「ただいま戻りました」
「おかえり」
学校から帰ってきたチノをルクは迎える。この光景も当たり前のようになってきた。
大概チノはココアと2人か彼女1人なのだが、今日はメンバーが異なった。
「「おじゃまします!」」
チノの後から2人の少女が店に入って来る。彼女達はチノの友人なのだろうが、ルクと会うのは初めてだ。
一方はショートヘアとチラリと見える八重歯が特徴的で活発そうな少女、かたや一方は髪の先にロールをかけてほわほわした雰囲気の少女。2人ともチノとはどこで友人となったのだろうか。
「ルクさん。2人は私のクラスメイトなんです」
「マヤだよ、よろしく!」
「メグです」
「朝武ルクです。香風家に居候させてもらってるんだ。こちらこそよろしく」
元気そうでなによりな2人だ。内気なチノには良い友人となりそう。
「2人はうちに遊びに来たんです。ところでココアさんとリゼさんは・・・?」
「まだ帰ってきてないよ」
「困りました。今日は2人のバイト日なんですよね」
なお、チノは決して口には出さなかったが、別に2人がいなくてもなんとかなる。
ココアが取り入れたパンで客が増えて少しだけ儲かったとはいえ、平日の16時に来る客の人数は1人でも捌き切れる量だし、ルクもいるからだ。
などとチノがフラグを立てた瞬間、
「ねぇねぇ。その2人がいない間私達も手伝ってもいい?」
と、マヤが言う。
「え!急に何言ってるのマヤちゃん」
「だって中学生はバイトしちゃいけないしー。でも面白そうじゃん?」
確かに中学生はバイトはできない。しかし実家が何かしらの店の場合はその限りでは無い。チノのように家を手伝う中学生もいるのだ。
本来ならこんな事はありえない。が、あのチノが友達を家に連れてきたというのなら話は別だ。
「いいんじゃないかな?多分1時間も無いと思うし」
「そうですね。ではリゼさんとココアさんの制服を着てもらいましょう」
「「はーい」」
マヤとメグはチノに更衣室へ連れていかれた。服はココアとリゼのやつを着ればよいため、特に問題はないだろう。
数分後、2人は着替えを終えて店内へ戻ってきた。
「じゃーん」
「ど、どうでしょうか?」
「似合ってる似合ってる。なぁチノ」
「はい。少しサイズが大きい気がしますが動けそうなので大丈夫ですね」
「ところでこの銃ってこの制服の持ち主の?」
(リゼーー!)(リゼさん!?)
マヤはポケットの中からリゼが所有する予備のガスガンを取り出した。多分ガスも弾も入っていないと思うが、あまり見せびらかすのは如何なものか。
ルクとチノはマヤの行動に驚きつつも、リゼの忘れ物に焦っていた。
「はいそれ回収ー」
「あ、返してよー!」
ヒョイとマヤの手から銃を取り上げたルクはそのまま懐にしまった。
ルクの周りを跳ねるようにまとわりつくマヤは子犬のようだ。
「それより開店の時間だよ。はい準備して」
「「「はーい」」」
ルク達はいつもとは異なるメンツで営業を始める。開店して30分が経過するも、相変わらず客はこない。正直暇なので、ルクはメグとマヤを特訓する事になった。
中学生であるため働くことのできない2人は、ルクに接客業務を教えてもらっている。最初は少し不安だったが、やる気はあるようで頑張って覚えようという意欲は伝わってきた。
新人研修がある程度の段階まで進むと、2人も接客にぎこちなさがなくなりつつあった。
そしてそこへようやく・・・・・・。
「ただいま!ねぇルクお兄ちゃん!私の制服がな・・・・・・あれ!?」
ココアは慌てた様子で店内に入ってくる。制服が無いとの事だが、マヤ達が着ているのだから当たり前だろう。
店内に入るとパチパチと自分の制服を着ているメグを見つめる。
「あ、おかえりな〜い」
「新人さん!?私クビ!?」
ルクの予想通りの反応をしてくれた。少し嬉しい。
そしてココアは次にマヤを発見した。
「リゼ、ちゃん?こんなに小さく・・・・・・」
「小さいは余計だろ!」
「いやさすがにそのボケはない」
マヤの頭に手を置き驚きを隠さないココアに、マヤとルクはさすがにツッコんだ。
そのまま話に加わったルクは、2人がチノのクラスメートであることをココアに伝える。そして帰りが遅いココアとリゼの代わりに店を手伝ってもらっていた、と。
それを聞いたココアは納得した様子でマヤとメグを見た。
「なるほど。じゃあ今日は私の制服を貸してあげるね」
「「わぁ〜い」」
「2人共よく似合ってるよ。制服があと2色増えたら戦隊ヒーローが結成できるね!」
水色、ピンク色、紫色。
確かに、ココアの言う通りこの2人用に制服があれば戦隊ヒーローの誕生だ。
「マジで?私はブラックがいい!」
「私ホワイト〜」
「何と戦うつもりなんですか」
それから少しの間話した後、ココアは荷物を置きに自室へ戻って行く。チノ達は再び営業に戻るが、相変わらず客が来ない。さすがに暇なので、チノはクラスメート相手にコーヒーのテイスティングをしないかと持ちかけた。
中学生相手にかなり難しい内容だが、幸いマヤとメグは面白そうだと思ったのか、喜んで参加し次々に出される問題に挑戦していった。もちろん結果はボロボロ。それでも笑いながら挑戦していたため、楽しくはあったのだろう。
ルクもそんな3人を見ながら微笑ましいなと思っていた。
2人が慣れてきた頃、メグはぽわ〜とした空気でココアが出ていった扉を見つめた。
「チノちゃんはいいなぁ。こんな優しそうなお姉さんとお兄さんと暮らせて」
「はい?いやルクさんはともかくココアさん・・・も?」
「いやぁ照れるな」
「ウチの兄貴も見習ってほしいな」
急にチノの事を羨ましがったメグ。まさかココアもなのかと驚くチノはあんぐり口をあけている。
そしてその声が聞こえていたのか、ココアはニコニコ、いやニマニマと照れながら店内に戻ってくる。その手にはいつもパンを入れているバケットがあった。
「えへへ、そう?これパンのおすそ分けだよ」
ココアはマヤとメグにパンを渡す。おそらくあれは冷蔵庫に保存してあったパンだろう。戻ってくるのに時間がかかったのは、温めていたからだろう。
パンを受け取った2人はパンを1口。すると目を輝かせてココアを見る。
「おいしーい!」
「お料理も上手・・・どうしてこんな素敵な人がいる教えてくれなかったの?」
「いやココアさんはパンしかまともに作れないんですよ!?しかもそれ試作の余ったやつじゃないですか!」
確かによく見ると今2人が食べているのは昨日試作品として作ったパンだった。
今日の夕食か明日の朝食にと取っておいたパンだったが、それを持ってきたらしい。まぁ食材はまだあるので無くなっても問題ないが。
「すごいじゃん。もしかしてこの店で売ってるの?」
「そうだよ。ウチで好評だったやつはお店でも出しているの」
ココアとチノのクラスメート2人のほわほわした会話を聞きながら、「こういのもなんかいいな」と、妹が増えたような気がするルクはチノが持ってきたコーヒーを1口飲む。
その時店の扉が勢いよく開かれる。このタイミングで来る人間と言えば・・・・・・。
「すまない!遅くなった!」
やはりリゼだった。
「あ、リゼちゃん。紹介するね?私の妹達です」
「んなわけあるかい」
「分かりやすい嘘をつくな。それより昨日アレを置いていってしまったようなんだ。見てないか?」
ココアの嘘か冗談かを軽くあしらうルクとリゼ。さらにリゼに「それより」で片付けられてしまったココアは少しショックな表情を浮かべ、メグに慰められていた。
リゼは何を無くしたのだろう。アレと言われてもわからない。ガスガンなら先程回収したが、あれは常備しているので焦るほどの物ではないはずだ。
「うーん、もしかしてこれ?」
マヤはチョッキの内側からコンバットナイフを取り出した。
「あ、それだ」
「これ偽物だよね?」
「ん、いや・・・そうだ。偽物だ」
(んん?まさか本物!?)
リゼの反応はなんとも言い難い物だったが、明らかに「本物だよ」と言っているようなものであった。ルクはそれに気がついた事を表情に出していたのか、リゼは一瞬こちらを向くとこくりと頷いた。
(いやマジかぁ)
表には出さなかったが、正直膝をついてため息をつきたいほどだった。
「ほらそれも回収するよ」
「ぶー」
マヤは不貞腐れながらも、ナイフとホルダーをルクに渡した。
再び彼女達の手に渡らないよう、ルクはそのまま自室へ向かい、机の中にナイフを閉まった。
店内に戻ると、完全に打ち解けたとか、マヤとメグは楽しそうにココアとリゼのところで話している。
「リゼって立ち振る舞いが他の人と違ってシャキシャキしてるよな」
「え、そう?」
「ココアちゃんを目標に私も頑張ってみる」
「ホントに?照れるなぁ〜」
「「チノ(ちゃん)はどっちに憧れる?」」
不意に問われるチノ。まさか自分に質問されるとは思っていなかったため少し悩んでいたが、悩んだ末の結果は・・・・・・。
「強いていえば・・・シャロさん、でしょうか」
「「「・・・・・・・・・」」」
悪気はないのだろうが、なんとも言えない回答だった。まぁチノの性格上、本人がどちらかを選ぶとい事は無い。シャロが選ばれた事になんだかんだココアとリゼも納得していた。
正式なアルバイトではないが、新たに2人の仲間がラビットハウスに加わった。
その後もマヤとメグは何回か手伝いに訪れ、ルクの賄いを食べた後に帰宅していったのだった。
2人も手伝いに慣れてきた頃、いつもなら寝ているチノがルクの部屋を訪れた。
お気に入りの枕を抱え、自分の家であるはずなのに緊張した表情だった。
「あの・・・ルクさん。少しいいですか?」
「いいよ」
ルクは自分の椅子をチノの方へ置こうとしたが、チノはそのままルクのベッドへ向かい、ストンと腰を下ろした。家族のように暮らしているとはいえ、異性のベッドに簡単に座って良いのだろうか。
「それで、どうしたの?」
「最近マヤさんとメグさんがよく手伝いに来てくれるのはありがたいんです。私も楽しいですし」
「うんうん」
いきなり疑問等をぶつけることはなく、前置きから話し始めた。
このように勉強以外で相談してくれる事はあまりないため、少し嬉しい。
「でも最近4人が話しているのを見て、なんだか私だけ置いてけぼりになっている感じがします」
無意識なのか、枕は徐々に形を変え、今や真ん中で折れてしまっている。
「なんか・・・もやもやします」
「うーん。多分嫉妬じゃないかなぁ」
多分、というか九分九厘チノの感情は嫉妬だろう。こんな事を言ってよいのか分からないが、チノには今まで友人がいなかった。そのためココアとリゼは彼女にとってとても大切な存在となっていた。
そんな中、学校で出会った友人達が自分の領域にやって来て2人と仲良くなっている。あまり気分の良いものではないだろう。
「・・・嫉妬?誰にです?」
「えぇー」
ただ、本人がそれを嫉妬と認識するかどうかの話は別だ。
「ココアさんは年下なら誰でもいいんです。リゼさんはマヤさんを気に入ったようでした」
リゼはともかく、ココアに関しては誤解を招きそうな言い方だ。ただ普段のココアの行動を見ていると、道端にいる子をナンパしそうなレベルに到達しそうではあるため、多少心配ではある。
「でも4人ともチノの友人なんだろ?」
「まぁ・・・はい」
「俺から見ても皆チノの事を大切に思っているし、仲間はずれにしようなんて絶対にしないよ。チノも今度から話に混ざればいいんじゃないかな」
「・・・・・・そうですね。そうしてみます」
チノは変なところで遠慮しているため、距離が掴みにくい。感情もココアほど表に出さないため、初対面の人からは何を考えているかわからないと捉えられてしまうだろう。
だがそれはこれから無くしていけばいい。ティッピー曰く、チノに友人ができたのはここ最近らしい。母親を無くした影響もあるのか、今まで親しい友人もいなかった。
ココア達の影響で今後もっと友人が増えればいい。ルクもそれを期待していた。
「さて、もう遅いから戻った方がいいんじゃないか?」
「そうします。おやすみなさい」
「うんおやすみ」