紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第16話 ココア夏のパン祭り

 

 

 

 きっかけはココアのパンへの欲が限界に達した時だった。

 

 ラビットハウスを清掃中、ココアはカウンターに突っ伏し伸びていた。チノがグーで軽くポコンと頭を叩く。

 

「サボってないで掃除してください」

 

「パンが・・・小麦粉成分が足りないよぉ」

 

 あまりよそ様には見せられない姿だ。どうやらココアはしばらくパンを作っていなかったせいか、禁断症状を起こしてしまっているようだ。

 

 しばらく唸っていたが、突然立ち上がりルク達の方を向いた。

 

「そうだ!パン祭りをやろう!」

 

「「はい?」」

 

「次か来週の土曜日にパンの食べ放題をこの店でやるんだよ。一定料金でパンを食べ放題!」

 

「ほー。いいんじゃない?」

 

 ココアにしては意外と考えられている。どのくらいの客が来るかはともかく、いいアイディアだとは思う。

 それにコーヒーを一杯無料とすれば多くの人に飲んでもらえるし、良い宣伝となる。もちろん二杯目からは有料となるし、二杯目を頼む人がいるかはわからない。

 

 ただ、ココアのパン事業は思ったより売上に貢献しているため、最悪パン祭りの売上が赤字でも月の売上への影響は少ないはずだ。

 

「となると宣伝と提供するパンの考案が必要だな。宣伝はリゼとチノに任せた」

 

「ええ!私か!?」

 

「私も外に出るのは・・・・・・」

 

 予想通りルクの提案を渋る2人。

 しかしこの2人しかいないのも事実だ。ルクが宣伝しても良い客寄せになるとは思えないし、ココアはパンに専念してもらいたい。

 

 となると消去法で2人が適任となってしまうのだ。

 そしてルクは2人の反応を予想していたのでさっそく説得にかかる。

 

「大丈夫。リゼ、君の宣伝力を俺は信用している!」

 

「そうか・・・まぁ信頼してくるるのは悪い気はしないな!」

 

「チノ、店を継ぐのであれば人付き合いは欠かせないよ。特に喫茶店はね」

 

「まぁそれはそうですけど」

 

 ルクは言葉巧みに2人を誘導し、やる気を出させる。チノは少し手こずったが、2人を宣伝担当とすることが出来た。

 次にパンをどうするかだが、これはココアがやる気を出している。ルクの担当は食材調達や惣菜パンの具材作りになるだろう。

 

 翌日、さっそくルク達は準備に取り掛かる。

 ルクとココアはパンの試作。

 リゼとチノはチラシ配りだ。

 

 ルクが惣菜の買い物をしていると、リゼ達と同じようにチラシ配りをしているシャロを見つけた。

 

「シャロ!」

 

「ああルクさん。よかったらフルール・ド・ラパンへお越しください」

 

 シャロはルクにチラシを渡す。相変わらず勘違いしそうなチラシだ。店長の指示なのだろうか。

 

「ありがとう。大変だね」

 

「いえ。これもお店のためですから。今日はチラシ配りがメインなんですよ。ほら、あんな・・・に?」

 

 シャロが指し示した場所にはチラシが入ったカゴがあった。あったのだが、さらにその上にウサギが鎮座しているではないか。

 

 自分の荷物の上に座るウサギ。移動させなくては・・・しかし苦手なウサギを触るのはどうも・・・とシャロは葛藤する。

 

「・・・・・・どいてくださいませんか!」

 

「土下座!?そこまでしなくても!」

 

 ルクはウサギを回収し地面に下ろす。そのウサギはどこかへ走り去ってしまった。

 そしてシャロを立たせると少し疲れた表情でチラシ配りを再開した。過去にウサギに何かされたのだろうか。

 

 シャロに挨拶してルクも帰ろうかとした時、風と共に紙と声がルク達の方へ飛んできた。

 

「おーい!ルク!シャロ!取ってくれぇー!」

 

「おっとこっちもチラシか」

 

 数枚の紙・・・というかチラシを回収したルク。声の主であるリゼは慌てた様子で走ってきた。

 

「リゼ先輩どうしたんですか?」

 

「実はラビットハウスのスペルを間違えてしまってな。回収してやり直しだ」

 

「どれどれ」

 

 ルクがチラシを確認すると、そこにはラビットハウスではなくラビットホースと書いてあった。ウサギではなく馬。

 話を聞くと、スペルミスに気がついたのはココアとチノだったそうな。チノの頭に乗るティッピーは店名を間違えられて悔しい表情だったに違いない。

 

「確かにこれじゃなぁ・・・・・・」

 

「お店の名前が違いますしね」

 

「急いで書き直さなきゃ・・・あ、シャロもどうだ?土曜にラビットハウスでパン祭りをやるんだ」

 

 リゼはシャロをパン祭りに誘う。シャロの好きなパンも作る予定なので是非参加してほしいところだ。

 

「あー・・・えっと、ごめんなさい。この日はバイトなんです。終わって時間がらあったら参加しますから!」

 

 残念ながらシャロは参加出来ないらしい。まぁバイトならしょうがない。ルク達も強要する気は無い。

 ただ、時間があったら参加するとの事。バイト終わりなので本当に来れるかはわからないが、来てくれたらココアも喜ぶだろう。

 

 この日は試作品の試食を行い、どのパンを出すのかを検討した。もちろん夜はタカヒロにも味見してもらい、いくつかアドバイスをもらった。

 結果、提供するパンの3分の1は惣菜パンとする事が決まり、当日に向けて作る量やコーヒーの選定を行った。

 

 そして当日、ルク達は開店前の店内で軽く円陣を組んでいた。店内の一角にはパンのバイキングスペースがある。

 

「よし!じゃあパン祭り頑張ろー!」

 

「「「おおー!」」」

 

 ココアの合図でルク達は勢いよく拳を上に上げ、ここにラビットハウス初のパン祭りが開催した。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

「結局シャロは来なかったな」

 

 片づけをしながらリゼは呟く。バイトなら仕方ないが、終了時間ギリギリには来るだろうというのが全員の意見だったのだ。

 

 なお、パン祭り自体は成功を収めた。新規のお客さんもそれなりに訪れ、かなりの宣伝になったのではないだろうか。

 

「バイトだもん、しょうがないよ。あ、そうだ!」

 

 ココアは布巾を放り出し店の奥へ引っ込んでゆく。数分後、戻ってきたココアが持っていたのは、大量のパンが入ったら紙袋だった。

 

「もしかしてシャロに?」

 

「うん。持って行ってあげようかと思って。でもシャロちゃんの家は知らないから千夜ちゃんに聞いてからかな」

 

「そりゃいいな。じゃあ夕飯の買い物がてらこの後皆で行こうか」

 

「「「さんせーい」」」

 

 パン祭りに千夜は来たが、シャロはバイトのため参加する事ができなかった。以前からバイトが入って忙しい事は知っていたが、皆と休みの日程が合わないと少し寂しく感じてしまう。

 

 店を閉め、タカヒロに外へ出てくる事を伝えると、ルク達は千夜の家へ向かう。

 

「あら皆どうしたの?」

 

 千夜はラビットハウスに来た時の服装で店から出てくる。今日の営業は祖母に任せていたようだ。

 

「シャロちゃんにパンを持っていこうと思って。ほら!」

 

 首を傾げる千夜にココアは持ってきたパンを見せる。

 

「でも私達はシャロさんの家を知らないんです。なので千夜さんに聞こうと思いまして」

 

「シャロちゃんは・・・えーっと――」

 

 珍しく千夜は言い淀む。

 

 目の前の友人達はシャロについて異なった印象を抱いている。性格ではなく私生活の方だ。お嬢様学校へ特待生で行っている事もあり、いい家に住んでいるのではないかと思われているのだ。

 

 親友の秘密を守り通したい。でも友人達の親切を無下にはできない。

 千夜は適当な理由でパンを預かるのが得策か、と判断し、それを口に出そうとした。

 

 

 

 

「夕飯買い忘れちゃった。千夜に相談しよう・・・かし・・・ら・・・」

 

 

 

 

 ところが、なぜか隣の物置のような建物からシャロが出てきた。

 

 その場の空気が凍る。

 

 シャロは扉を開けたままのポーズでフリーズしてしまう。

 なるほど千夜がシャロの家の事をあまり話さなかったのはこういう理由だったのか、とルクが納得していると、復活したココアが最初に口を開いた。

 

「あれ、物置からシャロちゃんがでてきたよ」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

「あの・・・ごめんなさい。シャロさんはお嬢様関係なく私の憧れなので!」

 

 プルプルと震えるシャロにチノはやさしく言う。

 だが、年下にフォローされたのが地味にショックだったのか、余計にどんよりした空気を身にまとってしまった。

 

「ところでシャロちゃんの家はどこに?」

 

「この物置よ!」

 

 どうりでシャロの家の事を千夜が話さなかったわけである。アパートの一室より小さな家をお嬢様学校へ行っている彼女が、自宅の事をどう説明できようか。

 

 ただ、彼女はルク達を騙していた訳ではない。言い出せなかった事情はさすがのココアでもわかったため、誰1人シャロを責めるような言葉は発しなかった。

 

「可愛い!私が夢見てた家にそっくり!」

 

「んん?」

 

「本で読んだ事があるの。コタツからほぼ全ての物に手が届く生活!良くない?」

 

 シャロに気を使ったのか、それとも天然なのかは不明だが、ココアは目を光らせて彼女の家を褒める。

 コタツというのはこの街ではあまり見ないが、ルクは父親の実家に置いてあった事を覚えていた。

 

 コタツは魔性の道具だ。1度は足を入れてしまったら最後。寝るまで永遠に捕らわれてしまう恐るべき暖房器具なのだ。

 ココアが言うようにコタツから全ての物に手が届くという生活も悪くない。悪くはないのだが、人として大切なものを失いそうなきがする。

 

「いや、多分そうなったらココア、お前はさらにだらしなくなる」

 

「そうです。そんなだらしないココアさんなんて見たくありません」

 

 リゼとチノは呆れ顔でココアを見る。2人もルクと同意見のようだ。

 

「ほら3人共、もう遅いんだからさ」

 

「あ、そうだった。シャロちゃん!これ!」

 

「・・・・・・パン?」

 

「今日のパンだよ。食べてね」

 

 ココアはルクに促され持っていたパンをシャロに手渡す。紙袋は両手で持たないと支えられないくらい大きく、シャロは慌てて紙袋を下から支える。

 

「え、ええ。ありがとう」

 

「じゃあ私達は帰るか」

 

「ですね」

 

「シャロちゃんばいばーい!」

 

 そうしてルク達はシャロと千夜の前から去っていった。

 パン祭りや家の事で頭がいっぱいだったシャロは千夜に背中を押されて家に戻り、ベッドの縁に座る。

 

 しばらくすると思い出したかのようにベッドに倒れ込み枕に顔を埋める。

 

「ああもう!恥ずかしい!こんな家見られたなんてぇ・・・・・・特にリゼ先輩に」

 

「でもわかったでしょ?皆幻滅なんてしなかったわ。シャロちゃんはシャロちゃんなんだから」

 

「・・・そうね。ありがと」

 

 シャロは枕から顔を横に向けて千夜の顔を見る。シャロの視線をうけた千夜はニッコリ笑った。

 

「さて、パンを食べましょう。お茶いれたから」

 

「えっとパンの種類はっと・・・・・・」

 

 シャロは皿の上に取り出したパンを置く。

 余ったパン・・・ではなかった。あらかじめ取っておいたであろうパンが姿を現す。

 さすがに惣菜が挟んであるパンはなかったが、それ以外のものはだいたい入っていた。

 

 特にシャロを喜ばせたのはメロンパンだった。これは千夜がリクエストしたパンなのだが、それを話す事はなかった。

 ただ、大量のメロンパンに目を輝かすシャロを見て、千夜は本当に心を許せる友人を得た彼女の事を喜び、一緒にメロンパンを食べたのだった。

 

 

 

 

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