紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第23話 たまには手洗いも素敵でしょ?

 

 

 

 この日のラビットハウスはルク以外の3人がシフトに入っていた。

 ココア監修の元様々なパン等を作っているが、客の増加数は緩やかだ。まぁ一応増えてきてはいるものの、実感がわかないのだ。

 

 シンクの中のカップを洗おうとしたココアだったが、洗い流した途端、中のコーヒーが跳ねて制服に付着してしまった。

 

「あ、制服に汚れがついちゃった」

 

「少し目立ちますね」

 

「お仕事頑張っている証拠かな」

 

「いやつまみ食いが多いだけだから」

 

 ココアのピンクの制服には今のコーヒー以外にも、これまでの汚れが目立つようになってきた。

 リゼが言うようにつまみ食いもあるだろうが、パンを作る時についた汚れも多い。ココアの言う事も間違ってはいないのだ。

 

 3人は互いに制服を見比べる。あまり意識した事はなかったが、ココアの件で少しの汚れも気になるようになってしまった。

 

「洗濯機が壊れているので、この後コインランドリーに行ってきます」

 

「そうだな。私も行くか」

 

「せっかくですし、ルクさんも誘いましょう」

 

 この時ルクは自室で店を始めるにあたって必要な物をリスト化していた。学生時代にバイトをしていたので貯金もあるし、一応家業なので親の援助もある。後は建物を探すだけ。

 

 ベッドの上で胡座を描きプランを考える。家具や電化製品はもちろん、業務用家具も自分で買う必要がある。何かと金が必要だ。

 

(先に建物だけ確保するか?そんでラビットハウスとか他でバイトしながら少しずつ準備を・・・いや、時間がかかりすぎる。やっぱり業務用家具がデカイな)

 

 現在のルクの収入はラビットハウスに頼っているので、同世代と比べるとどうしても低い方になってしまう。

 運任せで宝くじやギャンブルに頼るのは正直気が引ける。であるならば他の仕事を探すしかない。この街は男手が足りないように思えるので、そこを上手くつけばさらなる収入が見込めるかもしれない。

 

(やっぱり金か。さてどうするか・・・・・・)

 

 ただまぁ、今考えてもあまり進展はないようだ。

 問題を先送りにするのは気が引けるが、もう少しだけこの街を回ってみてからでもいいかもしれない。

 

 すると扉をノックする音が聞こえた。この控えめな感じはチノだろう。

 

「はい」

 

「ルクさん。これから店の制服の洗濯に行こうと思うのですが、一緒にどうですか?」

 

「わかった。すぐに行くよ」

 

 ルクは小さなクローゼットから制服を引っ張り出して部屋から出る。

 ココアの部屋を訪れるが声は気配は無い。

 

 1階も探したが姿は見えず、庭に出た時にようやくココアを見つける事が出来た。

 ルク達は洗濯カゴを抱えたココアがいるのとばかり思っていたが、視界に飛び込んできたのは予想外の光景だった。

 

「え?タライ?」

 

「手洗いですか!?」

 

 てっきりコインランドリーに行くのだと思っていた2人を余所に、ココアはわっしゃわっしゃとタライの中で制服を洗っている。

 

「そうだよ。1度やってみたかったんだ〜」

 

「えぇ・・・・・・」

 

「それにほら、シャボン玉も綺麗だよ?」

 

 ココアが手を動かす度、魔法のようにシャボン玉がタライの中から生まれ飛んでいく。確かに綺麗だがいささか量が多くはないだろうか。

 

 外からでも目線を上げれば見えてしまうかもしれない。そう思った矢先、裏口の扉が開き千夜とシャロが入ってきた。2人は服を手洗いしているココアを見て目を丸くする。

 

「あら、手洗いしているの?」

 

「また思いつきね。でもココア、その洗い方だと服が痛んじゃうわよ」

 

 ココアの手元を見たシャロが慌てて近づきその手を止めさせる。慣れた様子から察するに、彼女も家でやった事があるのだろう。

 

「シャロさんが教えてくれるなら大丈夫そうですね。私もやります!」

 

 そう言ってチノは、いつの間にか手に持っていたタライに水を張り洗剤を入れていた。

 その様子にさすがのココアも「私が教えるのにぃ」とむくれる。

 

「しょうがないわねぇ。ルクさんもやるんですか?」

 

「まぁせっかくだしね。色々教えてくださいね、先生?」

 

「は、はい!」

 

 先生という言葉に反応したシャロ。普段プライベートでこういう風に頼られる事が少ないのか、コーヒーを飲んでいないのに機嫌が少しだけ良くなった。

 そこへ新たな参加者、リゼが制服を抱えて家の扉から現れた。

 

「おーい。制服持ってきたぞ」

 

「り、リゼ先輩!?」

 

「なんだお前らも来てたのか」

 

「よろしければ洗いますよ?」

 

「いいのか?じゃあ頼むよ」

 

 そうしてルクとシャロ、ココアとチノに別れて洗濯を始めた。洗濯機を使わないで服を洗うのは初めてだ。

 1人だったらまずしない。ただ、皆でやるのも楽しいので良いかもしれない。

 

 細かい所まで洗っていると、しばらく制服のメンテナンスをしていなかったためか、所々補修が必要な箇所が発見された。

 裂けていたり、ボタンが取れたり等、最初は慌てたが、直すにはむしろ良い機会だと思った。

 

「こんなものかな・・・あれ、ココアどこいった?」

 

 ルクは立ち上がってストレッチをしながら、手洗いをする発端となった張本人がいなくなっている事に気がつく。

 

「ココアちゃんから家の中に入っていったわよ。別の洗濯物でもあるのかしら?」

 

「ちょっと見てきます」

 

 そう言うとチノは家の中に入っていく。最近ココアの後を追いかけるようになったチノ。

 本人はココアから目が離せないと言っているが、離れた所から見ると、姉を追いかける妹のような気がする。本人に言ったら怒るので言わないが。

 

 洗い終わった洗濯物を干していると、家の中から大きめな物音の後に悲鳴が聞こえた。この声はチノのだろう。

 

「チノ?」

 

「何かあったのか!?」

 

 ルクとリゼはすぐさま家の中に突入し、悲鳴の発生場所へ向かう。

 現場へ到着すると、白い布に襲われているチノの姿があった。

 

「た、食べないでください!美味しくないですからぁ!」

 

「このぉ!チノから離れろ!」

 

 リゼは間髪入れずにチノを襲う布を取り払う。一体何が・・・と見ると、チノを襲っていたのはココアだった。

 

「あれ、ココア?」

 

「あ、ルクお兄ちゃん。よかった〜、実はカーテンを外していたらコレが覆いかぶさってきちゃって」

 

 なるほど。あれはカーテンだったのか。

 リゼも納得がいったようで、手に持つ布を見て頷いていた。

 ただ、チノは襲っていた布の招待がココアだと知り、大袈裟に驚いてしまった自分を恥じ、顔を真っ赤にしていた。

 

 カーテンを持ったまま、ルク達は庭へ戻る。

 カーテンを洗うのは大変だろうが、外してしまったのはら仕方がない。最初は呆れていたシャロも腕を捲った服を再度調整してカーテンを洗い始める。

 この日、持ってきた洗濯物を洗い終わったのは昼過ぎだった。何故か身体が思いと思ったら昼食を食べ忘れていたようだ。

 

 リゼ達が帰宅し、取れたボタンを直していると新たな事実が明らかになる。なんとラビットハウスの制服を作ったのはチノの母らしいのだ。しかも中途半端ではあるものの、女性用はあと2色存在するとの事。中高生のサイズで作られているようで、チノ母・・・サキが娘や友人に来て欲しいと願っていたのがよくわかった。

 

 

 ―ラビットハウス・バータイム―

 

 

「いらっしゃいませ・・・ああ、リゼのお父さん。お久しぶりです」

 

「ああ」

 

 今日のバータイムの最初の客はリゼ父であった。最近は仕事が忙しかったのか、あまり姿を見ることはなかった。

 店に入ったリゼ父はいつものカウンター席へ座る。

 

「今日はどうなさいますか?」

 

「スコッチ水割りを」

 

「どうした、お前らしくないな。いつもならストレートだろうに」

 

「うるさいぞ。今日はそこまで飲む気はない。朝武・・・ええい紛らわしい。ルクに礼を言いに来た」

 

 タカヒロにからかわれたリゼ父はジロリと睨むと、ため息をついて今日訪れた理由を話す。なお、ルクの兄とは仕事で会うためか、ルクの呼び方は名前で決まった。

 

 そして今日彼がここに来た理由は、ルクにお礼を言いに来たとのこと。

 はて、何かしただろうかとルクは思う。

 

「父の日の事だ。リゼの相談に乗ってくれたらしいな。おかげで気まずくならずに済んだ」

 

 彼の言っているのは、あの日リゼが割ったワインだろう。

 父の日が終わり、部下にそれとなく聞いてみると娘がワインを割ってしまった事を聞いた。なぜリゼがワインとペアグラスをプレゼントしてくれたのか、なぜそのチョイスだったのかがわからなかったが、これで合点がいった。

 

 愛娘がGを殲滅する武器に選んだのなら怒りはしない。むしろ即座に武器を選べた事を褒めるべきだろう。そうリゼ父は思ったのだ。

 そして当日にルクが協力してくれた事を聞き、今に至る。

 

「いえ、チノとかココアとか・・・色んな友達に相談に乗ってもらっていましたよ。自分は数あるアドバイスの1つに過ぎません」

 

「だとしてもだ。それにリゼに異性の友人は少ない。いや少ないに越したことはないが」

 

「やれやれ。リゼ君は結婚できるんだろうな」

 

 なんだかんだ父の日では全員がアイディアを出し合い各々の父親にプレゼントを渡した。これだけ喜んでくれたのなら相談に乗った甲斐があったものだ。

 

 しかしリゼに近づく異性を警戒するのはわかるが、親馬鹿すぎるのではないか。これでは大学に行った時はさぞ大変だろう。タカヒロもそれをわかっているのか呆れてしまう。

 

「まぁとにかく礼を言う。何か困っている事はないか?」

 

「この店に金を落としてもいいんだぞ?」

 

「バカめ。それだと礼にならんだろう」

 

 何かお礼をしてくれるようだが、今は特別欲しいものもない。強いていえば業務用家具ではあるが・・・・・・。

 

「あ、そうだ。でしたら2つほど」

 

「よしこい」

 

「この街に飲食店を出そうと思っているんですよ。それで掘り出し物の業務用家具があったら買おうと思うんですが、保管しておく場所がないんです。なので貸倉庫の業者にツテがあれば紹介してくれませんか?」

 

 そう。金以外にルクが困っている事はコレだ。貸倉庫があれば安い家具をすぐ買って保管しておける。無論レイアウトを考えた上で店と合っているか確認した後に、だ。

 

「それならウチに置け。空いてるガレージをルクの倉庫にしてやる」

 

「へ?」

 

「ルク君、こいつの家はかなりデカイんだ。まさにお屋敷さ」

 

「いいんですか?」

 

「ああ」

 

「是非ともお願いします。それでもう1つなんですが・・・・・・」

 

 ルクはこの前のプールでの顛末を話す。転んだ中学生を受け止めきれなかった事、それが女性であった事だ。だから身体を鍛えたい。それが2つ目の願いだった。

 

 話を聞いたタカヒロとリゼ父は笑う事はなかった。むしろ力強く頷いている。

 

「よく言った。レディを支えるのは男の務めだ」

 

「その通りだとも。もちろん物理的に、精神的にな」

 

「ウチに来い。鍛えてやる」

 

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

 

 後日、天々座家に訪れたルクはその広さに開いた口が塞がらなかった。

 リゼがいないタイミングだったのでばったり会う事はなかったが、代わりに軍人らしき男共が出迎えてくれた上に、リゼ父自ら屋敷の案内をしてくれた。

 

 貸してくれたガレージはとても広く、これなら家具を置き放題だと思った。(隅にある怪しい木箱から油紙のような物がはみ出ていた事に関しては触れないようにしておく)

 

 そしてルクを待ち受けたのはリゼ父の部下によるトレーニングだった。同僚の弟であると知らされていたのか、割とフランクに接してくれた。

 ただ、トレーニング内容は徹底され、天々座家・・・いや、天々座邸を出るルクの歩き方は少しだけおかしくなってしまう。

 翌日発症するであろう筋肉痛に戦々恐々となるルクであった。

 

 

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