紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第19話 貴方が無くしたのは万年筆ですか?職ですか?

 

 

 

 店の買い出しをしていたルクは、その帰りに下校途中であろうチノの姿を発見した。

 

「チノ!」

 

「あ、ルクさん」

 

「おかえり。今日は早いね」

 

「そうですか・・・?あ、帰りのホームルームが早く終わったからかもしれませんね」

 

 2人は並んで公園の中を歩く。チノの通学路は複数あるが、この公園を通過するルートは彼女のお気に入りでもあった。

 

「ルクさんは買い出しで・・・あたっ」

 

「ん?紙飛行機?」

 

 チノがルクと話していると、彼女の帽子に何な軽いものがぶつかる。ルクが地面に落ちたそれを拾うと、その正体は綺麗に折られた紙飛行機であった。

 

 よく見ると原稿用紙で作られており、何やら文字が書いてあるようだ。

 紙を広げてみるか迷っていると、公園の奥から声がかかった。

 

「すみません!風で思わぬ方向に飛んでしまって!」

 

 パタパタと青山さんが慌てた様子で近づいてきた。犯人は彼女のようだ。

 

「これ原稿用紙ですよね?使っていいんですか?」

 

 原稿用紙は青山さんにとって大切な仕事道具。こんな事している暇があるのなら、原稿を進めた方が良いのではないか。

 

「あー・・・・・・実は辞めたんです。小説家」

 

 青山さんはルクから紙飛行機を受け取ると、そっと紙を広げてルクとチノに見せた。そこにはこう書いてある。

 

【失職】

 

 と。

 

「「えええええええええッ!!!」」

 

 ルクとチノは仲良く驚きの声を上げる。

 しばらく驚いた体勢で固まっていたが、最初にルクの硬直が解けた。

 

「え、いや本当ですか!?」

 

「はい。なので就職活動をしているところなんです」

 

「その割には遊んでましたけどね」

 

 ルクが就職活動と言いながら紙飛行機で遊んでいた青山さんから事情を聞こうとすると、後から我に返ったチノがルクの服を引っ張る。

 

「ルクさん、ひとまずウチに来てもらうのはどうでしょうか」

 

「ウチで?」

 

「幸いこの時期はテストがありまして、私は試験勉強をしたいので2時間ほど青山さんと交代できるんです」

 

 なるほどその手があったか、とルクは納得する。

 チノやココア達はテスト期間中は勉強を優先させているため、勤務時間が短くなったり、そもそもルク1人になる時もあった。

 

 この時期はチノのテストがあるので代わってもらえるのならそうしてもらった方が良いだろう。そして働いている間に新しい仕事を見つければいい。

 

「いいんですか?」

 

「はい。是非」

 

「あとバータイムも初めの1時間は俺がいないので入っていただけると助かります。わからない事があったら教えますので」

 

 そうして青山さんさラビットハウスでバイトをすることになった。青山さんも知った場所で働ける事になり少し嬉しそうな表情をする。

 

 帰宅後、タカヒロに事情を説明するの快く許可してくれた。

 チノはさっそく女性用の制服を青山さんに渡す。なぜ女性用バーテンダーの服があるのだろうか。

 

 ルクとチノは青山さんに仕事内容を教え、メニューの種類と値段も把握させていく。

 接客の練習をしていると、店の扉が開いた。この時間となると・・・・・・。

 

「ただいまー!」

 

「こんにちはー!」

 

 やはりココアとリゼだった。

 2人は青山さんが制服を着ている事に気がつく。

 

「あれ?青山さん?」

 

「どうしたんですか?」

 

「実は小説家を辞めまして、こちらにお世話に・・・・・・」

 

「「な、なんだって!?」」

 

 青山さんの報告にココアとリゼは先程のルクとチノと似たような反応をした。それほど衝撃的だったのだろう。青山さんを知っている人ならそういう反応をするだろう。

 

「なんかお店ぎゅうぎゅうだね」

 

「私が試験勉強で出られない時に代わってもらいます。あとバータイムの最初の1時間も」

 

「どうか気を使わずに。拾ってきたうさぎのような存在だと思っていただければ」

 

「いやそれはそれでダメだろ」

 

「夜までは皆さんの仕事ぶりを・・・あら?」

 

 青山さんはカウンターの端でルク達の事を見守るように観察し始めた。だが、その時カウンターの上に乗りこちらを見る1匹のうさぎに気がついた。

 

「その子はティッピーです。うちのペットなんです」

 

「そうなんですか・・・あら、モコモコしてますね」

 

 青山さんはティッピーを両手でそっと持ち上げ、自分の視線の高さに合わせた。

 ティッピーからは普通のペットからは香るはずがないコーヒーの匂いがした。それはあの時、自分の作品を見てくれたチノの祖父と同じ匂いであった。

 

 よく見るとティッピーにどこかチノ祖父の面影を感じた。血の繋がらない、しかも人間ではないティッピーに、懐かしい感じがしたのだ。

 

「この子、気に入りました。特に目を隠している所が共感できます」

 

「最近のティッピーはチョイ悪な格好が気に入っているみたいです」

 

「へぇ〜(・・・というか青山さんに至近距離で見つめられたから照れているだけでは?)」

 

 青山さんの言う通り、ティッピーの目は毛に覆われて見えない状態となっていた。そもそも最近のティッピーはもさっとしていたので、そろそろトリミングしなければと思っていた所だ。

 

 チノ祖父は老いたとはいえ男だ。青山さんのような美人に見つめられれば照れてしまうのも無理は無い。ルクは少し羨ましいと感じてしまった。

 

 この日は練習という形で青山さんの初出勤は終わった。

 翌日、ココアが千夜とシャロを連れてきたいらしく、放課後は4人でラビットハウスに帰宅した。

 

「ただいま!」

 

「こんにちは〜。青山さん、調子はどうかしら?」

 

「・・・なんだそれ」

 

 リゼが思わずツッコミを入れたのは、カウンター内に立つ青山さんの前に、【人生相談窓口】というボードが置かれていたからだ。

 

「お店に貢献するために考えてみたんです。私は人の話を聞くのが好きなので、タカヒロさんみたいにお客さんの悩みを手助けしたいと思いました」

 

「とてもいい考えだと思うわ!」

 

「実はもう1枚作ってみたの。これ!」

 

 ココアは昨日作ったというボードをカウンターの下からもう1枚取り出した。いつの間に置いたのだろう。

 ボードには【手相占いの窓】と書かれている。もしかしなくても千夜のために作られた物だろう。

 

 次々に喫茶店とは関係の無い物が増えていく光景にチノとティッピーはあたふたした様子だったが、ココアは気にしない。

 カウンターの中に入り、ボードの窓口から姿を見せた千夜はルクに話しかけた。

 

「ルクさん。手相を見てあげましょうか?」

 

「じゃあ・・・せっかくだしお願いします」

 

 ルクはカウンターの椅子に座り千夜に手を差し出す。

 千夜はルクの手を取り手相を見る。途中必要とは思えないほど手をムニムニと揉み、「男の人って大きいんだなぁ」と思いながら占いの結果を出した。

 

「ルクさんは長生きしそうね。多分お嫁さんも近いうち貰うかも。歳下ね」

 

「やっぱり結婚できるのか!やったぜおい」

 

 ティッピーの占いでも似たような事を言われた気がしたが、この結果が嬉しい事には変わりない。

 

 だが結果だけに満足せず、それに見合うような人間になれるよう努力しなければいけないだろう。早く紅茶の店を見つけなければ・・・・・・。

 

「千夜さんは手相占いができるんでしたよねぇ。私も相談のお客さんが欲しいところです」

 

「もっとファンシーにしたら若い子も寄ってくるんじゃないかしら」

 

「なら私のぬいぐるみを使いましょう」

 

「お前ら仕事しろよ」

 

「先輩の言う通りですよ」

 

 千夜の提案でチノは自室からぬいぐるみをいくつか持ってきてボードの前に置いた。確かにファンシーにはなったが、青山さんの方に向かせては意味が無いのではないだろうか。

 

 他のお客さんの所へケーキを持って行ったリゼは戻ってくるなりキツイ事を言うが、勤務中なので間違った事は言っていない。

 シャロもそれに乗っかるが、ニコリと深い笑みで笑った千夜はカウンターに彼女を座らせた。

 

「シャロちゃん。青山さんのお客さんになってあげて」

 

「おもてなしのコーヒーです」

 

「あ、いや、あの私この後バイト・・・・・・」

 

「ん?それ私がブレンドしたや「飲みます」」

 

 シャロは目の前に置かれたコーヒーがリゼがブレンドしたものだとわかると、なんの抵抗も無くカップに口をつけた。

 

 するといつもなら酔っ払ったようにハイテンションになるシャロだったが、今回はポロポロと涙が溢れてきた。間近で見ていたルクとリゼは慌ててしまう。

 

「うわ、シャロどうした!」

 

「リゼ?何をブレンドしたんだ?」

 

 ルクはリゼを見てそう問うが、何していないリゼは両手を横に振りそれを否定する。

 

「いや変な物はいれてないぞ!」

 

「リゼせんぱーい。実は今月厳しくてぇ、うさぎが噛んできてぇ・・・ツイてないんですよぅ」

 

「とりあえず落ち着け」

 

 リゼはカウンターに突っ伏すシャロの頭を撫でる。それを見た青山さんは目を輝かせて「これがやりたかったんです」と言った。

 

 シャロが泣きやみ正気に戻ったのは、それから10分後の事だった。1口だけだったのが幸いだったようだ。

 千夜はシャロをバイト先へ送りに行くといい、それから2人は店を出ていってしまう。再び店は静かになった。ケーキを食べていたお客さんも、読書を再開している。

 

「そういえばなんで青山さんは小説家辞めたんだ?」

 

 ふとリゼがルク達に質問してくる。

 

「「・・・・・・」」

 

「まさか知らなかったのか!?」

 

 よく思えば青山さんがなぜ小説家を辞める事になったのか、その理由を聞いていなかった。ルクもチノも互いを見つめ合うと、そっと異なる方へ目をそらす。

 

 まさか知らなかったのにラビットハウスに連れてきたのか、とリゼは驚く。

 ルク達の視線は青山さんに集中する。「照れますね」と呟いた青山さんだったが、視線からは解放されず、少しして理由を説明し始めた。

 

「実はマスターから頂いた万年筆をなくしてしまったんです。他の万年筆では筆が進まなくて」

 

「そうだったのか・・・・・・私も馴染んだ銃でないと当たらないし」

 

「あれ、リゼちゃん共感してる?」

 

「なくした場所とかわからないんですか?」

 

 なぜか共感したリゼに話しかけるココアを尻目に、チノは万年筆をなくした場所を聞き出そうとする。

 

「確か・・・ココアさんと初めて会った場所だと思います」

 

「あそこだ!任せて!」

 

「あ、ココアさん待ってください!」

 

 ココアはそう言って店から飛び出す。もしかしなくてもその場所へ向かったのだろう。さらに彼女を追いかけるように、ティッピーを頭に乗せたチノが店から消えた。

 

「あっ、おい!」

 

「ごめんリゼ!店は任せた!」

 

 そしてルクも居なくなる。幸い今日はルクは休みだったので問題無いが、2人は早く呼び戻さなくてはならない。

 

 ルクが2人を追いかけて数分が経ち、例の公園にて芝生に膝を着いて万年筆を探すココア達を見つけた。

 

「探すのは俺がやるから、2人は戻りなさい」

 

「ルクお兄ちゃん・・・あと5分だけ!お願い!」

 

 ココアの必死なお願いにルクはたじろぐ。柔らかい女子の感触に一瞬身体を硬直させる。さらに彼女の後ろからチノも祈るように手を合わせているのが見えると、あまり強く「戻れ」とは言えなくなってしまう。

 

 10秒にも満たない時間だったが、ルクは結論を出し、ため息をつきながらOKと許可を出した。

 ココアは自分が青山さんと会った場所を中心的に、チノとルクは少し離れた場所を探す事になった。

 

「ないなぁ」

 

「こっちも見当たらないです」

 

 何かと同化しているのか、持ち去られたのか、万年筆は見つからなかった。

 探すのは改めて、とルクが発言しようとした瞬間、2人の目の前に万年筆を頭に乗せたティッピーが現れた。

 

「あっ!万年筆!」

 

「どこにあったんですか?」

 

「ベンチの鉄製部分と同化しておった。チノ、渡しておいてくれないか」

 

「え、私が渡すんですか?」

 

 まぁ青山さんにティッピーの正体を教える訳には行かないのでそうなるだろう。

 しかしそれで良いのだろうか、とチノは思った。

 

「それでもいいですけど、いいんですか?私はおじいちゃんがなんでティッピーになったかはわかりません。秘密にする必要があるのはわかりますが・・・内緒にするのは窮屈じゃないんですか?」

 

「チノ・・・・・・」

 

「私はたくさんの友人ができました。だから、おじいちゃんも少しくらいその姿での友人を増やしてもいいんじゃないですか?青山さんの事、励ましてあげてください」

 

 チノ祖父がどういった決断をしたのかはルクにはわからない。ただ、万年筆を頭に乗せたままチノに抱かれていた。

 ココアと合流したルク達がラビットハウスに戻ると、青山さんは休憩へ、リゼは店内の掃除をしていた。

 

 閉店作業をチノとリゼに任せ、ルクとココアは夕飯の準備のために2階へ上がる。

 リゼも帰宅し、ルク達が夕食を食べている頃、店内は青山さんとティッピーだけになった。

 

(せめて完成したこの本だけでも読んでもらいたかったなぁ)

 

 青山さんは【うさぎになったバリスタ】を手に取りそう思う。

 店内には誰もいないはずだが、突然彼女に話しかける者がいた。

 

「面白かった」

 

「え?」

 

「だが主人公より息子の出番が多かった。世代交代モノではないのだから、次は誰を中心に物語を進めていくのかを考えるといい」

 

「ええ!?まさか!」

 

 青山さんは、カウンターに置いてあった毛玉を手に取り階段を上がる。真っ先に伝えたい相手がいたからだ。

 

「チノさん大変です!このぬいぐるみからマスターのお声が!」

 

((それじゃない!))

 

 そう。青山さんがダイニングに持ってきたのはティッピーではなく、その隣にいたぬいぐるみだった。

 事情を知っているルクとチノは声には出さなかったが、心の中でそう叫んだ。

 

「え?いいな!私もチノちゃんのおじいちゃんと話してみたい!」

 

「大丈夫です。マスターは私たちを見守っています。いつかひょっこり出てくるかもしれませんね」

 

「あれ・・・それって幽霊!?」

 

 結果的に青山さんはチノ祖父とティッピーに起こった不思議な出来事について知る事はなかった。

 だが今はそれで良いのかもしれない。

 いつか・・・そう、いつか彼女自身で真実にたどり着く可能性だってあるのだから。

 

 

 

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