紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第14話 うさぎの休日

 

 

 

 梅雨が明け、夏に向けて徐々に暑くなってきたある休日、ルク達は外で散歩をしていた。タカヒロ1日不在のため、今日のラビットハウスは臨時休業となっているのだ。

 

 なぜ散歩をする事なったのかというと、原因はココアにある。朝早くにルクを叩き起し、そのままチノの部屋に突撃し、扉を開けてこう言ったのだ。

 

「お散歩しよう!」

 

 と。

 チノは完成間際のボトルシップを進めたいと言ったが、ココアはボトルシップを知らないのか、完成したそれを川に流して遊ぼうと言い出したのだ。

 

 これには半眠半覚醒だったルクも目を覚まし、チノは開いた口が塞がらなかった。

 ただ、ココアとルクはこの街の生活に慣れたものの、細かい場所までは散策していなかった。裏路地に入ると迷ってしまうかもしれない。ついでに案内してもらえば良いのではないか。

 

 ココアにそんな案があるとは思えないが、中々良いアイディアかもしれないと感じたルクは、ココアを隣に立たせてこう言った。

 

「チノ、俺からも頼む。お願いします!」

 

「ます!」

 

「しかたないですね」

 

 まさかルクからもお願いされるとは思ってもみなかったチノは、少しは驚いたものの、いつもの2人とは異なる様子に気を良くしたのか、呆れつつも笑ってお願いを聞き入れた。

 

 3人は街の大通りから1本逸れた通りを歩く。

 まだ行ったことがなかったので珍しい風景だが、チノの解説付きなので退屈しない。

 

「あそこはおじいちゃんが行ってたお店なんですよ。手前から古本屋、時計屋、床屋さんです」

 

 チノ曰く、この街の建物は似たような外観のものが多く、どこに目的の店があるのかがわかりにくいそうだ。そのため職業別に建物の色が分けられているのだ。例えば魚屋は青、パン屋はピンク、八百屋は緑と言うふうに分別されている。

 

「という事は私のお店はピンクになるわけだね」

 

「あ、ここに住むのね」

 

「3階建てだと・・・1階がチノちゃんの喫茶店、2階が私のパン屋、3階がリゼちゃんのガンショップだね」

 

「ルクさんが入ってな・・・ちょっとまってください。なんか物騒なお店がありませんか?」

 

 確かにルクの紅茶専門店が入っていないが、別にそれはいいのだ。なぜなら同じ建物に似たような店は入れられないから。

 

 それはともかく、3階がガンショップなのが気がかりだ。確かにリゼは銃を持ち慣れているし、父親も軍人だ。だからと言って彼女がその店をやるとは限らない。と言うかこの街には銃砲店はないはずだ。

 

 などとルクが考えていると、一行の視界に見知った人物が映りこんだ。

 

「おや、噂をすればなんとやらだ。リゼがいる」

 

「ホントだ。ん?あの服屋は確か都会に本店を置くチェーン店だったかな」

 

 リゼがいるのは地方にも進出しているアパレルショップだ。若い人に人気な商品を多数販売しており、地方の人からはわざわざ遠くに出向かなくても地元にあるからありがたいという評価を頂いている。

 

 ただ、商品のほとんどが大人の女性向けのため、ヒラヒラした可愛い系の服は売っていない。なのでこの店でデビューする女性は大学生からがほとんどだ。

 

「あ、笑顔になりました」

 

「気に入った服を見つけたんだね」

 

「いやまて。葛藤してるぞ」

 

 3人はリゼの様子を通り過ぎながら観察する。リゼは服を棚に戻そうとする手を伸ばしたり引っ込めたりと、かなり悩んでいる様子。

 

「そっとしておきましょう」

 

「「賛成」」

 

 というわけでリゼには声をかけずにルク達は店の近くを通り過ぎた。頑張って選んでいる所を邪魔するのは野暮だ。

 

 ちなみに、この街の服屋は女性向けの店が多い事は当然の事。ではルクの服はどうしているのかというと、隣町まで行って買っているのだ。そこにはなんとかルクに合いそうな服を売る店もあるため、正直そこが潰れたら困る。

 通販という手もあるが、ルクの携帯では注文できないし、ネット環境が香風家にはないため、パソコンを買っても意味が無いのだ。ここはタカヒロに相談するしかない。

 

 話は戻り、ルク達は今度は公園に来ていた。ここはココアと千夜が出会った場所でもある。

 

「この公園に来るのも久しぶりだなーってあれ?あそこにいるのシャロちゃんじゃない?」

 

 ココアが指さす先にはクレープ屋があり、そこには再び知った顔が販売を行っていた。

 

「シャロちゃーん!」

 

「えっ!ココア!?」

 

 慣れた様子で働いていたシャロは、いきなり現れたココアに驚いているみたいだ。

 

「ここでもバイトしてたんだね。多趣味〜」

 

「多趣・・・え、ええそうよ」

 

「でもそれならチノちゃんだって!」

 

「はい。ボトルシップ、チェス、パズル等を嗜みます」

 

 相変わらず女子中学生とは思えない趣味だ。ケチをつけるわけではないが、少しは年相応の趣味を持っていてもいいのではないか。おそらく祖父の影響もあるのだろう。これなら

 老後も安心だ。

 

 少しだけシャロと話していたココアは、クレープを1つ注文した。手早くそれを作ったシャロはサッとココアに手渡した。

 

「わぁすご〜い。あ、シャロちゃんもどう?」

 

「え、仕事中なんだけど!?」

 

「いいからいいから。あーん」

 

「・・・・・・」

 

 本来ならバイト中にこのような事はいけないのだが、目の前のクレープから香る甘い匂いにシャロは徐々に引き寄せられていく。

 

「おーっとと!あ、あぶね」

 

「・・・はっ!私は何を!」

 

 シャロを正気に戻したのは空から降ってきたあんこだった。

 なぜかカラスに攫われることがあるあんこは、眼下にルクを見つけるとジタバタと暴れた。ようやくカラスの足から解放されると、そのままルク目掛けて落ちていき、肩の上に着地した。しかしバランスを崩してしまい、ルクの前にずり落ちる。

 

 いきなりきた衝撃にルクは驚き体勢を崩しそうになったが、なんとか持ちこたえてあんこをキャッチした。

 そしてシャロは突如として現れたあんこにハッとなり、慌てて店の奥に身体を戻した。

 

「あれ、あんこじゃないか」

 

「すごーい。あんこは空も飛べるんだね」

 

「違うわ。この子は昔からカラスに攫われるのよ」

 

 どこかズレたように関心するココアにつっこむシャロ。というかカラスに攫われる事は知らなかった。よくこれまで生きてこられたものだ。

 

「それであんこはどうする?」

 

「甘兎庵に送ってあげましょう」

 

「さんせーい」

 

 ルク達は甘兎庵へ目的地を変えようとしたが、その時微かに聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

 

「あんこ〜、あんこ〜」

 

 

 

 という声だ。

 知らない人が見ればおかしな人に見えない事もないが、ルク達にとってはちょうど良いタイミングである。

 

「この声千夜ちゃんじゃない?」

 

 真っ先に気がついたのはココアだった。

 

「だな。公園にいたんだ・・・」

 

「じゃあ別れて探しましょう。私とココアさんはあっち、ルクさんはあっちで千夜さんを探してください」

 

「わかった」

「はーい」

 

 一行は公園にいるはずの千夜を探すため2

 チームに別れ捜索を開始した。なお、あんこはルクが抱えたままだ。

 

 しばらく探していると、ルクの視界の端に千夜が映りこんだ。しかし彼女はこちらに気がついていないようなので、ルクは小走りで千夜の元へ向かう。

 

「千夜!」

 

「ルクさ・・・あんこじゃない!」

 

 驚いた様子で近づいてくる千夜。

 ルクはあんこを彼女に返してあげた。

 

「どうして・・・?」

 

 不思議そうにしている千夜に、ルクは事情を説明する。

 チノ・ココアと公園に散歩にきたこと、シャロがバイトしている屋台で買い物をしていたらあんこが降ってきたことだ。

 

「本当にありがとうございました」

 

「いいっていいって」

 

「じゃあ私ココアちゃんにもあいさつしてくるわね」

 

「ああ。またな」

 

 千夜はルクにお礼を言うと、ココアとチノを探しに早歩きで立ち去って行った。

 しばらく見送っていたルクだったが、ふとある事に気がついた。

 

 なぜ一緒に行かなかったのか、と。

 

 3人で散歩をしており、千夜を探すために別れたのならもう合流してもよかったのではないか。気がついた時には千夜の姿はなく、完全にチノ達と合流するタイミングを失った。

 

(しょうがな・・・あれ・・・?)

 

 とりあえずココアに連絡をとってみようかと思ったが、風に煽られ吹き飛ばされた紙のような物がルクに近づいてくる。

 

「ごめんなさ〜い。原稿拾ってくださ〜い」

 

 同時にどこかほんわかとした声が聞こえたため、ルクは飛んできた紙をなんとか集める。幸い視界に入った紙は全て回収することに成功した。

 そして声の主は小走りでルクに寄ってきた。

 

「ありがとうございます。それ、とても大切な物なんです」

 

「これは・・・・・・?」

 

「私、実は小説家でして・・・これは次の本の原稿なんですよ」

 

 ルクから原稿を受け取った女性は枚数を数え、それが合っているのを確認した後、安心した顔でバックの中にしまった。

 

 そして2人はせっかくだからと近くにあったベンチに座った。

 ルクは「綺麗な人だなぁ」と思いながら、女性がメモ帳に何かを書いているのを観察している。

 

「小説家さん・・・ですか」

 

「青山ブルーマウンテンといいます。どうぞごひいきに」

 

「えっ!あの【うさぎになったバリスタ】の原作者ですか!」

 

 なんと、目の前にいたのは数年前から小説界に頭角を現した女性作家であった。

 ルクが言ったうさぎになったバリスタとは彼女の代表作の1つで、最近映画化して既に放映されている。

 

 青山ブルーマウンテンの本はルクも持っており、映画は観ていないがその本も持っていたりする。なお、主人公の境遇はティッピーもといチノの祖父に似ていることもあり、あまり笑えない。

 

「青山さんはここで何をしているんですか?」

 

「今日は新たな閃きを求めて歩き回っています。今書いている小説の続きを書かなくてはいけないので」

 

 彼女の作品は数多く存在するが、基本的には1冊完結の作品が多い。ただ最近は長編小説に挑戦しているらしく、アイディアが詰まっては外に出て頭の中をリフレッシュしているようだ。

 

「なるほど。応援してます、頑張ってください!」

 

「では私はこれで」

 

 そうであるならば仕事の邪魔をしてはいけない。2人は会話もそこそこに別れて別方向へ歩いていった。

 

 ルクがチノとココアを探して歩き出してしばらく経つと、後方から巡航ミサイルの如き物体が背中を直撃した。

 

「ルクお兄ちゃーん!」

 

「ぐっ・・・ココアか」

 

「さっき千夜ちゃんと会ったよ」

 

「あんこ抱えてた?」

 

「はい。千夜さんからルクさんがこちらにいるとも聞きました」

 

 どうやらあんこは無事に千夜と帰宅の途につけたようだ。

 

 ふと腕時計を見ると、時間は16時前となっていた。夏が近づくにつれ明るい時間も長くなってきたため、これからは時間管理もしっかりしなくてはならない。

 

 3人がラビット・ハウスへの帰路につきしばらく歩いていると、チノは視界に見知った顔が入り反射的に口を開いてしまった。

 

「え、リゼさん?」

 

「はいっ!?」

 

 リゼと声をかけられた少女はピクリと反応してふりかえる。

 

「あ・・・ごめんなさい。知り合いに似ていたもので」

 

「本当だ。リゼちゃにそっくり」

 

「いやリゼで反応「私はロゼといいます。名前も似ているのですね」・・・そうだネ」

 

 いやまてとルクが突っ込もうとするが、リゼ・・・もといロゼは一瞬だけルクを睨むと彼の言葉に被せるように自己紹介をした。

 

「うちの喫茶店の従業員にロゼさんと似た従業員がいるんです。今度来ませんか?」

 

「まぁ嬉しい。ぜひ行ってみたいわ」

 

「リゼちゃんびっくりするかなぁ」

 

 チノとココアはロゼと二言三言交わすと、ラビット・ハウスへ彼女を招待した。

 リゼに会わせたいとも言っていたがそれは無理だろうと思ったとはルクとリゼ、それにティッピーだった。

 

 完璧な演技でその場を乗り切ったリゼは、手を振ってルク達と別れた。

 なお、なぜリゼがこのような姿になっているかというと、散々悩んで攻めた服を着てみたは良いものの、カットモデルを頼まれてしまいいつもとは違う格好となってしまったのだ。

 

 その日の夜、ルクはティッピーと昼間のリゼについて話し、面白そうだからチノとココアには黙っていようという結果となった。

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