紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第11話 匂いと表情は個性を表す

 

 

 

「おはよ・・・っとと」

 

 ルクがダイニングに入ると、部屋を出ようとしたココアが軽くポスンと衝突してくる。まだ半覚醒だったルクは避ける事ができなかった。

 

「あ、今起こしに行こうとしたの」

 

「ん。昨日本を遅くまで読んでてさ。でもココアは珍しく早いな」

 

「今日は私が朝食を作ったの!」

 

「そうなの?ありがとうな」

 

 2人はくっついたままで話している。まだルクは少し寝ぼけているのだろうが、ココアは離れてもよかったはずだ。少しズレている所はいつになったら治るのだろう・・・・・・。

 

 そこへダイニングの方から呆れたような声での突っ込みが入る。

 

「2人とも何しているんですか。早く食べましょうよ」

 

 相変わらず落ち着いた様子のチノ。もう少し歳相応に話してくれてもいい気がするが、これも彼女の個性なのだろるか。

 ルクとココアはパッと離れるが、その時ルクはある事を感じた。

 

「はーい・・・・・・ん?何かいい匂いがする」

 

「もしかしてパンの匂いかな?昨日お風呂上りにパンが焼けたから私に移っちゃったのかも」

 

「なーるほど」

 

 2人はそんな会話をしながら席に座る。

 そして朝食を食べている途中、不意にココアが先ほどの話題に関して言い出した。

 

「ねぇ。チノちゃんはどんな匂いがするのかな?」

 

「私は特に何もしないと思いますが・・・あ、ちょ」

 

 一応食事中なのだが、ココアは気にせずチノに近づいて匂いを嗅いだ。

 

「あ、コーヒー豆の匂いだ。いい香りだね」

 

「さっき豆を挽いたからでは?」

 

「私は好きだよ?喫茶店の孫娘って感じがする」

 

「そ、そうですか」

 

 ココアの素直な感想にチノは恥ずかしそうだったか、嬉しそうな表情で頷いた。

 

 確かにこの家に住んでいるとコーヒーの香りがよく漂ってくる。特に喫茶店が開店している時に外から帰って来ると全身が包まれるような感じになっていた。

 思えばルクの実家も棚を開ければ紅茶の香りがしていた。となると、ルクもいずれは紅茶の香りがするようになるのだろうか。

 

 朝食を食べ終わり、食器洗いを済ませるとルク達は店の開店準備を始めた。一応ルクのシフトは午後からではあるが、チノ達が準備を終えるまでは最低限やれる事はやっている。

 看板を外に出していると、視界に見知ったツインテの人影が入った。

 

「やあ、おはよう」

 

「おーリゼか。おっすおっす」

 

 学校が休みなのでリゼは私服姿だ。いつもは高校の制服なのでこういった服装は珍しく感じる。

 とはいうものの、彼女のイメージ通り、そのまま運動もできる動きやすい恰好だった。

 

「あ!リゼちゃんおはよう!」

 

 リゼが来たことがわかったのか、準備を終えたココアが外に出てきた。そして犬のようにリゼの周りを匂いを嗅ぎながらクルクルと回る。

 

「な、なんだ?」

 

「なんかココアは人の匂いとやらを探しているらしい」

 

「変なやつだなー」

 

 リゼは自分にまとわりつくココアには気にしておらず、相変わらずだなぁといった様子。そのまま3人は店内に入ると、チノが箒を持って掃き掃除をしていた。

 

「おはようございますリゼさん・・・ココアさんまだやってるんですか?」

 

「うーん、何やらリゼちゃんからは硝煙の危険な香りが・・・・・・」

 

「何っ!」

 

 ニヤリと笑って指摘するココア。もちろん本人は冗談のつもりなのだろうが、リゼは慌てて袖の部分を嗅いだ。

 

 ・・・・・・さて、この行動でわかった事がまず1つ。リゼは実銃を撃っている。猟銃か拳銃かは定かでは無いが、ただの玩具の銃を使っていたらこのようは反応はしない。

 いったいどこで撃っているのだろうか。この街には射撃場はない。もしかすると家にある可能性も。

 

(少し興味あるけど・・・怖いなぁ)

 

「冗談だよ〜」

 

「だ、だよなぁ」

 

 ふふふ〜と笑うココア。少しホッとした感じのリゼだったが、変な所で鋭い指摘をしてくるココアに若干ビビったのは間違いない。

 

 さて、ラビットハウスが開店して数十分が経過した時、ココアは珈琲豆を挽いているリゼとカウンターでコーヒーを飲むルクに小声で話しかけた。

 

「ねぇねぇリゼちゃん、ルクお兄ちゃん。私チノちゃんが笑った顔を見たことないんだけど、気の所為かなぁ?」

 

「・・・確かに俺もない」

 

「うーん。まぁチノはあんまり笑わないよな」

 

「「え・・・・・・」」

 

 ルクとココアはリゼの「あんまり」という言葉に反応した。

 嬉しそうにする姿は何度か目撃しているが、面と向かって笑うというのは無いに等しい。それなのにリゼはあんまりと言った。その意味は、彼女がチノの笑う姿を見たことがあるということ。

 

 そんな2人の愕然とした姿を見たリゼは少しだけ慌ててしまう。

 

「い、いや、私が初めて会った時と比べれば表情が豊かになってるし・・・・・・」

 

「そうかぁー・・・ってココア?」

 

 ルクはカウンター内でプルプル震えるココアに声をかける。

 

「なら絶対に見てやるんだからね!」

 

 そう言った彼女が取り出したのは1台のデジタルカメラ。女性でも扱いやすい小型のやつだ。

 

「まさか家族に送る写真を撮るカメラが活躍する時がくるなんて!よーし、がんばるよ!」

 

「仕事もするんだよ」

 

 ココアはさっそく表で黒板を書き直しているチノの下へ行き、デジカメ片手に何やら話していた。

 その身振り手振りから察するに、「チノちゃん!一緒に写真撮ろうよ!」などと言っているに違いない。ここからだとチノの姿は見えないが、ココアの若干必死な表情から、あしらわれているのだろう。

 

「はい。パンケーキだ」

 

「ありがと」

 

 ルクはそんなココアを見ながら、リゼがカウンターに置いたパンケーキを受け取って食べ始めた。パンケーキを飲み込み、ふと振り返るとココアがずこずことやってきた。

 

 結果は見事撃沈、いや轟沈。

 速攻で叩きのめされて店内に戻ってきたのだ。

 

「お疲れ。どうだった?」

 

「ダメだったよ・・・・・・」

 

「そりゃそうだ」

 

 本当に残念そうに肩を落とすココアに、ルクは呆れた声で言う。

 

「でも諦めないよ。修行に言ってくる!」

 

 そう言ってココアは店を飛び出し何処かへ去っていく。まるで嵐のようだ。

 

 カウンター内にいるリゼが引き止める間もなく消えたため、彼女は手を伸ばしたまま固まっていた。しばしそのままだったが、ハッとなってゆっくりと手を下げた。

 

「ココアめ・・・・・・」

 

「まぁまぁ。今日はもうお客さんは来ないだろうし。その分俺が売上に貢献するよ。はい、紅茶ちょうだい」

 

「全く。紅茶くらい自分でいれろよな」

 

 そう言いながらも紅茶を用意してくれるリゼ。良い嫁になるというティッピーの占いは当たっているだろう。まぁチョロいのでダメ男に引っかからないか心配だが。

 

 その後、ココアは少しの間帰ってこなかった。彼女が戻ってきたのは約30分後、ルクがお会計をしている最中だった。

 

「ただいま!」

 

「あ、帰ってきました」

 

「修行の成果を見せるよ。まずはリゼちゃんだね」

 

「え?」

 

 自分が撮影対象になるとは思ってもみなかったリゼは、いきなり向けられたカメラに対応できず、少々驚いた表情を撮られてしまう。

 

 本人は恥ずかしがっているようだが、ルクとチノは写真を確認しているココアの手元を覗き込んだ。パッと見は普通の写真だったが、右上に謎のモヤが写りこんでいた。

 

「「「心霊写真!?」」」

 

「・・・・・・え?」

 

「リゼちゃんはその銃で一体何人を屠ってきたの・・・・・・?」

 

「ん?いやまてまて。これさ、ココアの指なんじゃ?」

 

 ルクはココアからデジカメを借りると、心霊写真とやらを良く見る。するとあきらかに指のような影が確認できた。

 

「あ、なんだー」

 

 ホッとするココア。

 しかしその写真は直ぐに消された。容量を圧迫しないためだろう。

 

「よし。じゃあチノちゃん。いってみよーか!」

 

「やです」

 

「えー!」

 

 リゼの後ろにサッと隠れるチノ。彼女を盾とするように制服を軽く掴み、その目はココアをじっと見ている。

 

 互いに譲らない状態が続く。

 ココアの執念と言うべきか、諦めない姿に先に折れたのはリゼだった。呆れたリゼは一回転し、後ろにいるチノを持ち上げてココアの前に降ろした。

 

「え!リゼさん!?」

 

「ようは照れてるだけなんだろ?しょうがないから私が手伝ってやる」

 

「あっ」

 

 リゼはチノの脇腹をくすぐり始める。逃げようにもこうも囲まれては脱出は不可能だ。チノはくすぐったさに悶えている。

 

(うん。これはダメだ。犯罪だわ)

 

 パンケーキを食べ終え、自分で淹れた紅茶を飲みながらルクはそう思った。だがまじまじと見ている辺り止める気はないようだ。

 

「や、やめてください・・・・・・」

 

「うっ!」

 

 潤んだ目でリゼを見るチノ。

 ある種の反撃を受けたリゼは動きを止め、ゆっくりチノから離れて窓際に逃げてゆく。

 

「リゼちゃん?」

 

「すまない。これ以上は私には無理だ」

 

 彼女の中にはなんというか、罪悪感というものが芽生えていた。これ以上続けると犯罪にらなりそうな気がしたのだ。

 リゼから解放されたチノはしばらくカウンターの陰に隠れ、息を整えた状態で再び姿を現した。

 

「全く。そこまでして写真を撮りたいんですか?しょうがないココアさ「撮れた!」」

 

「「は?」」

 

「ようやく撮れたよ!ほら!」

 

 ココアは得意げに今撮った写真を見せてくる。ルクとリゼはカメラを受け取り、その写真を見る。

 だが、そこに写っていたのは――

 

「うーん。これはなぁ・・・・・・」

 

「残念だがココア。これは嘲笑だ」

 

「えーーっ!」

 

 そう。ココアが撮った写真にはチノが嘲笑っているような表情が写っていた。

 ココアも信じられないといった反応をするが、事実は変わらない。というかココアビジョン的にはこれは笑顔だったのだろう。

 

 それからも相変わらずココアはチノを追って写真を撮り続けた。

 結果、撮れたのは不安そうなチノと彼女に抱きついているココアの写真(撮影者はルク)。それは決してココアが目指したような写真ではなかったが、彼女自身は満足したようだ。

 一方、チノもその写真は嫌ではなかったらしく、数日後にチノの部屋を訪れたルクは机の上の写真立てに2人の写真が入っていたのを目撃したのだった。

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