紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第17話 何者ですかお嬢さん

 

 

 

「うーん、買いすぎたか・・・・・・」

 

 重そうな荷物を持って街中を歩くリゼ。

 今日、彼女はバイトが休みだったため1人でお買い物だ。

 

 買ったのは新しい服。どんな物かと聞かれれば、彼女は答えていいものかと言い悩むだろう。それくらい意外な服なのだ。リゼも30分以上の時間をかけてそれを買うか判断した。

 ただし買うと決まったら彼女の行動は早く、似たようなジャンルの服を上下合わせてもう1セット購入した。あとついでに下着とか靴とかもろもろ。

 

(でもこれをどうすべきか。親父には知られたくないしなぁ)

 

 などと考えているリゼだったが、考え事をしていたために頭上を覆う黒い雲に気が付かず、突然のゲリラ豪雨に対応できなかった。

 

「わっ!雨か!」

 

 慌てて買った物が濡れないよう袋を抱えて走り出す。しばらく走っていると、甘兎庵にたどり着いた。

 

「いらっしゃいませ〜。あらリゼちゃん、びしょ濡れだわ!」

 

 千夜はいつかの自分のように濡れ鼠となったリゼに驚き、扉の看板をCLOSEにして彼女を店の奥へ連れ込む。そしてリゼは大きなタオルを頭に被せられた。

 

 あれよあれよと服を脱がされ下着姿になる。

 さて服はといったところで、千夜は買い物袋に目をつけた。

 

「リゼちゃん、それは何?」

 

「ん?あ、ああそれは服だよ」

 

「じゃあこれに着替えましょ」

 

「え!」

 

 リゼは千夜を止めようとしたが、時すでに遅し。千夜は袋の中に手を突っ込むと、そのまま服を引っ張り出した。

 

「あら?」

 

 予想外の服が出てきたため、千夜は目を丸くする。そしてリゼは観念したのか、それを買うまでの経緯を説明した。

 リゼの話を聴き終わった千夜は珍しく真面目な顔をして彼女の行動を肯定する。むしろ嬉しがっていた。

 

 また、なら髪もいじってみようかという提案を千夜にされたリゼは少し考えた後、「頼む」と言って覚悟を決めた。

 

 15分後、リゼは鏡に映る自分の姿に驚いていた。

 

「まさかこんなになるとは・・・・・・」

 

「リゼちゃん?」

 

「あ、いやなんでもない。ありがとうな」

 

 今のリゼの姿は、普段の彼女を知る者が見れば全員が驚くと言っても過言では無い。

 ツインテールの髪はおろされた上にウェーブがかけられ、服はひらひらの生地がついたトップスにスカートを身につけている。

 

 道を歩けば誰もが振り返り・・・とは言い過ぎかもしれないが、都会にいけば高確率でモデルにスカウトされるんじゃないだろうか。しかしどこかで見覚えのある髪型だ・・・・・・。

 

 さて、なぜリゼがこのような服を買ったのかというと、単なる気まぐれでは無いのだ。

 彼女は高校の演劇部の助っ人を頼まれてしまった。しかも役は劇のヒロイン、クリスティーヌ。

 

 普段の自分を理解しているリゼはやっぱり止めようとしたが、自信満々に「まかせてくれ!」と言ってしまった手前、断ることはできない。以前モデルを頼まれた格好は雑誌に載ったものであるため目立つので、今日新しい服を買いに行っていたのだ。

 

「とっても素敵よ!(ココアちゃんも呼んで見てもらいましょ)」

 

「あれ、なんかこの格好見覚えがあるような・・・?」

 

「ついでに役の練習もしましょう!私は今から教師よ!」

 

 千夜はノリノリでメガネをかける。確か千夜は目は悪くなかったはず。いろんな小道具を持っているため、これは伊達メガネだろう。

 

「メガネ?」

 

「形から入るのは大切よ?さぁリゼちゃん、ご挨拶」

 

「え、えっと・・・・・・ごきげんよう?」

 

「ダメよクリスティーヌさん!感情が全くこもってないわ!」

 

「お前も役に入るのか!」

 

 リゼがぎごちない様子で挨拶をすると、千夜はすかさずダメだしをする。

 ぷんぷんと可愛く怒る千夜は、さながらお嬢様の家庭教師のようだった。

 

 一応リゼはお嬢様学校へ通っている身。クリスティーヌの役はすぐに慣れそうだ。

 

「素晴らしいですね。物事に全力でぶつかりに行くその姿勢」

 

 リゼが千夜から演技の指導を受けていると、店内の一角から2人に声が掛けられた。

 

「誰!?」

 

「小説家の青山さんよ。うちの常連なの〜。メニュー名も考えてくれたり、色々お世話になってるわ」

 

「あのメニュー名に共犯者がいたのか・・・」

 

 甘兎庵のメニューは複雑な名前の商品が多い。千夜の祖母が考えたとは思えないので、千夜が命名したと思っていが、まさか青山さんも一緒になっていたのは誰も思わなかっただろう。

 

「メニューの名前を苦悩の末思いついた瞬間、笑顔の花を咲かせる千夜さんも素敵な乙女です」

 

「ありがとうございます。そう言う青山さんは小説進んだ?」

 

「それが全く」

 

 団子を食べながら原稿用紙をつつく青山さん。

 リゼが彼女の手元を見るとまっさらで1文字も書かれていない原稿用紙が視界に映り込む。締切は大丈夫なのだろうか。

 

 挨拶の練習が終わると、千夜は店内の収納スペースから般若と小面のお面を取り出してリゼに見せる。

 

「じゃあ私はファントム役をやるわ。どっちがいいかしら」

 

「いや仮面って・・・それは違うからな?」

 

 とは言うものの、他に代用品がある訳でも無し。リゼと千夜は役になり切って練習を始めた。知り合いは見られたくない光景だが、その時は不意に訪れた。

 

「こんにち・・・は・・・?」

 

 なんとシャロが戻ってきたのだ。

 千夜は店の扉を開けたシャロを出迎えようとするが、お面を外すのを忘れていた。いつもの感じでシャロを迎えようとしたのか、至近距離で彼女の前に立ってしまったのだ。

 

 声にならない悲鳴を上げたシャロはその場でペタリと座り込んでしまう。

 入口で放心されても他の客が来た時に入れないため、千夜とリゼは慌てて店の中へ引っ張る。

 

「お、おいシャロ?」

 

「ごめんなさい。リゼちゃんの劇の役作り中なの」

 

「そ、そうなの・・・ね」

 

 あんこに齧られながら震えるシャロだったが、それよりもさっきの衝撃がまだ治まっていない。

 

 しかし千夜からリゼのために練習をしている事を説明され、自分の意見も参考にしたいと言われたシャロは、渡されたお面を握り立ち上がった。

 

「事情はわかりました。鬼や仏のようにリゼ先輩を指導するのですね」

 

「おーい。お面は関係ないからなー」

 

 さっきまでの怯えはどこにいったのか、やる気を出すシャロ。リゼの役に立つのが嬉しいのか、震えていた自分は完全に消え去ってしまった。

 

「習いたいのは上品さだ。何かコツはないか?」

 

「上品さ・・・ですか。まぁ私はあの学校で生き抜くために勝手に見に着いたやつですし」

 

「なるほど。シャロさんは学校という世界で生き抜く術を自然に身につけられる才能を持っているんですね」

 

「誰・・・ってこの前お店を追い出された人!」

 

 座席からかけられた声の主を探したシャロは、和菓子を食べながらメモ帳に何やら記入している。

 

 というか追い出されたとはどういう事だろうか。リゼはそこが気になったが、シャロが微妙な表情をしていたため、詳しくは聞かなかった。

 

「ウェイトレスはホールを舞うアイドルであると同時にホールで戦うファイターでもあると思うんです。普段はその可憐さで客を魅力し、有事の際は実力を以て対処する」

 

「いやうちはそういう店じゃないんですけど」

 

 ホワホワと想像する青山さんに対して突っ込むシャロ。想像力豊かなのも少し面倒くさいのかもしれない。

 一方で、リゼはアイドルやファイターに興味があるのか、「なるほど」といった視線を向けている。

 

 シャロが加わった事でリゼの練習が加速し、その後もしばらく練習を続けていると、店の外に複数人の気配がした。

 

「千夜ちゃーん!劇の役作りをしてるって本当!?」

 

 バーン!とココアが甘兎庵の扉を開ける。

 後ろにはルクとチノがおり、走ってきたのか疲れた表情で店内に入ってくる。

 

「私もてつ・・・だ・・・う・・・ロゼちゃん!?」

 

「ロゼさん!お久しぶりです!」

 

 チノとココアは久しぶりに会ったロゼに驚きながらも嬉しそうに近づく。

 なお、本人は役作り中だったため動揺する事はなかったが、一瞬フリーズしていたのをルクは見逃さなかった。

 

「お久しぶりです。魑魅魍魎も恥じらう乙女です」

 

「ブッ!」

 

 一体だれが教えたのか、明らかにリゼが言わないようなセリフを口に出す。

 千夜とシャロは感心していたが、ルクは吹き出しそうになるのを堪える。セリフが似合う似合わない以前に、リゼが心の中でドン引きしている事が手に取るようにわかったからだ。

 

 チラリと横を見ると、青山さんがいるのを確認したルク。リゼにセリフを教えた犯人がわかったかもしれない。

 

「実はうちの店に来てくれるのを待ってまして!」

 

「ごめんなさい。中々行く時間が無くて・・・まさか雨宿り先で3人にお会いできるなんて思わなかったわ」

 

 リゼ・・・いや、ロゼはそういうと、サッと一瞬ルクを睨みつける。余計な事を言うなということだろう。

 

「今度はラビットハウスにも来てね!」

 

「ええ、是非」

 

「チノちゃんのコーヒーは美味し・・・あれ?ティッピーは?」

 

 ココアは抱いていたティッピーが居なくなっている事に気が付く。実はティッピーはココアがロゼを見つけた時に、いつもあんこがいる台座に乗せられていたのだ。

 

 今はあんこの視線に耐えかねたティッピーは台座から降りるとジリジリと後退を始め、ついに耐えきれなくなると店の外へ飛び出して行った。

 

「ティッピー!」

 

「あ、ちょ、チノちゃーん!?」

 

 走り出したティッピーを追うように、チノとココアも甘兎庵から飛び出す。嵐のような一行だった。

 

 静まり返る店内。

 もはや何をしに来たのかもわからない。

 ただしルクはまだ店内にいた。ルクは開いたままの扉を閉めてロゼの方へ向き直る。

 

 千夜とシャロはなぜかリゼの事をロゼと呼んでいた2人を変に思ったのか、不思議そうな表情をしていた。

 

「あの2人はリゼだってわかってないんだよ。ところでリゼ、もしかして役作りの格好?」

 

「まぁな。千夜達にも手伝って持ってたんだが・・・やっぱり私には難しいみたいだ。今度他の奴に代わってもらうよ」

 

「でもリゼさんのやる気は伝わってきます。辞める理由は無いと思います」

 

 役を辞めようとするリゼだったが、青山さんがそれを止めた。

 

「そ、そうです!リゼ先輩の格好も似合ってますよ!」

 

「そんなに可愛いのにもったいないわ」

 

「いつものリゼもいいけど、このリゼもいいな。元々美人だけどさらに磨かれている気がする」

 

 さらに追い討ちをかけるかのようにリゼを褒めちぎるルク達。

 今更自分の格好が恥ずかしくなってきたのか、顔を真っ赤にしたリゼ。さらにその顔を見られたくないのか、ルクに近づいて手のひらで彼の目を塞いだ。いい香りがする。

 

 リゼの年相応らしい反応を見た千夜とシャロは目を丸くしたものの、微笑ましいと感じたのか暖かい視線を向けた。

 

「・・・・・・わかった。やってみる」

 

 後日、劇を見たシャロ曰く、結果的にリゼはクリスティーヌ役をやってのけたという。

 ただし、練習したようなお上品な令嬢ではなく、なぜかいつものリゼのキャラで脚本が書かれていた。

 

 どつやら最初からリゼのままで物語を進める予定だったらしい。彼女のファンがさらに増えた事は喜ばしいが、当の本人が納得していなかった事は言うまでもない。

 

 

 

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