紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第13話 はたらく女軍曹

 

 

 

「そろそろ父の日だけど、タカヒロさんに何か渡す?」

 

 父の日まで1週間となった日、ルクは先程までいた客のカップを洗いながら2人に提案する。

 

「いいねそれ!やろう!」

 

「いいんですか?ありがとうございます」

 

 ココアは案外ノリノリ。チノは他人の父親にも関わらずプレゼントを贈ろうとする2人に頭を下げた。

 ルクとココアとしては、普段からお世話になっている家主に対してお礼がしたかったのだ。

 

 では何を送ろうか、と話そうとした瞬間、店の扉が開かれる。

 

「皆!私は他の店で短期バイトする事に決めたからよろしく!」

 

 リゼは入ってきて早々このような事を宣言した。ポカンとする一同だったが、ココアは顔を青ざめながら応える。

 

「リゼちゃんが軍人から企業スパイに!?将来は諜報員にでもなるの?」

 

「軍人は親父の方だ。あとスパイにはならないから」

 

「それで?急にどうしたのよ」

 

 ルクに事情を聞かれたリゼは答えにくそうな顔をしていたが、少し考えた後に話し始めた。

 

 曰く、昨日リゼ父がコレクションしているワインを1本割ってしまったそうだ。なぜかと言うと、天々座家にアレが出現したからだ。

 アレとはつまり、またの名をG、黒い害虫、髭男爵とも言う。

 

 アレが視界に現れるとリゼは混乱状態となってしまい、気がついたらアレが血溜まり(ワイン)の中で死んでいた。

 彼女の手には半分に割れたワインボトルが握られていたそうだが、なぜ収納してあったそれを手にしたかは謎だ。

 

 ともかく、父親のワインを割ってしまった事には変わりない。幸いリゼ父は軍務のために家にいない。まだ割った事は知られてはないはずだ。

 

「父の日までに稼いでヴィンテージワインを贈って罪滅ぼしがしたい」

 

 というのがリゼの当面の目標だった。

 

「バイトする所は見つかったんですか?」

 

「ああ。甘兎庵とフルール・ド・ラパンで働こうかと思ってる。一応2人にも相談したんだ」

 

 実はここへ来る前、リゼは甘兎庵で千夜となぜか一緒にいたシャロに相談していたのだ。持つべきものは相談にのってくれる友、という感じで先の2店舗を紹介してくれた。

 

 甘兎庵はまだしも、フルール・ド・ラパンが短期を受け入れてくれるのかという疑問も浮かぶが、ある程度の規模の店は人数には余裕がある。この街は外から引っ越してきた生徒も多いため、バイト先に困らないようにしているのだ。

 

「じゃあ明日から行ってくる!」

 

「おう。頑張りな」

 

 こうしてリゼのバイト地獄が始まる。

 

 

【甘兎庵】

 

 

「リゼちゃ〜ん。着物着れたかしら?」

 

「い、いやもう少し。着物は慣れてないんだ」

 

「手伝うわ。うーん、髪もまとめてみましょ」

 

 千夜は着物に苦戦しているリゼに苦笑しながら着付けを手伝う。リゼはいつもツインテールにしているが、試しに髪をまとめてみることに。

 

「あら似合うわね」

 

「おいこら・・・・・・」

 

 千夜にコーディネートされたリゼの姿は和服美人、というよりは任侠世界に身を置く姉御だった。

 さながら「舐めたらいかんぜよ!」とか「ようござんすね?」等のセリフを言ってそうな感じだ。

 

 さすがにこれはリゼには受け入れられなかったため、その後千夜は普通に着付けを行い、髪もツインテールに戻した。

 着付けは終わったが、開店までは時間があるので、千夜は少し話をするためリゼを椅子に座らせる。

 

「それで私は何をすればいいんだ?」

 

「その前に、実はリゼちゃんが来るから甘兎庵はミリタリーをテーマにする事にしました」

 

「はい?」

 

 テーブルの上に並べられた商品や道具は、明らかに普段の甘兎庵の物とは異なった。

 

 商品では迷彩色の抹茶ラテやほうじ茶ラテ、戦車の形をしたスイーツ。

 道具では鉄兜やモデルガンが乗っている。

 

「こんな感じでいこうと思うの!」

 

「いやさすがにこれは・・・・・・」

 

 父親が軍人であり、リゼも少なからず影響をうけてはいるが、一般人にはあまり受けないのではないだろうかと彼女は考えた。抹茶ラテなんて見た目が良いとは言えない。

 

 ただ千夜もある程度の材料を確保してしまったために決行せざるを得ない。そのまま甘兎庵は開店した。

 

 

【フルール・ド・ラパン】

 

 

 また別の日、リゼはシャロのバイト先であるフルール・ド・ラパンへ訪れた。店に入るなり、店長が飛び出してきてホールで働いているシャロと一緒に更衣室の中へ放り込まれた。

 知り合いということもあるため、シャロに面倒を見させようとしたのだろう。事前に言われていたのか、シャロは驚く様子を見せていない。

 

「じゃあ先輩。これをどうぞ」

 

 シャロはロッカーの中からこの店の制服を取り出した。相変わらずフリフリとした服である。

 ただ、甘兎庵の和服とは異なり直ぐに着ることができた。リゼは鏡を見て新しい自分の姿に顔を赤くした。やはり恥ずかしいのだろう。

 

「先輩?」

 

「いや、大丈夫だが・・・・・・シャロから見て変なところはないか?」

 

「うーん・・・・・・」

 

 シャロはリゼの上から下まで観察する。正直変な所は無い。むしろ似合っている。ただ・・・・・・

 

「ど、どうだ?」

 

「いえ、先輩が着るといかがわしさが増すなぁ・・・と」

 

「え!?」

 

 この店の制服は決してオトナのお店のような物ではない。しかし、お腹を引き締めるような服のため、胸の大きな女性は必然的にそれが強調される作りとなっているのだ。

 

 リゼは同年代の女子と比べるとスタイルは抜群に良い。シャロが顔を赤らめるのも無理は無い。

 

 制服に着替えた後、リゼはホールで実際に接客等の業務の練習に取り掛かる。しばらくシャロに業務内容を教わっていると、ふと疑問に思う事があった。

 

「ところでシャロはなんでバイトしてるんだ?」

 

「え・・・あ!えっとですね、ここの食器が気に入りまして・・・・・・」

 

「ああ、確かティーカップが好きだったな」

 

 リゼの質問に一瞬固まったシャロ。

 バイトをする理由は様々だが、シャロの理由は他人には言えない内容だった。そのためシャロは半分本当の理由を説明する。ティーカップとか陶器が好きなのは嘘ではないのだ。

 

 そしてその後もリゼはシャロに接客術等を教わり、無事に初日を終えたのだった。

 

 場所は変わり香風家。

 ここではチノの部屋にて作戦会議が行われていた。

 

「じゃあ何を贈ろっか!」

 

「実用的な物がいいんじゃね?」

 

「賛成です」

 

「じゃあネクタイかな?」

 

 ココアは父の日に出回る各店舗のチラシを机の上に広げる。

 

「んー、市販品にする?」

 

「ルクお兄ちゃん、そこは手作りじゃないと。ドット柄なんてどう?」

 

 数あるチラシの中からネクタイが載っている物を選び、ココアはドット柄のネクタイを指さす。

 しかしチノはその横にある動物柄のやつにペンで丸をつけた。

 

「いえ、これくらいの方が父は喜びます。うさぎ柄にしましょう」

 

 チノのその一言でタカヒロに贈るプレゼントはうさぎ柄のネクタイに決定してしまった。その事にルクは口を挟まなかったが、「うさぎ柄かぁ・・・」と一瞬思ってしまったのは内緒だ。

 

 物が決まれば後は役割分担だ。

 主な役割として、ルクは材料買い出し、チノとココアはネクタイの製作だ。

 今日はもう遅いため、明日から取り掛かることに。

 

 翌日、チノとココアが夕飯の準備をしている間、ルクはうさぎ柄の生地を買いに外へ出ていた。チラシを見る限り、動物柄の生地はあるものの、うさぎ柄の物は見当たらなかった。

 もしかすると数店舗回らなくてはいけないのでは?と思ったが、そんな事はなかった。

 

「うさぎ柄ありすぎじゃないか?これ」

 

 初めに入った店の一角には、様々なうさぎの生地が置かれていた。確かにこの街はうさぎが多い。まさかそれが生地にも現れているとは思ってもみなかった。

 

 とはいえこれで目的は達成された。

 ルクはチノとココアがリクエストしたデザインの生地を見つけ、必要なぶんだけを買った。

 こうしてミッション達成したわけだが、予想以上に早く終わってしまった。

 

(・・・・・・ちょっとリゼの所に行ってみようかな)

 

 リゼがいつどこでバイトしているのかは、シフトを見た時に把握しているので迷う事はない。今日は甘兎庵にいるはずだ。

 

 甘兎庵に到着すると、ルクはわざとらしく入店する。

 

「こんにちはー」

 

「あらルクさん。いらっしゃ〜い」

 

「うえ!?い、いらっしゃい」

 

 のんびりした声の後に聞こえた妙な声の主はリゼだろう。その方向を見るとお盆で顔を隠したリゼが見えた。

 

「なんで隠す」

 

「いやだって来るなんて思わなかったし・・・心の準備がな」

 

 どうやらリゼは身内に近い人間ほど、その者が知らない姿を見せたくないようだ。この分だと外部へ発表する劇とかやる時はどうするのだろう。

 

「今日はどうしたの?」

 

「いやなに、リゼの様子をな」

 

 そう言って千夜とルクは空いているテーブルに対面に座る。

 

「そうなの・・・・・・リゼちゃんは大変よく出来た娘です。ウチで本格的に働いて欲しいくらいに」

 

「いえいえ、先生の教えがいいからですな。今後とも彼女をよろしくお願いします」

 

「はい。おまかせください」

 

「おいまて。なんだこの茶番。三者面談じゃないんだぞ?」

 

 リゼのツッコミの通り、2人が話している内容は段々と三者面談みたいな事になっていった。

 そしてルクは顔を真っ赤にしたリゼに甘兎庵を追い出されるが、ちょうどいい時間だったため、家に帰ることに。

 

 帰宅すると店に待機していたチノとココアがルクを迎えた。

 

「おかえりなさい。生地は見つかりましたか?」

 

「ああ。こんな感じかな?」

 

 ルクはカウンターの上に買ってきた生地を置く。

 

「そうそう。こんなのだよ」

 

「じゃあ後は頼んだ」

 

「「はーい」」

 

 この後2人はタカヒロとルクがバーで働いている時間にネクタイを作り始める事になっている。ルクは手伝おうかと言ったが、本人達は自信満々に胸を張っていたので任せるようにしたのだ。

 

 父の日当日、ラビットハウスのシフトを元に戻したリゼは、父親が帰ってくる前にプレゼントであるグラスを置いた事を放課後にルク達に報告した。

 

「というわけで、無事にプレゼントは置けたんだ。まぁ割ってしまったワインが机の上に置かれていたんだけどな」

 

「へぇ、手に入ったんだ」

 

 そう呟いたルクだったが、香風家にあった数多くのワインの内、1本が行方不明になっている事を思い出した。

 

 まさかとは思うがタカヒロがあげたのでは?と頭に浮かんだが、それは口に出さないであげた。

 ちなみにチノ達は朝の段階でらタカヒロにネクタイをプレゼントしていた。今思えばタカヒロが身につけているのはネクタイではなく蝶ネクタイであったことをチノが言ったが、ここまで来てしまったらもう渡すしかなかったのだ。

 

 結果的にタカヒロはしばらくの間、うさぎ柄のネクタイを使用していたため、実はかなり気に入ったんじゃないかとルクは思った。

 

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