

 

 

 ハコスが語り終えた後、暫くの沈黙が続いた。その静寂を破ったのはゲールだ。

 

 

 「話はわかった……が、その話、儂に何のメリットがある? 儂はただ、お嬢様の元へ帰りたかったのだ。それが叶わぬなら、もう儂に意味などない」

 

 

 悲しげにそういうゲールに、肩を竦めやれやれと首を振るハコス。

 

 

 「全く、忠義に厚すぎるお爺ちゃんだ……。じゃあ、キミがその世界に行きたくなるであろう、魔法の台詞を使おうじゃないか」

 

 

 ――その世界が、キミのお嬢様が描いた世界から発展したものだと言ったら?

 

 

 「!! 何……だと……?!」

 

 「真実さ。これでキミは興味が出てきただろう? その世界が、一体どんなものなのか」

 

 

 ハコスはにやりと笑いながらゲールに訊ねる。しばらく黙り込んでいたゲールだったが、小さくこくりと頷いた。

 

 

 「その気になってくれたようで嬉しいよ。キミが望んでくれる限り、そしてキミがあの世界で生を謳歌する限り、ボクと『議会』はいくらでも手を貸そう。遠慮なく頼って欲しいな」

 

 

 ハコスはそう言ってニコリと微笑むと、ゲールに手を差し出した。

 

 少し躊躇いつつも、老い枯れたはずの好奇心に突き動かされたゲールはその手を取り、彼女の手を固く握りしめる。

 

 ハコスはそれを見て笑みを深めると、空いている手を前に突き出し、その先に光の波紋を生み出す。

 

 

 「さあ、行こう! これから始まるのは、キミの、キミだけの新たな物語だ!」

 

 

 まるで太陽の輝くような笑顔で、ハコスはそう言うと、ゲールの手をしっかりと握り光の先へと一歩踏み出す。

 

 ――そうして。ただ一人の主のために全てを(なげう)った老戦士、赤頭巾の奴隷騎士ゲールは、彼女にその手を引かれるままに輪の都から――そして、既に滅んだ灰の世界から、その姿を消した。




はい(はいじゃないが)。

どうも、メンタルクソ雑魚ボケカス作者ことOthuyegです。

性懲りもなく新作です。

「今書いてるヤツ(https://syosetu.org/novel/311839/ )はどうした」っていう方、いらっしゃると思います。

ええ、まあ。3ヶ月も放置して申し訳ない。

これからまたチマチマ書いていくので、見捨てないでいただけると助かります。

今後ともよしなに。
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