その剣の名は赤頭巾(レッドフード)   作:Othuyeg

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 メンタルがやられて反出生主義に頭から突っ込んで犬神家してる間に、なんかえーちゃんが退職することになっててさらにメンタルがベキベキになったOthuyegです。

……悪ぃ、やっぱつれぇわ…………。


頁二.Eye of the Khaos(台風の目)

 "ホロライブ学園"。

 ――それは世界中から様々な種族の学徒が集う場所である。

 

 中高一貫でありながら、中途編入も割と緩く受け付けており、普通科、工業科、商業科、スポーツ科、戦術科、エンターテインメント科など、幅広い学科が存在する日本有数のマンモス校であり、偏差値70付近をキープし続ける名門校でもある。

 その上、部活・同好会も幅広く存在し、趣味や特技の研鑽にも力を入れることができるという、まさに大多数の学生の憧れとも言える理想郷。

 

 …………まあ、もちろんその分入試倍率は凄まじいし、授業スピードも恐ろしく速いのだが。世の中そう甘い汁だけ吸えるようにはできていないものである。

 

 彼ら、或いは彼女らは、ここで共に学び、遊び、時には戦い合いながら、絆を深めていく。

 

 

 ――そこに、新たに加わる少女が一人。

 

 

 「うう、緊張するなぁ……。いや、弱気になるなボク! 日本語だってあんなに勉強したんだ、きっと大丈夫! ……ぃよっし! いくぞぉ!」

 

 

 頬を張り、『様々な状況の想定』という名の妄想に区切りをつけると、ふんぬと気合いを入れなおして校門の内側へと一歩を踏み出す。

 

 

 「――うわっ!?」

 

 

 …………その一歩で人にぶつかることは、『想定』の内には無かったようだが。

 

 

 「いてててて……。あっ、すみません! 前をちゃんと見てなかったみたいで……」

 

 

 慌てて謝ると、その人物は静かに口を開いた。

 

 

 「……お主」

 

 「え? はい」

 

 

 見れば、ぶつかった相手は老齢の男性であるようだった。このホロライブ学園の用務員か何かだろうか。

 

 

 「――いや、何でもない。前はしっかり見て歩くといい。名は?」

 

 

 その巨躯の老人は、何かを口にしようと逡巡し……そして結局何も言わないことに決めたらしい。(かぶり)を振って言葉を切り、多少の注意と共に名を問うてくる。

 

 

 「ごめんなさい……。えっと、ボクの名前はハコス・ベールズだよ! 見ての通りネズミの女の子ってわけさ!」

 

 

 先ほどまでの緊張はどこへやら、胸を張り老人に名を告げる少女――ハコス。

 

 それを聞き、老人は何やら一人納得したように頷く。

 

 

 「そうか。儂はゲール。『ゲール・フラナガン』だ。ここで用務員をしている故、困ったことがあれば遠慮せず言うといい」

 

 

 なんだか不思議なおじいちゃんだな……などと思いつつ、ハコスは予鈴まで余裕がないことを思い出す。

 

 

 「えっ、あ、ありがとうおじいちゃん! じゃあボク、編入予定の教室いかないと! ゲールさんだよね! またねー!」

 

 「……ああ」

 

 

 礼を言って走り去っていくハコス。その後ろ姿を見送ると、ゲールは髭を撫で付けていた左手で雑多な荷物を再び持ち上げ、用務員室へ向かう。

 

 

 「あれがあやつ(『混沌』)の言っていた『分体』……。『ただの学生』としてのハコス・ベールズ、か。まあ、あやつの言う通り、しばらく見ておくとするか」

 

 

 

 


 

 

 

 

 「ふう……えーっと、中等部の2-Aだから……ここで合ってるね。じゃあ、先生の合図があるまではここで待機っと」

 

 

 ハコスは教室の前で立ち止まり、呼吸を整える。そして、教員の合図にあわせ、意を決して扉に手をかけた。

 

 

 「失礼します!」

 

 

 教壇に立つと、生徒たちの視線が一斉に自分に向けられたのが分かった。緊張で身体が強張るが、それを振り払うように大きな声で挨拶をする。

 

 

 「皆さん初めまして! オーストラリアから来ました! 『ハコス・ベールズ』と言います! これからよろしくお願いしまスュッ!」

 

 

 大きく頭を下げつつ、声が上擦ってしまったことに顔を赤くする。

 

 

 (──うわあああぁぁぁやっちゃったぁぁぁぁ……! めちゃくちゃ恥ずかしいぃぃぃ!!)

 

 

 ハコスは内心で羞恥に悶える。穴があったら一も二もなく飛び込みたいし、何なら穴の底で叫びながら転げ回りたい気分だ。きっと意地悪な人がこれをネタに1ヶ月はいじってくるに違いない! 終わりだ。ボクの新天地の生活は早くも終わりを見たんだ……などと現実逃避の被害妄想に死んだ目をしつつ、恐る恐る頭を上げると……。

 

 

 ──パチパチパチパチ。

 

 

 教室中から拍手の音が鳴り響く。どうやら妄想の世界が現実に発生することは無く、自分は問題なく歓迎されている様子だ。

 

 

 (──ひとまず後ろ指を指されるようなことは無いみたいだ……。良かったぁぁ……)

 

 

 胸をなで下ろすハコスであったが、新天地ともあってまだまだ緊張が抜ききれない。

 どんな人がいるのか、どんな文化でどんなノリが普通なのか。未だそんな不安を自身の心臓の鼓動に感じるも、担任によって見る間に話は進んでゆく。

 

 

 「えーと……。とりあえずハコスさんは後ろの席に幾つか空きがありますので、そちらにご着席ください」

 

 

 気づけば、既に話は終わって席を決定する段階になっていたらしい。気を取り直し、ハキハキと返事をする。

 

 

 「あっ、わかりました。えーっと、じゃあ……」

 

 

 空いている席を見回し、何処に座ろうか逡巡するハコス。それを見て、1人の少女が声を上げる。

 

 

 「はーい! ここはひとつ、スバルの隣を推薦しまぁーっす!」

 

 

 その声に同意し、担任はその少女の隣の席にハコスを促す。

 

 

 「あー……そうですね。ではハコスさん、スバルさんの隣へ。スバルさんはちょくちょくミスをやらかしますけど、優しくて面白い方ですのでご安心ください」

 

 

 そのセリフを聞き、少女──大空スバル──はツッコミを返す。

 

 

 「おうおう先生、そいつぁまるでスバルが失言ばっかのポンコツ人間みてーな言い方じゃーありゃあせんか」

 

 「否定はできないでしょう?」

 

 

 担任がやれやれと肩をすくめると、スバルは「ぐぅ」と唸って沈黙する。どうやらぐうの音しか出ない程度には事実であるらしい。

 

 

 「…………なんか納得いかねぇ!」

 

 

 うーんとしばらく唸った後、スバルが爆発するように吼える。否定できない割に、認めるのも難しいらしい。

 スバルの駄々に、教室が笑いに包まれる。その空気感に絆され、自然とハコスも笑いの輪に混ざる。

 

 

 (……なんだか、普通にやってけそうだね。杞憂ってやつだったかな)

 

 

 ハコスの緊張は、既に真夏の氷のように解け消えていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ──キーンコーンカーンコーン……。

 

 

 終業の鐘が鳴り、教室内の空気が弛緩する。

 

 

 「はい、それでは帰りのHRを終わります。皆さん気を付けて帰ってくださいね〜」

 

 

 そんな担任の言葉を尻目に、生徒たちはぞろぞろと帰路につく。なんだか色んなことがあった1日だったなぁ……と放心していると、隣の席のスバルが話しかけてきた。

 

 

 「よっし! ハコス、一緒に帰ろうぜ!」

 

 「あ、うん。もちろんだよ」

 

 

 ハコスは二つ返事で了承する。この街に引っ越してきたばかりで、街のことだけでなく、その住人にも慣れていきたいと思っていたハコスとしては、断る理由はなかった。

 

 

 「ええやん! 確かオーストラリアの方から来たんだっけ? そっちの話も聞かせてくれよ!」

 

 「う、うん。いいけど、そんなに面白いことは……」

 

 

 スバルの屈託の無い笑顔と押しの強さ(俗に言う陽キャオーラ)にたじろぎながらも、どうにか笑顔を返す。

 

 

 「いやいや、自分にとっちゃくだらねーことでも、場所が変われば新鮮な話題になるもんだろ?」

 

 

 「特に外国の日常なんてそうそう知る機会があるもんでもねーし。ほれ、行くぞ」そう言って手を差し出してくるスバルの優しさに、戸惑いと安堵で少し情緒が混乱したが、結局厚意に甘えてその手を固く握り返す。

 

 

 「あはは……。ありがとう、スバルさん」

 

 「呼び捨てでいいよ! スバルもハコスって呼ぶから!」

 

 

 ……そして、その握った手に小さな違和感を覚えた。奇妙な柔らかさ……そして、その内側に、()()()()()()()を包んでいるような硬さ。

 

 

 「ん? どした?」

 

 

 ……しかし、その違和感はすぐに消えてしまう。色々と想像を巡らせるが、どれも荒唐無稽なものばかりで、確信に足るものではない。

 

 

 「……いや、なんでもない。行こう」

 

 「? おう!」

 

 

 結局、気のせいだったのだろうと断じて、スバルに手を引かれるままに帰路に着く。

 そして、他愛のない話に花を咲かせるうちに、帰り道が分かれる場所まで来ていた。

 

 

 「お、じゃあスバルはこっちだから。また明日な!」

 

 「あっ……うん。また明日ね。今日はありがとう!」

 

 

 若干の寂しさを感じつつ、ハコスが礼を言うと、スバルは困ったように笑う。

 

 

 「いや何のお礼だよ、それ。……まあいっか、貰っとく。じゃあな!」

 

 

 手を振りながら走り去るスバル。それを見届けると、ハコスも自分の住居へと向かう。……その途中。

 

 

 「……あ。そういえばここの路地裏、近道だっけ。通ってみようかな……」

 

 

 普段なら、きっと気に留めることは無かった道。だが、今日のハコスは……()()()()()()()()()()()()、その道に強く惹かれた。

 

 

 「…………」

 

 

 フラフラと、とろりとした薄闇に包まれた路地裏へと歩を進めるハコス。熱に浮かされたように、一歩、また一歩。

 

 

 (──『ここではない、どこか遠く』……)

 

 

 そんな期待と不安が脳裏を泡立たせ、何となく口角が上がる。

 

 そして、その暗い路地裏まで、あと半歩……──。

 

 

 「やめておけ」

 

 「──ッ!?」

 

 

 ハッ、と我に返る。なんだか、凄くどうでもいいものにロマンを感じた、そんな気分だった。

 辺りを見回すと、朝方出会った用務員の老人……ゲールが、こちらを見つめて座っていた。

 

 

 「その道を通るのは、やめておけ。ハコス・ベールズ。昼でも暗い上、ガラクタだらけで足元が悪い。怪我でもしたら面倒だろう」

 

 

 擦り切れた赤頭巾を被った、見慣れない姿──朝会ったばかりなのに見慣れないもクソもないが──のゲールは、静かな口調でハコスに警告する。

 

 

 「ッあっ……。ああ、うん。そうだね。そうするよ。ありがとう、おじ……ゲールさん」

 

 

 その佇まいと視線に、言い知れない不気味さと気迫を感じ取ったハコスは、彼の言う通り普段の道を通って帰ることにした。

 

 

 「……」

 

 

 ……あのまま、路地裏を通って帰ろうとしていたら。

 一体どんなことが起きていたのか、それを考えるのはなんだか恐ろしくて、その後の彼女の足取りは、少し焦りを孕んでいた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 「…………さて」

 

 

 ゲールはハコスの背が見えなくなるまで見送ると、のっそりと立ち上がり、土埃を払う。

 

 

 ──。は子様の霊御分(マタミケワ)のクボ ?いだうど

 

 「猫を殺す類の好奇心が旺盛だな。正直見ていて危なっかしいぞ」

 

 

 何処からか脳裏に響く声に、ゲールは首を回して溜め息を一つ。

 

 

 ──。さ果効逆のどほるげ逃で足裸もラュギリカ、てんな」なつ持を心奇好「に体分の性神る司と能権をれそ。だ堝坩の性能可ち即はと』沌混(スオカ)『 ?うろだいな方仕

 

 「あと一歩で奈落の向こう(裏側の世界)に踏み出すところだった場面を目の当たりにしてそれか。……まあ、貴様はそんなものだろうな。(ハナ)から期待などしておらん」

 

 

 開き直るような声──ハコスの本体(『混沌』の『議会』員)──のセリフを鼻で嗤い、先程ハコスが向かおうとした路地裏へ踏み入るゲール。

 いつの間にかその姿は、二又に裂けた襤褸布のようなマントの翻る全身鎧に包まれており、その右手には半ばから刀身の欠けたズタズタの大剣が握られている。

 

 さながら生き損ないの幽鬼のような威容で、路地裏に総身を踏み込ませたゲールは呟いた。

 

 

 「降りてこい、『混沌』。仕事の時間だ」

 

 ──。んゃちいじお、ねい荒がい遣神、れやれや……まあでも、自分の蒔いた種だ。ひと仕事行こうか!」




日付け変わった頃にはもう出来てたけど、寝て起きて部屋の掃除してたらこんな時間になってたぜ(* 'ᵕ' )☆

追記:今(2024/06/30 15:14)気付いたけど、ハコ太郎のファーストネームのスペルの「Hakos」ってギリシャ語綴りのカオス(=Khaos)のアナグラムなんだね……。ということで、サブタイトルの綴りもそちらに合わせました。(Chaos→Khaos)
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