❇︎葬送のフリーレンです
❇︎二つ名がこの時期から使われていたのか分からないので、もしかしたら改変にあたるかも
❇︎ハイター視点とフリーレン視点が混在しています
❇︎戦闘シーンの描写を細かく書けていません
❇︎ 2023年11月10日のアニメで明かされたことが書いてあります(アニメ派さんにはネタバレの可能性が)
❇︎の注意書きが許せる人のみ観覧○
「ヒンメル。なぜフリーレンを入れたんですか?」
ハイターが小声で尋ねる。
「どういう意味だい?」
「…私は言いましたよね? “彼女の魔力は私の五分の一くらい”だと。なのになぜ__」
「僕も言ったよね? “フリーレンは僕が今まで出会ったどの魔法使いよりも強い”って」
笑顔を浮かべてはいるものの、ハイターは長年の付き合いから、ヒンメルがピリついていることに気付いた。
「……はいはい。分かりましたよ」
なので今回は彼が折れることにした。
「…そのうち分かるよ。フリーレンがどれだけの魔法使いなのか」
誇らしげにフリーレンを語るヒンメル。
だが、彼はヒンメルのことをはっきりとは信用できない。だから訝しげな顔を見せておく。
(きっとそれが、私の役割なのでしょうね)
彼は心の中でそう感じ、苦笑した。
__フリーレンがパーティに入ってから一週後。
フリーレンとアイゼンは長寿だということもあって気が合うのか、よく二人で話をしている。…まあ、それを見ているヒンメルの目は穏やかではないのだが……。
ここにきて、ハイターはとある真相に辿り着いた。それは、ヒンメルがフリーレンに懸想しているということ。
だからアイゼンと協力して、フリーレンとの仲を取り持ったりと、色々と大変な日々を送っていた。
“ヒンメルはフリーレンのことが好きだからパーティに入れた”。
それはなんともセンスの無い答えだった。
ヒンメルがいくらフリーレンを恋慕っていたとしても、それはあり得ないのだ。
ヒンメルはそれだけの理由で好きな女の子を入れるわけがない。
何か、このパーティに何かしらを齎してくれる存在だから入れたのだ。
…そう、信じていたのだが。
「……ごめん。寝坊した」
ボサボサの髪で約二時間の遅刻をしたフリーレンは、眠そうな顔を擦りながら彼らに謝罪した。
さすがにハイターはキレていた。
これで何度目だろう。いや、このパーティに入ってから、彼女は一度も時間通りに起きたことがない。
最初の頃はヒンメルも、「まあエルフは人間と時間の感覚が違うし…」とフリーレンを庇っていたが、今や「気持ちは分かるけどさ…」とハイターを宥める係へと回っていた。
ハイターが「チッ」と舌打ちを漏らし、フリーレンを睨む。
「ごめんよぉ…」
しょんぼりして手を弄り始めたフリーレンを、ヒンメルは珍しく見つめていただけだった。いつもなら話を変えて、自分たちを日常へと戻してくれるのに。
そして、ようやく口を開いた。
__が、それはハイターも、もちろん他のメンバーも予想していなかったことだった。
「フリーレン。君が、君たちエルフが、人間にとって永遠と感じさせるような、長い時を生きていることは知っているよ。…でも、僕たちはパーティなんだ。そのことを分かってはくれないか?」
諭すような、諫めるような、そんな声色。優しさと何か、他の何かをぐっちゃり混ぜ合って、見た人の心をきゅっと掴んで、哀しくさせる顔。
「生命は、時間に限りがある。それも、人間のは君とって一瞬の…ね?」
深かった。
例え、歴史的功績を残した偉人でさえも、国で一番偉い王でさえも、彼の“これ”を再現できる筈が無いんだ。
だって、彼だから、彼だからこそ、“この”全てに意味を持たせられるんだ。
…だから、フリーレンにも響いたのだろう。
彼女もこの感情を持て余していたようだった。痛そうに、少し苦しそうで__哀しい。
ただ、それだけの“少し”を、人の心に干渉させる。
それが勇者ヒンメルだった。
彼の魔性はどうやらフリーレンに効果覿面だったようで、次の日から、フリーレンが起きる時間は、もちろん遅刻だけれど、それでも…。一分、二分、三分と、徐々に縮まっていた。
ヒンメルはそのことをとても嬉しそうに、日々受け止めていた。
__フリーレンがパーティに入ってから二週間後。
「___竜だね」
「やはりそうか」
フリーレンとアイゼンが竜の予兆を見つけた。どうやらこの森にいるらしい。
「どうしますか、ヒンメル」
「このまま野放しになんて、できる筈が無いだろう?」
ヒンメルは鞘から剣を抜いた。
「今回は僕とハイター、フリーレンとアイゼンで行動してくれ。見つけ次第すぐに知らせること」
こうして、二手に分かれた勇者パーティは、竜の退治へと向かった。
「…良かったんですか? ヒンメル」
「ん?」
ハイターは2人きりになった途端、すぐさまヒンメルに話しかけた。
「いつもならフリーレンを後方として付けているでしょう? 今回はなぜ私に?」
ヒンメルはふはっと爽やかに笑った。
「じきに分かるよ」
何やら企んでいそうな、楽しそうな顔だった。
「_ゴオオオオオオオオオオ!!」
「……見つけちゃいましたね」
間近で見た竜はあまりにも大きくて、迫力があって。
腰を抜かしてしまいそうになった。
「行くぞ、ハイター」
「…はい」
ヒンメルはこの村の人たちに貰ったという狼煙をあげた。じきにアイゼンとフリーレンも来るだろう。
「ハイターは温存しておいて」
「えっ?」
「これは時間稼ぎだから」
足を踏み込む。
竜と睨み合い、神速の一撃を叩き付けた…が、そこはさすがともいうべきか。厄介なことに、竜はビクともしない。
「…まあそうなるよね」
ここからは消耗戦だ。
どちらが先に立てなくなるか。
「良いね。俄然燃えてきたよ」
勇者は死と紙一重の笑みを浮かべる。
「ハイターっ! いけるよな!?」
「…仕方ないですね。貴方に付いて行きますよ」
ハイターは女神の魔法をかけていく。
三十分だ。それ程の時間が経った。
それだけで二人はボロボロだ。
ヒンメルだって本当は苦しいはずなのに、何度も立ち向かっている。
(だから私も頑張らなければいけないのにっ!)
ここにきて魔力の消費が激しくなり、冷や汗が出る。
(…本当に、このままで大丈夫なんでしょうか)
暗闇から希望を見出せないまま、また二十分が経とうとしていた。
…と、
上から小さい身なりのくせ、同じ程の斧を持った戦士が現れた。
竜に一撃をくれてやる。
「待たせたな」
「……はあはぁ…遅い、ですよ……。二人ともっ!」
アイゼンらに悪態をつく。
「かなりやられているな」
「ああ…。情けない話だ」
ヒンメルは自嘲した。
「はぁ……。しばらく私は後方に回って、様子見をしていようと思っていたのに」
小声で呟いたフリーレン。
その言葉は風に流される。
「私がやるよ、ヒンメル」
フリーレンは杖を構えた。
それを見たハイターは慌てた。
「無茶を言わないでください、フリーレン。私たちでも倒せない相手を、貴女がどうやって____」
「そこの生臭坊主共に教えてやろう」
彼女は三人の前に立ち、竜と向かい合う。
孤として、かつ凛として。
「私は大魔法使いフランメの一番弟子」
「『葬送のフリーレン』だ」
そう彼女が言い放った途端、竜の意識が彼女に向いた。…警戒、しているのだ。私たちより、他でもない“フリーレン”に。
「爆はぜろ」
ドゴオオオオオオオオオンという凄まじい轟音が鳴り響き、煙が消えた時には__
竜はもう、死んでいた。
ただただ、淡々と彼女はその死体を見ていた。
彼女自身、自分の実力を正確にパーティに認識してもらえていないことは分かっている。…フランメからの教え。それを破る気は微塵も無い。
……でも。
(どうせ後々バレることだし、もうちょっと前に出ても良いよね?)
『葬送』の名のもとに暴れる準備は、もうとっくにできていた。