【コミカライズ化決定】引き抜いた聖剣が独占欲剥き出しなヤンデレ彼女面してくる件 作:アスピラント
「――にしても問題は深刻そうね」
「うん」
「っすねー」
3人の麗しき女冒険者は集会所にて、アレックスの合流を待っていた。話題はもちろん……ユピテルスの結界についてだ。
「古くから生きる精霊の結界は力づくで破れる類いじゃない。ボク達エルフは精霊との関わりが強いから、彼らの力の一端を見てるからさ、かなり難しいのは容易に想像つく」
そう言ってリリアはぬぼーっとした表情のまま紅茶を啜ると、レイナがそれに続いた。
「とりあえず遺跡を探索するのはマストだけど、先に色々調べ物してから向かった方がいいわね。精霊の残した遺跡に侵入者を阻むトラップとか、その他のギミックはあるでしょうし」
「うん……油断は禁物」
「………………」
レイナとリリアがやる気を出してる中で、ローズはじっとリリアを観察していた。一見するといつも通りのリリアだが、ローズは彼女がいつになく
「んー……」
リリアはまた紅茶に口をつけたが、すぐにカップを置いた。無表情のまま、視線だけが入口の方へ向いている。
「……アレックス、遅いな」
その一言は淡々としていたが、足先がわずかに揺れている。ローズはそれを見逃さなかった。
「珍しいっすね。リリアがそんなにソワソワしてるの」
「……そう?」
自覚はないらしい。リリアは首を傾げる。
「何か妙にアレックスのこと、気に入ってるっすね」
「……そう?」
即答だったが、ほんの一瞬だけ間が空いた。
「頑張ってる感じがするからさ。見てて……応援したくなっちゃうかも」
「へぇー……ふふーん」
ローズは口元を緩め、意地の悪い笑みを浮かべる。
「本当にそれだけかなー?」
「それ以上の意味はないよ」
そう言い切りつつ、また入口を見る。その様子にレイナは苦笑し、何も言わなかった。
――と、その時。
集会所の扉が開き、見慣れた青年が入ってくる。
「あ」
リリアが小さく声を漏らした。
アレックスだった。
ただし様子がおかしい。
肩は落ち、顔色は微妙に青い。歩き方もどこか重く、まるで数日徹夜したかのような疲労感を纏っている。そして腰に佩いた聖剣マルティアナが――
カチカチカチカチカチカチカチカチ!!!
めちゃくちゃ鞘を鳴らしまくっていた。
「……遅かったすね?」
ローズが声をかけようとした、その瞬間。
「…………」
アレックスは無言で席に近づき、どさっと椅子に腰を下ろした。
「……あの、どうしたの?」
レイナが心配そうに覗き込む。
「……色々、あって」
対するアレックスは魂が抜けたような声を出す。
『説明』
「……はい」
マルティアナが苛立ったように鳴り、カチカチ音が少し大きくなる。
「なんか聖剣様が機嫌悪そうっすけど……何があったんすか?」
ローズが改めて聞くと、アレックスは深いため息をついた。
「……レヴァンに連れ回されて」
「はい」
「ユピテルスの結界は最終的に力でどうにかする可能性もあるとか言われて」
「ほう」
「そのために“力を高める準備”が必要だって言われて……」
嫌な予感が漂う。
「……で?」
ローズが促すと、アレックスは遠い目をした。
「……色々あって、メイド喫茶で働くことになった」
「………………は?」
一拍の沈黙の後、3人は言った。
「「「ちょっと最初から詳しく話そうか」」」
「はい……」
◇◆◇
「――なるほど、確かにレヴァンの言う通り……手掛かり自体がない場合は詰みになるかもね……」
「その解決法が嫉妬パワーって、何かアホらしいっすけどね」
「俺もそう思うよ、うん」
アレックスがひとしきりことの顛末を教えると、3人は「まぁ……一応納得はしてやろうか」と落ち着いた。これからユピテルス様を救うという任務があるのに、メイド喫茶に行くという暴挙に出た意味がわからなかったからだ。
「アレックスがボク達をこき使ってる間に、メイドを侍らそうとしたのかと思った」
「そんな事しないよ! リリア!」
「実際そうなりつつあるけど」
「……ちゃんと仕事だと思ってやるから」
『大丈夫、初出勤したその日に閉店に
「……それはやめて」
マルティアナは静かに怒気を纏わせる。
初出勤で店内がスプラッタになりそうで本当に勘弁して欲しい。アレックスはレヴァンに恨み節をぶつけたくなった。
「じゃあアレックスと私たちは別行動って事になるのかな?」
「……そう単純な話ならいいんすけどねー」
「どういう事?」
レイナがローズに問うと、ケホンと咳を挟んで改まった感じで語り出した。
「レヴァンは多分……マリー達には最低限しか言わずに、独断で行動してるように見えたっす」
「……言われてみれば、あの子たちは何か納得いかない様子だったね」
リリアもマリー達の表情から色々と察していた。
多分レヴァンはあまり言うことを聞かないタイプで、彼らの思惑とは外れたとこで行動しちゃうのだろうと。それはそれで問題になりそうだが……。
「レヴァンも考えなしにアレックスを
「読み方合ってる?」
アレックスは冷や汗ダラダラでリリアに言った。
思惑があるにせよ、ないにせよ聖剣がヤンデレなのは変わらない。
「実際聖剣様の力を高めるのは必要な事、やり方は賛否あるだろうけど……念には念をいれて頑張って!」
「レイナは思考放棄してるっす、因みにアタシも」
「おいおい! 頼むよ!」
『あら、今回は大人しくしてくれるの? 良かったわ……邪魔な虫が介入しないなら好都合』
「……マルティアナは絶対大人しくしてもらうから」
ついには仲間たちも匙を投げた。
アレックスはもはや仲間とは何ぞやと問いかけたくなっていた。
「とりあえず……しばらくはアレックスとは別行動にしましょう。レヴァンの思惑を言葉通りに受け取るならば、確かに手掛かり自体がない可能性はある。そんな時に打ち破れる方法があれば安心だし」
「一緒に行動出来ないのは残念だけど」
とリリアはため息混じりに言う。
だけど今この場で一番落胆していたのは、間違いなくアレックスだった。
「…………いいなぁ、冒険出来て」
とアレックスはぼやく。
危ない目には会いたくないが、本音を言えば冒険とか謎解きとかは好きだ。聖剣を扱える担い手になるのは想定外だったが、おかげで冒険者になれたのだ。
絵に描いたような冒険が出来る――そう期待したのに。
これからアレックスがやるのはメイド喫茶で働いて、聖剣の嫉妬パワー増幅という意味わからない仕事だ。
とてもじゃないが故郷の家族に言えない。
「大丈夫っす、必要な時は必ず来るっす。その時こそアレックスの出番っす」
「ローズ……」
「だからしばらくは節度守って女遊びするっす」
「人をそんな節操なしみたいに!」
『………………絶対遊びなんて許さない、自分の女を置いていくなんて……』
納得は出来ないが、必要ならやるしかない。
アレックスはマルティアナが事件を起こす可能性を鑑みて、ローズ達にマルティアナが勝手に鞘から出ないようにと、拘束魔法を施してもらうことや、何かあったらすぐ連絡を取り合う事を決めたのだった。
◇◆◇
翌日――早朝。
アレックスはメイド喫茶の前にいた。
「……ここか」
看板には、やたらと可愛らしい文字と星の装飾で――癒しの館☆メルティ・ハートとある。
本来なら癒しの空間なのに冒険者ギルドに集った猛者達の覇気や、不気味なモンスターの洞穴なんかよりも圧倒的なオーラにアレックスは息を飲んだ。
「いくぞ」
アレックスは一度、深呼吸してから扉を押した。
チリン、と小さなベルが鳴る。
「いらっしゃいませ〜……あら?」
カウンターの奥から現れたのは、アレックスが想像していた“ふわふわ系メイド長”ではなかった。
落ち着いた色合いのワンピース、無駄のない所作。年の頃は三十代前後だろうか。微笑みには余裕があり、どこか大人の色香すら漂っている。
「……あなたが、レヴァンさんから聞いていた子ね」
「は、はい! 本日からお世話になります、アレックスです!」
反射的に背筋を伸ばして答えると、女性はくすりと笑った。
「そんなに緊張しなくていいわ。私はこの店の店長、ミレイユよ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします!」
『……ふぅん』
その瞬間、腰の鞘から嫌な振動が伝わり――アレックスは無理矢理押さえつけた。
「あら……」
ミレイユはアレックスの腰元に視線を落とし、すぐに事情を察したように目を細める。
「それが……例の“ご立派な武器”ね」
「え、あ……はい。ちょっと、色々ありまして……」
言葉を濁すと、ミレイユは深くは追及せずに頷いた。
「レヴァンさんから話は聞いてるわ。期間限定で、うちのスタッフとして働いてくれるって」
「はい……短い間ですが、精一杯やります!」
威勢よく言うと、ミレイユはその様子を面白そうに眺める。
「正直ね、かなり込み入った事情があるんだろうなって思ってる」
「……っ」
「でも、詮索はしないわ」
ミレイユは優しく、しかしはっきりと言った。
「ここにいる間は、あなたも他の子たちと同じスタッフ。特別扱いもしないし、逆に変に距離も取らない。いい?」
「……はい」
その言葉にアレックスの胸の奥が少しだけ軽くなった。
「それと」
ミレイユは一つ咳払いをして、事務的な口調に切り替えた。
「その剣を常に携帯しなきゃいけないとレヴァンさんからは聞いている。だけど剣を持ったままホールに出すのは難しいわ、流石にね」
「……ですよね」
内心ホッとするアレックス。
「だから、あなたはキッチン周りの裏方を担当してもらう。仕込み、洗い物、簡単な調理補助……あとはまぁスタッフとコミュニケーションね。料理経験はあるかしら?」
「はい、むしろ……家事とかは得意分野です」
荒事とは無縁な人生でしたので――とアレックスは内心で付け加える。マルティアナはメロついた。
「頼もしいわね。じゃあ――」
店長は手を叩く。
「みんな、ちょっと集まってー!」
パタパタと軽い足音がして、数人のメイドたちが集まってきた。年齢も雰囲気もバラバラだが、揃って可愛らしい制服に身を包んでいる。
「今日から期間限定で入ってくれるスタッフ、アレックス君よ」
「「「よろしくお願いしまーす!」」」
元気な挨拶に、アレックスは思わず一歩引いた。
「よ、よろしくお願いします……!」
『………………』
マルティアナは無言だった。
「ん……」
その輪の少し後ろから、ゆっくりと歩み寄ってくる少女がいた。紫色のボブカットに、切れ長でも丸みを帯びた穏やかな目。動きも声も控えめで、場の空気を柔らかく包み込むような雰囲気をまとっている。
「えっと……私、このお店でメイドのまとめ役をしてるユミって言います。困ったことがあったら、何でも聞いてくださいね」
にこりと微笑まれただけで、不思議と肩の力が抜けた。柔和で、安心感のある笑顔だ、とアレックスは思う。
「アレックスです。こちらこそ、よろしくお願いします」
そう答えながら、自然と背筋を伸ばしていた。
『……この子、一番やばい気がしてきたわ……』
腰元から微かに、ガチ、と不穏な音がした気がしたが、今は気にしないことにした。
◇◆◇
そしてもう一方の冒険組はというと――
「実地調査しようか、諸君!」
「「その前に色々と話したいんだけど、レヴァン」」
「おっと、担い手のパーティの皆様……少々お待ちを」
「「「は、はぁ……」」」
早速内輪で拗れつつあった。
「レヴァン、いつも勝手に動くのはやめてくれって言ったよね」
「マリー、必要な事をしたまでだ。謎解きだけで解決するなら苦労しない。世の中は力だ、力こそパワー」
「……同じ内容繰り返すな」
レイナは一度、深く息を吸ってから手を打った。
「……はいはい、そこまで。内輪揉めは後にして。レヴァン、さっき言ってた実地調査って、具体的には何をするつもりなの?」
少し強めの声だったが責める色は薄い。場の空気を切り替えるための問いかけだと、誰の目にも明らかだった。
「実地調査というのはだね――」
だが説明に割り込むようにマリーが一歩前に出た。
「これから祠に向かいます」
きっぱりとした声だった。いつもレヴァンの後ろに控えがちな彼女にしては珍しく、迷いのない口調だった。
「精霊ユピテルスの封印は、単一の結界じゃありません。力の流れを分散させるために、複数の“要”が存在する。その中でも、もっとも重要なのが祠です」
「……やっぱり」
ローズが腕を組んだ。
「アタシたちも聞いてるっす。精霊の力は地脈と祠を媒介にして循環してるって話」
「うん。祠が無事なら封印は保たれる。でも逆に言えば――」
マリーは言葉を切り、視線を落とした。
「祠に異常が起きていれば、封印そのものが歪んでいる可能性が高い」
リリアは無表情のまま、しかし確実に眉をわずかに寄せた。
「……祠って、昔から魔獣が寄りやすいって噂はあるからね」
「精霊の力に引き寄せられるから、とか色々言われてるけど……真相はわからないっすね」
ローズが相槌を打つ。
「となると、祠の周囲には強力か魔獣が彷徨いてる可能性が高い……」
その言葉に、レイナが頷いた。
「最近の被害報告とも繋がるわね。家畜や人が消える、結界の揺らぎ、魔力反応の異常……」
レヴァンはニヤリと笑った。
「察しがいいじゃないか。そう、だからこそ実地調査なんだ。机上の空論じゃなく、現場を見て、触れて、叩き潰す」
「最後の一言が余計っす」
「同意」
ローズとリリアが同時に冷ややかに言う。
マリーは一瞬レヴァンを睨みかけたが、すぐに気を取り直した。
「……魔獣が出る可能性がある以上、慎重に進む必要があります。祠そのものを破壊するわけにはいきませんし、精霊の残した仕掛けや結界がまだ生きている可能性も高い」
「トラップ系もあるってことね」
「はい。特に精霊系の遺構は、侵入者を敵とみなす判定が曖昧で……不用意に触ると、こちらが排除対象になることも」
その説明に、レイナは腰の剣に手を置いた。
「油断は禁物、か」
「……うん」
リリアも小さく頷く。視線はすでに遠く、これから向かうであろう祠の方向を見据えている。
「――よし、それじゃあ出発しよう」
「やっとらしくなってきたっすね」
「……静かに行こう」
こうして一行は、ユピテルスの封印の要――祠へと向かって歩き出した。まさしくアレックスが想像するような冒険譚が始まるような出だしだった。
ただし何やら不穏そうな動きが祠付近で起きているとも知らずに……。
◇◆◇
緑豊かな平原が、ゆるやかな風に揺れていた。
背の低い草花がさざめき、遠くでは小鳥の群れが空を横切る。穏やかで、どこまでも平和な景色の筈だが……その中央にそびえる高台だけが、明らかに異質だった。
高台の上。
そこに佇む古い祠は、自然と調和するはずの石造りでありながら、周囲の風景から微妙に浮いて見える。原因は明白だった。祠の周囲を取り巻くように、薄紫色の靄のような魔力が漂っている。脈打つように濃淡を変え、ときおり空気そのものを歪ませる不吉な気配。
その光景を、少し離れた場所から見下ろす二つの影があった。
「いやー……まさか国の文化財って言っても過言じゃないユピテルスの祠が、こんなふうに侵食されてるとはなぁ」
間の抜けた調子でそう言ったのは、背の低い男だった。フード付きの外套を深く被り、手を腰に当てて首を傾げている。その声音には困惑が滲んでいるが、緊張感は薄い。
「これ……後で絶対面倒な話になるやつだろ。修復だの責任問題だの、書類仕事も増えそうだし」
「……だからこそ、今のうちに処理する」
低く、冷えた声で応じたのは、隣に立つ背の高い女だった。男とは対照的に、彼女は祠から一瞬たりとも視線を逸らさない。全身を覆うローブの下からでも、鍛えられた体躯がはっきりとわかる。
「ここで問題が大きくなれば、必ず嗅ぎつける連中が出てくる。我々がここにいる事自体を、よく思わない者も多い」
「はいはい、わかってるよ。見つからない内に、ってやつでしょ」
男は軽く肩をすくめると、外套の下から二振りの剣を引き抜いた。どちらも刃は細身で、反射する光が不自然に歪んでいる。明らかに普通の武器ではない。
「さっさと終わらせて、さっさと帰ろう。俺としては、こんな目立つ場所に長居したくないし」
女は答えず、代わりに長杖を構えた。杖の先端には宝玉が嵌め込まれており、祠から漏れ出す魔力に呼応するかのように、淡く光を帯び始める。
次の瞬間だった。
女が杖に魔力を流し込んだ途端、空気が震えた。
圧縮された魔力が波紋のように広がり、二人の周囲を包み込んでいた気配が一気に膨れ上がる。
「――っと」
男が小さく声を漏らす。
その魔力の奔流は、まるで意志を持っているかのように二人を覆い、そして弾けた。
バサリ、と音を立てて、二人のフードが後方へと吹き飛ばされる。
露わになった素顔。
そして何よりも異様だったのはその頭部だった。
女の左右の側頭部から、堂々とした二本の角が伸びている。漆黒に近い色合いで、根元から先端にかけて滑らかな曲線を描き、微かに魔力を帯びているのが肉眼でもわかった。
一方、男の頭にも同じく二本の角が生えていた。女ほど長くはないが、それでも明確に“人ではない”と示すには十分な存在感だ。
「迅速に終わらせるぞ」
「はいはい……仕事仕事、っと」
二人は同時に一歩を踏み出す。
高台へと続く道を、迷いなく進みながら。
その背後で祠を包む怪しげな魔力が、まるで歓迎するかのように一層濃く脈打った。