紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第21話 その時、不思議な事が起こった!

 

 

 

 外で過ごすには肌寒くなり、寝衣は生地の厚いものを着るようになった頃、ルクはたまたま客の来ないラビットハウスをチノと2人で清掃していた。

 いくら閑古鳥でも掃除くらいはやらないと、店はあっという間に汚れてしまう。

 

 もう一人の居候はどこへ行ったのかというと、「デカイ買い物をしてくる」と言って店を出たっきり戻ってこない。

 

「ココアさん戻りませんね」

 

「迷子とか?」

 

「まさか・・・とは言いたいですけど、ココアさんですし・・・・・・」

 

「ああ、ココアだからなぁ・・・・・・」

 

 ルクとチノのココアの評価はあまり高くない。人間としてならば問題ないのだが、それ以外はどこかぬけている所もあるので、微妙な評価となってしまう。チノがシャロに憧れているのも納得だ。

 

 掃除が終わり、休憩がてらコーヒーを飲んでいると、店の外からココアともう一人、リゼの声が聞こえた。

 

「ただいま!」

 

「おかえり。何買ってきたんだ?」

 

「見ればわかります。どうぞこちらへ」

 

 ココアはルクとチノを店の外へ誘導する。そこにはリゼとピンク色の自転車があった。

 まさかこれを買ったのか。

 

「じゃーん!自転車を買ったよ!」

 

「おー。思い切ったじゃん」

 

「えへへ。バイト代も貯まってたしね」

 

 自転車は高校生であるココアが買うにはギリギリ手が届く代物。見る限り余計な物はついていないため、安い方の自転車なのだろう。しかしココアにとっては車を買ったに等しい。

 

「ところでなんでリゼさんかここに?」

 

「実はココアに自転車の練習に付き合って欲しいと言われてしまってな」

 

「そういう事でしたか」

 

 ココアは少し個性的だがそこまで運動神経が悪いわけではないはずだ。

 自転車はバランスさえなんとかなれば乗れてしまう。リゼの腕の見せどころだ。

 

 しかし自転車とは羨ましい。この街での移動手段は基本的には歩きだ。一応車もあるにはあるが、駐車場を持つ家が少ないのだ。月極の駐車場もあるにはあるが、数が少ない上に住宅地から遠い。利用者は増える兆しは見えていなかった。

 

 自転車なら車よりスペースを取らないので手を出しやすいが、ルクは個人的な理由で買っていなかった。

 その理由はただ単に、自転車がいらない範囲で暮らしていけるというのともう1つ。

 

「・・・・・・俺もバイク買おうかな」

 

 そう。

 ルクはバイクの免許を所持しているのだ。それも大型二輪。これがあれば大抵のバイクは乗ることができる。

 しかし運転は父親の中型バイクのみで、個人での保有は無い。なのでこの街での移動するには歩くしかないのだ。

 

 ポツリと呟いた程度だったが、ココアには聞こえていたらしく、バッと物凄い勢いでルクの方を向いた。

 

「ルクお兄ちゃんバイク運転できるの!?」

 

「親父のバイクしか運転したことないけどな」

 

「よかったねリゼちゃん。ツーリングができるよ?」

 

「私免許持ってないんだが?」

 

「え!持ってないの!?」

 

 2人のコントを見ながら、ルクはリゼがバイクに乗った姿を想像する。ライダースーツ姿でオフロードに乗るかっこいいリゼ、私服姿で小さいスクーターに乗る可愛いリゼ。どちらも捨て難い。

 

 この後、ココアは買った自転車を大事そうに香風家の庭に置き、一緒に買ったであろう防水シートを被せた。運転の練習は明日からするらしい。

 夕食を食べている時も、チノの部屋で話している時も、ココアは自転車の事を話していた。普段なら「うるさい」と感じていたチノも、この日ばかりは珍しくココアの話に耳を傾けていた。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 翌日、街中にて智宏はプラプラと散歩をしていた。ラビットハウスは休業日のため、家にいてもする事がないのだ。なのでこの街で店を開くならどこにするかを検討しようではないか。

 

 ルクは不動産屋に向かい、住宅兼店舗の建物を探している事を伝える。

 少しすると、担当の女性が「数件見つけた」と言ったため、せっかくなので見に行く事に。

 

 歩きで探してもらった場所に向かう。しかし始めの2件は微妙な感じだった。

 1件目は築年数が経ちすぎて補修が必要。

 2件目は値段の割には狭く過ごしにくい。

 別に新築がいいと言うわけではないのだが、さすがに限度があるだろう。

 

 さてどうしようかと迷っていると、3件目にたどり着く。場所はラビットハウスがある場所より数m高い立地にある。

 

「おっ、ここは?」

 

「こちらはこの街でも平均的な築年数となっております。新しく入ってくる方は少ないので競争率は低いですよ」

 

 確かに周りの建物と比べて同じような感じだ。先程の2件よりもビジュアルがいい。

 3階建てで広さも申し分ない。

 ただ――

 

「1階は住宅かぁ」

 

 そう。1階は普通の住宅スペースだったのだ。2階と3階へ行く階段は屋外に付いており、それぞれの階が独立している。

 

 ルクが欲しているのは、1階が店舗スペースであり、2階もしくは3階建てであることだ。それに屋内階段であること、築年数も経ちすぎていないことも。

 それを担当に伝えると、なにやら納得した様子だった。

 

「なるほど・・・お店をやりたいと」

 

「改装するならお金もかかりますし、構造的な事を考えると店の内装にも制限がかかるでしょう?」

 

「そうですねぇ。お店をやりたくて外から来たお客様はフロアを改装していますが、やはり柱や壁が邪魔をしているみたいですね」

 

「無茶な事を言っているのは自覚してます。幸い急ぎではないのでこれからも探していこうと思ってますので」

 

「わかりました。私の方でもご要望に沿う物件を探しておきますね」

 

「よろしくお願いします!」

 

 そしてルクは不動産屋へ戻り、滞在している住所と郵便番号、携帯電話番号を紙に記載する。これで物件が見つかったら連絡が来るはず。

 もちろん自分でも探す事は欠かさない。良い場所があったら不動産屋へ確認だ。

 

 ルクはラビットハウスへ戻ろうと歩く。人通りの少ない道に出ると、そこにはココアとリゼが自転車で並走しているではないか。

 

「あれ・・・?ココア!」

 

「ルクお兄ちゃん!見てみて!自転車乗れたんだよ!」

 

 そう言うココアをよく見ると、確かに使いこなしている。まさかこんな短時間で習得できるとは。これはココアが凄いのか、教えるリゼが凄いのか、ルクにはわからないが、両方であると信じたい。

 

「リゼも凄いじゃないか。ここまで運転できるようにするなんて」

 

「球技大会の事もあったから心配したけど・・・なんとかなってよかったよ」

 

「さては何かあった?」

 

 得意げに話すリゼだったが、その顔にいつも以上の疲労がある事をルクは見逃さない。すかさず質問すると、リゼはバレたかという風に半笑いして語り出す。

 

 最初は何度かコケる程度で初心者あるあるの練習風景だった。しかし、途中で現れたシャロを乗せて走ったは良いものの、目的地とは真逆の方向へ走ったり、ドリフトに挑戦しようとするココアを止めたり、結構大変だったらしい。

 

「そりゃ大変だったね。でもよくやったな、リゼ」

 

 ルクがリゼを褒めると、彼女は嬉しそうに、だが照れくさそうな表情で頬をかいた。

 

「皆さん!」

 

 そこへチノがティッピーを抱えてやってくる。もしかしなくてもココアの事が心配だったのだろう。

 

「ココアさんが他の人にぶつからないか心配なので見に来ました」

 

「そこかよ」

 

「ふっふっふ、チノちゃん侮るなかれ。もう乗れるようになったんだよ」

 

「えっ!私は何日もかかっているのに・・・・・・」

 

 得意げに話すココアに対し、チノはショックを受けているようだった。もしかしなくても乗れないらしい。

 ルク達はその事に驚いたが、珍しく尊敬するような眼差しをココアに送るチノを見て決して冗談をいう事はなかった。

 

「こ、今度私にも教えてください」

 

「もちろんだ!」

 

 リゼはチノの手を握り返事をした。ルクも普段お世話になっているので、こういった事で恩返しをしたい。

 

 ルク達はココアに連れられてある場所へたどり着く。そこはこの街の1番低い場所へ降りる坂道がある所だった。

 木組みの街はなんだかんだ高低差がある。1番高い所へ行けばそれなりに見渡せるのではないだろうか。

 

「それでココアは何をしたいんだ?」

 

「ここを滑走するよ。リゼちゃんに鍛えられたバランス力を発揮する時!さぁ、ティッピーも風になろう!」

 

 どうやらココアはこの坂道を降りたいらしい。まぁ確かに自転車を乗るのは何も平地だけではない。上り坂もあれば下り坂もある。今後このような道を何度も通るのだ。経験は無駄ではない。

 

 自転車のカゴにすっぽり入ったティッピーも嫌がる顔はしておらず、年甲斐もなくウキウキしているようだ。

 後はココアが乗って滑走するだけとなる。だが、彼女の後ろにいたチノがこちらに近づいくる小さな影に気がついた。

 

「あっ、うさぎの親子です」

 

「なんとっ!」

 

「「あっ!」」

 

 可愛い妹の声に反応するココア。普段親子連れのうさぎを見ることの出来る確率は低い。平日の昼間は学校に行っているため、滅多に見られないのだ。

 

 さて、ここで問題。

 今ココアは自転車で滑走しようとして、そのハンドルを握っている。なお、前輪は坂道にあり、スタンドは上げているものとする。

 そしてチノの声に反応したココアが両手を離してしまった場合何が起こるだろうか。

 

 答えは自転車が主を乗せないまま滑走する、である。

 ココアの自転車は坂道をものすごい勢いで滑走し始めた。ティッピーを前に乗せて。

 

「自転車が!」

 

「おいティッピー乗ったままだぞ!」

 

 リゼとルクは慌てて坂道に向かって駆け出し道を下る。このままでは壁に衝突してしまうだろう。

 接触まであと10秒。

 

 しかし、その時不思議な事が起こった。

 ルク達よりは足の遅いココアはティッピーと自転車の危機により身体が活性化し、2人を追い抜いて自転車に追い付くとサッと飛び乗る。そして下に降りたタイミングでドリフトを決めたのだ!

 

「「「美しい!」」」

 

 自転車が軋む音、礫が擦れる音が鳴り響く。

 緊急事態故だったが故、自転車を雑に扱ってしまったが外見から壊れた様子はない。

 

 ココアは息を切らして籠の中のティッピーを見る。ティッピーはコロンと固まった状態だったが、怪我はないようだ。チノもくまなく確認するが問題無いらしい。

 

 ただココアが体力を一気に使ってしまったらしく、今日はここまで。まぁあのくらい乗りこなせれば練習に付き合う必要もないだろう。

 帰宅後、ココアは電池が切れたようにベッドに倒れ込む。それを見届けたルクとチノはリビングにてお茶を飲んでいた。

 

「今日は危なかったな」

 

「はい。2人に怪我が無くてよかったです」

 

「チノは自転車乗れそう?」

 

「が、頑張ります・・・・・・ところでルクさんはバイクを買わないのですか?」

 

「資金が貯まったらね。まぁそんなに時間はかからないんじゃないかな」

 

 ルクは携帯を操作して購入を検討しているバイクを見せる。そこにはそこそこ大きなバイクが映し出されており、遠出にも耐えられそうなものだった。

 

 これを買うにしろ買わないにしろ、ルクには別の目標が出来た。

 店を出す、バイクを買う。

 かなりの出費が予想されるため、これからは収入を増やすために邁進しなければならないだろう。

 

 さすがにラビットハウスだけだとちょっと・・・ね?

 

 

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