紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第10話 皆で温泉プール

 

 

 

「あっつ・・・・・・」

 

 まだ6月だというのに、真夏のような暑さにさすがのルクもダウン寸前だった。しかし昨日は夕方になるにつれ気温は下がっていく気がしたので、まだ夜は寒いだろう。

 

「ごめんなさい。こんな日に倉庫の整理をお願いしてしまって」

 

 チノはルクが愚痴ったことを気にしたのか、申し訳なさそうな顔をして謝った。

 そう。今ルクはチノに頼まれて店の倉庫の整理と必要な物資を表に運んでいたのだ。

 

「いやいや!チノは悪くないよ!」

 

 慌てて返すルク。まさか中学生に気を使わせるとは思わなかったのだ。罪悪感が半端ない。

 チノから水を受け取ったルクは喉を潤し、ジト目でこちらを見るリゼに話を振った。

 

「な、なぁ。どこかいい所ない?」

 

「うーん・・・・・・ならこうしよう」

 

 そう言ったリゼは、ラビットハウスに置いてある街の地図を開き、とある場所に指を刺した。

 その場所を見たチノは納得した様子で賛成したが、ルクはあまりわかっていない。だがその場所をよく見ると、何があるのかを理解した。

 

 ルク達はココアが帰ってくると、その場所へ行くことを告げる。するとココアは誘う前に自室へ突入して準備万端で下へ戻ってきた。

 なお、タカヒロに事情を説明すると、今日は休んでもいいという許しを得た。

 

 ルク達は街の一角へ足を運ぶ。

 そこは温泉プールの施設があるのだが、温泉プールという名前には似つかない立派な建物だった。

 リゼ曰くここは国の古い施設を改修してできた施設らしい。当時の街のお偉いさんの私情も入っているという噂もたっていたが、結果的に人気な施設となっため、その噂もすぐに消えてしまった。

 

 2階建ての施設は1階がプールで2階が飲食店や更衣室があるとのこと。正面出入口にある階段又はスロープで2階に上がると受付があるのは面白い。しかも水着は貸してくれるので身一つで行ける。

 受付を済ませて水着を借り、更衣室へ向かう途中の通路で内部が見える窓から下を覗いたルクは、建物の珍しい構造に納得した。

 

「なるほど。1階のスペースはほとんどプールなんだ」

 

「ああ。機械が入っている部屋もあるけど、こうすると広くなるだろ?」

 

 確かに下に広がる景色はルクが過去に行った室内プールよりのどれよりも広いものだった。

 ルク達は更衣室で着替えると、部屋から直接通じる扉からプールのある場所へ出た。

 

「うん。やっぱり上から見た通り広い」

 

「おーい」

 

(おお〜・・・お?)

 

 ルクが施設の広さに感心していると、ココアの声が聞こえた。

 ところが、その方向に顔を向けると、来た時よりも人数が増えていた。なんと千夜とシャロもいたのである。

 

「あれ、なんで2人がここに?」

 

「実はうちのお風呂壊れちゃって。おばあちゃんはお友達の家に行ってるし、私だけならここでいいかなって。でも1人じゃ寂しいからシャロちゃんも誘ったの」

 

「こ、こんばんはルクさん」

 

「おっす久しぶり」

 

 千夜に身体を半分ほど隠してルクに挨拶するシャロ。あまり乗り気ではなかったのか、ルクには見せたくなかったのか、いつもの彼女とは少し違う。まぁルクはなんとなく理由は察していた。

 

 ここにいるメンバーの水着姿を見ることが出来たのは嬉しいが、少々格差が垣間見えている。

 中学生のチノはまだいいとして、高校生組のココア達と比べてシャロは圧倒的に胸部装甲が足りていない。ココアはまだ小寄りの中に入ると思うが、リゼと千夜は圧倒的に有利なモノを持っている。人に同級生と比べられるのが、そして比べてしまう自分が嫌なのだろう。

 

 だからルクは何も言わない。まだそこまで深い関係でもないし、大きさはそこまで気にしていないのだ。

 

「ここ初めて来ました・・・・・・浮き輪持ってくればよかったかも」

 

 ルクと同じようにチノは周囲を見渡す。

 

「これならあるよ」

 

「なんで足ヒレなんか持ってるんだ?」

 

 ココアが差し出したのは足ヒレだった。温泉プールにいくだけなら別にいらないと思うが、そもそもその足ヒレはいつ手に入れたのだろうか。

 

 リゼがココアにヒレを戻すよう言われている中、ルクはしゃがんで温泉に手を入れている千夜の隣に行き、同じように膝をついた。

 

「ねぇルクさん。ここぬるくないかしら」

 

「ん?あ、本当だ。でも一応プールなんだし、こんなもんじゃないの?」

 

「もう少し熱くてもいいと思うのだけど・・・・・・」

 

 確かに香風家でいつも入っている風呂はもう少し熱い。とはいえここはプールだ。普通の温泉の温度にしてしまっては客が長居してくれないのだろう。

 近くの柱に案内板があったのでそれを見ると、更衣室から直接行ける普通の温泉がある事がわかった。おそらく千夜のような客にも対応しているのだろう。ちゃんと体を洗うスペースもあるため、綺麗になって施設を出る事ができそうだ。

 

「千夜、ここは普通の温泉じゃない?」

 

「あら本当。でも男女別ね」

 

「まぁさすがにな」

 

「一緒に入る?」

 

「やめて。リゼに殺されそう」

 

 予想外のお誘いにルクは驚いたが、なんとか冷静に返答した。

 とっさにああ言ったが、はたしてリゼはどんな反応をするのだろう。問答無用で撃ってくるだろうか。同意の上なら見逃してくれるだろうか。

 そもそもこの街にいられるのだろうか。いや、最悪責任とって甘兎に婿入りすれば・・・・・・。

 

 というところまで考えた所で、ルクは千夜がリゼとチノと一緒に数多あるプールの一つに入っていた事に気が付いた。

 ルクは何も無かった事にして同じ所に入る。やはり少しぬるい。

 

「おお来たか。ルク、知ってるか?ここ高血圧と関節痛に効果があるらしい」

 

「あ、肩こりにも良いらしいわ」

 

「そりゃ凄い」

 

「ティッピーにも効くのかな」

 

「そう言えばあっちに桶があったわよ」

 

 リゼと千夜はチノの頭に乗っているティッピーに近寄りながら温泉に誘う。

 さすがに兎を入れるわけにはいかないだろうが、桶があるならしっかり洗って返せばティッピーも温泉に入れるだろう。

 

 しかし2人に接近されているチノは徐々に沈んてゆく。

 おそらく2人の身体に反応しているのだろうが、沈んだ分隙間が生まれ、再度接近されているため、さらに悪化している。

 

(なんと羨ましい)

 

 ルクも視線をティッピーに向けながらそんな事を考えていた。そのティッピーも2人から逃れるようにチノの頭の上をもぞもぞと動く。

 

「嫌がっているのかぁ?」

 

「濡れた姿も見たいわね」

 

「あ、私ココアさんの所に行ってきます!」

 

 チノはいつもより素早く動いてプールから脱出。ココアとシャロのいる所に入っていった。

 耳を傾けると、「成長促進の効果がある温泉はないのでしょうか」という声が聞こえる。2人のスタイルに圧倒されたチノは少しふらついているように見えた。

 

 可哀想に、と思っていたルクだったが、視界から外れてこちらに接近していた千夜には気づいていなかった。

 

「それっ」

 

「おわっ!」

 

 千夜は桶に半分ほど入れた温泉を思いっきりルクにぶちまける。完全に油断していたため、ルクはかなり驚いていた。

 

「え、千夜?いつの間に」

 

「こんな事してみたかったの〜。今読んでる小説で似たような描写があって」

 

「あれか。でも舞台は海だしフィクションだろう」

 

 リゼは千夜が読んでいる小説を知っているのか、苦笑しながらこちらに寄ってきた。

 何をする気だとルクは警戒したが、リゼは持ってきた入れ物の中からタオルを取り出してルクの顔を拭いた。

 

「ごほ・・・ありがと」

 

「気にするな」

 

 まさかここまで接近してくれるとは思ってもいなかった。しかもリゼの手以外がたまにルクに触れるため、柔らかい肌の感触がダイレクトに伝わってきた。

 

(ヤバい。女子ってこんなに柔らかかったんだ。いやまてまて。こいつらは高校生。俺とは6歳も離れてるんだぞ)

 

 今までこういった経験がなかったわけではない。

 地元には女性の友人もいるが、引っ越してくる前は彼女達とはあくまで友人として過ごし、送別会的な事もしてくれた。確か結婚も視野にいれて交際している人もいたはずだ。

 

 ここでは近い歳の異性との関わり合いが少ないためか、リゼ達の男性との距離感はおかしいとルクは感じた。そうでなければ、出会って半年も経っていないのに異性とプールで近距離まで寄らないはず。

 

(あ、もしかして家族感覚で接してくれているのかな。なら納得するかも。少し残念だけど)

 

 ルクの考えはほぼほぼ当たっており、先日の占いの結果がチノ達に影響を与えていたのだ。

 ココアの「家族として接すればいい」という提案が功を奏したのか、彼女達はまるで兄と暮らすかのように過ごしていた。

 

 また、ルクは知らなかったが、ココアは千夜に占いの結果を伝えていた。本人は占いの結果に動揺するチノの事を話していたのだが、千夜は占いの結果を伝えていると解釈してしまったため、彼女のルクに対する意識は変化してしまった。

 クラスメイトの同居人から友人となり、今はそれ以上の関係となろうとしている。それが恋なのかはさておき、明らかに距離は縮まっている。

 

「・・・・・・千夜、あんなだったかしら?」

 

 隣で話しているチノとココアには聞こえない程度の声でポツリと呟くシャロ。彼女からしても千夜の様子はおかしいと感じていた。

 

(まぁ歳の近い異性とは交流なかったし、ルクさんもいい人だから大丈夫そうかな)

 

 シャロは千夜が恋をしているわけではない事はわかっていた。千夜は昔から好奇心旺盛で、昔はよくシャロを連れまわして遊んでいた。おそらく今回も似たような事だろうと。

 

 そのまましばらく温泉に入っていると、ルク達がこちらへ向かって歩いてきた。

 

「おーっす。あれ、チノはチェスを借りてきたのか?」

 

「はい。ここは強者が集まるんです。でも今日はいないですね。ルクさんもどうですか?」

 

「ごめんな。俺ルールわからないんだ」

 

「そうですか・・・・・・」

 

「じゃあ私がやる!」

 

 ルクの代わりに名乗りを上げたのは千夜だ。

 

「チェスはやらないけど将棋はおばあちゃんとやるの。だからこっちもなんとかなるはず」

 

「ではやりましょう。ルクさんも・・・あれ?」

 

 チェスを並べ終わったチノは、プレイしながらルールをルクに説明しようとしたが、肝心の本人が消えていた。

 

 辺りを見渡すと、ルクはリゼの近くに立っている。どうやら、リゼはココアにつられて25mプールで泳ごうとしているらしく、その準備運動をルクに手伝わせているらしい。

 

「準備運動は大事だからな。よし、頼む」

 

「俺でいいのか?」

 

「私は気にしないから。やってくれ」

 

「よっしゃ」

 

 リゼは大きく足を開くと、背中を押すようにルクに頼む。ルクは両手を背中に置き、ゆっくりと力を入れて前に倒した。その際、一瞬艶めかしい声が聞こえた気がするが、あえてそこには触れずに体操を続けた。

 

 何回か押していると、ココアに引っ張られてシャロもこちらに来た。シャロはリゼの柔らかさに何やら感心した様子でこちらを見ていた。

 

「んっ、あ、そうだ。私、泳いだこと、ないんだった」

 

「「え!?」」

 

 前に倒れながらいきなり衝撃の事実を言ったリゼ。ルクとシャロは動きを止めるほど驚いてしまった。

 

「山とか川はあるんだけどな。川は浅い所だけで泳ぐ所には行ってないんだ」

 

「じゃあ私が教えます!はいこれビート板!」

 

 完璧な女性としてリゼに憧れていたシャロは、予想外の欠点に驚きつつ、率先して泳ぎ方を教え始めた。

 バイトで疲れているはずだが、本人が幸せそうならそれでいい。

 

 一方、ルクとココアはリゼの特訓を見ながら水中でジェスチャーゲームをしていた。主にココアが出題するのでルクがやる暇はなかったが、リゼの真似など地味に似ていたので面白かった。

 

 それからしばらくして、リゼが泳げるようになる頃にはルク達は大人しくなっており、ココアでさえも先程の温泉でルクと一緒にゆっくりしている。

 

「ふー・・・・・・あ、ルクお兄ちゃん!ここからの夜景綺麗だよ!」

 

「んー?おお本当だ」

 

 ざぶざぶとプールの中を移動して窓際に近寄ったココアは、そこから見える景色に感動していた。ルクもそこへ向かい窓から外を見ると、確かに夜景が綺麗だった。さすが元々国の施設だっただけあって立地はいいようだ。

 

「ルクさん。ココア」

 

 ルクは背後から声を掛けられる。

 振り向くとシャロが両手にビンを持って近づいてきていた。その後ろにはチノ達も合流しており、同じビンを手に持っている。

 

「コーヒー牛乳です。リゼ先輩が泳げるようになったのでお祝いついでに皆の分も買ってきました」

 

「おお、ありがとう」

 

「ありがとー!」

 

 ルク達は綺麗な夜景を見ながらコーヒー牛乳を飲んだ。温泉ではあるがプールなので少し違和感はあるが、皆で飲んでしまえばあまり気にしない。

 

 時間はあっという間に過ぎるもので、かなりの時間プールにいる事に気が付いたため、その後ルク達は普通の温泉で体を綺麗にしてから施設をあとにする。

 リゼは施設の前まで車が迎えに来ており、彼女はそこで別れた。残ったラビットハウス組と甘兎組も、まだ涼しい風を受けつつ途中までは一緒に帰っていった。

 

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