紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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1年目
第1話 いざ木組みの街へ


 

 

 

 季節は春。

 新年度を迎える少し前、1本の電車がゆっくりと駅に入ってくる。

 扉が開くと多くの人々が降りてくるが、中でもキャリーバッグと地図を持ち、緊張した顔の少女達の姿が目立つ。

 実は、彼女達は地方からこの街にある高校の1つに入学した子で、地方出身者は街にある家に下宿し、お世話になる家に奉仕する方針があるのだ。

 

 また、降りる客は比較的女性が多い中、1人の青年がホームへ降り立った。大きめのスーツケースを持ち、キョロキョロと当たりを見回している。

 

「やっと着いた・・・・・・」

 

 鉄道に乗って数時間。途中爆睡したため風景はあまり記憶にないが、同じ体勢なのはさすがに堪える。

 

 この青年、朝武留久(あさむ るく)(以降ルク)は数週間前に大学を卒業し、ある目的のためにこの木組みの街へやってきた。

 だがその前に、この街で暮らすための部屋を借りなければならない。ルクは現在ニートで家もない状態。両親の方針で、生活する上で基本的な事は自分でやる必要があるため、実家に頼るのは不可能だ。だが一応半年は仕送りが続くとの事。

 家に関してノープランなのは、これも両親の方針・・・というのは冗談で、実際は忙しくて忘れていたのだ。

 

(どうしよう・・・・・・部屋、あるのかな?)

 

 とは言うものの、当てがない。地図はあるにはあるが、なにがなんだかさっぱりだ。ルクはひとまず役所に向かおうとした。

 

「うっさぎ〜、うっさぎ〜」

 

「・・・・・・」

 

 小声で謎の歌を口ずさみながら、キャリーバッグを引く少女がルクの横を通り過ぎる。

 持ち物から推察するに、彼女もこの街の高校へ入学して下宿先を探すために降りたのがわかる。しかし目的が観光になっていないかと、少し心配になる。

 

 改札を出たルクは、まずは役所に向かった。目的は部屋探し。事前情報ではアパートが何棟かあったはずだが、ここに住むのだから、まずは役所に行っておいた方がいいだろう。

 だが役所までは意外と遠い。街並みを揃えるために街の施設は全て1ヵ所に集中しており、それらは駅から川を渡って街を見渡せる高台を中心に配置されていた。

 

 1時間後、ルクは街中を歩き回っていた。役所に聞いた結果、部屋はあるらしいが、詳しい事は不動産屋に行かないとわからないそうだ。そりゃそうかと思ったルクは役所を出て不動産屋に向かうが、この時期は忙しいらしく、案内は無理と断られてしまった。そのためルクは自分で見つける事になる。

 

「どうしようかなぁ・・・・・・」

 

 いくつか部屋を見て回ったが、家賃が高かったり壁が薄かったりなど良い物件が見つからないのだ。一応2つほど候補を選んだが、今すぐ判断しろというのも難しいため、とりあえず資料をもらって考えることに。不動産屋には「決まったらまた来ます」といってある。

 

 休憩場所を探して街を歩いていると、ふと視界にある店の看板が入り込む。

 

(ラビット・・・ハウス?)

 

 どうやら喫茶店のようだ。

 看板がカップとうさぎの形をしていて可愛い感じ。ラビットハウスを見てルクはふと昔の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 あれは12年前、ルクが10歳の時。実は母親に連れられてこの街へ来ていたのだ。なぜ来たのかと言うと、友人と会うついでにルクを合わせたかったから、だそうだ。

 

 母親達は合流後、とあるオープンカフェで話し込んでいた。

 一方で親達の会話についていけず、ルクはジュースを両手に持って辺りを見回していると、近くに座った2人の女性の会話が聞こえてきた。

 

「ひさしぶりね」

 

「うん。元気にしてた?」

 

「もちろん」

 

 ルクはなるべくそちらを向かないようにして耳をすませる。

 

「せっかく会いに来てくれたのはいいけど、子供たちはいいの?下の子、まだ小さいでしょう?」

 

「あの人がいるから大丈夫。今頃5人で地元の公園で遊んでると思う」

 

 大家族だなー、とルクは思った。

 

「子だくさんよね。高校を卒業して、だいたい4ヶ月後だったかしら?最初の妊娠報告を受けたの」

 

「そうそう。大変だったわぁ」

 

 2人は昔話を楽しんでいた。チラリと表情を見た限り、よほど充実した青春時代を送っていたのだろう。とても仲の良い、まるで姉妹のような雰囲気だった。

 それからしばらくすると、2人の女性は店を出る支度を始めた。

 

「じゃ、行こっか。うさぎちゃん」

 

「ちょっと、もう私も母親なんだからやめてよね」

 

「まぁまぁ。それより早くあなたの子供も見たいな〜」

 

(うさぎ・・・・・・渾名なのかな?)

 

 うさぎちゃんと呼ばれた女性がもう1人の女性に手を引っ張られて店を去ってゆく。ルクはその珍しい渾名の女性を、姿が見えなくなるまで見ていた。

 

 

 

 

 

 

 今思えば、顔は覚えていないが、うさぎちゃんと呼んでいた方の女性には4人の子供がいるという、なんとも凄い人だった。おそらく今のルクの歳の時には、最初の子は幼稚園児くらいまで育っているはずだ。

 そもそもあれで四児の母なのかと問いたくなるような見た目をしていた。恐ろしい。

 

(うん、ここで休んでこう)

 

 過去の記憶を引き出されたルクは、うさぎの名を持つ、このラビットハウスで休んでいく事に決めた。

 

「あ、いらっしゃいませ」

 

 ルクを出迎えたのは一人の中学生くらいの少女、と白いウサギ。しかし店には彼女しかおらず、客が来ている様子はない。

 少女はルクを見ると少しだけ驚いた表情をしていた。

 

「お好きな席へどうぞ」

 

 そう言われたので、ルクはカウンターの席に座る。そこへ少女はメニューを持ってやってきた。多分カウンターからだと届かないのかもしれない。

 

「メニューです」

 

「うーん・・・・・・じゃあブルーマウンテンで」

 

「かしこまりました」

 

 少女はカウンターの中に戻ると、豆を取り出して挽き始めた。なかなか本格的な店だ。しかも少女は慣れた手つきで作業を進めていく。だが、コーヒーを入れながらも、たまにルクの事を見ている。何か気になるのだろうか。

 

「あの、何か?」

 

「い、いえ!男性の方がこの街にいるのが珍しくて」

 

「なるほど」

 

 駅に降りてから何やら違和感を感じてはいたが、どうやら男女比の事だったようだ。役所の職員などもほとんどが女性で、男性を見かけたのはほんの一部だった。

 

 しかも年齢層も偏っており、子供と年寄りが大半を占め、それ以外はあまり見ていない。

 しばらくすると、少女が注文したコーヒーを運んできた。

 

「ブルーマウンテンです」

 

「いただきます」

 

 コーヒーを1口。うむ、美味しい。

 誰に教わったのか、見た目からは想像できないほどの腕前だ。

 

 というか本当に他の従業員はいないのだろうか。この店の規模と従業員の数が合っていないように感じる。見た感じは小学生か中学生。負担が大きいのではなかろうか。

 そうルクが思っていると、カウンターの横にあるドアが開いた。

 

「チーノちゃん!着替え終わったよ!」

 

「全く、落ち着きがないな」

 

 そんな事はなく、ちゃんと2人の従業員がいた。あと目の前の少女はチノという名前らしい。

 

「あ、お客さんだ!いらっしゃいませ!新人の保登心愛です!」

 

 ココアと名乗る少女は、眩しいほどの笑顔で挨拶してきた。さらに、よく見たらココアはうさぎを連呼して歩いていたあの少女でもあった。

 

「どうも朝武留久です。今年からこの街に住むんで、以後よろしく」

 

「若い男性がここに来るのは珍しいな。親父の部下か?」

 

「リゼさん。お客さんですよ」

 

「あ!すみませんでした」

 

 リゼと呼ばれたツインテの少女は注意されると慌てて言葉使いを直した。少し男勝りな性格なのだろう。それと親父の部下とはいったい・・・・・・。

 

「見た感じ高校、いや大学生ですよね?」

 

 ココアはぐいぐいこちらに入ってくる。初対面の人と少し距離が近い気がするが、このコミュ力が彼女の良い所なのだろう。

 

 だが、彼女の問いは少し惜しい。

 なぜなら――

 

「俺は大学を卒業して、もう社会人だよ」

 

「うっそー!」

 

「そりゃそうだろ」

 

 そう。ルクは社会人。大学を卒業している。高校生という単語が出てきたのは驚くが、そんなに子供っぽいだろうか。まぁリゼはわかっていたようなのでよしとしよう。

 

「あ、別に敬語とか苗字じゃなくてもいいよ?ここに通うつもりだし」

 

「「本当(です)か!」」

 

「うん」

 

 あれ、なんか爺さんみたいな声も聞こえたような気がする。と、ルクは思ったが、気にしないでおく。

 なぜなら、ルク以外でここにいるのは少女3人とうさぎ1匹だからなのだから。まさかうさぎが喋るわけではあるまいて。

 

「じゃあ遠慮なく。あ、私は天々座理世、こっちは香風智乃で、ここの店長の娘だ。それでルクはなんでこの街に?」

 

「両親がこの街で修行してこいって。実家は都会で紅茶専門店をやってるんだ」

 

 ルクがこの街に来た目的。それは実家の紅茶専門店の支店をだすことだ。両親が経営する紅茶専門店は大きな店ではないが、それなりに客が入っており、わざわざ遠くの方から買いに来る客がいるくらい。木組みの街を選んだのは、過去に行った所の中で最も印象に残っていたからだ。

 

 ルク自身も紅茶が好きだったし、いずれは店を持ってみたいと思っていた。しかし、ルクの両親は直ぐに店を開く事には反対し、最低でも2年間はどこかの店で働き、自分がどんな店を開きたいのかという未来予想図を鮮明にできるようにしろとの事だった。

 

「となるといずれこの街にも店ができる可能性もあるか?ライバル登場かもな、チノ」

 

「う、うちはコーヒーですし、喫茶店ですし、だ、大丈夫です!」

 

 びくりと反応したチノ。彼女から発せられた言葉は自分に言い聞かせているようだった。なるほど、確かにラビットハウスには客が来ていない。ライバル店が増えるのは望ましくないのだろう。

 

「うちの店は基本茶葉の販売だけだから、方針転換しない限り大丈夫だと思うけどね」

 

「よ、よかったです」

 

「安心してチノちゃん!私も頑張るから!」

 

「何当たり前の事言ってるんですか。まずはそこの箱を倉庫に持っていってください」

 

 チノに軽く流されたココア。しかし彼女は別に嫌がる様子でもなく、店の隅に置いてあった箱の山を倉庫に運び始める。

 結構重いのだろう。箱を持ち上げるココアの腕はプルプル振るえていた。手伝おうかと思ったが、その前にリゼが話しかけてくる。

 

「ルクは住む所決まってるのか?」

 

「いんや。まだどの部屋にするか決めかねてる」

 

 ルクはカウンターの上に資料を拡げる。

 

「このアパート知ってます。大家さんが高齢で跡継ぎがいないからいつ潰れるかわからない所です」

 

「え?」

 

「こっちは来年取り壊すらしいぞ。引越し先探さなくちゃってお客さんが言ってた」

 

「えぇ!?」

 

 なんと。伏兵が潜んでいたとは思いもしなかった。むこうは何も言ってこなかったし、不動産屋でもそんな情報は出てこなかった。前者はともかく後者は明らかにわざとだろう。

 

「でもどうしよう・・・・・・」

 

「この街は外部の人が一時的に住むことをあまり考えてませんから、集合住宅の数は少ないですね」

 

 本当にどうしたものかと考えるルク。もう一度不動産屋に行くしかないだろうが、絞った2つ以外に選択肢があるとは思えない。条件を変えるか、下宿先として登録している家も探すしかないだろう。

 

 するとそこへ・・・・・・

 

 

 

 

「なら、うちに住まないか?」

 

 

 

 

「え?」

 

 店内に入ってきたのは、中々ダンディーな男性だった。ルク達はあっけにとられ、男性の後ろから店内に戻ってきたココアは、不思議そうな顔で全員の顔を見回していた。




新作発表から2年くらいが経過しました。マジで遅すぎたのかもしれません。
さて、ごちうさの二次創作として本作を投稿したわけですが、個人的に書いていて20話前半くらいまでは物語に影響しない原作通りのお話が続くと思います。もちろんオリジナルの話や展開も書きますが、それは徐々に増やしていきます。
なら原作飛ばして書けよという話なんですが、それは嫌なので最初から描きます。ただヒロインと物語の芯となる部分は決まっておりますので、あとは私の気力次第です。

というわけで、ご注文はうさぎですか?の二次創作【紅茶と木組みのめぐり逢い】、始まります!
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